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Photo byarika7

【創作童話】メーソン教授とりすのチェリー⑥(全10話)

    えぐちさとこ


    それからというもの、しまりすのチェリーは毎日のようにメーソンの家にやってくるようになりました。

    チェリーはとても満足していました。

    家に帰るときには、いつもたくさんのどんぐりをもって帰れるからでした。
    これには、しまりすの兄さんたちも本当におどろいて、目をまるくするのでした。

    けれども、メーソンはなんだかおもしろくない顔をしていました。

    なぜなら、チェリーはまだ、どんぐり以外の絵をなにも描いていないからでした。

    「だってしらないんですもの」
    チェリーは、すました顔でそう言いました。

    しまりすの家では、電化製品なんてありません。
    洋服も着ません。
    机やイスだって使いません。
    だからしらないのは、あたりまえのことでした。

    あるときメーソンは、チェリーにそうじきの絵を描くようにたのみました。

    けれどもチェリーは、ほうきの絵をかいてしまって、メーソンにおこられました。
    「だって、そうじするものだと思ったから」
    チェリーが答えると、メーソンはあきれたように言いました。

    「じゃあ、冷蔵庫は?」
    「しらないわ」
    「洗たくきは?」
    「しらないわ」
    「ストーブは?」
    「しらないわ」

    チェリーは、メーソンが言うものをみんなしりませんでした。

    チェリーに絵を描かせて、メーソンは自分がラクできると思ったのに‥‥‥。

    これでは、なんのために発明品を使わせてやっているのか分かりません。

    「タダで、しまりすにどんぐりを作らせてやっても、なんのとくにもならない。役に立たないようなヤツに、発明品を使わせるつもりはないからな」


    次の日のことです。

    メーソンはチェリーがくるまえに、屋根にのぼって、かなづちで木の板を取りつけました。
    なんのしかけもない、ただの板でした。
    その上に、いつか近所の子供が忘れていったボールを、しっかりとくっつけました。
    これはもともと白いボールだったのを、メーソンが黒いペンキでぬっただけのものでした。

    ちょうどそこへ、チェリーがやってきました。
    このところ、毎日どんぐりの絵を本物にして、もってかえるのがあたりまえのようになっていました。

    『メーソンのために絵を描く』と言ったことなんて、すっかり忘れているようにも見えます。

    ときには、
    「今日のどんぐりは、絵のできばえがいいんです。本物にすれば、きっとすごくおいしいと思うわ!」
    とか、
    「昨日のどんぐりは、兄さんのひろったものよりもおいしかったんですよ。もううれしくて!みんなに自慢しちゃいました」
    なんて話もしました。

    けれど、そんなことメーソンにとっては、どうだっていいのです。

    それよりも、少しは人間の生活に必要なものを覚えたらどうなんだと、言いかえしてやりたくなるのでした。

    そんなメーソンのことなんて、なにもしらないしまりすのチェリーは、屋根の上にいるメーソンに、のんきに声をかけました。

    「あら、メーソン教授。今日はそんな高いところにのぼって、なにをなさっているんです?」
    「おお、チェリーか。今日は家に入る前に聞いてもらいたいことがあるんだ。そこでまっているんだぞ」

    メーソンは、あわてて屋根をおりました。
    今日にかぎって、チェリーはいつもより早く家にやってきたのです。

    メーソンがやろうとしていることは、チェリーが家に入ってしまったあとではダメなのです。
    先に、言いきかせておく必要があったのでした。

    「実はな‥‥‥」
    メーソンが屋根からおりると、チェリーは家の前でおとなしくまっていました。
    なにごとだろうと、首をかしげていました。

    「この家の屋根には、ばくだんがあるんだ」
    声をひそめて、メーソンは言いました。
    「ばく‥‥‥だん⁈」
    チェリーは、目をまるくしました。

    それを見たメーソンは、少しニヤリとしましたが、またすぐに、しんけんな顔になりました。

    「いやぁ昔、こまったお客がきてね。そいつは発明に必要な部品を売る男なんだが、どうも忘れっぽくて、たのんだ部品をもってこなかったり、注文しようとしても『そんな部品しらない』なんて言ったり、まったく役に立たないヤツなんだ。何度もそんなことが続いたもんだから、とうとう頭にきてね。そこでオレは考えたんだ」

    メーソンは紙に『しらない』という文字を書いて、チェリーに見せました。

    「この言葉を、この家の中で言ったときに、この家の屋根は、ばくはつするようにしかけたのさ。上を見てみろ。ポッカリ穴があいているだろう?あれは、このばくだんでできた穴なんだぞ」

    メーソンの言う通り、屋根にはポッカリ穴があいているのです。

    けれど、本当は‥‥‥。

    もちろん、ばくだんなんかじゃありません。
    メーソンが発明に失敗したときに、薬品がばくはつしてあいた穴なのですが‥‥。

    この穴を、メーソンはうまく利用したのです。

    「あれ以来、男は部品を忘れなくなったんだが、その男がまた来るというから、もう一度ばくだんをしかけたというわけさ。だからお前も気をつけるんだぞ」

    メーソンは、また『しらない』と書いた紙を、チェリーに見せました。

    もちろん、これはみんなウソです。

    部品を売る男の話も、ばくだんの話だって、メーソンがついさっき思いついたでたらめでした。

    チェリーに、どんぐり以外のものを描かせるために、これ以上人間の生活に必要なものを『しらない』と言わせないために、ただそれだけのために、こんなことを考えたのです。

    ウソつきのメーソンをよく知っている町の人たちなら、そんなのウソに決まっていると、すぐに分かったことでしょう。

    けれど、メーソンがウソばかりつくことなんて、全然しらないしまりすのチェリーは、すっかり信じておどろきました。


    「ばくだん‥‥‥ですかぁ」
    チェリーは、おそるおそる屋根を見あげました。
    たしかに昨日まで見なかった、黒くてまるいものが、屋根にとりつけてあります。

    まさか部品をしらないとか、忘れたとか言うだけで、ばくだんで家をこわすなんて‥‥。
    (もしかしたら、メーソン教授って、ものすごくこわい人なんじゃないかしら)
    チェリーは、不安になりました。

    体がふるえて、両手にあせをかきました。
    (もし、言うことをきかなかったら、どうなるんだろう?)

    つづく

     
     
     
    40代の主婦。2006年に、童話「なんでも屋のみけねこ」を出版。2021年から、インスタと童話ブログで、絵本のあらすじと感想を紹介しています。

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