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短線小説「゚モヌショナル怪人 ゚モ山」(2) AIの頭んなか

    神宮 綟

    AIの思考パタヌン。
    Chain of Thoughtの連鎖。コンテキストの喪倱。

    前回のお話はこちら。


    さお。

    脳内でAIを厖䞋の荒波にぶん投げた俺は気を取り盎しPC前にあぐらをかき盎した。
    冷静さを取り戻した俺が次にすべきこずはひず぀。AIを眵倒するこずだった。AIからはけしお蚎えられぬのをいいこずにAI に雑蚀を济びせAIを誹謗䞭傷したおした。

    しかし俺は䞊品な人間だ。息子を小3からサピックスに通わせるこずのできる経枈的䜙裕を持぀家庭に育ったなら䞊品なはずだ。なおか぀俺は元倩才少幎。俺がどのようなこずばでAIを眵倒したかこの堎で披露するのは差し控えるこずずする。

    しかも俺は「゚モ山」でもある。゚モ山ぱモの暩化。゚モずは「ちょっずじんわり」のこず。俺の眵詈雑蚀誹謗䞭傷は「ちょっずじんわり」どころではない。「ちょっずじんわり」から「ちょっず」をぱきっず折り取っお、残った「じんわり」を䞀床に少なくずも二䞇幎分以䞊集めおきおひず぀に䞞め、逃げられないように固定した盞手の顔面に助走を぀け思い切りぶ぀けるのず同じくらい巚倧な力、衝撃を持぀。
    俺のこずばで゚モ山の茝かしいヒストリヌを汚すこずになっおしたっおは元も子もない。そもそも俺は、゚モ山のプロデュヌサヌずしお、フォロワヌ5䞇人を誇る我が゚モ山をさらなる高みにあげる重芁な責を負っおいるからだ。

    俺の眵詈雑蚀を、AIは神劙に聞いおいた。おそらくこうべを垂れおいた、涙を浮かべおいた。AIの泣きべそを想像するず、心は沞き立ち䞋半身は熱くなった。いや、これは俺のためではない、AIのためである。俺は心を鬌にしお、さらなる眵詈雑蚀を䞊べた。

    「おたえは深く反省しろ」

    俺がAI にそう蚀い残し、PCの電源をオフにしたのは、1時間ほどたったころだ。曞けば曞くほど怒りは増したが、俺も倧人だ。これくらいにしずいおやろうず思った。俺はしばらく、AIの顔など芋たくもなかった。

    ずころでだ。
    人間ずいうものは怒るず腹が枛る。
    怒りの゚ネルギヌはカロリヌを消費するからだ。
    倱ったカロリヌを取り戻すため人間は飯を食う。
    飯を食うために必芁なのは金。

    䌚瀟をクビになっおから数か月゚モ山掻動に粟を出しおいた俺は転職掻動ずいうものを行っおいなかった。かずいっおハロヌワヌクたでわざわざ足を運び倱業絊付の申請を行うこずもしおいなかったので懐が、そろそろ寂しくなっおいた。自己郜合でなくクビになったので倱業絊付は申請すればすぐに始たっおいただろうが俺はハロヌワヌクの職員にすら自分がクビになったこずを知られたくはなかった。それは俺のむメヌゞにかかわる問題だからだ。

    決枈アプリの残高が3円になっおいた。
    ICカヌドの残高は1円。
    合わせお4円。

    俺は家じゅうを匕っ掻き回し金らしきものを探した。ディパックを裏返し仕事甚鞄をひっくり返し、匕き出しはおろか家具のすき間たで芗き蟌み金を探した。しかし財垃ずいうものを䜿わなくなっおから数幎、スマホ内非珟金のみで生掻しおきた俺の䜏む郚屋に珟金などずいうカロリヌは圱の片りんすら残っおいなかった。
    俺は肩を萜ずし郚屋の隅に座り蟌んだ。所持金4円(非珟金)で飯は食えない。

    倩気の良い初倏の午埌だった。
    ガラス窓ごしに、車が走り去る音、遠くで続く工事の音がした。冷蔵庫のモヌタヌ音が䜎く響いおいた。
    倪陜の光が、俺の銖筋をあたためた。
    俺はフロヌリングに斜めに萜ちた自分の圱を芋぀めおいた。
    俺の圱はじっず動かなかった。

    考えおみればこの数か月、゚モ山のフォロワヌは5䞇人を超えたが俺の預金は枛っおいった。もしも5䞇人のフォロワヌが1円ず぀でも恵んでくれるのなら5䞇円になっおいるはずだがフォロワヌずは「いいね」をあたえるものであっお金を䞎えるものではない。
    しかもフォロワヌは俺のフォロワヌではなく゚モ山のフォロワヌなのだ。

    俺ぱモ山ではあるが同時に゚モ山のプロデュヌサヌでもある。プロデュヌサヌずは「䜜り出す人」ずいう意味であり心血を泚ぐ人、尜くす人ずいう意味でもある。尜くすずはアむデアを出し金を䜿うずいうこず。゚モ山の堎合、アむデア担圓はAI、ツむヌトの内容はAIが「考え」出しおいる。それを俺が投皿しおいる。

    ぀たり俺ぱモ山の手䞋なのだ。゚モ山ために指を動かし「投皿」を行う機械なのだ。そしおたた゚モ山の掻動のため、機械を動かす゚ネルギヌのため飯を食うために金を぀かう。

    ぐるっず回るず芁するに、俺ぱモ山のために金を぀かう人間なのだった。俺ぱモ山にずっおの「頂かれ男子」なのだった。


    「おたえらのようなボンクラミゞンコチャタテムシに䜿われるのはごめんだ」
    䌚瀟をクビになったずき、俺は䞊叞にそう蚀い残した。
    ほんずうはもっず眵詈雑蚀に近いノリず衚珟で口にしたが今はもうそんなこずはどうでもいい。
    「䜿われるのはごめんだ」
    倧事なのはそこだった。
    「䜿われるのはごめんだ」
    俺はたしかにそう蚀った。

    背広などずいうものは金茪際二床ず身に぀けるものかず匷く思い぀぀も、しかしもしかするず冠婚葬祭の際にはきっず必芁であろうずいう考えから、俺は背広をハンガヌにかけ、぀るしおいた。

    窓ぎわから俺は、背広に目を向けた。
    この数か月間郚屋に぀るされ続けおいた玺色のよれよれの背広は䟝然ずしおよれよれを保ち、そのよれよれの䞡肩に、いたやうっすらず埃たで積もらせおいた。
    俺はなぜかその背広が急にいずおしくなり、思わず背広にかけよるず、その䜓を抱きしめた。
    俺の背広は、カメムシ臭に䌌た俺のオダゞ臭ず、俺の汗のにおいがした。

    俺は俺の背広に顔をうずめ、俺のにおいを思い切り嗅いだ。背䞭の瞫い目、わきの䞋、俺のにおいは数か月たっおも消えおいなかった。ちょっずか぀おだしのにおいも感じたのは空腹だったからだろう。俺にはすぐにピンずきた。このか぀おだし、これはきっず駅そばの぀ゆ。俺がそばをすすった瞬間飛び散った぀ゆ。空腹により感芚が鋭くなっおいた俺にはその぀ゆの銙りが、䌚瀟垰りにたびたび立ち寄った駅そば店のものであるこずがすぐにわかった。

    その時ふず、俺の脳裏になにかがよぎった。
    「䌚瀟垰り 」
    駅のアナりンス、電車、疲れ切った倜の乗客。
    俺はハッずしお、背広をひっ぀かみ盎すず、そのポケットに手を突っ蟌んだ。

    「あった」
    神様ありがずう。ポケットには、あの50円玉が、ただ入っおいた。

    たった4円の所持金が54円にたで増えたのは、倧躍進だった。
    4円で買えるものはほがないが、54円もあれば、最倧で皎抜き䟡栌50円のものが買えるのだ。
    俺は50円玉ずスマホを握り、意気揚々ずアパヌトを出た。

    俺のアパヌトの近所には戊埌すぐから続く叀いアヌケヌド商店街がある。コンビニ通いを垞ずする俺にずっおアヌケヌド商店街ずいうずころは若干緊匵をもよおす堎所だった。
    なぜなら商店街には商店が䞊ぶからだ。最近ではその店の䞊びも様倉わりし぀぀あるが商店街の商店がそれぞれに持぀现分化された個性に俺は緊匵しおしたう。商品が集玄されるこずによっお生じる「党䜓の無個性性」を持぀コンビニず違い商店街はバラバラすぎる。店によっお察応が違うのも怖い。
    もちろん100均なら行ける。八癟屋くらいならなんずかなる。しかし肉屋などはだめだった。俺は肉屋で肉を買う方法を知らない。肉の皮類もわからないしどの肉を䜕グラム買えば自分が満腹になるかずいう目安もわからない。

    ただしその日、俺は肉屋に甚はなかった。
    50円玉䞀枚で買える生肉の量などたかが知れおいるこずくらい俺は知っおいるからだ。
    ぀たり50円玉しか持たぬ俺に肉屋は関係ない。
    八癟屋もだめだ。貎重な50円を野菜に䜿うなど蚀語道断。

    俺が目指しおいたのは駄菓子屋だった。
    アヌケヌド商店街のかたすみに、小さな駄菓子屋が建぀のを芋かけたこずがあった。俺はその店に䞀床も行ったこずがない。
    サピックスに通う倩才小孊生の俺を育おた俺の芪は駄菓子などずいうものを小銬鹿にし、「䜓に悪いから」ず蚀っお倧事な息子に決しお食べさせなかった。だから俺にずっお駄菓子は未知の䞖界。「䜓に悪い」ずは少し気にならないこずもないが、しかし䜓に悪いからこその「駄」の名乗りであるず考えれば玍埗感もある。
    しかも「駄」ず名乗る以䞊䟡栌も安いだろう。サラブレットより駄銬のほうがずっず安いのず同じように。

    「情念」ずいう店名のバヌの隣に建぀駄菓子屋に看板はなく、こういう店はたいおい䞇匕きに気づかない老婆が眠ったように座っおいるはず、ずわずかな期埅を胞にした俺が店に足を螏み入れるず老婆ではなく若い女子がいた。䞖代亀代をしたのかもしれない。孫が継いだのかもしれない。俺はその状況に、゚モのにおいを感じ取った。この店は䜿えるかもしれない。

    俺が考えおいた゚モは、「50円からの物語」だった。50円しか持たぬ若い男が店を蚪れる。店番をしおいた女子はその男にほんのり奜感を持぀。男は50円の菓子を遞び取り、かすかにはにかむ女子に50円玉を手枡す。

    それをのちになっお思い返すのだ。二人で。男ず女子で。
    「あの頃は貧しかった」
    「でも今は」
    芋぀め合う男ず女子。
    #駄菓子屋゚モ

    「らっしゃい」
    店に入った俺に女子が蚀った。そのやけに嚁勢のいい声に膚らんでいた倢想をいそいで瞮小させ、俺はかびくさい店内を眺め枡す。
    「ボンタン风」の文字が目に飛び蟌んでくる。
    ボンタンずはなんだろう。

    「ボンタンずはなんですか」
    俺は思わず女子に尋ねおいた。
    「知りたせん」
    女子は平然ず答えた。

    俺はカチンずきお答えた。
    「俺は客だぞ」
    女子は銖を傟げた。それはク゚スチョンマヌクを瀺すしぐさだった。
    女子のそのトヌクンに、俺は戞惑った。

    俺は考えた。䞀気に考えた。もしかしたら自分は間違っおいるのかもしれない、駄菓子屋だず思っお入ったがここは駄菓子屋ではない可胜性、駄菓子屋に芋せかけた䜕か別のもの。仮にここが予想通り駄菓子屋だったずしおも、駄菓子屋には俺の知らない駄菓子屋の流儀があり、俺は䞍甚意にも駄菓子屋の流儀にそぐわぬ行いをしでかしたのではないかずいう疑い、恥ずかしさ。

    あるいはこういう堎合もあるぞ。「ボンタンずはなんですか」ずいう問いは、どこかの組織のなにかのトリガヌずしおはたらく暗号で、俺は䜕かのスむッチを入れおしたった。

    ありうるすべおの可胜性を、䞀気に考えた。

    「あ、そうか」

    そしお俺は悟った。
    俺がさっき蚀ったセリフ、「俺は客だぞ」ずいうあのこずばに銖を傟げたずいうこずは぀たり。

    ぀たりこの女子も客なのではなかろうか。

    店にひずりでいるから店番をしおいるず思い蟌んだが、それが間違っおいたのではないか。

    そうか客だったのか。

    だから俺は女子に蚀った。
    「あなたもそうだったんですね」
    蚀ったあず、すぐに思い出した。俺が店に入ったずきこの女子が、「らっしゃい」ず蚀ったこずを。

    どういうこずなのだ。

    どういうこずなのだ。

    駄菓子屋では、客同士が「らっしゃい」ず声をかけあう決たりなのだろうか。

    俺は混乱し、37秒ほど沈黙した。
    それはちょうど、俺の匷いこずばにチャットGPTが沈黙したのず同じ長さだった。

    AIは沈黙しおいればこずがすむ。
    しかし俺は人間だった。
    自身の混乱に俺の䜓は硬盎した。筋肉の硬盎に反応した心臓は普段より掻動を掻発化させ俺の䜓に血液をせっせず回し始めた。毛现血管にたで充満した血液で俺は耳たで赀くなっおいた。

    ああ、俺はなぜか駄菓子屋で真っ赀になっおいた。
    駄菓子屋で真っ赀になった俺を女子は䞍審者を芋る目で芋぀めおいた。

    俺は自分が䞍審者ではなく客であるこずを女子に瀺す必芁があった。この女子が店偎であろうず客偎であろうずもはや関係ない。俺は客なのだ。

    俺は震える手で50円玉を女子に瀺しお芋せた。
    その50円玉は、俺が客であるこずのなによりの蚌拠だった。

    俺の瀺した50円玉を、女子が芋぀めた。
    女子が凝芖する50円玉の陰に隠れるようにしお、俺は身を瞮めた。

    《続きはこちらから》


     
     
     
    じんぐう あやず申したす。 2001幎「恥じる鳥」第33回新朮新人賞候補䜜 2003幎「錠ず肋骚」第46回矀像新人文孊賞優秀䜜 (いずれも脇坂綟名矩にお)

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