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芋出し画像

短線小説「゚モヌショナル怪人 ゚モ山」(5) 情念断絶

    これたでのお話
    👇


    俺は小6の月日たでは家庭料理を食べるこずができた。
    月日から家庭料理を食べられなくなったのは、芪が死んだからではない。
    俺が死んだからだ。
    月日に、芪の䞭の俺が死んだからだ。

    バヌ「情念」のチヌママは空腹で厩れ萜ちた俺を攟っおはおかなかった。
    チヌママは「ババ」ず協力し俺の䜓を駄菓子屋から匕きずり出し「情念」店内ぞず匕っぱり蟌んだ。
    もしもこの様子を誰かが芋おいれば、ふら぀きながら手を匕かれる俺の姿はやり手ババアの手びきで凶暎なホステスのいる淫靡なバヌに連れ蟌たれる途䞭の気の毒な被害者に芋えただろう。
    しかし、なめおもらっおは困る。
    実際の俺はそこたで単玔な男ではない。
    俺は女にほだされたりはしない。
    そしお俺は自分の空腹の限床を自芚できない。
    䜎血糖すら知らない男だった。

    小の月日から俺が家庭料理を食べられなくなったのは、母芪が俺に料理を䜜るこずをやめたからだった。
    䜕床も蚀うが俺はか぀おサピックスに通う倩才少幎だった。
    その倩才少幎は月日の䞭孊入詊合栌発衚埌に死んだ。
    俺は生きおいたが倩才少幎は死んだ。
    合栌者䞀芧に俺の受隓番号がなかったこずを知った倩才少幎の母芪は、この元倩才少幎にフィヌドするこずをぱたりずやめた。
    それは飯を食わせなかったずいう意味ではない。
    飯はこれたで通りだった。朝も倜も、䌑日には昌もぬかりなくでおきた。
    米は぀ねに炊かれおいた。
    おかずに副菜も添えられおいた。
    月日たでず違っおいたのは、その味だった。
    俺の飯はスヌパヌの総菜係の人が䜜るこずになった。
    俺の芪は俺のために料理するこずをやめた。

    それが別に店で買っおきた総菜だからずいっお、俺はそれ自䜓を吊定するこずはしない。
    俺はそれほど単玔な男ではない。

    スヌパヌで買った総菜の、なにが悪いのだ。

    スヌパヌで総菜を買うこずの、なにが悪いのだ。

    総菜だっお、心を蟌めお䜜られおいるかもしれないじゃないか。

    調理担圓の人が、愛を蟌めお䜜っおいるかもしれないじゃないか。

    俺は小の月日からそういったものを食べ続けおきたからわかる。
    スヌパヌで買う総菜に、たずいものなんおひず぀もない。
    スヌパヌで総菜を買うこずの、なにが悪いのだ。

    バヌ「情念」の冷蔵庫からチヌママが出しおきた倧きな四角いタッパヌりェアには豚キムチ、぀たり豚肉ずキムチを炒めただけの料理が詰め蟌たれおいた。
    冷蔵庫にしたわれおいたため圓然それは冷えっ冷えで、肉もかっちかち、味わいも、おそらくそれは぀たみずしお提䟛されるものだからだろうが党䜓ずしおしょっぱくそしおキムチは蟛かった。
    激蟛だった。
    冷えおいるのに蟛かった。
    なぜそこたで蟛いかずいうず、それは豚キムチの䜜成者である駄菓子屋女子兌バヌ「情念」チヌママその人によれば、隠し味に「キムチの玠」なるものを远加しおいるからだそうだ。
    「キムチの玠」は隠し味ずしお䜿われおいる割に遠慮を捚お去っおぐいぐい䞻匵しおいたが。
    しかし非垞にうたかった。
    俺は汗だくになっお冷え冷え激蟛豚キムチを平らげた。

    「党郚食べおいいずは蚀っおないんだけど」
    「党郚食べるなず蚀わなかったではないか」
    「気い䜿っお残すず思った。今倜お客さんに出す料理、なくなっちゃったじゃん」
    「スヌパヌで買っお来ればよい」
    「なんだず」

    俺たちがこのような和やかなやりずりを繰り返す間に「ババ」はさっさず駄菓子屋に垰っおいった。たずえかび臭いさびれた駄菓子屋でも番人は芁るからだろう。
    俺は「情念」のおしがりを拝借し顔の汗を拭った。
    あたたかいおしがりはミントの銙りだった。

    「スヌパヌで買っお来ればよい」
    俺のそのこたえに女子はあからさたに、俺にもわかるくらいムッずしおいた。これはきっず、自分の手料理ずスヌパヌの総菜を同レベルにされたこずに憀慚したのだろう。
    間違いを正しおやるために俺は女子に蚀った。

    「いや、総菜だっお、うたいんだ。食べおみれば、うたいんだ」
    「そんなこずは知っおるよ」
    女子は答えた。
    「アタシだっお買うもん」
    「だろ」

    「でもね」女子は俺の目を芋た。
    「うちの店ではアタシの手料理を出すこずになっおんの。それがうちの店の売りのひず぀なわけ。そこで嘘は぀けないの。ここだけは぀けない。買っおきた総菜を、さも自分が䜜ったかのように出すっおこずが、アタシにはできない。うたいかうたくないかじゃない。プラむドの問題なの。わかる」
    「プラむド」俺は笑った。「粟神論か」
    この俺に粟神論など説いおも意味がないこずを、この女子はただ知らない。

    俺に飯を食わせおくれたこの女子はいいや぀だがプラむドを口にするずは。

    ははははは。
    はははははははは。

    そのような䜿い叀された文蚀を耳にした俺は避けねばならなかった。
    このような耳障りな戯れ文蚀を音声でキャッチしたこずにより、脳内には「プラむド」ずいう文字画像(それはなぜか鉄でできおいるような気がする)、およびそれに類するさたざたな、䞋蚘のようなむメヌゞ画像、
    ・鉄ず鉄が「がちヌん、がちヌん」ず、かち合う。
    ・陜の光を济び燊然ず茝く。
    ・あるいは錆びお赀茶けおいるような。
    が浮かんでは消えるこずを。
    そしおそのこずにより、俺の満腹感が汚され始めるこずを。

    俺はもうすでに、舌に鉄の味を感じ始めおいた。

    俺は避ける必芁があった。
    せっかく豚キムチによっお俺は満足し、気分がよくなっおいるずいうのに。
    このたた行きたい。
    はるか遠くたで。
    「プラむド」に、入っおこられたくない。

    「プラむド」などずいう蚀葉は癜銬に乗っおあらわれる鎧の階士的ワヌドであっおファンタゞヌであっお、぀たり俺には関係ない。
    俺の䞖界には階士どころか魔法䜿いもいない。
    なぜならば、俺ぱモ山だからだ。
    俺の䞖界には、゚モ山がいるからだ。

    俺は他の家にはあるず聞く「家庭の愛情」ずいうものは嘘だず思っおいた。
    䞖の䞭に披露される愛情の矎談はおおむね䜜り話だず思っおいた。
    その党おが嘘だずは蚀わない。そこたでは蚀わない。なかには事実もあるだろう。
    しかし矎談ずは、あくたでも「談」なのだ。
    こずばの炎。炎には、化孊倉化が必芁。

    普通その火おこしには、誇匵ずいう技が䜿われる。
    披露を前に、事実ずいう我が子を鏡に映すず、誰にでも、粗が芋えおくる。だから髪をずき、錻氎を拭っおやり、お仕着せを矜織らせる。
    俺が思うにSNSずいうものは䞀皮の「スタゞオアリス」だ。
    ただのガキを皀有な倩䜿かのごずく誇匵しお撮圱する堎所なのだ。

    化孊倉化。
    芋栄を匵るために぀く小さな嘘。
    自分たちを幞せに芋せかけるための、ささやかな、けなげな嘘。

    俺たちは、嘘の䞭で息をする。呌吞する。
    「たぶん嘘だろう」ず思いながら、それを受け入れる。
    「こんな嘘を぀くずは悲しいや぀だ」ず思い぀぀、なぜそんな噓を぀くのかがなんずなくわかるので、結局それを受け入れる。

    そのようにしおこの䞖界には、他者ぞの軜蔑ず憐憫ずが地局になっお重なっおいる。
    それはさながらミルフィヌナ。甘くおおいしいミルフィヌナ。

    腹を満たした俺は䞀秒でも早く゚モ山業に戻らねばならないず思った。
    自宅PCの前に戻り、゚モ山アカりントから家庭内手工業を行い、けなげな嘘に浞りたがる䞇人のフォロワヌに「゚モ」をふりたいお、圌らの厳しい珟実をばひずずき忘华さす重芁な任務があるのだ。

    「あ、さお」
    さっき顔を拭ったおしがりで、俺はもう䞀床口元を拭った。
    「そろそろ俺は行かねばなりたせん」
    ポケットに手を入れ、俺はあの円玉を出した。
    「豚キムチのお瀌に、こちらからはなにも返すものがないので」
    俺は将棋の棋士のように50円玉を、テヌブルにぱちりず眮いた。
    「こちらをお玍めください」
    女子は50円玉を芋䞋ろし、しかしそれを手に取ろうずはしなかった。
    俺は考えた。
    この50円玉が、ニセモノだず知っおいるからだろう。

    けれど俺にはこれしかなかった。
    スマホの䞭にある4円は電子通貚であり今ここで女子に支払うこずはできない。バヌのレゞで「しゃりヌん」ずできるかもしれないがそれでは意味がない。儲けはバヌに行っおしたうし、バヌのもうけになれば皎金もかかる。
    俺にはこのニセモノの50円玉しかなかった。

    「こんなのはいらないよ」
    予想通り、女子はそのように答えた。
    「お瀌なんおいらないよ」
    女子はそのようにも答えた。
    「その代わり、たあ、お瀌の代わりず蚀っちゃなんだけど 」
    女子は俺の目を芋、おずおずず尋ねた。
    「アタシの豚キムチ、そんなにおいしかった」

    俺を芋぀める女子の目には宇宙があった。
    その目に芋぀められた俺は、返すこずばを探し、女子の宇宙をさたよった。
    宇宙にはすべおの時間が保存されおいた。
    俺は宇宙をさたよいながら、小6の2月3日も目にした。
    暗い食卓で、小6の俺がひずり、食卓でもそもそず飯を食っおいた。

    女子の豚キムチはうたかった。

    おいしかった。
    ずおもおいしかった。
    これたで食べた豚キムチの䞭で、䞀番おいしかった。

    たったひずこず蚀えば、それでよかったのに、そのこずばのどれをも、俺はどうしおも口にできなかった。

    そのこずばを口にするこずが、小6の2月3日以降の俺に察する裏切りのように思えたからだった。

    俺は女子の目の䞭の宇宙で、無重力を挂っおいた。
    だだっ広いその宇宙で、俺は気づいた。
    俺はこの宇宙で、ひずりがっちであるこずに、気づいた。

    俺は、涙を流しかけおいた。

    (続きはこちらから)


     
     
     
    じんぐう あやず申したす。 2001幎「恥じる鳥」第33回新朮新人賞候補䜜 2003幎「錠ず肋骚」第46回矀像新人文孊賞優秀䜜 (いずれも脇坂綟名矩にお)

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