
【創作】コンビニエンスストア
気がつけば深夜3時。終電はとっくになくなり、締め作業も終わった居酒屋のカウンター。常連たちもボチボチ帰り、この一杯が終わったら帰るといいながら気がつけば店長と二人きり。エプロンも脱ぎ私服姿の店長は、綺麗に片付いたカウンターでタバコに火をつける。
「どうせ明日も来るんでしょ?今日は帰りな」「店長こそ」
「僕はスミさんが帰らないと帰れないんで」
「鍵なら閉めとこうか?」
「さすがに任せられないなぁ」
「けち!」
他愛もない会話が心地良い。でもお酒は程よく抜けてしまい、眠気のほうが勝っていた。 「さて、シャッター閉めますよ」
「はぁい」
空いたグラスを優しい手つきで片付ける。流しに置かれたグラスをそのままに外へ出た。
店の外は暗かった。あんなにキラキラ光っていたアーケードが嘘のようだ。
「スミさんはどっち方面なんだっけ?」
「駅の反対側」
「じゃ途中まで一緒だね」
「やったー!一緒かえろー!」
「そのつもりでした」
アーケードを歩く。喋る声も足音も私たち以外音がない。いたるところに置かれた生ゴミから、1日の終わりの匂いがする。
「明日の"店長オススメ料理"はなににする?」「うーん、そうだなぁ、揚げだし豆腐とか?」「めっちゃいい!おだしひたひたでお願いします!」
「じゃあ明日はそれだな」
笑い声が反響する。このまま時間が止まればいいと思う。
ふと店長が立ち止まった。
「ごめん、タバコ買ってもいい?」
「いいよ、じゃあ何買ってもらおうかな」
「はは、買わないよ」
静まり返ったコンビニは誰もいなかった。店員すらどこにいるのかわからない。店長はうろうろと店員を探している。
飲み物コーナーで水を探す。完全に酔いを覚ますために。明日も仕事なのだ。
それとも。
頭にふとよぎる。
缶チューハイを取ってもう一杯だけ付き合ってと言ったら、店長は付き合ってくれるんだろうか。目の前のガードレールで一緒に飲んでくれるだろうか。あわよくば家に来る?と誘ってくれないだろうか。
まだ酔いが覚めきっていない。水か酒か。飲み物コーナーの取っ手を持ったまま動かせない。今日なのか?ここまでやっと築いた関係を今日終わらせたくはない。
「スミさん何やってんの」
急な呼びかけに驚き振り返る。いつのまにか買い物を終えた店長が背後に立っていた。
「まだ酔ってるみたいだから、これにしときな」
私の握った取っ手の少し上に店長の手があった。
「はい、どうぞ」
もう片方の手に握られていたのは水。そっか、水か。
「コンビニ付き合ったご褒美に奢ってよ」
「仕方ないなぁ、でも明日もお店にはきてね?」
「もちろんそのつもりでした」
コンビニの外で水を受け取る。火照った手に気持ちよかった。浮ついた気持ちも、ゆっくり冷えていった。