
【お酒小説5杯目】加藤吉平商店 「梵」GOLD 無濾過 純米大吟醸
【梵の酌】
札幌の夜、静かな部屋に二人分のグラスが置かれている。
テーブルの上には、あいつの福井土産の銘酒「梵」が一本。中里義徳――小学生の頃から剣道道場で汗を流してきた、半世紀以上の付き合いになる友。
「福井の酒かぁ」
グラスを覗き込みながら、俺はぽつりと呟いた。
「俺も出張で行ったな、あの東尋坊」
「ああ、あの断崖絶壁。火曜サスペンスでよく見る景色な。」
「そう。俺、高い所苦手だから、尻がムズムズしたわ」
俺の軽口に、義徳がグラスを揺らしながら笑う。こいつとは兄弟以上の付き合いだ。俺の弱みも強みも、すべてを見透かされている気がする。
義徳が入院した時のことを思い出した。ポリープが見つかった…と聞いた時は血の気が引いた。
「見てみろ。」
スマホを突きつけられる。
画面には摘出したポリープの写真。
さつまいもみたいなサイズだった。
「陰性!」
義徳はケラケラ笑う。
「お前なぁ……。」
「心配した?」
「めちゃくちゃしたわ。」
「悪運強いからな、俺。」
「そこ威張るところじゃない。」
あの時は、本当に力が抜けた。
「梵」は驚くほど飲みやすい。
口当たりは柔らかく、喉を通ったあとにすっと消えていく。
「これ、危ない酒だな。飲みやすすぎる。」
「これが最後の福井土産だ。長かった会社人生も、やっと終わりだよ。」
―お前が生きていて本当に良かった。
その言葉だけは、なんだか照れくさくて言えない。
だから代わりに、
「飲み過ぎんなよ、じじい。」
そう悪態をつく。
義徳は笑いながら酒を飲んだ。
それで十分だった。
「お前もじじいだろう?」
梵の柔らかな香りと笑いが…
部屋に広がり、五十年分の思い出を、静かに包み込んでいた。

マイナス10℃で1年迄氷温熟成されたお酒がブレンドされた無ろ過純米大吟醸の生酒を、出荷の直前に加熱処理をして、旨さを封じ込めた黄金色をした名酒です。無濾過のため、淡い黄金色が素晴らしく、透き通るような香りと、さわやかで存在感のある味が特徴です。
シリーズ名 梵
産地(都道府県) 福井
酒米の品種 山田錦
不使用添加物 すべて不使用
特定名称 大吟醸
日本酒の味わい やや辛口
※2026.7現在 720ml 2,178円