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Photo bytnnamm

そして僕は、やさしいふりをする。

    𝕋.𝔸.ℝ.𝕆(たろ)

    これだけ長いこと人間をやっていると、自分でも思いがけないことをたまに言われることがある。

    例えば、

    「やさしい人ですね」

    などは、その筆頭かもしれない。
    言われるたびに、僕は後ろを振り返っている。それくらい自分には不相応な言葉である。

    確かに僕は、一見、やさしげで人畜無害な人間である。でも、自分がやさしい人じゃないのは自分がいちばんよく知っている。

    ただ、やさしい人って思われたいだけの人間なのだ。
    その方が嫌なヤツと思われるより気持ちいいからね。

    一方で、この世界には、他人に平気で酷いことをしたり、言ったりする人たちもいる。
    でも、両者の違いは、生活や気持ちに余裕があるかないかだけで、その余裕がなくなったとたんに、僕は平気で人を傷つけたり、見放したりするだろう。いや、してきた。


    そんなやさしくない僕だからこそ、できるだけやさしげではなく、やさしいふりをしたいと思っている。

    やさしげとやさしいふりは、似ているようで全然違うからだ。


    要するに、僕はもう誰もがっかりさせたくないのだ。

    「えっー!やさしいと思ってたのに」

    その言葉をつぶやいた時の、つまり、ギャップ萎えの気持ちを、僕は痛いほど知っている。

    だから、今日も、できるだけやさしいふりをし続けよう、という誓いを立てながら、目を覚ます。

    これまで受けたやさしさの記憶にまどろみながら。

    たとえば、椎名林檎の大ファンだった僕のために、仕事帰りに京急品川駅のホームに貼られた「本能」の特大ポスターを、友達と二人で奪い去った美しき強奪犯がくれたやさしさとか。

    そんな僕の頭にふと、ある映像が浮かんできた。

    それは、たくさんの人たちが、とても大きくてふわふわした白いボールみたいなものをトスし合っている映像だった。

    やさしさとは、その白くてふわふわしたボールみたいなものかもしれない。

    と、

    僕は思った。



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    エッセイを書いてます。音楽、映画、インテリア、写真などが好きです。たまに音声配信(ラジオ)もやります。

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