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Photo bypipopo37

【note創䜜倧賞2024応募䜜品】Monument第12話

    川良郚逞倪

    第四章/

    眞琮

     シュヌマン䜜『芋知らぬ囜ず人々に぀いお』。

     この曲名を知ったのは、半幎前。
     この喫茶店でのこずだった。


    「酔い醒たしがおら、お茶でもどう」

     脩さんから誘われたのは、五床目の䜓隓ボランティアの終了盎埌。
     断り切れずに出垭した打ち䞊げの、お開き間際のこずだった。

    「近くに、友人がやっおる店があるんだ」

     ピンずきた。あいたいな返事ではぐらかし、先延ばしにし続けおいた、正芏ボランティアぞのお誘いだ。

     過去のボランティアで、わたしはありずあらゆる䜜業に銖を突っ蟌み、どんな些现な情報も芋逃すたいず、正芏ボラさんたちずの芪亀に努めおいた。
     それは脩さんはじめ、芪しく接しおくださるボラさんたちが思っおいおくださるような、バラ園ボランティアぞの情熱や熱意ずは皋遠い。

     わたしは、みんなを欺いおいる。堪えきれずに、う぀むいた。

    「ああ、いや、誀解しないで。私には劻もあるし、子䟛も䞉人、もうじき初孫だっお  」
     ほんのりずお酒に染たった脩さんの顔が、さらに赀みを増した。

    「ありがずうございたす。ご䞀緒、させおください」
     どこから、そんな蚀葉が出せたのか。今も䞍思議でならない。


     店に着くなり、脩さんずマスタヌは「脩ちゃん」、「むっちゃん」で呌び合った。二人は高校の同窓だそうだ。
     垫走も近い、肌寒い晩のこず。ほかにお客の姿はなく、わたしは脩さんず䞊んでカりンタヌに掛けた。

    「酔い醒たしに寄ったんだ」
    「蚀われなくおも、顔芋りゃあ刀るよ」

     そんなやりずりの間にもマスタヌは手を䌑めるこずなく、わたしの前には倧きめのカップが眮かれた。
     甘い銙りが立ち䞊る。りむンナヌココアだ。
    「寝぀けなくなるず、いけたせんからね」
     マスタヌが、目尻のしわを䞀局深く刻んで、片目を぀むった。

     脩さんには、なみなみず゚スプレッ゜が泚がれる。
    「たいしお匷くもないくせに。飲み過ぎなんだよ、おたえは」
     なんお、悪態ず䞀緒に。

     マスタヌもカプチヌノを淹れるず、玠敵なガラス匵りのドアに、カヌテンを匕いた。


     マスタヌは音倧に進み、方々でピアノ講垫を務めた埌、お父さんがやっおいた、このお店の埌を継いだ、ず語った。

    「未緎ですかねえ」
     お店の隅に、小傷にたみれたピアノがあった。
    「そんな――ずっおも玠敵です。このお店」

     カりンタヌの隅で、回っおいたレコヌドが終わった。

    「なにか、お奜みの曲でも、おかけしたしょうか」
    「いえ、わたし、クラシックっお党然わからなくっお  」
     蚀いよどみながら、思い盎した。
     これはチャンスなのかも知れない、ず。

    「あの  シュヌベルトかシュヌマンだったず思うんですが、『こどものなんずか』っおいう曲、ご存じありたせんか」
     マスタヌが、小銖を傟げた。
    「䞉分くらいの短い曲で――子䟛の頃、友人が匟いおくれた、思い出の曲なんです」
    「たぶんシュヌマンでしょう。ピアノの小䜜品を、いく぀も遺しおいたす」
    「聎かせおいただけたせんか」
    「うヌん。『子䟛のためのアルバム』ずいう䜜品集だけでも、四十曲ほど、あったかず思いたす。印象に残っおいるフレヌズはありたせんか」

     メロディヌだけなら、そらで通せる。
     歌おうか
     どうしおも、曲名が知りたい。
     でも、人前で歌うのは  。

     ためらうわたしに、マスタヌは目顔でピアノを指した。

    「眞琎っちゃん、ピアノなんお匟けるんだ」
    「――脩ちゃん」
     マスタヌが唇に指を立おながら、スツヌルを降りる。

     ピアノの蓋を開け、色耪せた臙脂のフェルトをずるず、むスを匕いた。
    「――どうぞ」

       どうしよう。

     いたさら断れなかったし、ほかにお客さんもない。
     芚悟を決めお、わたしはピアノに向かった。

     正しい音皋は刀らない。
     真ん䞭の「ド」からはじめお、二音目にあたるキヌを、圓おずっぜうに探し出す。
     そこたでは、なんずかなった。

     䞉぀目の音が、み぀からない。

       違う。
       これも。
       たた、はずした。

     ようやく䞉぀目のキヌを探し圓おるず、続くメロディヌは、マスタヌの指が軜やかに綎った。

    「この曲。ですか」
     マスタヌが、もう䞀床、なめらかに旋埋をなぞった。
    「シュヌマンの『子䟛の情景』。その第䞀曲です。懐かしいなあ。私もその昔、緎習したものです」

     わたしに替わっお、マスタヌがピアノの前に腰掛ける。

    「お友達は、ピアノがずおもお䞊手だったんでしょう。シュヌマン自身が語ったそうです。これは『子䟛の心を描いた、倧人のための䜜品集』だず」

     ピアノが、流れた。

     頬に熱いものが䌝うのを、脩さんはカりンタヌでそっぜを向いお、マスタヌは静かにピアノを匟きながら、芋ないふりをしお、芋守っおいおくれた。

    銚

     眞琎に連れられ移った先は、駅前の個宀居酒屋だった。
     時間が早い。ただ客の賑わいはなく、僕らは曲がりくねった廊䞋の先の、突き圓たりの郚屋に通された。

     濃いアルコヌルが欲しかった。
     シングルロックを飲み干すず、二杯目はダブルで頌んだ。

     急に匷たった颚雚が窓を叩き、遠い黒雲が皲劻に光る。

    「ねえ、なにを探しおいたの 今日の垰り道」
     りヌロン茶の氷をかきたぜながら、眞琎が口を開いた。
    「隠さないで話しお。なにを聞いおも、絶察、驚いたりしないから」

     別に隠したいわけじゃない。どう説明したらいいのか、蚀葉がみ぀からないだけだ。

    「さっき蚀っおたマンションっお、これのこず」

     眞琎は、スケッチブックをひろげるず、僕に向けお芋せた。


     それは、奇劙な絵だった。
     子䟛みたいな、おおらかな構図が、粟緻な倧人の筆遣いで描かれおいる。

     亀差点を、行き亀う車列。
     軌道を進む、モノレヌル。
     それを支える、二十䞉番の橋脚。

     䞭倮の建物には最䞊階だけ、カットモデルみたいに壁がなく、宀内の様子が现かく描きこたれおいた。

     颚に膚らむ、レヌスのカヌテン。
     オルガンみたいな、平たいピアノ。
     空には䞀筋、飛行機雲。

     なにもかも、すべお。倢に芋る光景、そのたたに。

    「  これは」
    「やっぱりね。これ、だったんだ」
    「  ああ」
    「これを探しに来たの 毬野は」
     うなずいた。
    「そう――よかった」


     僕は、この旅のいきさ぀を、かい぀たんで聎かせた。

     毎幎、初倏にだけ繰り返される倢。
     モノレヌルを芋䞋ろす、マンションの䞀宀。
     ピアノを――さっきの曲を匟く、髪の長い芋知らぬ女性。

    「わたしも芋おた、この倢。ずっず、前から」
    「この絵の倢を」
    「うん、銙柄。だず思う」
    「――森ノ宮」
    「そう。図工の時間に『将来、䜏みたい理想の家』っお課題があったの、憶えおない」

     どうだったろう

    「男の子はボヌル玙で暡型を䜜っおいたから、絵には憶えがないんだず思う。これはね、そのずき銙柄が描いた絵を、思い出しながら描いたんだ。倢に芋る情景も織り亀ぜお」

     ああ、そうだった。僕は暡型に、セロハンで窓を貌った。

    「銙柄ったら、あんな玠敵なお屋敷に䜏んでいたのに、マンションみたいなの描いおいたから、蚊いおみたんだ。そしたらね『病院暮らしが長かったんで、ビルの䞭のほうが萜ち着くみたい』っお蚀っおた」

     橙色の圱法垫が、たぶたの裏に浮かんだ。

    「さっきの曲は、バヌスデヌパヌティヌの時、お瀌にっお匟いおくれたや぀だよ」
    「埅っおくれ。じゃあ、これは」
     絵の䞭の、髪の長い女を指した。
    「銙柄だよ。巊目に泣き黒子もあったし、成人しおたらきっず、あんな感じになったんじゃないかな」

     眞琎は、䞀枚の写真を差し出した。
     運動䌚の時、森ノ宮のお父さんが撮っおくれたものだ。

     僕の肩に、腕を絡める麊。
     麊の前で、車怅子のひじ掛けに身を預ける眞琎。
     車怅子に座る森ノ宮には、巊目の䞋に、眞琎の蚀う「ほくろ」があった。


     スケッチブックを繰っおいく。

     窓蟺から芋䞋ろす構図で、二十䞉番の橋脚を越えるモノレヌル。
     癜いふんわりずしたワンピヌス姿の女性――成人した、森ノ宮銙柄の肖像。
     平べったい、オルガンみたいな圢のピアノ。
     その䞊に食られた、バラの花束。

     花束が倧描きにされたペヌゞで、手が止たった。

    「ああ、それね。毬野も気づいおた ラッピングにヘアクリップが留められおるの」

     党然、気づいおいなかった。

     僕が県を留めたのは、䞀本だけ混じる、䞍自然に䞈の短いバラだった。
     そのわけを知っおいるのは、僕ず、森ノ宮だけだ。

     それに、このちゃちな髪留めは――。

    「なあ、眞琎。倢で森ノ宮ず話はするか」
    「ううん。そんな気がするずきもあるんだけど、起きるずなんにも憶えおない」

     僕ず䞀緒、か。

     眞琎は、青いアゞャスタヌケヌスを手に取るず、ひび割れお瞁の欠けた蓋を倖しにかかった。

    「でもね。わかるような気がするんだ。銙柄がわたしに――ううん、わたしたちに蚗したいこず」
    「蚗したいこず」
    「そう。これは正真正銘、銙柄が描いた絵。銙柄のお母さんから頂いたの」

     描きかけのクレパス画は、倕暮れのバラ園。

     遠く、ネオンの灯る芳芧車。
     小埄に掛かるアヌチの脇に、ひっそりずたたずむ灌朚。
     その、぀やのある葉に埋もれ、たおやかに咲く癜い花を囲んだ、䞉匹のホタル。

    「最埌たでね、病宀でこれ、描いおたんだっお。たぶん  」
    「――たぶん」
    「うん。たぶん、バラ園にクチナシを怍えお欲しいんじゃないかな、銙柄。この絵みたいに」

     眞琎の䞡目が、真っ盎ぐ、僕を射た。

    「だから、お願い。毬野、わたしに力を貞しお」

    ぀づく

     
     
     
    かわらべ・い぀た い぀か小説を曞いおみたい。 そんな倢を抱き぀぀、手にするのは小説技術曞。 叀建築ずお酒、ランニングを愛しおやたない、元技術屋です。

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