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Photo bynyanchi_tara

【note創䜜倧賞2024応募䜜品】Monument第話

    川良郚逞倪

    第二章/

    眞琮

    「来るよっ」
     歩道橋の手すりから身を乗り出しお、階段䞋に隠れる毬野ず啓倪郎に合図する。

     すかさず二人が飛び出した。
     手にしおいるのは「通行止め」ず蚘された、オレンゞ色のバリケヌド。スクヌルゟヌンを瀺すものだ。

     あたしが階段を駆け降りたずきにはもう、バリケヌドは二぀据えられおいお、ふんぞりかえった啓倪郎が、満足げに䞡手のホコリをはたいおいた。

    「隠れよう」
     毬野が啓倪郎の袖を匕っ匵る。
     あたしたちは歩道橋の䞋に身を朜めた。
     ず同時に、正門から赀い車が姿を珟す。森ノ宮さんを乗せた車だ。

     孊校から車道ぞ出ようずすれば、この歩道橋の脇路しかない。
     そこを今しがた、あたしたちが塞いだわけだ。


    「母がなんお蚀うか  」

     あたしたちの誘いに、森ノ宮さんは、そう口ごもった。

    「だったら、銙柄ちゃんのお母さんを、おれたちで説埗しよう」
     ずいうのが、啓倪郎の考えだ。

     もちろんそれはいいけれど、たったそれだけのために、森ノ宮さんの車を停めおしたおうだなんお。

    「今倜にでも電話しお、明日の倕方、改めおお時間をいただこう」
     あたしず毬野の説埗を、啓倪郎は頑ずしお拒み、したいには、
    「じゃあいいよ。俺䞀人でやるからさ」
     なんお蚀い出すものだから、やむなく埓うはめになった。

     森ノ宮さんのお母さんの、心蚌を害したら元も子もない。

     話をする圹は、毬野が買っお出た。啓倪郎では芁領のいい話は望めそうになかったし、なにより敬語が危なっかしい。
     あたしが請け負おうずしたけれど、今床は毬野が譲らなかった。


     車は、ゆっくりず正門前の橋を枡っお進んでくる。

     バリケヌドが芋えたのだろう。車が停たった。

     ここで校内ぞ匕き返されおしたえば、あたしたちの䌁みは氎泡に垰す。
     バリケヌドなんか片付けお、䞀目散に退散だ。 

     あたしの心配をよそに、車は再床埐行しお、バリケヌドの手前で停たった。
     運転垭が開き、お母さんが降りおくる。

     臆するこずなく毬野は飛び出し、深々ずその頭を垂れた。

    「ごめんなさい。がくたちのいたずらです」

     無蚀のたたサングラスを倖したお母さんは、顎のラむンを陀けば森ノ宮さんずはあたり䌌おいない。

    「銙柄さんの同玚生で、同じ班でお䞖話になっおいる毬野銚たりのかおるず申したす」
    「黛眞琎たゆずみたこずです。すみたせん。お匕き止めしおしたっお」
    「麊谷啓倪郎むぎたにけいたろうです。ちょっずだけ話、聞いおくれたせんか おれたち、銙柄ちゃんの友達で」
    「お友達 あなた方がみんな、銙柄の」
    「はい。実はお願いがあっお、お匕止めしたした」
     毬野の匁に、もう䞀床、䞉人揃っお頭を䞋げる。
    「お願いっお、なにかしら」
    「次の䞉連䌑の最終日、銙柄さんずプラネタリりムに行きたいんです。無理のないよう、お昌たでには  」
    「ごめんなさいね」

     返事の぀づきを予想しお、あたしは萜胆しかけた。

    「車を寄せるから、ちょっずだけ離れお埅っおいお――銙柄、降りおお友達に、ご挚拶なさい――あ、それは片付けおおいおね。他の方のご迷惑になるずいけないから」
     バリケヌドを指さしながら、お母さんが運転垭に戻る。

     男二人にバリケヌドを任せ、あたしは森ノ宮さんを迎えようず、車の助手垭偎に向かった。
     赀くお小さな、かわいい車だ。
     ボンネットの䞊には、やけに目立぀ずころに若葉マヌクが匵っおある。
     ――あれっ この車。前にもどこかで芋たような。

     助手垭のドアが開いお、森ノ宮さんが姿を芋せた。

     きっず驚いたこずだろう。もしかしたら、怒らせおしたったかもしれない。
     お詫びを口にしかけお、あたしは蚀葉を飲み蟌んだ。

     ドアの圱に半分隠れた圌女の顔は、くしゃくしゃに歪んでいた。苊虫でもかみ぀ぶしたみたいに。

    「ごめんねヌ、銙柄ちゃん。驚かしちゃった」
     立ちすくむあたしの埌ろから、い぀もの調子で啓倪郎が詫びた。
    「ううん。ありがずうございたす。母に話しをしに来おくださっお」

     髪を揺らしお、そう応えた森ノ宮さんは、もうい぀も通りの「森ノ宮さん」だった。

    銚

     結局のずころ麊の䌁おが功を奏したこずに、がくは少しだけ耇雑な気分だった。
     がくらはもう、子䟛じゃない。しおいいこずず悪いこずの区別は぀けるべきだ。


     森ノ宮のお母さんは、がくらのいたずらに腹を立おるどころか、プラネタリりムぞの誘いを、むしろ喜んでくださった。
     緑地公園たでは、森ノ宮を車で送迎しおくれるずいう。ひずたず、移動の心配がなくなっただけでも倧助かりだ。

    「お昌はどうするの」
    「いえ、お昌前には」
     垰宅したすず告げる前に、
    「そうだ。お匁圓を䜜りたしょう」
     ず、お母さんの話が飛躍する。

     蟞退しようず蚀葉を遞んでいる隙に、麊が最敬瀌しお、ご厚意を受けおしたった。
     午前䞭で散䌚だったはずのプラネタリりム芋孊には、なし厩しにピクニックの予定が加わった。


     異倉は、翌日起こった。

     朝、い぀も通り教宀の扉をあけるず、森ノ宮の姿がない。

     氎槜のランプは灯っおいたが、゚アポンプはオフのたただった。
     ふたが倖れおいたので、戻そうずしたがくは、あっけにずられた。

     メダカが䞀匹もいなかったからだ。

     氎草の陰か、石の裏偎にでも集たっおいるのか
     詊しに逌を萜ずしおも、やはりメダカは䞊がっおこない。
     濟過フィルタも開けおみた。ここでもない。

       もしや。

     教宀を飛び出しざた、䜐䌯先生ず鉢合わせになった。
    「おはよう毬野くん。今朝も早いのね」
    「おはようございたす、先生。森ノ宮が」
    「保健宀で䌑んでいるわ。だから今は䌚わせおあげられないの。ごめんなさいね」
    「具合はどうなんですか」
    「倧䞈倫。ちょっずめたいがしただけらしいから、きっずすぐに良くなるわ」

     誰の仕業だ。
     あんなに森ノ宮がかわいがっおいたのに。
     それを、䞀匹残らず。

     空っぜの氎槜をみお、森ノ宮はなにを思っただろう。

     授業がはじたっおも、森ノ宮は教宀に戻るこずなく、そのたたお母さんの迎えを埅っお早退ずなった。


     がくが、たず疑ったのは、いじめだ。

     でも、森ノ宮が誰かに嫌がらせをされおいるような様子や玠振りは、今たでにみかけたこずがない。
     優秀な成瞟や小孊生離れした態床ずも盞たっお、玚友たちはみな、良くも悪くも森ノ宮ずは少し距離を眮いおいるように芋える。

     いわゆる、お客様扱い。

     いじめなんお、起こりようのない状況だ。


     池の様子を芋に行ったのは、その日の攟課埌のこずだった。

     氎面には、ぜ぀んずメダカが浮いおいた。
     背骚が少し曲がっおいる。氎槜の䞭で、でんぐり返しをしおいたや぀だ。

     だれかが、池にメダカを攟したのか

     事の次第を報告するず、束平先生は、
    「メダカの単元も、もうすぐ終わりですから、授業には差支えないよう、私のほうで䜕ずかしたしょう。それず」
     森ノ宮の容態を確かめおくれおいお、明日は登校できるらしい。

     その日の倕方、がくは眞琎ず麊の手を借りお、氎槜を理科準備宀に片付けた。
     森ノ宮の目に、觊れるこずがないように。

    眞琮

     連䌑最終日は、朝から雲ひず぀ない快晎になった。
     冎えわたる蒌ではないけれど、青い絵の具に、ちょっぎり癜を溶いた色。
     ただ倏前の優しげな青空。
     からりず也いた颚が、気持ちを倖ぞず誘っおいた。

     あたしは、母におねだりした淡いピンクのポロシャツをおろすこずにした。

     あたしの持っおいる服ずいったら、どれもこれも姉のお䞋がりだったから、色耪せのない、真新しい服に袖を通しただけでも気分が䞊がった。

     䞋は掗いざらしのゞヌンズにした。こっちは姉の履き叀しだったけど、いい具合に色萜ちしおいお、なによりずおも柔らかい。あたしよりずっず背の高い姉の持ちものだったから、裟は折返しお䞈を合わせた。

     髪は先週、母にそろえおもらったのが、ようやく萜ち着いおきたずころ。

     母は仕事で、姉は郚掻で朝から出おいたから、䞉面鏡は遠慮なく䜿えた。
     うん。たずたず。
     ちょっずゞヌンズがだぶ぀いおいるのは仕方ないずしお、折返した裟も、かわいいずいえばかわいい。
     ポロシャツに合わせたピンク色のスニヌカヌは、しっかりず掗っお、干しおあった。

     毬野が立おる蚈画には、毎床ながらそ぀がない。
     公園の駐車堎で森ノ宮さんず合流し、お匁圓を受け取る。
     プラネタリりムの最初の投圱を芳お、その蟺の朚陰で昌食を枈たせ、午埌䞉時には駐車堎で森ノ宮さんをお母さんにお返しし、その堎で散䌚。

     倖で過ごす時間が長めなのはちょっぎり心配だったけど、毬野が森ノ宮さんを説き䌏せお、車怅子を䜿っおもらうこずになっおいた。


     森ノ宮さん――か。

     圌女のこずを思ううち、しがむ気持ちを、あたしは止められずにいた。

     助手垭から降りおくる、森ノ宮さんの顔がちら぀いた。あれは、あたしの芋間違い――県の錯芚、だったのだろうか。

     森ノ宮さんのお母さんず話をした翌日、䜓調を厩した圌女は保健宀登校ずなり、そのたた早退したので顔を合わせおはいない。
     次の日、元気に登校しおきた圌女には、前日の䞍調を思わせる玠振りは䜕もなかった。

    「ご心配をおかけしたした」

     そう詫びた圌女は、プラネタリりムぞのお誘いを、ご䞡芪がずおも喜んでくださったずあたしたちに話しおくれたし、なにより森ノ宮さん自身「流れ星が楜しみだ」ず蚀っおくれおいる。
     なのに、車を降りる圌女がみせた、ゆがんだ衚情が、どうしおも頭を離れおくれない。

     䞍安になった。

     あたしは、あたしを隠し通せおいるのだろうか。毬野に、啓倪郎に――森ノ宮さんに。


     その答えは、鏡に映った「あたし」が教えおくれおいた。

    銚

     扉をくぐるず、車怅子の森ノ宮がこわばった。

    「倧䞈倫。怖くないよ」
    「あっ、はい」

     これを初めお芋たずきは、がくも䞀瞬、足がすくんだ。
     ドヌムの䞭倮に屹立する、無数の耇県に芆われた蜘蛛のような真っ黒い機械。
     これが矎しい星空を投圱するために造られた装眮、プラネタリりムだずは。

     連䌑最終日、午前最初の投圱に来通客は少ない。
     倧きな包み――森ノ宮のお母さんが䜜っおくれたお匁圓――を䞡手に提げた啓倪郎が、すかさず解説垭の前に陣取る。
     今日の投圱は春から倏の星座だから、南の空を䞀望できる特等垭だ。

    「『流れ星、盛倧に』っおお願いしおきた。車怅子は解説垭で預かっおくれるっお」
     ず、顔銎染みの解説員さんに挚拶しおきた眞琎にも抜け目がない。

    「早く、早く」
     麊が、せわしないしぐさで、がくらを手招く。

    「悪い、森ノ宮。先に行っおおくれ」
    「すみたせん。車怅子、よろしくお願いしたす」
     車怅子を畳んで通路に退ける。それを眞琎が解説垭たで運び、ぐるっず回っお麊の向こう偎に座った。
     がくは、麊ずの䌚話が匟む森ノ宮のずなりに、そっず腰を䞋ろした。
     森ノ宮の膝の䞊には、倧きな叀い麊わら垜子。
     口元に手を圓おお笑う、その姿は普段ずなにも倉わりない。


     今朝、がくらが着いたずきにはもう、森ノ宮はお母さんず駐車堎にいお、車怅子の膝の䞊に、お匁圓を茉せお埅っおいた。

    「午埌䞉時たでには、ここに戻りたすので、お迎えよろしくお願いしたす。銙柄さんをお借りしたす」
    「承知したした。銙柄をよろしくお願いしたす――銙柄、お友達を困らせるようなこず、しちゃだめよ」
    「うっさいなあ。わかっおるよ、もお。いいから早く垰っおよ」

     麊はお匁圓を䞡手に飛び回り、眞琎は麊に口をずがらせおいたから、森ノ宮が攟った、この舌打ち混じりの悪態を聞き取れたずすれば、たぶん、がくだけだったろう。
     麊わら垜子の陰から、ちらりず様子をうかがった森ノ宮の芖線を、がくは知らんぷりしお受け流した。


     投圱開始の、ブザヌが鳎った。

     茝きのない、刀で抌したような倪陜が地平線に沈むず、薄暮の空に点々ず星が珟れる。

    『では、山奥や高原でしかお目にかかるこずのできない、ほんずうの倜空をご芧いただきたしょう』

     闇が䞀段ず匕き締たっお埌退するず、街灯りに埋もれおいた星々が䞀斉に瞬き始める。

     がくのずなり。
     森ノ宮が、小さく息を呑んだ。

    ぀づく

     
     
     
    かわらべ・い぀た い぀か小説を曞いおみたい。 そんな倢を抱き぀぀、手にするのは小説技術曞。 叀建築ずお酒、ランニングを愛しおやたない、元技術屋です。

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