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【note創䜜倧賞2024応募䜜品】Monument第15話

    川良郚逞倪

    第五章/

    銚

     甚心に、ず持参したロヌプは䜿わずに枈んだ。
     護岞には足堎があっお、氎路ぞの入り口たでは、容易に降りお来られたからだ。

     入り口は、想像以䞊に倧きい。
     倧人が立っお歩いおも、ただただ十分、䜙裕がある。

     芋えない氎路の底ぞ向かっお、そろりそろりず、螵を延ばした。
     かちり、ず固いコンクリヌトの感觊が、滑り止めの鋲に䌝わる。
     氎深は、さほどでもなさそうだ。

     意を固めお、氎路ぞ入る。
     僕の埌ろに、麊が続いた。

     氎路の壁面に手を぀いお、長靎の甲を掗われながら、慎重に進む。

     きっちり癟歩。
     振り返っお、距離を確かめた。

     甚心のため、曎に癟歩進んでから、ヘッドランプのスむッチを入れるず、少し先に階段が芋えた。

     開枠だった頃の名残だ。

     登りは氎路の倩井に塞がれお、降りのほうは、期埅しおいたものに぀ながっおいた。
     氎面よりも䞀段高い、か぀おの枅掃甚通路だ。

     安堵の息が、自然に挏れた。

     浅いずはいえ、苔むした流れの䞭を進むのは、思いのほかに気を遣う。
     長靎にスパむクベルトを巻いおいるのに、䜕床、足が滑ったこずか。

     ここたでが最初の難関だ。
     そう心にずどめ、通路に䞊がる。
     二人しお階段跡に萜ち着いた。

     ろうそくに火を点す。

     小さな炎は、䞊流から吹く絶え間ない颚に揺らめきながら、頌もしく蟺りを照らし出した。
     光に远われお、暗がりに逃げ蟌む生き物の圱が芋えたように思うのは、たぶん僕の匱気が生んだ、錯芚だろう。

     悪臭ずいえるほどの匂いもなければ、汚らしいずいうほどの汚れもない。


    「毬ちゃん」
     麊が指先でヘッドランプを叩いた。
     意を察しお、二人䞀緒にスむッチを切る。

    「やっぱり、ここで間違いなさそうだね」
     通路に薄っすらず積もった泥の䞊には、小さな子ほどの無数の手圢。
     アラむグマのものだず知らずに芋たら、背筋が凍えたかもしれない。

     軍手を倖し、玠手で足跡を撫でおみる。
     さらさらしおいお、湿り気もほずんど感じられない。

     倕方、あれほど雚が降ったのに。
     氎䜍は、通路の䞊には達しなかった、ずいうこずになる。


    「ねえ、毬ちゃんはさ」

     来るだろう、ずは思っおいた。
     こい぀は僕ず、差しで話がしたくっお、わざわざ、この探玢に同行したのだ。

    「これがほんずに、銙柄ちゃんの望みだっお、思っおる」
     銖だけ、暪に振った。
    「だよね。ず、するず、やっぱり眞琎っちゃんのため」
    「たあ、そういうこずになるのかな。あい぀、䞀床蚀い出したらきかないから」
    「だね」

     笑い声が反響しお、僕らは息をひそめた。

    「おたえは、どうなんだ。たさか『電気ホタル』だなんお、思っおるわけじゃあなかろうな」
    「やっぱ、毬ちゃんなんだなあ。で、どうなの。ほんずんずころ、聎かせおよ」
    「悪いが、どっちでもないず思う」

     十䞀歳たでの原䜓隓を、僕らは色濃く共有しおいる。

     この季節、クチナシの銙りが媒介ずなっお、深局心理に刻たれた森ノ宮のむメヌゞが、䌌たような倢ずなっお投圱されるこずも、あり埗るのではなかろうか。

     麊が、錻を鳎らした。
     お気に召さない話題なら、替えたほうがよさそうだ。

    「それにしおも『ピンチの啓倪郎』は健圚だったな。おたえの発想力には感服するよ」

     こい぀が来おくれなければ、䟵入経路も芋぀からず、眞琎を倱望させたこずだろう。

    「よしおよ――ねえ、毬ちゃん」
    「ん」
    「もっず長生き、できたんじゃないのかな。っお考えるこず、あるんだよね、銙柄ちゃん。俺たちなんかず出䌚ったりしおなければさ」
    「さあ  どうだったろうな」

     䞉分が過ぎた。
     炎の色に倉化はない。
     悪性のガスはなさそうだ。

    「あのさ、俺  」
    「行こう」

     ろうそくの火は、吹き消した。

     僕はランプにスむッチを入れるず、氎路の先を照らした。

           ◇

    「ねっ。いいアむデアでしょ」

     運動䌚、圓日。
     開䌚匏も早々に、がくらを五幎四組ぞ匕っ匵っおきた麊は、埗意げにポヌズを決めおみせた。

     開いた口が塞がらないがくの隣で、眞琎の頬がみるみるうちに玅朮する。
     車怅子の䞊、麊わら垜子に口元を隠しお、森ノ宮は話の行方を芋守っおいた。

     ここのずころ、なにか内緒でやっおるな、ず勘づいおはいた。が、よもや森ノ宮を担いで階銬戊に出よう、などずは。

     眞琎は、砎裂寞前だ。
     ここは、がくが䜕ずかしないず。

    「いいわけないだろっ」
    「そんなこずないさ。怍村が階手じゃあ、なんにも期埅できないけれど、銙柄ちゃんならずっず軜そうだし、おれたちの足も掻かせるっしょ」

     䟋のケガの䞀件以来、怍村は緎習も䌑みがちだった。

    「このたたじゃあ、陜動どころか、カモられるだけで終わりだよ」
     確かに。それはその通り、だが。
    「䞀床も緎習しおないんだぞ。こんなこず、圓日の䞀発勝負で  」
    「出来たす 緎習、しっかり芋おたした」
     どうやっお蚀いくるめたものか。森ノ宮たで、この有様だ。

     匱り果おお眞琎をみる。
     膚らんだ頬には、くっきりず「反察」の字が浮いおいた。

    「なにが起こるか、わからないんだ。危な過ぎるよ」
     麊のや぀は諊めお、森ノ宮のほうを説埗にかかる。

     擊り傷やたんこぶくらいは、芚悟の䞊の競技だ。
     そう説いお聞かせおも、森ノ宮の顔色――決意に倉わりはみられない。

     きっず、誀解しおいるのだ。

     緎習では、各階の実力を隠すのず、なにより本番たでケガ人を出さないように、毎床おざなりな、抌しくらたんじゅう皋床に終始しおいた。
     あれを芋お、階銬戊だず思っおいるなら、森ノ宮が「わたしにだっお」ず思う気持ちも、わからぬではないが。

    「なあ、いいだろ もう怍村にも、山岞にも話぀けちゃったし。怍村なんか、飛び䞊がっお喜んでたよ」

     倖堀はもう、埋たっおいた、か。

     校庭では、順調に競技が進んでいる。
     結論を急ぐよりほか、方策はないが。


    「勝手にすれば」
     そっぜを向いお、眞琎が歩き出した。
    「埅っおください。黛さん。わたし  」
    「なんか、手䌝えるこずあったら声かけお」
    「埅およ、眞琎」

     远おうずしたがくの腕を、麊が぀かんだ。

    「攟せよ。呌び戻しおくる」
    「よしなっお。ようやく玠盎に怒れたんだから。しばらく、ほっずいおあげなよ――気にするこずなんかないからね。銙柄ちゃん」

     麊わら垜子に顔を埋めた、森ノ宮の衚情はうかがえない。
     車怅子の前に屈んだ麊が、ここたでは想定の内だず蚀わんばかりに、䞊目遣いでがくを睚んだ。

    「口喧嘩のひず぀やふた぀、遠慮なくできなくちゃさ、仲良くなんお、なれっこないよ――でしょ」
     勢いよく立ちあがった麊が、パチンっず手のひらを合わせた。
    「銙柄ちゃんは腹をくくったんだ。毬ちゃんは、どうするよ」
     麊が口角を捻じ䞊げた。
    「ほんずんずこ、おもしろそうだ。なあんお、思っおんじゃあないの」

     図星、だった。
     けれど。

    「いいのか 森ノ宮」
     今床はがくが、ひざを着く。
    「はい。わたし、階銬戊に出たい。もちろん、いけないこずだっおわかっおいたす。それに  黛さんが、怒るのも」
    「そう、か」
    「銙柄ちゃんに、ここたで蚀わせたんだ。毬ちゃん、芚悟はいいよね」
    「ああ、もちろんだ」
     胆は、決たった。
    「でも、どうせやるなら培底的にやりたい」

     麊は、䞍敵に眉を䞊げた。
    「そう来るだろうず、思っおいたよ」

    眞琮

    「なんか、手䌝えるこずあったら声かけお」

     未緎がたしい捚お台詞が、目元に涙の玉を䜜った。

     い぀も䞉人、䞀緒だった。はずなのに。

     あたしは慌おお駆けだした。
     涙が頬を䌝っおしたう、その前に。

     毬野が、啓倪郎が、远っおきたらどうしよう。
     肩を぀かんで、匕き止められたら
     その時、あたしはどうするだろう。

     でも、誰も远っおはこなかった。

     芁らぬ心配に、たた䞀粒、涙がこがれる。
     薄暗い昇降口の䞋駄箱の隅、あたしはひずり、目元を拭った。


     校庭ぞ戻るず、熱い陜射しに県が沁みる。
     空は嫌味なくらいに晎れ枡り、色ずりどりに掛け枡された䞇囜旗がそよいでいる。

     絶え間なく流れる、せわしのない音楜。
     各クラスからの応揎の声。
     競技の堎内アナりンス。

     行き亀う人、たた、人。

     応揎垭には、戻れない。
     毬野ず啓倪郎――それに森ノ宮さんずも顔を合わせなければならなくなる。

     䞀幎生の埒競走で旗持ちの係を終え、本郚テントに戻ったずころで、埅ち䌏せしおいた啓倪郎に捕たった。

    「手䌝っおくれる、っお蚀ったよね」

     身構える間もなく、銖だけ瞊に動いおいた。


     連れお来られた五幎四組の教宀で、啓倪郎は䜓操着の入った巟着袋を、あたしの胞に抌し぀けるず、
    「じゃあ、眞琎っちゃん、埌はよろしく――銙柄ちゃん、支床急いでね」

     ぎしゃり、ず教宀の戞が閉ざされる。
     森ノ宮さんず、二人きりになった。

     䜓操着を取り出し、広げおみる。

     瞫い付けられたれッケンには、「 怍村」の文字。
     森ノ宮さんの背䞭に長袖のシャツをあおがった。
     サむズは、ちょうどよさそうだ。

     䞈の長いハヌフパンツは、腰で絞れる。

     襷にでもする぀もりだったのか、長めの玅いはちたきに、ヘッドギアず、ひじ、ひざパット。手銖、足銖のサポヌタヌ。
     袋の底には、スポヌツテヌプたで入っおいた。

     どれもこれも、たっさらだ。

     きっず怍村くんを蚀いくるめお、甚意させたに違いない。
     危なっかしいこずをさせようずするだけあっお、啓倪郎にしおは甚意呚到だ。


    「どうしたの 森ノ宮さん」
     䜓操着を吟味しおいる間、圓の森ノ宮さんは、車怅子の䞊で身じろぎもせず、ゞャヌゞのファスナヌすら緩めおいない。
    「あ、ごめんなさい。ちょっず、がおっずしちゃっおお」
    「倧䞈倫 気分でも悪いの」
     それずも、怖気づいた、ずか。
    「ううん。平気」

     圌女は車怅子から立ち䞊がり、無造䜜に身に着けおいたものをずり始めた。

     森ノ宮さんず着替えを共にしたこずは䞀床もない。䜓育はい぀も芋孊だったし、今朝はゞャヌゞ姿での登校だった。

     髪を収めるには、どう結ったらいいだろう。
     ヘッドギアを手に取っお、そんな思案をしおいるさなか、あたしは、それを偶然、目にしおしたった。

     めくれ䞊がった肌着の䞋、森ノ宮さんの真っ癜な脇腹をのたう぀、赀玫の筋――手術の、痕

     銖筋に走った悪寒が肩を䌝っお、ひずりでに緩んだ手から、ヘッドギアが滑り萜ちた。
     拟う぀もりで䌞ばしたはずの、指先の震えが抑えられない。

     考えたこずもなかった。圌女の病気っお、なんなのか。
     こんな手術をしなければならないほど、重たいもの、だったのか。


     背埌で、衣擊れが止んだ。

    「枈みたした。黛さん」

     振り返るず、圌女は䞡手を銖に回しお、襟から髪を抜いおいた。
     身に着けおいたスパッツは、裟を折り返しおハヌフパンツに収めおある。
     ひじ、ひざパットも、サポヌタヌも着けおいた。

     萜ち着いお。
     たずは、爪の逊生だ。
     手足の指を、スポヌツテヌプで厳重に巻く。

     残るは、ヘッドギアずはちたきだ。

     むスはぜんぶ応揎垭に持ち出されおいたから、車怅子に座っおもらい、あたしは髪をたずめにかかった。

     結い䞊げに手間取ったのは、想像通りにコシの匷い、圌女の髪質のせいばかりではない。
     ちっずも力が入っおくれない、あたしの手指のせいだった。

     髪が解けおしたわぬよう、慎重にヘッドギアをかぶせおいく。
     ヘアピンが残っおいないか、䞁寧に髪の䞭を探った。

     玅組を瀺す、はちたきは、どうしよう。

     あたしはちょっずした思い付きで、巊のひじパットの少し䞊に結び぀け、絶察に解かないようにず念を抌した。

     森ノ宮さんに立ちあがっおもらい、呚囲をぐるりず䞀巡り。
     圌女の出で立ちを確かめる。

     近くで芋れば、もちろん森ノ宮さん、その人自身に違いない。
     けれど、階銬戊ですっかり浮足立った、男の子たちのこずだ。
     よほど泚意を惹かないかぎり、たぶん誀魔化し通せるだろう。


     支床は、すっかり敎った。

     が、啓倪郎は戻っおこない。
     気たずく、時が流れた。

    「ねえ、黛さん」
    「うん」

    「頑匵っおくるから」っお蚀っおくれたら、「気を぀けおね」っお返せた。
    「ありがずう」だったら、「どういたしたしお」っお笑えた。

    なのに。

    「ごめんなさい。わたし  」
    「どうしお」
     こんなずきに。
    「ごめんなさい、なんおいうくらいなら、どうしお」
     やめなきゃ。ここでやめなきゃ、止められなくなる。
    「どうしお、こんなこずするの」
     心の堰が、綻びた。

    「あたし、あなたのこずが、わからない」
     よりによっお階銬戊なんか。い぀もみんなの真ん䞭にいるくせに。
    「なぜ どうしお こんなこずしお、なにが面癜いの」
     そこぞ圌女の秘密――手術の痕を芗き芋おしたった、埌ろめたさが拍車をかける。
    「あなたの望みっおなに いったいなにが気に食わないの なにが䞍平 なんでこんなこずしようずするの ねえ、教えおよ」

     早口に、也ききった舌がも぀れお、ようやく我に返れた時にはもう、すべおをぶちたけ、吐き出しきった埌だった。

     あたしの心に、柱んでいたもの。
     醜く拗じけた、圌女ぞのひがみ。
     その、すべお、を。


     肩で息をするあたしの前に、車怅子の䞊、森ノ宮さんは、うなだれたたただ。
     圌女の现い肩先が、小刻みに震えおいた。

     泣かせおしたった、かもしれない。

    「ご  ごめんなさい。あたし、ひどいこずを  」

     理䞍尜にも、ほどがある。
     こんなのは、ただの八぀圓たり。
     あたしが勝手に、ため蟌んでしたった屈蚗だ。

     お詫びを、せねば。
     膝を屈めかけた。

     ず、同時に圌女は垂れおいた頭を䞊げお、ゆらりず立ち䞊がった。

     く぀く぀、ず圌女の癜いのどが鳎る。

     圌女は、泣いおなどいない。
     こらえおいたのだ。
     笑い出しそうになるのを。

     ヘッドギアに、半ば隠れた圌女の䞡県が、あたしを睚んだ。

    「わたしが、なにをしたいか、ですっお」

     圌女の唇に、酷薄な笑みが浮かんだ。

    「教えおあげたしょうか」

    ぀づく

     
     
     
    かわらべ・い぀た い぀か小説を曞いおみたい。 そんな倢を抱き぀぀、手にするのは小説技術曞。 叀建築ずお酒、ランニングを愛しおやたない、元技術屋です。

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