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【note創䜜倧賞2024応募䜜品】Monument第話

    川良郚逞倪

    第䞉章/

    銚

    「芋せたいものがあるから、このお店で埅っおいお」

     匕きちぎったメモを僕に抌し付け、眞琎は駅の方ぞず走り去った。


     殎り曞きの地図を頌りに、指定された店を探しお歩く。
     䞀床、前を通り過ぎおから、豆を炒る銙りに匕き戻されお、ようやくたどり着けた。

     叀くからある建物らしい。きっず、ただ僕がこの街にいたころからある店だろう。
     通りから少し匕っ蟌んだレンガ積みの壁には、䞀面の蔊。
     朚枠に、分厚いガラスの嵌め蟌たれたドアも、近頃では物珍しい。
     人手に磚かれた真鍮の把手が、雲間からのぞく陜光に茝いおいた。

     いたどき流行る店ずも思えなかったが、垞連客はいるのだろう。

     ドアを匕く。
     吊られたベルが柄んだ音で鳎った。

    「いらっしゃいたせ」
     氎仕事でもしおいたのか、カりンタヌの向こうから銀髪をなで぀けたマスタヌが手を拭いながら迎えおくれた。
    「お䞀人様ですか」
    「いえ。埌から、もう䞀人」

     店の䞀番奥、ピアノの前のテヌブルに萜ち着いた。
     壁に぀られたスピヌカヌからは、クラシック音楜が流れる。

    「ご泚文は、お連れ様を埅っおから、うかがいたしょうか」
     マスタヌが、お冷を眮いた。
    「いえ、ブレンドを。ホットで」
    「かしこたりたした」

     カりンタヌの端には真空管が点り、オヌディオラむトを波打たせながらレコヌドが回っおいる。
     針の䜍眮は、ただ序盀だ。
     奥たった壁䞀面に蚭えられた棚の䞭には、风色のカバヌ――レコヌドが、ぎっしりず䞊んでいた。
     棚のおっぺんから䞋がる鮮やかな黄緑色のポトスの葉だけが、唯䞀、ロヌズりッドで統䞀された店内に圩りを添えおいる。


     橋脚「」は、確かにあった。
     倢で芋る姿、そのたたに。
     蟺りの颚景も、抂ね倢ず䞀臎しおいた。

     だが、それを芋枡すこずができる郚屋。
     ペントハりスらしい、あの郚屋のある建物が芋圓たらない。

     それらしい堎所にあったのは、䌑耕田を転甚したらしい遊氎池だけだ。
     そこに建物があった、ずは考えにくい。


    「お埅たせしたした」

     ぎくりずしたはずみで、テヌブルの䞊、お冷の氷がグラスを鳎らした。

    「申し蚳ありたせん。お邪魔でしたか」
    「いえ、考え事しおたしお。すみたせん」
    「ブレンド、お埅たせしたした」
     ゜ヌサヌにカップが重なる音は、乱暎なドアベルの音にかき消された。

     眞琎だ。

     マスタヌずは顔なじみらしい。カりンタヌ越しに蚀葉を亀わし、僕の向かいに膚らんだトヌトバッグず、叀びた青い図面入れの筒――アゞャスタヌケヌスをおろした。

    「ごめん。埅たせた」
    「ちょっず、だけどね」
     コヌヒヌに湯気が䞊がっおいたから、遠慮なくそう答えた。
    「あ、冷めちゃうから、先に口぀けおお」

     埅぀ほどもなく、りむンナヌココアが䞊んだ。
    「芋せたいものっお、それか」
     芖線で、トヌトバッグずケヌスを指す。党郚だずすれば、目を通すだけでも盞圓な時間がかかるだろう
    「うん。でも、ちょっず埅っお――マスタヌ、ありたした」
    「お埅たせしたした。こちらでよろしかったでしょうか」
     物憂げな女性の肖像画があしらわれたゞャケットを、マスタヌが僕らに瀺した。
    「お願いしたす」

     慣れた手぀きでマスタヌが、レコヌドを掛けかえる。

     オヌディオラむトに照らされお、ゆっくりず針が降った。
     ボリュヌムが䞊がり、スクラッチノむズが走る。

     ピアノ独奏。

     最初のフレヌズで、目が眩んだ。

    「シュヌマンの『芋知らぬ囜ず人々に぀いお』」
     眞琎の声が、遠く聎こえる。
    「知っおるよね、毬野――この曲」

    眞琮

     この曲を初めお聎いたのは、銙柄の家で、銙柄の挔奏でだった。

     バヌスデヌパヌティヌに招かれお圌女の家を蚪れたのは、運動䌚を間近に控えた六月半ば。

     この幎は劙なこず続きで、䟋幎なら十月にある運動䌚が、六月䞋旬に倉曎された。
     校庭に埋蚭されたスプリンクラヌの補修――だったず思う。そんなもの倏䌑みにでもすればいいのに、なぜか工事が十月に決たり、運動䌚が繰り䞊げられたのだ。

     晎倩に恵たれた五月のうちは、ただよかった。六月に最初の台颚が過ぎるず倩気はめたぐるしく倉わり、運動䌚の緎習は遅れに遅れおいた。

           ◇

     午埌に森ノ宮さんのバヌスデヌパヌティヌを控えた土曜日の倩気予報は、曇りずきどき雚のち晎れ。

     この、なにがあっおもおかしくなさそうな予報を瀺すかのように、空暡様は朝から短いサむクルで倉わった。

     登校の通孊路では薄陜が射しおいたかず思えば、孊校に着いた途端にざあっず䞀雚あっお、授業をすべお振り替えた運動䌚の緎習䞭も、空は明るくなったかず思えば黒雲が枊巻き、冷たい颚に時折、霧雚が混じった。


    「お疲れ様。雚、倧䞈倫だった」
     森ノ宮さんは床にぺたんず座ったたた、机の隙間から笑顔をみせた。
     梅雚空のせいで昌間だずいうのに蛍光灯の点るなか、教宀は也きかけた絵の具の銙りで満ちおいる。
    「ちょっぎり濡れちゃったけど平気。森ノ宮さんこそ、お疲れ様。うわあ、だいぶ進んだね」
    「うん。埌は色を぀けるだけ」

     圌女の呚りを、運動䌚の応揎ボヌドが囲んでいた。
     半分ほどはポスタヌカラヌが也くのを埅぀完成品で、残りも䞋描きは枈んでいる。

     森ノ宮さんは、䞀番倧きなボヌドの䞊に、身を乗り出した。
     応揎垭の最前列に、掲げるものだ。

     玅組を瀺すバヌミリオンを背景に、幞運を呌ぶ四぀葉のクロヌバヌが「五幎四組」の食り文字を瞁取っおいる。右䞋のひずきわ倧きな四぀葉には、䞉枚の葉に加えお残る䞀枚が、今たさに折りたたたれた葉を広げようずしおいた。

     男の子たちは、ただ倖で階銬戊の緎習だ。
     あたしは濡れた髪をざっず拭うず、堂々ず着替えを枈たせた。

     絵の具の滲みだらけになった゚プロンを掛けお森ノ宮さんの隣に座り、䞋描きの䞭に指定された色を確かめ、ポスタヌカラヌのボトルを遞ぶ。

     筆を走らせながら、あたしはこっそり森ノ宮さんの顔色をうかがった。
     蛍光灯の光のせいか、目の䞋あたりにくたがある。巊手の包垯は取れおいお、ガヌれを留めおあるだけだ。

    「埌はあたしに任せお、垰りの支床、はじめおお」
     䜜業が䞀段萜するタむミングを芋蚈らっお、声をかけた。
    「うん、ありがずう。でも、ここたでは仕䞊げちゃおうず思っおお」

     遅れ気味だったボヌドの補䜜を、挜回できるのはありがたい。
     けれど、ここでたた圌女に䜓調を厩されでもしたら。

    「わかった。埌はあたしがやっおおく。森ノ宮さんはパヌティの䞻圹なんだから、もう䌑んでお」

     そう意気蟌んではみせたものの、ここ数日の行状を目の圓たりにされおは説埗力のかけらもない。
     本来なら遅れを挜回するためにある攟課埌の時間、あたしたちは応揎ボヌドを森ノ宮さんに任せっきりで、理科準備宀での電子工䜜――森ノ宮さんぞのプレれントの補䜜に、う぀぀を抜かしおきたからだ。


     プレれントは「電気ホタル」にした。

     アむデアは啓倪郎で、回路の蚭蚈は毬野。デザむンず手芞は、あたしが手がけた。
     小窓を暡した箱の䞭に、クチナシの造花をあしらい、フェルトのホタル䞉匹をちりばめお、お尻の郚分に発光ダむオヌドを配した。

     昚倕完成したそれは、我ながら芋事なできばえで、郚屋を暗くしおみるず、ほんずうにヘむケボタルが瞬く様を小窓から芗きみおいるようだった。

     回路の具合もいい。䞉匹は、おんでに点滅を始めるず、その呚期を次第に䞀臎させおはたた、散り散りなる。

     クチナシの花が、仄かに照らしだされるのも玠敵だ。
     完璧にむメヌゞ通り――少なくずも、倖芳は。

     毬野が顔を曇らせたのは、裏蓋を開いお回路の最終チェックをしおいた時のこずだった。ハンダが、あちこちで球になっおいる。

     電子工䜜は啓倪郎がした。毬野が぀いおいおくれれば安心だったんだけど、階銬戊の五幎生代衚ずしお六幎生ずの合同䜜戊䌚議ずやらに時間をずられおいた。

     啓倪郎のこずだ。早く光っおいるのが芋たくなっお䜜業を急いでしたったのだろう。

     でも、このたたにはしおおけない。
     電池亀換の際、誀っお郚品に觊れれば、ハンダが倖れる恐れがある。

     毬野は厳然ずやり盎しを呜じた。


     あたしは、やきもきしおいた。

     森ノ宮さんに倧芋埗をきっおしたった手前、この䞀番倧きなボヌドだけは、今日䞭に仕䞊げおしたわねばならない。

     啓倪郎のハンダは、枈んだのか

     枈んだら枈んだで包装し、リボンをかけるのは、あたしの圹目だ。

     パヌティヌのスタヌトは午埌二時半。
     逆算するず、二時前には校門を出ないず危うい。

     それたでに、ほんずうにすべお、終えられるのだろうか。
     時蚈はもう、四時限目も終わりに近づいおいる。

     そしお森ノ宮さんは、䜜業を離れる気配もない。


     森ノ宮さんから、どうやっお絵筆を取り䞊げようか。
     そんな思案をしおいた時だ。窓の倖で隒ぎがおこった。誰かが、保健宀に担ぎ蟌たれたらしい。飛び亀う声に、毬野ず啓倪郎が混じっおいた。

     二人にケガでもあったのか

     腰を浮かせかけたずころぞ、真っ先に保健宀ぞ駆け぀けた女の子が、戻っおくるなり倧声で告げた。
    「怍村くんが、ケガしたっお」
     玅癜の花を折っおいた女の子たちが、色めき立っお保健宀ぞ向かった。

     怍村くん、か。
     圌は今床の階銬戊で、毬野ず啓倪郎、そしお五幎生で䞀番倧きい山岞くんが組む階銬の、階手を務める。

     あたしには、ぜんぜんピンずこなかったけど、圌は女子の間で人気があった。争いごずずは、ずんず無瞁で、あたり運動も埗意ではない。
     啓倪郎は、あからさたに今回の組み合わせには䞍平を唱えおいた。
     緎習䞭のいさかいずかでなければいいが。

     廊䞋がひずきわ隒がしくなった。階銬戊の男の子たちが戻っおくる。

    「やあ、お疲れ。銙柄ちゃん、眞琎っちゃん」

     雚に濡れお逆立った短い髪をずがらせお、啓倪郎がボヌドに近づく。
     滎でも萜ずされたら、せっかくの圩色が台なしだ。
     あたしは啓倪郎の袖を匕っ匵っお、容赊なく廊䞋たでひきずり出した。

    「なにがあったの」
    「なにがっお、なにが」
    「ずがけないで 怍村くんのこず。あんたたちの階銬だよね」
    「ああ、怍村ね――ええっ、違うっお。おれたちゃ、なんにもしおないよ。緎習で走っおたら、転げ萜ちちゃったんだ」

     地面に手を着く前に、頭から着地しお額を擊りむき、階銬の䞉人に抱えられお保健宀ぞ、ずいう顛末だそうだ。

    「あの皋床でわあわあ泣きじゃあ、本番はどうなるんだろ。あ、掻躍ずか期埅しおくれおたりした」
    「それはそうず、ホタルのハンダはどうなったのよ」
    「ああ  あれね。あれは、これから理科準備宀で  っお、痛っ、痛いよ、眞琎っちゃん」
     力任せに、啓倪郎の背䞭を匕っ叩く。
    「啓倪郎、今日はあたしず居残りね。わかった」

    ぀づく

     
     
     
    かわらべ・い぀た い぀か小説を曞いおみたい。 そんな倢を抱き぀぀、手にするのは小説技術曞。 叀建築ずお酒、ランニングを愛しおやたない、元技術屋です。

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