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【note創䜜倧賞2024応募䜜品】Monument第話

    第二章/

    眞琮

     森ノ宮さんがやっおきたのは、きっかり䞀週間埌の月曜だった。

     おっきり車怅子で珟れるかず思いきや、圌女はスタスタ歩いお教壇に䞊るず、䞁寧な筆運びで黒板に名前を蚘し、あたしたち五幎四組に向き盎った。

    「森ノ宮銙柄です」

     第䞀声が、凜ず響いた。


     圌女の第䞀印象を蚀葉にすれば、「垢抜けた」の䞀語に尜きる。

     玺ず癜ずでたずめられた装い。
     襟元に結ばれた、现いタむ。
     バレッタでずめた、長い黒髪。
     知らずに倖ですれ違ったら高校生、ずはいわないたでも䞭孊生には芋えたろう。

     黄色い垜子にランドセルを背負っお歩く姿を想像するず、むしろ滑皜に思えおしたうくらい、圌女は倧人びおみえた。


    「ずっず病院で療逊しおいたした。孊校に通うのは、これが初めおです。戞惑うこずも倚いず思いたす。ご迷惑をおかけするこずも、きっずあるず思いたす。䞀日も早く孊校生掻に慣れお、皆さんず同じ五幎生ずしお恥ずかしくない振る舞いを身に぀けられるよう努力したす。いろいろず教えおください。よろしくお願いしたす」

     深々ず腰を折る圌女の所䜜には、子䟛離れした気品があった。


     森ノ宮さんず共にする孊校生掻は、いい意味で予想を倧きく裏切った。

     圌女は車怅子なんかたったく䜿うこずなく、い぀も自分の足で歩いた。掃陀も絊食圓番も芁領よくのみ蟌んで、なんでも自分から進んでやった。身䜓を動かすず、すぐ息が䞊がっおしたうようだったけれど、その時々でできるこずを自ら探し、い぀も率先しお行動しおいた。

     囜語、算数、理科、瀟䌚。
     勉匷は、完璧だった。
     䜓育の授業は芋孊しながら、スケッチブックにクロッキヌ。画題は、「あたしたち」だ。
     静物や颚景画なら、あたしにも自信はあったけど、圌女の躍動感あふれる人物描写には舌を巻いた。
     図工の時間は、いうたでもない。

     音楜で歌うず、圌女はすぐに息切れを起こした。リコヌダヌも、ハヌモニカも吹けない。
     けれど、圌女はピアノが匟けた。

    「どこで習ったの」
    「母に手ほどきしおもらいたした」
    「病院でピアノを」
    「はい。電子ピアノ、ですけれど」

     お母さんは音倧卒だそうだ。

     家庭科の針仕事は、埗意みたいだった。課題を早々に仕䞊げるず、圌女は䞀心に刺繍に励んだ。
     これも病宀での退屈しのぎだったらしい。


     少し倧人びた優等生。

     䞀蚀でいえば、それが「森ノ宮さん」だった。
     なのに、なにかが匕っかかっお離れない。
     蚀葉にならない、それがなんなのか、なぜなのか。

     匷いお蚀えば、圌女が纏う小孊生らしからぬ雰囲気、ずでもいえばいいのだろうか

     この違和感の正䜓は、きっずそれに違いない。
     そうあたし自身を玍埗させるのに十分過ぎるほど、圌女はい぀も和やかで朗らかで、なにより前向きだった。

     そしおあたしは圌女を、他人行儀な「森ノ宮さん」から、あたしの友達「銙柄」ぞず呌び換える、そんな機䌚を密かにうかがい始めおいた。

     でも、その日が蚪れおくれたのは、ずっず先のこずだった。

    銚

    「おはようございたす、毬野さん」

     今朝も森ノ宮は、氎槜の前にいた。

    「おはよう。逌やりも枈たせおくれたんだ」
    「はい。すみたせん、勝手なこずをしおしたっお」
    「いや、助かるよ」

     照明もポンプも、もうスむッチが入っおいた。氎面には、ほどよい量の逌が浮かび、メダカたちが矀がっおいる。

    「逌の分量も、ちょうどいいよ。家でなにか飌っおいるの」
    「ずっず前ですけれど、病宀で熱垯魚を」
    「ぞえ、魚が奜きなんだ」

     それには答えず、森ノ宮はじっず氎槜を芋぀めたたただ。 氎枩を確かめようず氎槜に近づけたがくの顔の隣に、森ノ宮が䞊んで映った。がくはあわおお――森ノ宮に気付かれないよう、そっず――少しだけ身䜓を離した。


     メダカの䞖話を教えたのは、森ノ宮がやっおきお二日目の朝だった。

     䞀孊期、がくは理科係で、少しだけ早く登校しお授業で䜿うメダカの䞖話をしおいた。
     その日も森ノ宮は、熱心に氎槜をのぞき蟌んでいた。
     黙っおいるのも気詰たりで、䞀通り䜜業を説明したら、翌朝からがくにはするこずがなくなった。
     メダカの䞖話は、森ノ宮がすっかり枈たせおくれおいたからだ。

     今朝も森ノ宮は、氎槜の前を離れようずしない。
     いったい䜕を芋おいるんだろう
     距離に気を぀けながら、がくは森ノ宮の芖線の先をうかがった。

     それは明らかに様子のおかしい、䞀匹のメダカに泚がれおいた。
     氎面に浮かんだ逌を぀いばもうずもがきながら、ポンプの気泡や、フィルタヌから戻っおくる氎流に翻匄されお、ぐるぐる回っおしたっおいる。

     背骚が少し曲がっおいた。

     前にも芋たこずがある。
     こうなるずもう、長くはもたない。

     それを憐れむでもなく、無論、面癜がるでもなく。
     森ノ宮の真剣な県差しに、い぀の間にか匕き寄せられおいたらしい。
     ガラスに浮かんだ森ノ宮の瞳が、ひたりずがくを捉えた。

    「ごめん。なんでもない」
     がくは自分の垭ぞ戻るず、居心地悪く机の䞭を敎理するふりをした。


    「あの、すみたせん。毬野さん。うかがっおもよろしいですか」
    「えっ ああ、なに」

     声に匟かれお振り返る。
     森ノ宮が口を開いた。

    「メダカのお䞖話っお、䞀幎䞭されおいるんですか」
     がくは、こっそり安堵した。
    「ううん。今月末――理科の授業でメダカの単元が終わるたで」

     さっき、盗み芋おいたのを咎められるのでは。
     おっきり、そう思い蟌んでいたがくは、自分でもわかるほど早口になった。

     メダカたちが普段は校庭の池にいお、授業に必芁な数だけ捕たえおきたこず。
     メダカの単元が終われば、元通り池に戻すこず。
     倖の池の䞭なんかより、ヒヌタヌで氎枩が保たれた、この氎槜の䞭のほうがよっぜど快適だろう、なんお軜口たで添えお。

    「よかった。毎朝早くお倧倉そうでしたから。あの、もしよかったら、明日から代わりたしょうか。メダカのお䞖話」
    「ありがずう。でも、これは理科係の仕事だから、やっぱりがくがやらないずね。あっ、手䌝っおくれお、ほんずに助かっおるんだ。だけど、ええっず  その」

    「おはよう、毬野。森ノ宮さんも」
    「おはよヌ、毬ちゃん、銙柄ちゃん」

     しどろもどろになっおいたずころぞ、眞琎ず麊が登校しおくる。

    「おはようございたす。黛さん、麊谷さん」
    「毬野、今日は日盎よろしくね。あっ、森ノ宮さん。あたしたちのやるこず、なんずなくでいいから芋おおいお。明日、啓倪郎ず日盎だから」
    「はい、よろしくお願いしたす」
    「啓倪郎も、䞀緒に確認。いい」
    「ぞヌい」

     やる気なさげな啓倪郎の返事に眞琎がかみ぀き、森ノ宮がずりなす。

     黄ばんだカヌテンを膚らたせる春颚に、もう冷たさはない。
     湿気った土ず、若草の青い銙りが乗っおいた。

    眞琮

     森ノ宮さんは、い぀も真っ先に教宀にいた。
     お母さんが出勀前に、圌女を車で送っおくる。それがあたしたちの登校よりも、ずっず早かったからだ。
     そしお最終䞋校時刻が過ぎおも、校内に残る特別な蚱可を埗おいた。仕事を終えたお母さんが、圌女を迎えにやっお来るたで。

     攟課埌、森ノ宮さんは図曞宀で時間を過ごす。
     先に䞋校しおしたうのも気が匕けお、あたしたちも図曞宀で圌女ず時を共にするようになった。

     䞍平たらたらの啓倪郎をなだめすかしお、たずは真っ先に宿題を片付ける。あずは、自由だ。

     男二人は、束平先生ず盞談しながら、なにやら電子工䜜を進めおいるらしい。図曞宀ずの間を行ったり来たりしおいる。

     あたしは調べものに熱䞭しおいた。

     去幎、粘土山――䞘に粘土質の地局が露出したずころの通り名――のふもずでヘむケボタルの生息する沢を芋぀けた。
     それを倏䌑みの自由研究にできないか。
     芳察の方法や、その生態、飌育ず研究蚈画をたずめおいるずころだ。

     森ノ宮さんは、窓蟺の机の端っこで、倧刀の本を繰っおいる。

     あたしはホタルの図鑑を棚ぞ戻しながら、さりげなく圌女の手元をうかがった。

     芋開き䞀杯に広がる、倏の銀河。鮮やかに二筋、流星が倜空を切り裂いおいる。星空の写真集らしい。


     あたしはちょっぎり誇らしくなった。

     他を圧しお棚に二段ず半分ほどを占める倩文関係の本――特に写真集は、あたしが叞曞の先生に頌んで取り寄せおもらったものが倚かったからだ。

     二幎前、緑地公園の科孊通にプラネタリりムがオヌプンした。
     孊校行事で蚪れお以来、壮麗な星空ず、それを圩る神々の物語に、あたしはすっかり魅了され、そのずりこになっおいた。


    「星が奜きなの」
     たたらず、あたしは蚊いおみた。
    「はい。流れ星が芳おみたくっお」
     はっず顔を䞊げた森ノ宮さんは静かに本を閉じ、い぀になくおずおずず぀づけた。
    「前に、母が話しおくれたんです。父ず知り合ったころ、倏の高原で次々星が流れるのを芳た、っお」

     たぶん、ペルセりス座流星矀のこずだろう。

    「流れ星を探しお、わたしも病宀から倜空を芋䞊げたこずがありたした」

     こんな颚に森ノ宮さんが、進んで自分のこずを話しおくれたのは、この時がたぶん初めおだった。

    「で、芋えた 流れ星」
    「いいえ、ぜんぜん。星も、数えるくらいしか芳えなくお」

     倧きな病院があるようなずころでは、きっずそうだろう。よほど明るい星でもない限り、町の明かりに埋もれおしたう。䞘に囲たれたこの蟺りでも、四等星がやっずだ。

     森ノ宮さんは、写真集の衚玙に、そっず手を添えた。

    「䞀床でいいから、この本みたいな星空を眺めおみたいです」
    「ホントに」

     本棚の陰から、ひょっこりず啓倪郎が顔をのぞかせた。

    「聞いおたの 啓倪郎」

     おっきり理科準備宀かず思っおいたのに、立ち聞きだなんお趣味が悪い。
     森ノ宮さんも驚いたのだろう。䞡手を胞の䞊に重ねおいる。

    「ねえ、ホントに芳おみたい 満倩の星空」
    「はい」
    「ホントにホント」
    「芳おみたいです。きっず、玠敵だず思いたす」
    「じゃあさ、䞀緒に芳に行かない」
    「はい。あ、でも、すみたせん。わたし遠出はできないし、倜の倖出も」
    「ぞヌき、ぞヌき。近所だし。昌間だったらいいんでしょ 芳られるよ。もちろん流星だっお」

     啓倪郎の目配せに埌抌しされお、あたしも森ノ宮さんを誘った。

    「ねえ、䞀緒に行かない プラネタリりム」

    銚

     詊䜜品のハンダをやり盎し、立ち昇ったダニの煙を吹き払う。

     麊のハンダは、ちょっず枩床が高過ぎだ。球になっおしたっお、しっかり郚品ずくっ぀いおいない。

     や぀が持っおきた、科孊雑誌の発光ダむオヌド点滅回路。
     手本を芋せおいた぀もりだったのに「飌育委員䌚の仕事を思い出した」ずかなんずか蚀い出したかず思えば、麊は、そそくさず退散した。

     もうじき、最終䞋校時刻。
     りサギ小屋の修繕ずやらが順調に終わっおいれば、行き先はひず぀しかない。


     図曞宀をのぞくず、思った通り麊がいた。
     森ノ宮を囲んで、珍しく話が匟んでいる。

    「プラネタリりム。星を投圱する機械。ホントの星空じゃないけど、すっごく綺麗なんだ。どう、䞀緒に」
    「すみたせん。行っおみたいけど、䌑日はしっかり身䜓を䌑めなさいっお、お医者様からいわれおいお」
    「だったら、次の䞉連䌑の最終日はどう 土日の二日は、しっかり䌑んで。で、その翌日の月曜日」

     らしくもなく、麊が食い䞋がる。

    「うん。そうだよ。午前䞭の投圱なら、午埌はお家でゆっくりできるし――ねえ、毬野」
    「えっ ああ。うん」

     反射的に、賛成みたいな答えになった。

    「でも、母がなんお蚀うか  」

     ここのずころ、月䞀のプラネタリりム通いが続いおいた。
     眞琎の誘いを断り切れずに、ずいうのが実状だ。
     それに森ノ宮を誘うこず自䜓はかたわない。
     でも、森ノ宮には森ノ宮の䌑日の過ごし方があるだろうし、がくはどちらかず蚀えば、森ノ宮の考えを尊重したかった。


     第䞀、仮に四人そろっおプラネタリりムぞ行くにしおも、二人は倧切なこずを忘れおいる。

     移動手段だ。

     森ノ宮が自転車に乗れる、なんおこずは、䞇に䞀぀もないだろう。
     特別教宀や䜓育通ぞの移動だけでも、息継ぎで䌑み時間の倧半を費やしおしたう森ノ宮のこずだ。
     埒歩、も難しい。
     ずなれば、残るは車怅子。
     森ノ宮を家たで迎えにいっお、車怅子を抌しながら公園ぞ向かう。

     所芁時間も考えないずいけない。
     長距離の移動、ずもなれば、森ノ宮の䜓調だっお気に掛かかる。
     䜓育の芋孊では、叀びた倧きな麊わら垜子を欠かさない森ノ宮のこず。
     長くおも䞉十分以内には収めたい。

     でも、この蟺りは起䌏が激しい。
     急坂や階段を避けるなら、道のりはさらに遠のく。
     車怅子を抌しながらでは、歩く速床も違っおこよう。

     ――ずころで、森ノ宮の家っお、どこだっけ。


    『最終䞋校時刻になりたした。校内に残っおいる児童は、速やかに䞋校しおください。繰り返したす  』

     䞋校攟送の「新䞖界より」が流れ始めた。

    「じゃあね、森ノ宮さん。たた明日。プラネタリりムのこず、お母さんに盞談しおみおね」

     䞉人で図曞宀を埌にする。
     手を振る森ノ宮の姿が芋えなくなるず、ずたんに、
    「ねえねえ、毬ちゃん。ちょっず」
     がくの銖に腕をからげお、麊が耳元で声をひそめた。

     虫が知らせた。どうせ、ろくな話じゃああるたい。

     悪い予感だけは、よく圓たる。
     案の定、麊はずんでもないこずを蚀い出した。

    ぀づく

     
     
     
    かわらべ・い぀た い぀か小説を曞いおみたい。 そんな倢を抱き぀぀、手にするのは小説技術曞。 叀建築ずお酒、ランニングを愛しおやたない、元技術屋です。

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