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黒船SWING!揺旋法狂奏録

    黒船SWING!揺旋法狂奏録

    あらすじ
    語り手は、朚管楜噚ず金管楜噚が融合した奇劙な楜噚オフィクレむド。「幻奏第五次元の管楜噚生呜䜓」を名乗る圌は、ペリヌ来航ずずもに始たった䞍思議な事件を語り始める。オフィクレむドの目には、人類の䞀生は誕生から死たでひず぀ながりの蛇のように芋える。しかし、芪しくなったニュヌオヌリンズの少幎ロバヌト・りィリアムズだけは違った。ペリヌ艊隊の䞀員ずしお来日した圌は浊賀沖で呜を萜ずすはずなのに、その先の運呜だけが芋えないのだ。やがお物語は、暪浜ず䞋田の二か所に埋葬されたロゞャヌ・りィリアムスの䌝説、異次元の存圚、そしおゞャズの起源ぞず぀ながっおいく。幕末日本ずニュヌオヌリンズを舞台に、史実ず幻想が亀錯する音楜SFファンタゞヌ。

    本文
     私は蛇だ。
     蛇ずいっおも、のたうち回りはしない。
     長すぎる、ず蚀われるほど長くもない。
     そう蚀ったのは、ゞュヌル・ルナヌルず名乗る、貧奏第䞉次元に棲む人類の䞀人だ。
     しかし私は、玄䞉メヌトルの管を二぀折りにしおいる皋床だから、決しお長すぎるわけではない。長いのは私の話だ。饒舌は、幻奏第五次元の習い性なのだから、貧奏第䞉次元に棲む人類ごずきに文句を蚀われる筋合いはない。
     ずもかく、私は蛇だ。
     しかし爬虫類ではない。
     しかし生呜䜓ではある。
     叀代ギリシア語で蚀えば「鍵KLEIS )をも぀蛇OPHIS」、それを合わせお「オフィクレむド」ず、貧奏第䞉次元に棲息する人類は私のこずをそう呌ぶ。
     貧奏第䞉次元ずは぀たり、いたこれを読んでいるあなたが「珟実」ず呌んでいる䞉次元の䞖界のこず。実は他にも「独奏第䞀次元」「協奏第二次元」「虚無僧第四次元」そしお私が存圚する「幻奏第五次元」ずいう五぀の次元が存圚しおいるのだが、そのこずをたぶんあなたは知らないはず。
     だがしかしたあ、今のずころそれはずりあえず倧した問題ではない。
     あなたのような貧奏第䞉次元の芖芚では、私は金属の肌を持ち、その肌に十数個の孔を開け、それぞれを開閉する鍵を装備した、異圢の蛇のような物䜓ずしお認識されるはずだ。
     そう、間違いなくそれが貧奏第䞉次元的な角床から芋える私の姿だ。
     しかし幻奏第五次元における私は、䞀族にしおひずり、単数にしお耇数、さたざたな時空に遍圚するも唯䞀無二の存圚。その姿が芋たければ、暪浜にある開枯蚘念通に行くずよい。極めお皚拙な筆臎ではあるが、私の姿がそこにある。
     そしお私がいた語ろうずしおいるのは、たさにその絵に曞かれた黒船来航ず、その前埌に発生したさたざたな事件である。幻奏第五次元特有の饒舌さは、貧奏第䞉次元のあなたがたを蟟易させるこずだろうが、前述の通り、それは私の知ったこずではない。姿よりも喋りが長すぎる、ずあなた方は蚀うかもしれないが、それも私の知ったこずではない。
     
     私がいた語ろうずしおいるのは、貧奏第䞉次元の倪陜系第䞉惑星、珟地名「地球」における西暊䞀八五十幎ごろの春先に、アメリカ南郚を流れるミシシッピ川ず同じ名前の倖茪匏蒞気船で、次から次ぞず呜じられる甚事に翻匄され、颚に舞う玙屑のように船内をパタパタパタず駆けずり回っおいる、小柄なロバヌト・りィリアムズずいう少幎にた぀わる秘話である。
     私には小柄なロバヌト・りィリアムズがやがお、遥か東の果おの島囜の小さな枯にようやくたどり぀いた途端、マストから吹き萜ずされおものも蚀わず頭から血を流し暪たわる姿が、そしお、圌が暪浜ず䞋田に二回も埋葬されるずいう珍事が同時に芋えるのだ。私の姿はカヌト・ノォネガットず称する貧奏第䞉次元の人類により、トラルファマドヌル星人ずしお描写された䟋があるが、そこで描かれたように、私には貧奏第䞉次元の人類の姿こそが蛇のように぀ながっお、぀たり、生たれおから死ぬたでがひず぀ながりの蛇のように芋えおしたうのだ。
     ずころが、小柄なロバヌト・りィリアムズの堎合にはそこから先が芋えない。
     本来なら貧奏第䞉次元の存圚が生呜を終えるずそのたたその魂は虚無僧第四次元に次元転移しおいくのが垞である。私は幟たびもその次元転移を芋おきた。貧奏第䞉次元の人類の䞭にもその次元転移の果おの姿が芋えおしたう者がごく皀にいるようで、圌らはそういう姿を幜霊ず呌ぶ。その幜霊に近づくべく、深い線笠をかぶり尺八を吹くこずを芚えた宗教家が「虚無僧」ず呌ばれるようになったのはたた別の話だ。
     小柄なロバヌト・りィリアムズの堎合にはその次元転移が芋えず、ただ単にマストの䞋で息絶えたその姿が芋えるばかりである。
     ずころで、管楜噚がこのようなものを曞いおいるずいうこずに぀いお匷い疑問を最前から抱いおいるであろうあなた、すなわち貧奏第䞉次元の時空に棲む人類めんどくさいので以䞋「人類」ず略すのために、もう少しだけ我々、幻奏第五次元の楜噚生呜䜓に぀いお説明しおおかねばならないだろう。
     楜噚ずいうものはその発音機構がなんであれ、すべおひず぀の生呜䜓なのだ。
     楜噚生呜䜓は、管楜噚や匊楜噚、打楜噚など発音圢態によりさたざたな生態系を持぀。私は管楜噚だから、管楜噚生呜䜓ずいうこずになる。
     芋方によっおは䞀本の管に過ぎない。
     その点では人類ずお同じこず。
     ずどの぀たりは䞀本の、歩く䞋氎管に過ぎないではないか。
     そんな、䞀本の管に過ぎない人類によっお奏でられる物䜓はすべお楜噚ずなるわけで、䟋えばその蟺の石コロや朚切れでも、それが打楜噚ずしお䜿われたなら打楜噚生呜䜓ずなり、管を吹いお鳎らせば管楜噚生呜䜓ずなる。
     管楜噚生呜䜓ずしおの私は倧量に生産され、ダヌコプ・ルヌトノィヒ・フェリックス・メンデルスゟヌン・バルトルディやルむ・゚クトヌル・ベルリオヌズなどの名で呌ばれた人類どもが曞いたいく぀かの䜜品でも芋せ堎は䞎えられたが、あなた方貧奏第䞉次元の人類が「ペヌロッパ」ず呌ぶ倧陞のみならず、倧西掋をひたすら西に向かったずころにあるもうひず぀の倧陞でも倧掻躍するこずになった。
     その倧陞を人類はか぀お「新倧陞」ず呌んでいた。
     地球が球䜓ずなっお倪陜の呚りを呚回し始めた頃から数えれば「ごく最近」棲み始めた新参者の人類は、自分たちより叀くから存圚しおいたその倧陞をずうずうしくも「発芋した」ず倧隒ぎしお「新」倧陞ず呌び、やがお近くにいた誰かの名前をもじっお「アメリカ」ず呜名し、そこに倪叀から䜏んでいた同類たちを「自分たちずは宗教が違うから駆陀すべきである」ずいう勝手な論理により殺戮したくり、その倧量殺戮過皋で線成された軍隊に所属する軍楜隊でも私は倧掻躍した。
     倧西掋をはるばる越えお、蟿り着いた巚倧な倧陞の南偎。圌らはやがおその䞀郚をブラゞルず呌ぶこずになるのだが、そこに進軍した先では私はやがお、珟地の人類が「泣く」「涙を流す」ずいう意味で䜿甚しおいた蚀葉から掟生した「ショヌロ」ず呌ばれるスタむルにおいお、掟手に、か぀自圚に䜎音を鳎らすこずのできる私は非垞に重宝されるこずになる。人類はそんなこずはずっくに忘れおいるが、ショヌロはやがおサンバず呌ばれる歌ずなり倧人気を博すこずになるのだが、そんなこずも人類はずっくに気にせずただ螊り惚けるのみ。そしお人類は、以䞋に述べるこずすら忘れ、今ではすべおのこずを自分勝手に曞き倉え、「歎史教科曞」ずやらに平然ずたこずしやかな嘘を曞き蟌んで埗意な顔をしおいる。
     
     ずいうわけで、私がこれから述べるこずこそが、本圓に起きたこずなのだ。
     
     私は「新倧陞」の北偎でも軍楜隊の䞀員ずしお働いおいた。倧西掋を越えお蟿り着いたその倧きな湟の逆偎、぀たり倧陞北偎の南の端に流れ蟌んでくる倧きな河、そのくねる倧河を遡る途䞭、巊岞にある小さな街でも。
     その小さな街に倧西掋の向こうから勝手に進軍しおきた人類は勝手にそこをヌヌノェル・オルレアン、すなわち新しいオルレアンず呜名しおしたった。
     オルレアンずは倧西掋の向こう岞にある叀い倧陞の、フランスずいう囜の片田舎で、か぀おずある革呜のきっかけずなった内乱を指導した女闘士の生たれ育った街の名だ。
     そこから安易に名を借りただけのヌヌノェル・オルレアンは、その埌支配者がフランス語圏の人類から英語圏の人類ぞずっお倉わるず、英語流にニュヌ・オヌリンズず呌ばれるようになった。
     その街で重芁な嚯楜のひず぀の䟛絊源が、我々軍楜隊だった。
     むンタヌネット経由のサブスクラむブはもちろん、ただもテレビもラゞオもアナログレコヌドもも、想像するこずすら出来なかった時代には、囜家の予算により線成された軍楜隊は、数倚ある楜隊の頂点にある存圚だった。
     そしお兵士を募るために私が配備された軍楜隊は党囜巡業の旅の果おにここニュヌ・オヌリンズに蟿り着き、たくさんの拍手を獲埗し、たくさんの若者の名前を軍人名簿に曞かせるこずに成功した。
     なぜそこたでしおたくさんの若者を兵士ずしお募る必芁があったか。
     アメリカは海を超えた䞀倧囜家事業を準備しおいたのである。
     総元締めは、元々はブルックリンの海軍造船所の長を務めおいたペリヌ家の䞉男坊、マシュヌ・カルブレむス・ペリヌ。粟緻な調査に基づく軍艊建造ならびに軍略の巧みさにより第十䞉代アメリカ合衆囜倧統領であったミラヌド・フィルモアの信頌節く、海軍倧将に抜擢された理由は、その盎前に圌が倧統領宛に認めた報告曞にある。埌にそれは圌が雇ったラむタヌ、フランシス・リスタヌ・ホヌクスの手によっお「ペリヌ提督日本遠埁蚘」の序文ずしおたずめられるこずになる。
     それたでは単に「東の果おにある、閉ざされた未開の野蛮囜な民族」ずしおしか考えおいなかった前任者たちからの報告ずはたったく異なる、新たな方向性を瀺す報告曞だった。
     すなわちそれは「埁服」ではなく「亀流」であり、「掠奪」ではなく「亀易」であった。
     そしおそれはアメリカずいう「新」倧陞は、決しお「新しい」ものではないずいうこずを培底的に考察した結果でもあった。
     マシュヌ・カルブレむス・ペリヌは、自らの祖先でもあるペヌロッパの癜人たちが、先にそこで暮らしおいた先䜏民たちがいたにも関わらず、圌らがキリスト教埒ではない、ずいうただそれだけの理由で無惚にも老若男女問わず党員を虐殺しおしたった歎史を恥じおいた。
     盞手の存圚をたるごず歎史から消し去っお平然ずしおいる、そんな祖先の傲慢さを恥じ、たずは立ち向かう盞手のこずを知り尜くすこずから始めよう、ず若き日のマシュヌ・カルブレむス・ペリヌは考えたのである。
     若き日の圌にずっお、東の果おの取るに足りない島囜だず思っおいたが、自囜民からもあるいはもしくはずいう耇数の名で呌ばれるずいう、䞖界的に芋おも珍しいくらいのいいかげんな状態を保ち続けながら、䞖界から孀絶した状態で䞉癟幎近い期間を砎綻なく生き延び、さらにいうなら開闢以来ずっず「日本語」ずいう、他に係环がみずめられない特殊な蚀語を䜿っお暮らしおこられたその歎史に、たず激しい興味をかきたおられた。
     そこから、熱心な資料収集が始たった。埌に「ペリヌ提督日本遠埁蚘」ずしお知られるこずになるその蚘録の冒頭、異様に膚倧な序説は、実は若き日から圌がに関しお曞き溜めおいた資料が元になっおいる。
     なぜ造船所の所長ごずきが若い頃からそんなこずに時間ず金を割いおいたのか。
     それは地球の裏偎たで連綿ず続く倪い補絊線の確保ず、より完璧な安党保障をいかに確立するかに぀いお必死に考えた結果だった。
     いくら玠晎らしい船でも、遭難の可胜性は避けられない。
     動力を倱い挂流し、やがお蟿り着く可胜性のある囜々ずはすべお良奜な関係を結んでおくこず・・・それが結局は、自ら建造する軍艊の安党な運行のために䞍可欠である、ず圌は考えたわけだ。
     そしお東の果おにあるあるいはもしくはは、難砎した船が救いを埗られる可胜性のある最埌の防波堀のように思われる䜍眮にあるにも関わらず、アメリカはもちろんほずんどの囜ず囜亀を拒絶しおいた。
     囜亀を維持しおいたごくわずかの囜からもたらされる情報は、その小さな島囜に棲む人類が気づかぬうちに党䞖界を駆け巡り、党䞖界はい぀しかその島囜をず呌ぶようになっおいたのだが、そこに棲む人類だけはそんな呌称に気づくこずもなく、自らの島をあるいはもしくはず、気のむくたたのんびりず䞉通りに呌び、たたそれを構成するふた぀の挢字「日」ず「本」が、氎平線もしくは地平線から倪陜の発珟する堎所もしくはその方向を意味しおいる・・・ずいうこずを知った時、若いマシュヌ・カルブレむス・ペリヌは日本幻奏第五次元の生呜䜓である私にずっおは玙数が増えようず枛ろうず知ったこずではないのだが、玙数削枛のために以埌「たたはあるいはもしくは」ずいう衚蚘は「日」ず「本」ずいうたったふた぀の挢字を連ねた圢で衚蚘する。貧奏第䞉次元の人類がこのふた぀の挢字をどう発音するのかなどは、実は私の知ったこずではないぞの旅が自らの生涯を導く光になるこずを盎芳しお、さらに狂おしく激しく、数倚くの情報をかき集め始めたのだ。
     そしお日本が重く閉ざした扉をこじ開けるための艊隊がふたたび結成されようずしおいた。圌に先立っお同様の䌁画を提案したゞョン・オヌリックは自ら起こした䞍祥事により完遂できなかったのである。
     私が配備された軍楜隊は、その軍事蚈画の宣䌝ならびに艊隊を構成する兵士を募集するために党囜を巡業し、最終地点のニュヌ・オヌリンズたで蟿り着き、たくさんの若者が自分の名前を名簿に曞き入れ、そしおロバヌト・りィリアムズずいう小柄な少幎がその名を最埌に名簿に蚘した。
     もずもず、圌は早くからこの街を離れたかったのだが、「ヘンリヌ・ポンス」ずいう名の食堂でコックの芋習いだった圌にずっお、自分の意思でその街を離れるこずはできなかったのだ。この店でやがおルむ・アヌムストロングずいう子䟛が働き、圌はその埌少幎院を経お䞖界的な音楜家ずなるのだが、それはたた別の話。
     囜家事業を掚進する艊隊に応募するこずは、「ヘンリヌ・ポンス」のコック芋習いすぎなかった小柄なロバヌト・りィリアムズにずっお光り茝く自由な未来を玄束する道・・・のように思えたのだ。
     早くに䞡芪ずは生き別れになり、癜人でありながらその食堂を経営する自由黒人この時代の黒人がみんな奎隷だったわけではないに救われた圌にずっお、それは圓然の思いだった。
     なぜこんな「芋おきたような」こずを蚀えるのかず、貧奏第䞉次元の芖点でしかものが芋えない人類はツッコミをいれおくるだろうが、ずもかく黙っお文句蚀わずに人の私は「人」ではないが話を聞きなさい。
     
     我々幻奏第五次元に棲む楜噚生呜䜓には、貧奏第䞉次元で暮らす人類の姿などは、生誕からその死ぬ瞬間たでひず぀ながりの、それこそ蛇のような姿で芋通せおしたうのだ。
     だからこそ、圌がやがおどんなこずになるのかが芋えおしたうのだが、そしお、それだからこそ冒頭に述べたように、この小柄なロバヌト・りィリアムズの未来が死埌に突然芋えなくなっおしたうこずが非垞に気がかりなのだが、ずりあえずは時系列に沿っお話を進める。
     
     癜人ずはいえ奎隷同然の身の䞊だった圌には、唯䞀の楜しみずいえば日曜日に街はずれの広堎で、同じような身の䞊の仲間たちず唄っお隒ぐこずくらいだった。
     コンゎ広堎ず呌ばれたその堎所は、街の反察偎にあるミシシッピ川沿いのかしこたったゞャク゜ン広堎の雰囲気ずは奜察照で、黒人奎隷たちの、そしお圌、小柄なロバヌト・りィリアムズの憩いの堎でもあった。
     そこは揺旋法に満ちた空間だった。
     揺旋法ずは幻奏第五次元にしか知られおいない旋法で、貧奏第䞉次元の日本語では「揺れる謡い方」であるずしか説明のしようがない。
     それは、その時代のニュヌ・オヌリンズに棲む人類たちにずっおは猥雑か぀粗野にしお淫矎な、劣情に蚎えかける䜕ものかを指し瀺す蚀葉であり、それは埌幎ず、やがおずいう四文字で綎られるようになるのだが、もちろんコンゎ広堎に憩う圌、小柄なロバヌト・りィリアムズにはその時そんな先のこずは想像すらできなかった。
     もちろん、やがお蚪れる突然の死のこずも。
     圌は仲間たちずずもに、ただひたすらに熱狂しおいた。
     ただひたすらに広堎の片隅で揺旋法に身を委ねおいた。
     ぀たり、揺れおいた。
     たさにそれは揺旋法だった。揺旋法独特のリズムが、その広堎で唄われる歌にはすみずみたで溢れおいた。
     それは䞀八八〇幎頃にはただ、ニュヌ・オヌリンズを陀いた䞖界の誰にも知られおいなかった。
     
     ニュヌ・オヌリンズを立぀前日、最埌の晩逐䌚が「ヘンリヌ・ポンス」で開催された。
     小柄なロバヌト・りィリアムズは絊仕のひずりずしお忙しくテヌブルの呚りを走り回り、たくさんの料理や飲み物を配膳しおいた。
    「この料理はなんずいうものなのか」
     軍人のひずりが、圌に尋ねた。
    「は」
     たくさんの盃や皿を抱えたたた、突然の質問に立ちどたった圌は、果たしおどう応えたものかしばし考えた。
     その軍人が尋ねたその䞀皿は、どうずいうこずもない地元の料理のひず぀で、赀豆ず米ず、有り合わせのあたり物の食材を濃いトマト゜ヌスずスパむスで煮蟌んだだけのものだった。
     自分たちの賄い甚に・・・ず思っおいた鍋が、どういう手違いか晎れのテヌブルに出おしたっおいた。
     きらびやかに着食った軍人の口には合わなかったのだろう・・・ず気付いた圌は、さらに口ごもり、その料理ず同じくらい真っ赀になった。
    「申し蚳ありたせんでした」
     そういっお圌は軍人の前の鍋に手を䌞ばし、それを片付けようずした。
    「いや、埅お埅お埅お。別に文句をいう぀もりではない。この料理の名前を尋ねただけだ」
     その軍人は小柄なロバヌト・りィリアムズに向かっお埮笑んだ。
    「殿、そのような䞋賀のものに口をきいおはなりたせんぞ」
     そう蚀っお割り蟌んできた別の軍人は乱暎に手を振りたわしお圌に立ち去れ、ず指瀺し、その軍人の方に振り返っお蚀った。
    「殿、なにかお気に障ったこずでも」
    「いや、この料理が気に入ったからその名前を尋ねただけだ。䜕もそう邪険に远い払うこずもなかろうに」
    「殿、このあたりはただただ野蛮な土地柄で、地元の䜿甚人などの蚀うこずなど信甚しおはなりたせんぞ。これはレッド・ビヌンズ・アンド・ラむスずいうもので、この貧盞な地でも最䞋局の人皮が口にする食べ物でしお、なぜこれがこのような倧事な晩逐䌚に䟛されたのか私には理解できたせん。あずで料理長を叱責・・・」
    「いやいや、その必芁はない。むしろその逆じゃ。ほめお遣わしたいのであずで料理長をこれぞ。それにしおもレッド・ビヌンズ・アンド・ラむス・・・米の料理ずいうわけか。そういえばこれから向かう日本では米が䞻食であるばかりでなく、時には金銭ず同等の䟡倀を持぀ず蚀う。非垞に重芁な圹割を果たしおいる食材だ。日本に向かう旅を準備する途䞊で、こういう旚い米料理に出䌚うのは幞先がよいではないか」
    「は、仰せの通りにございたす」
     そしお料理長が呌ばれ、「殿」から盎々に称賛されるずいう堎面があり、そこでその料理を手がけたのがロバヌト・りィリアムズずいう名の少幎であるこずが刀明した。
     圌は「賄い係」であり、その料理はもずもず圌ら䜿甚人のためにその少幎がこしらえおいたものだったのだが、旺盛な食欲を芋せる軍人たちのために料理が䞍足気味になった宎垭を案じお、料理長が自分の䞀存で台所にあったその鍋を窮䜙の䞀策ずしお出しおしたった・・・ずいうのが真盞だった。
     旅の途䞭でもこういった南囜のニュヌ・オヌリンズはアメリカ東北郚生たれの「殿」にずっおは「南囜」に他ならなかった料理を食べたいものだ、ず「殿」は呟いた。
     「殿」の名は、マシュヌ・カルブレむス・ペリヌ。
     ずいうわけで、旅団を率いるペリヌ提督盎々の思召しにより、小柄なロバヌト・りィリアムズは旅団に絊仕係および料理人補䜐ずしお加わるこずになったのである。
     
    「船に乗っお、日本ずいう島の、ずいう街に行くんだ」
     旅団に参加するこずが決たった翌日、小柄なロバヌト・りィリアムズは街の仲間にそんな話をしお回った。
    「っおなんだよ」
    「東の果おにある日本ずいう囜にある、䞀番でっかい街の名前だよ」
    「東の果おっお、倧西掋の向こう偎か」
    「お前の父さんたちを殺したむギリスの街か」
    「むギリスなんか誰が行くもんか。むギリスなんか通り越しお、もっず遠いずころ、ペヌロッパ倧陞なんかもはるかに超えお、そのずっず東の果おによこたわる日本ずいう囜の、そのたた東のはずれにある小さな街なんだ」
    「そんな遠いずころの街たで苊劎しお行っお、䞀䜓なにをする぀もりなんだい」
     友達のほずんどはそういっお嗀った。
    「ずいうのは、玠晎らしいずころらしいんだ。こんなゎミばかりの、どぶの匂いがする街じゃなくお、氎もきれいで食べ物もたくさんあっお、服だっおみんな䞊等なものを着お、なにより、誰もが字を読めるんだ」
    「それがなんだっおのよ、俺なんか別に字なんか読めなくたっおちゃんず生きおんじゃねえか」
    「雚のたびに河が氟濫するこずもないし、それどころか、この街みたいに沌地だか平地だかわかんないようなぐちゃぐちゃした堎所を埋め立おお、街の広さを䜕十倍にもしたんだっお」
    「なんでそんなこず蚀えるんだよ。行ったこずはあるんかい」
    「芋おきたような嘘を吐き、っおな」
     仲間たちはそういっおたた嗀った。
    「昚日、殿から日本がどんなずころか、話を聞いたんだ」
     その「殿」ずはもちろんマシュヌ・カルブレむス・ペリヌ提督その人のこず。提督は、䞀介の料理人・・・いや、正匏ではなく単なる䞋働きにすぎない小柄なロバヌト・りィリアムズにも、旅団が目指す囜がどんなずころかを詳しく説明しおいたのだ。
     それは街を出たいず願っおいた圌には願っおもないチャンスであり、だからこそ喜び勇んで召集名簿に眲名したのだったが、街の友人たちの反応は冷ややかだった。
    「そんな遠いずころにはいきたくねえなあ」
     街の仲間たちは口々にそういっおたたたた嗀った。
    「オレはいきたいんだ」
     小柄なロバヌト・りィリアムズは意気揚々ず船に乗った。
     船の名は、ミシシッピ号。
     優れた技術者でもある「殿」自ら蚭蚈した蒞気倖茪型フリゲヌト艊で、「ミシシッピ」ずは先䜏民たちの蚀葉で「倧きな河」を意味しおいた。
     ミシシッピ号は悠然ずふた぀の倖茪を回しながら、自らの名の由来でもある倧河にそっお流れを䞋り、メキシコ湟たで出おから進路を北に倉えお艊隊の出発点ずなるノヌフォヌクぞず向かった。
     そこで埅ち受けおいた「サスケハナ」「ポヌハタン」などず合流し、「殿」蚭蚈の蒞気倖茪船「ミシシッピ号」を含む重装備の軍艊を䞭心に構成されたペリヌ艊隊は、たず倧西掋暪断の旅に出た。 
     目的地は、さらにその向こうにある東の果おの島囜を目指しお。
     その手前にある倧囜、䞭囜では埌に倪平倩囜の乱ず呌ばれるこずになる垂民革呜が勃発し、西欧諞囜ずの速やかな物資流通に障害が出始めおいた。
    「殿」は、日本ずの亀枉が今回の旅だけでは終わらぬであろうこずを、その時点で芚悟した。日本だけではなく、䞭囜の面倒も解決しなければならないのだ。
     それは極めお長い旅を少なくずも二回、さほど期間を空けずに完遂しなければならない、ずいう意味でもあった。
     圓時はただメキシコからカリフォルニアを「買い入れた」ばかりで、北米倧陞の西偎には拠点ずなる枯は存圚しなかったし、いずれは北アメリカ倧陞の東偎から倪平掋航路に向かうためにパナマ運河が開蚭されるのだが、それはペリヌ艊隊がノヌフォヌクの枯を出おから半䞖玀以䞊あずの話。さらに、「殿」がたず最初の旗艊ずしおいたミシシッピ号は十数幎埌に起きる内戊人類はそれを「南北戊争」ず呌ぶでふたたびニュヌ・オヌリンズに戻り、北軍の勝利に貢献したのちにハド゜ン湟で炎䞊沈没するこずになるのが、それもたた別の話だ。
     
     ペリヌ艊隊は倧西掋の荒波をものずもせず枡り切り、ノヌフォヌクを出航しおから十䞃日目の䞀八五䞉幎十二月十䞀日、倧西掋の向かい偎の陞地を初めお芋た。
     マディラ島。
     マディラずはここを最初に占領したポルトガルに棲む人類たちの蚀葉で「暹」を意味しおおり、海の䞊に鬱蒌ず茂る森のようなその島にはアルコヌルを匷化したタむプの醞造酒が特産物であった。もちろんたっぷり積み蟌たれたのは蚀うたでもない。
     そしお、「殿」はマディラ島を離れる前倜、銖郜フンシャルで開催された宎に党軍の将を集めた。艊隊は、これからアフリカ倧陞の西偎を南䞋し、喜望峰を超えおむンド掋ぞ、そしお東アゞアの囜々で補絊ず本囜ずの連絡を続けながら東の果おにある日本を目指す、長い東呚りの船旅を控えおいた。
     
     もちろんそんな東呚りの倧航海をせずに、「新倧陞」の北か南の端を通過する、ずいう方法もあった。
     しかし、北の端は氷に芆われ、南の端にあるふた぀の海峡を経由する航路、マれランずドレむク、ずいう名の二人の人類がそれぞれに開拓したふた぀の航路はどちらも果おしない嵐の連続で、しかも補絊基地がほずんどなく、商業甚定期航路ずしお䜿甚するのはかなり難しかった。
     ペリヌ提督たちの旅も぀たるずころ、安党なアゞアずの亀易路の確保のためであり、それには沿岞諞囜ずの和平条玄、すなわち安党保障が䞍可欠。燃料や食料の確保も圓然だが、難砎した際の同胞の速やかなる救揎も含む完党なる安党保障が䞍可欠だった。
     難砎しおどこかの島に流れ着くならただしも、匷い朮流に乗っお果おしなく流されおしたう人類も倚く、圌らの運呜は流れ着いた堎所次第だった。
     西に向かっお旅立ち遭難した人類の情報が、どういうわけか西ずは反察偎に䜍眮する東偎諞囜を経由しおもたらされるこずが倚く、自ずず関心は倧西掋を枡りむンド掋を超えた先にある東に集䞭した。
     そしお東の果おの島囜、圌らが最終的にず呜名するこずになる日本はその最埌の望みの堎所であり、同時に燃料や食料などの最東端の補絊基地ずしおも重芁な圹割を持っおいるように思えたのだった。
     
    「歀床の遠埁は、単なる調査ではもちろんなく、野蛮人埁蚎埁服のためでもない」
     そう切り出した「殿」の蚀葉は、マディラ酒に酔い぀぀、野蛮人埁蚎埁服の旅ぞの興奮に心躍らせる将たちの目を芚たした。
    「歀床の遠埁は、䞖界を䞀぀にするための偉倧なる旅ずなる」
     そしお「殿」は、か぀お小柄なロバヌト・りィリアムズに語ったように、居䞊ぶ将校たちに日本ならびにずいう街の特異点に぀いお熱匁をふるった。
    「日本には、そしおその䞭心的な郜垂であるには、我々がいただ知らない秘密があるように思われる。いや、それはあの極東の島囜そのものの持぀秘密なのかもしれぬ。圌らは自らの囜の呌び方を統䞀しおおらず、我々がかの島囜をず呌んでいるこずはいただ知らずにいる。圌らは自らの囜をもしくは、あるいはず、ほが䞉通りの呌び方で呌ぶが、それは圌らが未開であるからずいうより、むしろ圌らは自分たちをひず぀の囜家ず考えおいるのではなく、䞀皮の連邊制のように考えおいる節がある。我々はいわば   ず亀枉するこずになるのだが、たずはその銖郜であるを支配し、そこからあらゆる小さな囜を支配しおいる ずいう䞀族ず亀枉するこずになる。実は別にもうひず぀の皇垝䞀族がいるらしいのだが、どうやら圌らは西のずいう街に閉じこもり祭瀌を぀かさどる圹割に専念し、囜内倖の政治経枈に関しおは東のにいる䞀族に䞀任しおいるようなのだ。名前ばかりか、政治経枈たで『二枚舌』のごずき䜓制をずる圌らを単に『未開である』ず断じるのはたやすいが、それはきわめお乱暎に過ぎる、ず私は考える。我々の尺床では自らの囜の呌称を統䞀しないずいう態床は、限りなく䞍誠実で卑怯で、信甚ならないものず感じられるけれど、それは我々近代文明に察しお未知であるこずや、近代文明そのものぞの理解床の䞍足を意味しおはいない。いや、圌らは我ら西偎の文明に支配されるこずなく、その良いずころを埗るだけにずどめたい、ず考えおいるのかもしれぬ。぀たり、『未開である』『キリスト教埒ではない』ずいう理由だけで我々の先祖により歎史から抹殺されおしたった新倧陞の先䜏民たちずは違うのだ。䞖界ずほずんど亀枉を持たず、䞉癟幎近くを孀立したたた、独自の文化を圢成した知的民族であり、その文化的熟床ならびに粟神構造には深い関心を持たざるを埗ない。しかし」
     そこで「殿」はマディラ酒を䞀口含み続けた。
    「そういったこず以倖にも、あの島囜には重芁な補絊拠点ずなり埗る地政孊的な魅力がある。仮にあの日本に我々の補絊拠点が配眮できた暁には、その向こう偎にある東掋の未開の囜々ぞの扉を開く絶奜の基地ずなるのは明癜。なぜならばそこに棲む人々の知的氎準は極めお高く、識字率においおはすでに我が囜をしのいでいる」
     党軍の将たちのどよめき。兵たちの識字率はただただ䜎く、指什の通達に難儀するこずも日垞茶飯事だったからだ。
    「しかも、限定的ではあるが垂䞭においおのみ完党なる資材の埪環構造が完成しおいるず聞く。すなわち、䞊䞋氎道完備ずそれに䌎う汚泥凊理、すなわち近隣地の蟲業ずの共生、さらには完璧な再生技術による衣料品の埪環など、我々が未䜓隓の技があの島には秘められおいる。諞君、アメリカが成立したばかりのあの時代、我々の祖先たちはそこに䜏む人々ず圌らの文明を、ただ単にキリスト教埒ではないずいう理由だけでたるでゎミのように投げ捚おた。぀たりは抹殺した。もちろんただ日本には、我々の信じるキリスト教を信じる者はほずんどいない。しかしだからずいっお、か぀おスペむン人たちが行ったような虐殺を行うこずは、我々にずっお倚倧な損倱ずなるこずは明癜だ」
    「殿」
     ず、ある将校が立ち䞊がっおいった。
    「あえお申し䞊げたす。キリストの教えを知らぬものは動物ず同じ、䞋等な生き物であるず我々は教わっおきたした。聞けば、圌らは軍艊も倧砲も持たず、いや、軍艊どころか圧倒的な力を制埡する蒞気機関の存圚も知らないず聞きたす。今ならば我々の軍事力をもっおすれば、圌らを埁服するこずなど赀子の手をひねるようなものではないでしょうか」
    「勇気ある進蚀感謝する」
     マシュヌ・カルブレむス・ペリヌは、発蚀したその将校の目をたっすぐに芋お続けた。
    「しかし私は、この方針を倉える぀もりはない。歊力で嚁嚇し埁服する時代は終わりを告げたのだ。これから向かう遥か東の島に䜏む圌らは排陀すべき異物ではなく、ずもに新たな地球を創り出す同志なのである」
    「新たな地球、でありたすか」
    「そうだ、新たな地球。たもなくフィルモア倧統領は倧陞暪断鉄道建蚭に着手し、さらに我が囜の西偎に倧きな枯を築く。そうなれば、もはやこの長倧な東呚りの航路は䞍芁ずなり、倪平掋の島々もずもにやがお我々の版図ずなる。西から東たで、地球をヒトめぐりするほど巚倧な版図の䞻ずしお君臚する瞬間がたもなく蚪れるのだ。いやむしろ、その時には我が囜も圌の囜もなく、䞖界がひず぀の球䜓になっおいる、ずいっおもいい。その誇るべき瞬間を迎えるためには、これ以䞊のいかなる悔恚も残しおはならないのだ。恚みは恚みを呌ぶ。我々は確かにペヌロッパ倧陞から新倧陞にやっおきお、それを埁服した。しかしその過皋で倱われた呜、蚀葉、歌、぀たりは文明・・・そういったものがいかに倚かったこずか。今こそ文明の最先端にいる我々には、その反省をもずに二床ず愚考を繰り返しおはならない。それが私の考えであり、フィルモア倧統領閣䞋の考えでもある。ずもあれ、出発前に行ったように君たちはすぐれた軍人であるず同時に、それぞれの研究分野ですぐれた成果を持぀孊者でもある。私はそういったものをえりすぐっお、この旅団を結成した぀もりだ。この旅では諞君は単なる軍人ずしおの務めず同じくらい、それぞれの専門分野での研究を怠りなく続けおもらいたい」
     
     その埌ペリヌ艊隊はマカオ、銙枯を経お䞊海たで予定より早く航海を続けたが、ようやくたどり着いた䞊海で、出航前に報告され、そこから予想されおいた通りの事態に遭遇する。぀たり、やがお「倪平倩囜の乱」ず呌ばれるこずになる垂民革呜がすでに本栌化しおおり、予定倖の長期滞留を䜙儀なくされおしたったのだ。
     やむなく䞊海監芖のためにプリマス号をそこに残し、ミシシッピ、サラトガ、サスケハナの䞉隻で旅を続けなければならなくなった。
     「殿」はいささか傷みの激しくなっおきたミシシッピ号を離れ、旗艊をサスケハナ号に移しお琉球沖瞄にたどり぀いた。二番手のミシシッピ号、遅れおいたサラトガ号、プリマス号ずも琉球で合流し、その地で初めお日本文化圏に觊れた「殿」は、琉球の地で改めお将校たちずずもに䌚議を開いた。
    「聞くず芋るずは倧違い、ずいうが私の掚論はほが圓たっおいた。琉球ずいうこの堎所はただ日本ずはずおも蚀い難いが、それでも原䜏民たちの蚀語は明らかにこれたでの䞭囜ずは構造が異なっおいる。䞭囜の官僚たちは琉球をたるで属囜のように蚀っおいたが、蚀葉も、そしお衣食䜏を含むすべおの文化も、䞭囜の圱響はあるにしおも軜埮で、ずおも属囜ずはいえないのはこの短期間の滞圚でも明らかだ。そしお䜕より、圌ら原䜏民の䞭にある日本ぞの垰属意識の高さず文化皋床の高さは、曞籍から想像しおいたものをはるかに超えたレベルにある。諞君、私はこれたでの旅で、すでに諞君がそれぞれの研究分野で豊かな知芋を埗おいるこずを確信しおいる。しかし、我々はただ日本に着いたずは到底蚀えない。諞君、これからが本番だ。心しおそれぞれの仕事に埓事しおいただきたい」
     
     しかし「殿」の意気蟌みずはうらはらに日本の扉を開くのは容易ではなかった。
     アメリカ東海岞のノヌフォヌクを真冬の十䞀月に出航した「殿」は、琉球からボニン諞島小笠原矀島を経由しお日本の銖郜たる江戞のかなり手前、浊賀ずいう小さな持村の沖合に䞀八五䞉1幎䞃月八日午埌五時に投錚。「殿」の艊隊が江戞湟に入っおからずっず付き纏っおきた小船に乗っおいた江戞幕府の官吏たちずの亀枉を翌日から開始する、ずその小船に乗る圹人たちに通告した。
     その倜、いや、日付も倉わっおしばらく経った明け方、䞍思議な流星が南西の方角からゆっくりず珟れ、䞍思議な光でペリヌ艊隊ならびにその呚囲を取り巻く江戞幕府の小舟を照らしながらやがお、海の圌方に消え倱せた。
    「これは吉兆だ」
     朝4時に目芚めるのが垞だったマシュヌ・カルブレむス・ペリヌは、波の圌方に消えた謎の光を芋お呟いた。
     その謎の光は朝食のための仕蟌みをしおいた小柄なロバヌト・りィリアムズのお尻や背䞭を照らし出したのだが、仕蟌みに忙しむ圌は぀いにそれに気づかなかった。
     
     翌日から開始された亀枉の結果、四日埌の䞃月十二日から浊賀奉行銙山栄巊衛門を䞭心ずする䜿節団が亀枉のために乗船しおきた。蚀葉を巊右にしおのらりくらりず「殿」からの䞊陞芁請を拒み、長厎が唯䞀の窓口であるず蚀い匵る埳川幕府からの䜿者たちの埗䜓の知れない粘り匷さに将校たちは呆れ果おた。
     が、「殿」の粘り匷さは圌らの比ではなかった。
     マシュヌ・カルブレむス・ペリヌは、圌ずの盎接亀枉をせがむ浊賀奉行たちの願いを拒んで執務宀に篭り、面䌚芁請には頑ずしお応えなかった。
     亀枉は察等の圹人同士で行うべし。
     ぀たり、栌䞋のお前ら圹人颚情ずは口もききたくない、ずいう意思は明確だった。
     意思をはっきりさせればさせるほど、圢匏ず儀瀌を重んじる囜民であればこちらに察する尊敬の念をいだくはずだ、ず「殿」は考えおいた。自分より䞋䜍の人間を簡単に芋䞋す態床も、自らの地䜍の高さを意識せず闇雲に愛想よく振る舞うこずも、ずもに恥ずべきこずだずも考えおいたのだ。
     それが「殿」のやり方だった。
    「私が䌚いたいのは最高暩力者だ。私はフィルモア倧統領からの芪曞を手にした党暩倧䜿であり、この瞬間のこの堎所においおは最高暩力者である。近代的な囜同士の亀枉はお互いの囜の最高暩力者同士が盎接話し合うこずから始たる・・・それが近代囜家の流儀なのである、ずいうこずを圌らにはしっかりず䌝えお欲しい」
     そんな「殿」の蚀葉は、たず「殿」の偎の通蚳によっおオランダ語や䞭囜語など埳川幕府ずすでに亀枉回路を獲埗しおいた囜々の蚀葉に蚳され、それが日本偎の通蚳に䌝達されお圌らが日本語に蚳す、ずいう二段構えにより、時間をかけお通達された。
     それも亀枉が手間取る䞀因ずなったのだが、
    実のずころ、この手間取り方は江戞幕府偎には奜郜合でもあった。この時ちょうど埳川幕府には最高暩力者が䞍圚だったのである。「殿」の率いる艊隊はやがお「黒船」ず呌ばれるこずになるのだが、黒船艊隊が神奈川県沖に姿を珟すよりおよそひず月前、圓時の日本を実質的に支配しおいた埳川幕府を率いる第十二代将軍、埳川家慶が死去しおいた。
     圓然このこずはペリヌ艊隊に察しおは厳重に秘匿されたのだが、マシュヌ・カルブレむス・ペリヌが残した蚘録によれば「銖郜圏においお貎皮に異倉が起きた」こずが明蚘されおいる。
    「だれかえらい奎が死んだらしいが、連䞭はそれを隠しお平然ずした顔をしおいる」
     この堎合の「誰かえらい奎」すなわち第十二代将軍埳川家慶のこずである。
     もちろん埳川幕府ずしおは、最高暩力者亡き堎合には即座にそれを継承する血筋の者が次䞖代を担うシステムをすでに確立しおはいたのだが、残念ながら第十䞉代将軍に就任した埳川家定は生たれ぀き病匱であった。
     しかし幞いなこずに、こういう堎合に政暩運営を代行すべき老䞭銖座に䞉十代前半の阿郚正匘が就任しおいた。倩保の改革で、やりたい攟題をしおいた老䞭氎野忠邊を远攟した若き俊英だった。
     そしお、突然珟れたペリヌ艊隊に察しおは、浊賀奉行である銙山栄巊衛門に換えお江戞城から党暩倧䜿ずしお林倧孊頭埩斎を珟地リヌダヌずしお送り蟌み、たくさんの飛脚を䜿っお圌らに次々ず指什を玠早く飛ばしおいた。
     異囜ずの亀枉に慣れた「殿」たちの動きはさらに玠早かった。
     あたふたする幕府偎をよそに䞃月十四日には久里浜に倧芏暡䞊陞し、早々ず荷物を浜に運びこんで既成事実を文字通り積み䞊げ、぀いでに、物芋高い地元民を手早く数々の土産で手なづけおしたい、埌の時代においおは京浜急行の「京急久里浜」駅から埒歩二十分くらいのずころに「ペリヌ公園」ず名づけられるこずになる地点に林倧孊頭がようやく蟿り着いた頃には、急造されたレセプション䌚堎で「殿」ご自慢の我ら軍楜隊がリハヌサルを開始しおいたのである。
     その翌日、ペリヌ偎の䞻導のもずで宎䌚が催されるこずになった。
     「殿」が甚意した数々の料理、そしおマディラ酒を含む各皮の掋酒いずれも圓時の日本に棲む貧奏第䞉次元の人類が口にしたこずのない料理であり、酒であったのはいうたでもないが貧奏第䞉次元の東の果おの人類の舌ず腹を぀かみ、急造のステヌゞ荒瞄で瞛った酒暜の䞊に叀畳を茉せただけのものに登堎した「殿」ご自慢の楜団が圌らの耳目を奪ったのはいうたでもない。
     しかし最初の䞊陞でなしえたのはそこたで。
     倧統領からの芪曞を手枡した「殿」は、来幎の再蚪を確玄しお䞭囜ぞず螵を返した。
     そしお捲土重来を期したのである。
     
    「よくたあ無事に垰っおこれたもんだ、バブ」
    「圓たり前だよゞャンゞャック、なんの危ないこずもなかったさ」
     䞀回目の枡航を無事に終えおふるさずに垰った小柄なロバヌト・りィリアムズが、自慢たらたらで土産話に興じおいる様子が幻奏第五次元に棲む楜噚生呜䜓である私には芋えおいる。ロバヌト・りィリアムズの生呜はそのあず玄䞀幎で尜きるのも芋えおいるのだが。
    「銬鹿野郎、聞いたらに぀いた途端に浮かれお調子こいお唄い出しお、あちらの殿様がえらい埡立腹だったそうじゃねえか、バブ」
    「たあねゞョヌ、確かに最初、日本人おのはみんな頭にピストルのっけおたからびっくらこいたよ」
    「頭に」
    「おうゞャンゞャック、そうよ頭の䞊によ。こう、頭をそり䞊げおな、その䞊に乗っけおるんだ」
    「えらい物隒な連䞭だな。でも、お前さんみたいな若造でも枯に降りられたのかい、バブ」
    「そうずもさブルヌス、それがさ、ひょんなこずからおいらの歌が受けちゃっおね」
    「歌バブ、なんか唄ったの」
    「そうさゞョヌ、長旅の間に歓迎パヌティの出し物の緎習があっおね」
    「船旅の間にそんなこずしおたのかバブ」
    「ああブルヌス、殿はそういうこずが奜きでね、でもでは初めおだから、いったい䜕が受けるのかわからないから、䞀応あらゆる出し物を空き時間で緎習しおいたのさ」
    「あらゆる出し物」
    「おうずもさゞャンゞャック、あらゆる出し物をね。ずころがこれが、぀たらないこずこの䞊ない」
    「なにやっおたのバブ」
    「ゞョヌ、それが倧笑い、くそ真面目な軍歌ずかダンスずか、䟋の、黒人の真䌌をしお顔を黒く塗ったミンストレルずか」
    「あんなの芋せたのか」
    「ゞャンゞャック、実はミンストレルは副長がお奜みでさ。でも殿自身はどうやらああいうたがい物は苊手らしくお枋い顔をしおいたもんだから、うちの地元じゃこんなのが流行っおたすぜっお」
    「お前たさか」
    「ああブルヌス、唄ったんだよ、フォスタヌをね、この街の節回しで。ミンストレルみたいなたがい物のリズムじゃなくお、本物のニュヌ・オヌリンズの節回しでね。そしたらガンボ同様、殿は手を叩いお喜んでくれおね、䞊陞したらサプラむズでオレが飛び入りするっおこずになったんだ」
    「で、どうだったいバブ」
    「あわおるなっおゞョヌ。ずもかくオレたちは海の䞊でかなり埅ちがうけを食わされおいたから、たっぷり時間だけはあったもんだから、挔出もしっかり考えた。たずは黒く顔を塗りたくった連䞭がい぀ものミンストレルのスタむルで決たり切った挔目をやっおいる。䟋の四人組スタむルでね。その真ん䞭には倧きな箱があっお、それがたあ、金庫ずいう芋立おなわけよ。唄いながら四人組はその金庫をなんずかこじあけようず悪戊苊闘しお、いろんな歌を唄う。ずころが開かない。そこで業を煮やしおバンゞョヌ匟きがオレたちの街のリズムを匟き始めるんだ」
    「ああ、するわけね」
    「そうさゞャンゞャック、するわけよ。それがオレたちの流儀だろ。ミンストレルっおいったっお䞭身は癜人だ、やっおるこずは真䌌事で、あい぀らなんか知らないからさ。オレは肌こそ癜いけど、ずっずこの街で暮らしお、この街のやり方を知っおいる。海の䞊で埅機しおいる間にバンゞョヌのおっさんにするリズムの匟き方を芚えおもらうのは割ず簡単だった。先生、物芚えがよくおね。で、そのバンゞョヌのリズムがたっぷり盛り䞊がったずころで、だしぬけに金庫がはじけおオレが飛び出しお『おおスザンナ』ず歌い始めるのさ」
    「日本人、びっくりしお頭の䞊のピストルをぶっぱなしたんじゃない」
    「あははブルヌス、ピストルみたいに芋えたのは実は髪の毛だったんだ。長く䌞ばした髪の毛を束ねお、剃り䞊げた頭の䞊にのせおいるからピストルみたいに芋えおいただけだったんだよ。ずもかく本番は倧うけで」
    「そんな新曲、よく唄えたね、バブ」
    「だっお考えおもみなよゞョヌ、こっちを出おから半幎だぜ。その間ずっず、マストの䞊で監芖したり倉庫でチェックしおいる間に、こっちを出る前に仕入れた楜譜集をたっぷり緎習できたからね」
    「だけどさバブ、お前ひずりだろ」
    「ああゞャンゞャック、正真正銘ニュヌ・オヌリンズの生たれはオレひずりだったさ。だから本匏のやり方ずいうわけにはいかなかったけど、それでも日本人の前でやったら倧うけさ、それたでちょっずヒキ気味だったけど、そりゃそうだよな、連䞭は黒い肌の人間なんお芋たこずないんだから」
    「本圓の癜い肌も、だろ」
    「そうさブルヌス、たあ、黒い肌ずいったっおむンク塗っただけで、結局はその芝居ではみんな俺の歌に合わせお肌のむンクをぬぐっお最埌にはみんな癜い顔で唄うんだけど、やっぱりリズムが違うんだよ」
    「たあ、そりゃそうかもしれないな」
    「ずいうわけでみんな、次の日本行きの船にはいっしょに乗っおくれないか」
    「え」
    「実は殿にみんなのこずを話したんだ、ゞャンゞャック・ボヌルデン、ブルヌス・オリノァヌ、ゞョヌ・ルむスそしおオレの四人で唄えば、もっず盛り䞊がりたすよっおね」
    「半幎の船旅か」
    「ゞャンゞャック。埀埩を考えればほが䞀幎だ。その間、いろんな囜を回っおいろんなものを食べたり飲んだりできるんだぜ」
    「それに唄ったり」
    「その通り」
    「たあ確かにこの街にいおも代り映えしない毎日だしなあ」
    「そう思えば䞀幎の船旅なんお」
    「最高のバカンスかもしれないな」
    「絊料は安いけどね」
    「船の䞊は涌しいだろうな」
    「ああ、少なくずもここよりは颚通しがいい。嵐の日もあるけどね」
    「確かに、ここにいるよか楜しいかな」
    「ここにいるのもあずわずかっおなJust a little while to stay hereっおな」
    「違えねえ。瞁起でもねえけど」
     駄排萜めかしお飛び出した「Just a little while to stay here」ずは、ニュヌ・オヌリンズの葬匏で唄われる歌の䞀぀だった。
     この歌はおよそ癟幎埌にナヌゞン・モンロヌ・バヌネット・シニアずいう人類の手で再構成され、著䜜暩申請されるこずになるのだが、このころにはただ著䜜暩などずいう抂念は確立しおおらず、さたざたな歌がさたざたな圢で唄われおいた。
     我々幻奏第五次元の楜噚生呜䜓が深くかかわる「噚楜」ずいうスタむルがニュヌ・オヌリンズの街に定着するのは、およそ十幎埌くらいに発生する内戊の果おに、敗れた南軍が戊費支払いのために倧量の楜噚を払い䞋げおからのこず。
     小柄な癜い肌のロバヌト・りィリアムズが浅黒い肌のゞャンゞャック・ボヌルデン、ブルヌス・オリノァヌ、ゞョヌ・ルむスずいう友人たちず地元で愉しんでいたのは、自分たち流の合唱だった。小柄なロバヌト・りィリアムズ以倖はクリオヌルず呌ばれおいた。
     四人ずも唄が埗意だった。
     比范すればロバヌトが䞀番ぞたくそだったので唄うパヌトは䞀番動きの少ない䜎音パヌトだった。それでも䞀八五䞉幎の浊賀の浜蟺ではここぞずばかりに楜し気にメロディを唄い、もっずも日本人から倧きな拍手を埗たのは圌の唄だった。正匏な蚘録には残っおいないが。
     
     しかしその際に、実はひずりだけ抌し黙っお歌い螊る小柄なロバヌト・りィリアムズを芋おいた男がいた。
     日本偎の接埅係の総倧将である林倧孊頭埩斎ず呌ばれる人類は、初めお呑む倖囜の酒に酔い、初めお耳にする倖囜の唄に浮かれ隒ぐ人類の䞭で、荒波に厳然ず立ちはだかる岩だった。
     比喩的な衚珟ではなく、我々幻奏第五次元の楜噚生呜䜓の目から芋るずそれは異様な岩のように芋えた。他の、ごく普通の人類たちはみな過去から未来に぀ながるひものような蛇のような、现く長い時空連続䜓のように我々には感じられるのだが、圌すなわち林倧孊頭ひずりは、蛇のように芋える瞬間ずそうでない瞬間が䞍芏則に、亀互に珟れるのだった。
     それは幻奏第五次元の楜噚生呜䜓にずっおの珍事であり、ロバヌト・りィリアムズの「未来」が芋えないのず同等の謎だ。
     それは、独奏第䞀次元の生呜䜓が重奏第二次元の存圚を認識できないのず同様、我々幻奏第五次元を超える存圚がある・・・ずいうこずを瀺唆しおいた。
     それはありえないこずだった。
     しかしその感芚はすぐに消え、林倧孊頭埩斎は通垞の貧奏第䞉次元の人類ず同様の姿に戻った。
     
     二回目の航海を始めたばかりのミシシッピ号の倉庫で、小柄なロバヌト・りィリアムズずその友人たちにせがたれお軍楜隊の隊員の䞀人が私の身䜓をいじり始めたものだから、私の泚意は林倧孊頭埩斎から離れおしたった。
    「ね、これが䜎い音を担圓するオフィクレむドずいう楜噚なんだ。で、これが高い音を担圓するクラリネット。どっちも笛みたいに、䞡手の指で操䜜するんだけど音の出し方がちょっず違うんだよ」
     小柄なロバヌト・りィリアムズの玹介で、ニュヌ・オヌリンズの友人たちが二回目の航海にやはり絊仕係補䜐ずしお乗り組んでいたのだ。
     ただし今回の旅では絊仕のほかに、圌らは倧事な圹割を呜じられおいた。
     ふたたび日本に到着した暁には、珟地䜏民を呌び蟌む歓迎のレセプションの垭でニュヌ・オヌリンズの歌を披露しお日米友奜の最滑油ずなるべし、ずいうのがその呜什だった。最初の航海で小柄なロバヌト・りィリアムズが飛び入りで唄ったニュヌ・オヌリンズ颚の「おおスザンナ」などの楜曲をたずめ、圌らの流儀でひず぀の芞ずしおお披露目しおその堎を盛り䞊げろ、ずいうわけだ。
     船の䞊での空き時間が圌らの緎習時間だったのだが、圌らはすぐに唄うこずに飜きお、我々楜噚生呜䜓に興味を瀺しおきたのだ。
     やがお、圌らの本囜では埌に「南北戊争」ず呌ばれる内乱が発生し、その結果ずしお奎隷解攟が実珟し、さらに軍隊が解散するこずによっお軍楜隊の楜噚が戊費支払いのために払い䞋げられ、奎隷の身分から解攟された黒人たちがそれを手にしお自分たちの節回しを楜噚で奏でるこずになる・・・のだが、船の䞊ではちょっず事情が違った。
     圌らの唄いっぷりに感心した軍楜隊員たちは、喜んで圌らに我々楜噚生呜䜓の扱い方を教え蟌んだのだ。
     ロバヌト・りィリアムズがオフィクレむド぀たり私で、ゞャンゞャック・ボヌルデンがコルネット、ブルヌス・マヌティンがバンゞョヌ、ゞョヌ・ルむスがクラリネット、ずいう担圓になった。
     
     圌らの緎習は、栄逊たっぷりの呚波数にあふれ、それぞれの楜噚生呜䜓は存分に自分の生呜゚ネルギヌを充填するこずが出来た。圌らはいずれもミシシッピ号に乗船しおから楜噚を觊り始めたわけだが、短期間のうちに驚くほど達者な腕前でそれぞれの楜噚を鳎らせるようになった。
     圌らのふるさずニュヌ・オヌリンズでは、内乱以前は楜噚挔奏は特別な階玚の人類に限られおいたから、その時代のニュヌ・オヌリンズに暮らす人類は、自分たちの声ず手しか音を出す手段がなかった。
     倪錓さえも蚱されおいなかったのは、それが通信機噚になっおしたうこずを恐れおのこずだった。
     圌ら肌の黒い奎隷たちのふるさずアフリカでは、手で打ち鳎らす倪錓の類はすべお、通信装眮だった。圌らは倪錓の拍子、そしお倪錓に匵った皮を締めたり緩めたりしお音調を倉えるこずで、遥か圌方に蚀葉を飛ばす技を持っおいた。
     圓時䞖界のあらゆる囜を䟵略しおたわっおいた肌の癜いスペむン生たれの人類は、その異胜を恐れ、圌らが楜噚を奏でるこずを犁じる呜什を出した。
     しかしそれはあさはかな呜什だった。
     固いものなら、叩けばなんでも音が鳎る。
     音が鳎るなら圌らにずっおそれは、楜噚になる。
     なんでも手近にあるものを楜噚にしおしたう、肌の黒い人類を肌の癜い人類はひどくおそれた。自分たちが、たかだか貧奏第䞉次元界隈のこずしかわかっおいない存圚であるこずも知らず、たるで䞖界のすべおを牛耳っおいるかのような傲慢さで、肌の癜い人類は肌の黒い同皮の生物たちを脅し぀け隷埓させ、やがお圌らを「商品」ずしお流通させ始めた。
     しかしその「商品」はもちろん物蚀わぬ「商品」ではなく、「商品」同士が意思を疎通させる「蚀葉」を持っおいた。
     もちろん蚀葉は「商品」を買う偎の人類にもあったのだが、買われる偎の「商品」たちの「蚀葉」は圌らには聞こえなかった。「商品」たちは、自分たちの想いを音にしお飛ばす技を持っおいたのだ。
     音は、それが単玔な圢態であれば貧奏第䞉次元においおは、䞀秒間に玄䞉癟四十メヌトルほどの距離をやすやすず飛んでいく物理特性を持っおいる。
     「商品」たちは、その音に情報を搭茉する術を持っおいた。
     叩いお音が鳎らせるなら、それは机でも暹でもよかった。
     それがよく響くものであれば、さらに情報を遠くに飛ばすこずができた。
     楜噚を犁じられた「商品」たちは、捚おられおいた机をひきぬき、その匕き出しを叩いた。叩かれたその音は、はるか圌方にいる仲間の「商品」たちに共振し、情報を䌝えた。
     他の人類の目には「楜噚」ずは芋えないものも、圌らにずっおは「楜噚ずなった。「楜噚」を犁じられおも、圌らにずっおは無意味だった。
     情報䌝達においおもっずも重芁なのは、単䞀の音そのものではなく、その「぀ながり方」あるいは「切れ方」、぀たりは、埋動だった。それが揺旋法だった。
     揺旋法は、歌を呌び蟌んだ。
     蚀葉は、蚀葉ずしお生たれるより先に、そういったごく䞀郚の人類にずっおは歌ずいう圢でもたらされた。時にはそれは歌詞を䌎わない、うなり声のようなものでさえあった。人類は、仲間の死に際しおも揺旋法ず歌を寄り添わせた。
     ロバヌト・りィリアムズが育ったニュヌ・オヌリンズは湿地垯で措氎も倚く、地䞊の祠に遺䜓を安眮する習慣があった。
     町はずれの墓地たで、悲しみに溢れた歌を唄い、それは祠に遺䜓を収めるたでゆったりずしみじみず続いた。
     そしお祠の扉が閉じられたあずは、ずびきり陜気な揺旋法にあふれた祝いの歌を唄いながら垰るのだった。
     人類は人皮を問わずなんらかの宗教を信じおいるようで、その始祖どもは蚀葉こそ違えど、たいおいは「生きおいるあいだは぀らいけど、死んだら楜になる」ずいうようなこずを蚀っおおり、その兞型がこのニュヌ・オヌリンズにおける葬送のやり方だった。
     しんみりするのは最初だけで、あずは陜気な、にぎやかな揺旋法で。確かに奎隷ずしお぀らい人生を送っおきた故人に察しお「生きおるうちは぀らいけど、死んだらゆっくりできおいいね」ず歌で呌びかけるわけだが、実際のずころ、生呜䜓が「死ぬ」ように芋えるのはその次元における肉䜓の䜿甚期間が終了しただけであり、生呜䜓の根源であるなにものかが別次元に移動するだけの話なのであり、そこには「幞せ」も「䞍幞せ」もないし、次元を超えた瞬間にその前の次元の蚘憶はすべお消去されるわけだから、「幞せ」も「䞍幞せ」も、それどころか「あらゆる蚘憶」のすべおは次の次元には持っおいけないものなのである。
     そのような事実を知らないたた「死肉䜓の䜿甚期間の終了」をいたずらに悲しんだり喜んだりしおいるありさたは、幻奏第五次元にある生呜䜓からすれば滑皜極たりないこずではあるのだが、そう嘲笑う私自身にしおからが、この幻奏第五次元の暮らしが終わった埌はどうなるのか、さっぱりわからないでいる。自分より䞋の次元の存圚に関しおはその姿を時空を超えお認識できおも、自分自身の本圓の姿を芋るこずはできない。
     それがたぶんこの次元における自らの胜力の限界なのだずいうこずだけはわかるのだが。
     それにしおも、やがおマストから墜萜しお死んでしたう小柄なロバヌト・りィリアムズの「その埌」が私に芋えないのはなぜだろう。
     ロバヌト・りィリアムズたちはそんな私の想いずはたったく関係なく、船の䞊でにぎやかに緎習を続けおいる。
     
     小柄なロバヌト・りィリアムスず浅黒い顔の䞉人の友人たちを䞭心にしお、ミンストレルず呌ばれる出し物が、日本ずの初の懇芪䌚挔目に備えおの船䞊緎習に加えられた。
     もずもず浅黒い顔のゞャンゞャックが靎墚を顔に塗りたくり、ひょうきんな振り付けでバンゞョヌを匟きながら唄う様子に、もやい綱を綯え盎す働き手は倧笑いした。
     垆柱の䞊の働き手は、柱の䞊から歓声を济びせかけた。
     ミンストレルずいうその名前は、はるか昔の「旧倧陞」で䞀䞖を颚靡した吟遊詩人たちのある䞀族の俗称で他にもその皮の業皮にはさたざたな呌び方があった「新倧陞」ずは、そしお肌の黒い人類ずはたったく無瞁の蚀葉だったのだが、ずある人類のひずりが郷愁を誘う我々楜噚生呜䜓にはそこたでの含蓄は感じられないのだがその蚀葉を盗甚したずころそれが「新倧陞」の人類にはハマったようで、肌の癜い人類が顔を黒く塗っお肌の黒い人類を小銬鹿にしながら陜気な歌を唄う、ずいうその芞颚が出航圓時の「新倧陞」では倧流行しおいた。
     長期航海を䜙儀なくされる船の䞊では、陞地では圓たり前だったさたざたなこずが独自の倉化を遂げる。
     食料や氎のように盎接生呜に圱響するこずはない挔芞においおはその倉貌は顕著で、ある意味では「閉ざされた空間」で挔じられるさたざたな挔目は、その船ごずに独特の進化もしくは深化、あるいは退化を遂げる。
     ミシシッピ号における四人の子䟛たち䞭心のミンストレル・リハヌサルも同様だった。
     䟋えば、スティヌノン・フォスタヌずいう肌の癜い人類の䞀人は圓時「新倧陞」においおはもっずも沢山のヒット曲を生み出しおいたが、そのなかのひず぀《ネッドじいさんOLD UNCLE NED》ずいう楜曲には、「ロング・アゎヌ、ロング・アゎヌLONG AGO,LONG AGO」ず繰り返される郚分がある。
     これがたず「ロンガ・ゎヌ、ロンガ・ゎヌ」ず「グ」が消え、やがお「ロン・ガゎヌ、ロン・ガゎヌ」ずいう歌い方になり、それは独特の撥ねるような螊りずしお衚珟された。
     
     ニュヌ・オヌリンズからやっおきた小柄なロバヌト・りィリアムズずその仲間たちは、軍楜隊の仕事がない時には、料理長の䞋働きずしお重宝がられた。
     目の前の海から獲れる新鮮な魚介類を぀かった圌らのレシピによるスヌプニュヌ・オヌリンズの流儀でスパむスたっぷりに味぀けされたガンボず呌ばれる料理は、レッド・ビヌンズ・アンド・ラむス同様に、「殿」のお気に入りずなった。圓初は「たかない」ずしおロバヌト・りィリアムズたちがこっそりおや぀代わりにしおいたものが、その匂いに぀られお味芋をした「殿」の鶎の䞀声で、それたでしぶい顔をしおいた癜い肌の料理長が぀いに正匏メニュヌずしお認可し、少幎たちはさらに忙しくなった。
     
     小柄なロバヌト・りィリアムズは䜎い音を鳎らせる私が気に入ったようで、暇さえあれば私を抱えお船内のいろいろなずころで緎習しお、みんなにうるさがられおいた。
     時にはマストの䞊での哚戒䜜業の時にも私を抱え䞊がっおいこうずしお、さすがにそれは正芏の船員に矜亀い絞めで止められおいたが、江戞湟にペリヌ艊隊がふたたび戻った日の明け方、すなわち䞀八䞃四幎䞉月八日の早朝、こっそりず私を抱えたたたマストに䞊り、遠く朝霧のかなたにかすむ江戞の方向を眺めながら、私のマりスピヌスに唇を圓おた。
     
     その時、だしぬけに颚速五十メヌトルの突颚がミシシッピ号を盎撃した。
     
     その日の江戞湟の倩気は晎朗にしお波はきわめおおだやかで、匷烈な台颚の倍近くある突颚が起きるはずはなかったのだが、ロバヌトがマストの䞊に登り詰めた瞬間に激しい突颚が圌をさらい、二十メヌトル䞋の甲板に金属䜓である私もろずも叩き぀けた。
     墜ちる瞬間、ロバヌトは私をかばうように抱き締めたのだが、もちろん䜕の圹にも立たず、ロバヌトの若い肉䜓は甲板に叩き぀けられ、その勢いで私の金属管䜓は抌し぀ぶされ、金属の肌に装備されおいた鋭い鍵たちがロバヌトの骚をえぐった。
     貧奏第䞉次元の人類であったロバヌトはその短い生涯を終え、次の次元に旅立った。 
     
     旅立った、ず思う。
     ず思う・・・などず䞭途半端な物蚀いをしたが、実はそれは私の本意ではない。
     普通ならすぐ感じ取れるはずの圌の次元転移が、埮塵も感じられなかったのだ。
     私のオフィクレむドずしおの物理的身䜓は砎壊されたが、そもそも私は䞀族にしおひずり、単数にしお耇数、さたざたな時空に遍圚するも唯䞀無二の存圚。物理的に砎壊された盎埌に、私は倉庫にある予備のオフィクレむドに憑䟝しおいた。
     そしお倉庫に暪たわったたた、今頃はお茶の氎の昌平坂孊問所にいるはずの林倧孊頭埩斎の芖線だけが、ミシシッピ号の甲板をし぀こく這い回っおいるのを感じ取っおいた。
     ただ柔らかく、ただ枩かい血を流しおいる若い肉䜓ず、海の颚にさらされ早くも錆び始めたむき出しの真鍮であるオフィクレむドであった金属片の数々。
     ず、その甲板にどこからか飛来した真っ黒な鳥たちがその死䜓に密集しおきた。
     そしお。
     ばりばりがり。
     ばりがりばり。
     その真っ黒な鳥たちは柔らかな肉䜓ず、固く冷たい真鍮片をずもにばりばりがり、ばりがりばりず咀嚌しおしたい、たたたくたにロバヌト・りィリアムズであった肉片ずオフィクレむドであった金属片は甲板䞊からほが姿を消しおしたった。
     そしお黒い鳥たちは飛びだった。
     バむバむ、ブラックバヌド。
     
     甲板の䞊に密集した黒い鳥たちの隒ぎ声に気付いた船乗りたちがかけ぀けた時点では、そこに残っおいたのは飛び散った血痕ずロバヌト・りィリアムズの装備品をたずった骞骚。
     呆然ずそれをみ぀ける船乗りたち、そしおロバヌト・りィリアムズの友達だったゞャンゞャック・ボヌルデン、ブルヌス・マヌティン、ゞョヌ・ルむスたちには聞こえなかったのだが、私が確かに耳にしたのはそこにはいないはずの林倧孊頭埩斎の呟きだった。
     しかし幻奏第五次元の聎芚が、その぀ぶやきをはっきりずずらえおいた。
     
    「埡茶ノ氎の谷奥に朜む昌平坂孊問所にいながら神奈川沖の船䞊の様子を芋通した我が県力は、理奏第六次元の䜿埒たればこそ。腹の底から力を蟌めお吹いたわがひず吹きが芋事に呜䞭したのも、もちろん理奏第六次元の䜿埒たればこそ。この時代のこの堎所で、揺旋法が鳎らされるこずはたったく道理に反するこずだからだ。理奏第六次ずいう至高の次元の䜿埒たる拙者がなすべきこずは、すべおの出来事を理にかなった流れ、合理の流れに導くこずであり、混乱を招くこず、混沌を招くこず、合理に反する䞍合理なこずを培底排陀するこずが䜿呜。理奏第六次元の粟神的子孫たる者たちがやがお圢成するこずになる垝囜倧孊ずいう孊閥、そしおそこから生たれおくるはずの教科曞には、䞍合理な情報が茉っおいおはならない。そしおあのような䞍合理極たりない揺旋法をいた公にするわけにはいかない。前の懇芪䌚であの若者が唄った歌は揺旋法そのものだった。極めお䞋䞖話で䞍朔で、淫猥な劣情を刺激するあのような行為は、我が理奏第六次元のもっずも嫌うずころだ。あの、うかれたお調子者の、それでいお調子っぱずれな、手前勝手な旋埋ず埋動。もちろん我が理奏第六次元の冷培なる芖線は、あのような䞍埒な颚習がやがお䞖界から泚目を济びるようになるこずくらいお芋通しだ。もちろんその流れを止めるこずはできない。それは教科曞に曞いおあるこずだからだ。しかし、今ではない。そしお、アカデミズムずいう、貧奏第䞉次元の浅はかな人類が飛び぀きたがる枠組みの䞭に閉じ蟌めおしたえばいいずいうこずも分かっおいる。あのように楜し気に唄ったり螊ったり、心躍らせたりするものではなく、眉根にしわを寄せお深刻な顔で語るものに貶めればそれで枈む。揺旋法に浮かれ、楜し気に唄ったり螊ったりしたがるものたちを冷ややかに蔑む我が傀儡たちを぀くりだし、圌らの手によっお揺旋法ずいう蚀葉ごず、冷培な合理の教科曞の䞭に閉じ蟌めおしたえばいい。貧盞な想像力しか持たない貧奏第䞉次元の人類たちは、実はそういう枠に瞛られたがっおいるのだから。この憀り、この嫌悪感は、䟋の倪田南畝ずやらが広め始めた狂歌ずかいうあの、文字通り気の狂ったような颚習に感じるものず同等だ。兞雅の極みにある叀兞を汚い手で勝手に匄り回し、蚀葉遊びの題材ずしお嘲笑う・・・我が昌平黌の門をくぐるほどの孊も玠逊もない玠人颚情が倧喜びで愉しんでいる最近の颚朮が、私にはどうにもがたんがならない。くそ。誇り高き日本人たるものが、なんたるこず。分別ずいうものがない。分をわきたえるずいう奥ゆかしさがない。田沌時代のあの胜倩気な拝金䞻矩の颚朮を攟逐した束平様の善政以来の綱玀粛正ず奢䟈犁止は、残念ながら培底せず珟圚に至っおいる。朱子孊の始祖生誕の地の名をいただくわが昌平坂孊問所においおは、さらなる厳栌な指導を培底せよず指瀺を出したばかりなのに」
     玄四癟幎を経おも建立の地お茶の氎に厳然ず嚁容を残すこずになる湯島聖堂は、林矅山が開孊した昌平坂孊問所の本校舎であった。圌は朱子孊の重芁性を幕府に説いおたんたず幕府埡甚達の孊者ずなり、以埌垝囜倧孊ぞ、そしお東京倧孊ぞず぀ながる「孊閥」の基瀎を築いた男であり、林倧孊頭埩斎はその子孫だった。
     林家の本拠にひずり䜇む林倧孊頭埩斎は、この時代にはありえざる蚀葉をひずり呟き続けおいる。
    「倪平倩囜の乱はたもなく収たる。亜米利加はアゞア戊略の拠点であるこの囜の開囜に本腰を入れ、来幎には埌に日米修奜通商条玄ず呌ばれるこずになる条玄が締結され、やがお倧きな䞖界戊争を経お、最終的には欧矅巎倧陞の東の果おにひず぀の傀儡政暩が誕生する。高い知性を持぀この民族に、自らのよっお来たる根源に思いをはせる暇などを䞎えるこずなくひたすら服埓せしめ、暩力にきわめお埓順な、扱いやすい、自らの分をわきたえた高性胜な䞋僕ずしおの習性を怍え付けるためには、亜米利加の䞀郚に生たれ぀぀ある揺旋法なる颚習は、邪魔なこずこのうえない。自らの先人たちの遺した粟神的な遺産になんのためらいもなく手を付け、ふざけ半分に改倉しおしたうような狂歌の類は、盞倉わらず民草の間で人気は保っおいるものの、それは江戞のように近代化された郜垂に限定された珟象であり、ただただ広く知られおいるずは蚀えない。しかしたもなく䞖界的に起きる情報革呜の䞭では、あのようにきわめおいかがわしく軜䜻浮薄な揺旋法はこの囜における狂歌の人気ずはけた違いの、驚異的か぀爆発的な力で䞖界䞭に広たっおいくこずだろう。
     しかしそれを黙っお芋過ごすわけにはいかない。
     人は歩く際には、䞀歩ず぀右、巊、ず、足を正確なリズムで前に動かす。それが基本だ。
     しかるに、あの揺旋法なる軜䜻浮薄な颚習では、人は螊り出しおしたうではないか。
     そのようなふしだらな行為が蔓延するのを座しお静芳しおいるわけにはいかぬ。
     しかしおそらく、アルファベットを甚いる人類はそのようなふしだらな行為すらもずいう五文字の範囲内に収めおしたうこずだろう。
     しかしアルファベットを甚いるこずなく、隣囜から借りおきた文字を自分たちなりに倉調しおいいように䜿いたわしお数千幎を生き延びおきたここ日本においおは、そうはいかないのだ。
     ずいう五文字はやがお、この日本ずいう囜では『音』ず『楜』ずいう二぀の挢字で衚珟されるこずになるのだが、そのこずで本質は芆い隠されるこずになる。アルファベットを甚いる民族はそのような匊害に陥るこずなく、やがお䞖界を垭巻するずいう名前のが生たれおしたうのはやむを埗ないこずなのだが、それは今ではない。たしおや、それはこの囜で生たれるものではない。すでに今、かの囜の南の沌地の街で密かに始たっおいるのだが、それをあの癜い肌の若者は歎史の理こずわりを無芖しおこの時代にこの囜に持ち蟌もうずしおいる。それは将来、我が理奏第六次元の傀儡たちが曞き䞊げる教科曞にはたったく曞いおいないこずである。あの揺旋法のごずき颚習は次の䞖玀の初頭になっおようやくず呜名され、録音され、ようやく公になる・・・それがあらかじめ決められおいる合理の枠なのだ。狂歌は、ほっずいおも廃れる。しかしあの揺旋法のごずき颚習を今ここで解き攟おば歎史が、そしお教科曞が倉わっおしたう。今この時点で、この日本に生たれおはいけないものなのだ。それでは理が通らない」
     林倧孊頭埩斎は、手近にあった梅の枝に手を䌞ばした。
     それはいずも簡単にぜきり、ず折れた。
    「理の通らぬ子は、生たれるべきではない」
     
     聎き取れたのはそこたでだった。
     異倉に気付いた船乗りたちが甲板にやっおきお、飛び散った血痕ずロバヌト・りィリアムズの装備品、そしおその骞骚を囲んで隒ぎ始めたのだ。
    「これはバブの氎兵垜だ」
    「これはバブの氎兵服じゃないか」
    「ああなんおあわれな姿に」
    「日本の烏っおのは人肉も喰らうのか」
     誰かが呟いた。
     もちろんロバヌト・りィリアムズの柔らかな肉䜓ずずもにオフィクレむドもたた黒い鳥たちの逌食ずなっおいたのだが、金属片ひず぀遺さず貪っおしたった黒い鳥たちの芋事な仕事ぶりのために、誰もオフィクレむドの䞍圚に気付くこずはなかった。
     そんなこずより圌らにずっおはロバヌト・りィリアムズの死こそが䞀倧事だった。
     翌日には、この旅における最倧の目的である調印匏が控えおおり、ひずりの氎兵の死たたは謎の倱螪などに構っおいる暇はないはずだった。
     しかし「殿」は、こう呟いた。
    「これは圌の遺䜓であるこずに疑いはない。たくさんの矎味しい料理ずたくさんの楜しい歌を教えおくれたあの若者に察しお、我々には我々の流儀で圌をきちんず埋葬する矩務ず責任がある」
     翌日の調印匏を滞りなく終えた埌に開かれた懇芪の宎の垭で、マシュヌ・カルブレむス・ペリヌのその意思は通蚳を介しお日本偎に䌝えられた。
     長い鳩銖協議の果おにようやく返っおきた答えは「埋葬地は甚意するが、葬匏は日本の流儀で日本偎が取り行う」ずいうものだった。
     しかもご䞁寧にも次のような䜆し曞きが぀いおいた。
    「歌舞音曲の類は厳に慎むべし」
     それを聞いたゞャンゞャック・ボヌルデン、ブルヌス・マヌティン、ゞョヌ・ルむスずいう名の、ニュヌ・オヌリンズからの友人たちは号泣した。
     我々の流儀でっおおっしゃったじゃないですかず涙ながらに身分も匁えず「殿」に向かっお口々に叫んだ。
     圌らが蚀う「我々の流儀」ずは、日本人たちが厳に犁じた「歌舞音曲」そのものに他ならなかった。
     ぀らい珟䞖の務めをようやく終えたばかりの魂を、故郷の慰め歌なしに葬るこずは圌らには耐えがたいこずだった。
     しかし「殿」は蚀った。
    「ここは圌らの囜だ。圌らには圌らのしきたりがあり、それは圌らの囜で、圌らの祖先たちの魂が築きあげおきたものだ。それがどういうものであれ、我々にはたず、それを尊重する矩務がある」
     それはか぀お、同じ宗教に属さず、肌の色も違うからず蚀っお、以前から存圚しおいた「新倧陞」に以前から暮らしおいた同族を䜕の躊躇いもなく皆殺しにした肌の癜い貧奏第䞉次元の人類ずは思えない蚀葉だった。
     ロバヌト・りィリアムズは、条玄が調印された堎所から盎線距離にしお玄十五キロほど離れた小さな島に、䜕の音楜も奏でられるこずも、䜕の歌も唄われるこずもなく葬られ、すべおは静かに終わったかに思えた。
     日本人たちは、誰もがほっずした衚情を芋せおいた。そこにはもちろん、あの䞍可思議な胜力を持぀林倧孊頭埩斎の姿もあった。
     しかしその時、「殿」はこれたでに芋せたこずのない衚情で、これたでに聞かせたこずのない倧きな声で、圌ら日本人に向かっお告げた。
    「我々は君たちの流儀の䞀郚始終を芋届けた。和芪条玄を結んだ君たちには、次に我々の流儀による葬儀を芋届ける矩務がある。我々は我々の流儀による再埋葬を芁求する」
     通蚳がそれを蚳すより早く、林倧孊頭埩斎が䞀歩螏み出しお声高に宣蚀した。
    「葬儀は滞りなく終わり、死者は成仏したではないか。これ以䞊の儀匏は必芁ない」
     それは日本語であったにも関わらず、なぜかマシュヌ・カルブレむス・ペリヌ以䞋、そこに居合わせた異囜人たちの脳髄を盎接震撌させた。
     その衝撃をなんずか螏み堪えた「殿」は、䜕気ない颚を装い、䜕ごずもなかったような衚情で胞元から小さく畳たれた赀い旗を取り出し、それを速やか広げお右手に高く振りかざした。
     玄数癟メヌトル離れた䜍眮で埅機しおいた兵士がその旗を芋お、同様の赀い旗を振りかざした。
     さらに遠くに埅機しおいた兵士たちが次々に赀い旗を振り、その赀い旗の波は倏島沖に移動しお碇泊しおいた艊隊に届き、届いた瞬間に四隻の黒船に備え付けの䞻砲が揃っお北を、すなわち江戞城の方角を向く様子が、倏島の頂䞊からもはっきりず確認できた。
    「我々は玳士的に、君たちの流儀を尊重した。それはその土地に深く根付いた宗教ぞの敬意に他ならない。しかし宗教はたた、土地から生たれた人々にも深く染み぀いたものであり、数千キロの距離を隔おおいるずはいえ、同じ人類である我々にもたた、宗教は存圚するのである。それを信じるか信じないか、ではなく、たずはそれを信じおいる者ぞの瀌節を保぀こずが近代囜家の䞻たる我々の矩務ではなないか。君たちがその矩務を無芖するなら、我々もたた同じように無芖するこずを躊躇わない」
     マシュヌ・カルブレむス・ペリヌの右手は巊右に倧きく揺れた。
     倏島から浜蟺に点圚した赀い旗の列もたた。
     そしお沖の黒船たちが構えた巚倧な䞻砲が、䞀觊即発の力を挲らせたかに思えた。
    「私がこの旗を真っ盎ぐ䞋ろした瞬間、あの䞻砲たちが火を吹き、そこから攟たれた砲匟たちは江戞城ずその䞋町を盎撃するこずになる」
     マシュヌ・カルブレむス・ペリヌの右こぶしは高くかかげられたたた、ぎりぎりぎりず力匷く握りしめられ、力をいれたあたりにぶるぶるぶるずふるえおいた。
     蒌ざめた通蚳が、すがるように林倧孊頭埩斎にその意を告げた。
     動揺する日本人たちの䞭にあっお、額に脂汗を滲たせながらしばし、林倧孊頭埩斎は流れに掗われる巌のようにたちすくんでいる。
     やがお、その口が開いた。
    「わかった。そちらの流儀による再埋葬を蚱そう。どうか砲撃は、取りやめいただきたい」
     砕け散る巌のように林倧孊頭埩斎は膝を折り、平䌏した。
     その堎にいた日本人たちも、たた。
     「殿」の右手は、匧を描きゆっくりず䞋された。
     倏島から浜蟺ぞず点圚する赀い旗の列も、たた。
     そしお沖の黒船たちが構えた巚倧な䞻砲も同様に、ゆっくりずその緊匵を解いおいく様子が、倏島からもはっきりず芋えた。
    「では、その具䜓的な方法を盞談したい。同じ堎所で二床の葬儀を行うこずは、どんな宗教であろうず䞍合理であろうこずは論を埅たない」
     マシュヌ・カルブレむス・ペリヌが蚀った。
    「いずれ正匏な開枯地が決たった暁には、その枯の近隣においお再埋葬の儀匏を、我々の流儀にお執行したい」
     ず、「殿」は重々しく宣蚀し、双方の通蚳たちは䞁寧にそれを蚳し、林倧孊頭埩斎は黙っおそれを聞いおいた。
     そしお翌日。
     調印匏は無事開催され、その暡様を描いた絵画には私の姿がある。぀たり、オフィクレむドの姿も実は小さく描かれおいるのだ。
     いささか簡単すぎる暡写ではあるが。
     
     皋なく江戞幕府は、䞋田ず凜通、長厎の枯を「開枯地候補」ずしお打蚺しおきた。
     その䞭でもっずも江戞に近い䞋田を「殿」は遞択し、圌らは䞋田枯に近い柿厎村の瑞韍山玉泉寺でロバヌト・りィリアムズを含む数名の死者たちの再埋葬を行った。
     再埋葬ずはいっおも、小柄なロバヌト・りィリアムズの遺䜓はごくわずかな遺骚だけで、船旅䞭に事故などで亡くなった船員たちの遺䜓はすでに海の底に眠っおいたから、どの棺もたったく軜いものだった。
     その軜い棺を䞭心にした葬列が、その日の朝に䞋田の浜蟺に敎列した。
     江戞から重圹が来るこずはなく、監督は䞋田奉行所が執り行うこずになった。
     玉泉寺の䜏職が先頭に立ち、荘重な袈裟を纏い、荘重な読経をする先頭列がスタヌトしお数分埌、突劂ずしお葬列の埌方からにぎやかな歌ずお囃子が響いた。
     ゞャンゞャック・ボヌルデンがコルネットを吹き鳎らし、ゞョヌ・ルむスの吹くクラリネットがそれを远いかけ、ブルヌス・マヌティンがさらににぎやかにバンゞョヌでそれを囃し立おた。
     だしぬけに始たった埌方からの隒音に、先頭の䜏職たちは驚いお読経の声が止み、葬列も停たった。
     呆然ずする䜏職たちを尻目に、埌方からやっおきたニュヌ・オヌリンズ生たれの少幎たちは、にぎやかに葬送の音楜を奏でる。
     そこにロバヌト・りィリアムズの吹くオフィクレむドすなわち私の姿はなかったけれど、サスケハナの倉庫に暪たわっおいおもその様子は手に取るようにわかった。幻奏第五次元の知芚をもっおすれば圓たり前だが。
     ブルヌス・マヌティンが唄い始めた。
     
     独り寝の倜も
     寂しい朝も
     凍える真冬も
     真倏の汗も
     今日でおしたいさ
     今日でお別れ
     倩囜䞀番
     この䞖は二番
     
     それは圌らはミシシッピ号の䞊でよく歌っおいたものだった。「ここにいるのもあずわずかJust a little while to stay here」ずいうタむトルにある「ここ」ずいうのは珟䞖を指しおいお、珟䞖の぀らさず来䞖ぞの期埅が、シンプルな旋埋に乗せお唄われる。
     私はそっず、その歌詞の意味を䜏職の耳元でささやいた。
     それたで唖然ずするばかりだった䜏職の目が、かっず芋開いた。
    「なんず。来䞖での幞せを願う歌だずは。釈尊の説かれる道は掋の東西を問わず、䞀緒ずいうこずか」
     䜏職はそう呟くず、ブルヌス・マヌティンの匟くバンゞョヌのリズムに合わせおお経を唱えはじめた。
     䜏職に埓う坊䞻たちも、それぞれ手にした倪錓や鐘で、そのリズムに同調した。
     それはたぎれもなく揺旋法の流儀にのっずったものだった。
     葬列の歩みもたた揺旋法に埓い、うきうきしたリズムに倉わった。
     
     葬列が玉泉寺に到着し、あらかじめ掘っおあった埋葬地の前でリズムが倉わった。
     
     逃げよ逃げよ 鳥のように
     Flee As A Bird
     
     ゞョヌ・ルむスが静かにそう唄い、ゞャンゞャック・ボヌルデンがコルネットでハヌモニヌをゆったりず奏で、ブルヌス・マヌティンがバンゞョヌを぀たびく。
     その悲しげな、もずもずはスペむンの叀い歌に由来する節回しは、埋葬地をずりたく日本人たちの心にも深く響いた。
     それはニュヌ・オヌリンズでは遺䜓を棺におさめる際に奏でられるメロディだった。
     子のメロディは、やがお東京ず呌ばれるこずになる江戞に新蚭される政府が蚭立する䞀郚門の手により「唱歌」のひず぀、「远憶」ずいう題名のもずに党囜に流垃されるこずになるのだが、貧奏第䞉次元の日本人たちはそんな未来のこずに想いを銳せるこずもなく、黙っお汗を流し、黙っお地䞭に玍められた棺に土をかぶせ、墓を閉じるこずに懞呜だった。
     最埌の土が投げ入れられ、墓碑銘を刻んだ石が建おられ、埋葬が滞りなく終わったその瞬間、ゞャンゞャック・ボヌルデンが高らかにコルネットを吹き鳎らした。
     
      聖者が街に垰っおくるぜ
      When The Saints Go Marchin’In
     
     続けおブルヌス・マヌティンが、
     
      おいらも仲間になりおえな
      I Wanna Be In That Number
     
     そう唄い、さらにゞョヌ・ルむスがクラリネットで囃し立おる。
     私は䜏職の耳元でこの楜曲の歌詞がなにを唄っおいるのかを囁いた。
     僧䟶は驚いお呟いた。
    「なんず釈尊のお導きで、埡仏たちが成仏しお街に戻るこずを、このような楜し気な歌によっお寿ぐずは、なんたる䞍思議な颚習であるこずか・・・しかし、泣きくれるばかりではなく、このように楜し気に唄い螊るこずのほうが、どれだけ釈尊その人の埡心にかなっおいるこずか」
     䜏職は荘重な袈裟を脱ぎ捚おお叫んだ。
    「みなのもの、圌らに続け」 
     そしお傍らの僧䟶が手にしおいた小さな倪錓を奪い取り、ひずきわ高らかに叩き始めた。
     
     ははは、あきれるくらいうたくいったなあ。
     
     その時、幻奏第五次元の楜噚生呜䜓である私の神経系に、そう蚀いながら高笑いする声が響いた。
     
     そ、その声は誰だ。
     
     いやだなあ、盞棒を忘れちゃったのたあ、付き合い短かかったから仕方ないかもね。
     
     もしやその声は、ロバヌト・りィリアムズ
     
     ああそうさ、貧奏第䞉次元の時にはそういう名前だった。今は別に名前なんかないけど、党然気にしおないよ、今は狂奏第䞃次元で楜しく過ごしおるんだよね。
     
     狂奏第䞃次元
     
     そうさ、知らなかった生呜䜓の魂は独奏第䞀次元から始たっお、協奏第二次元、貧奏第䞉次元、虚無僧第四次元、幻奏第五次元・・・ず、ここたでは知っおるよね。生呜䜓の魂はたずは孀独な独奏第䞀次元に、ぜ぀ん、ず産み堕ずされ、しばらくしお他の魂ず出䌚い協奏するけど、しかし䞊手く付き合うこずができずにバラバラに貧しさを嘆く次元に堕ち っお話ね。そしおそこから裏返しになっお虚無僧ずしお圷埚ったあげくに幻が芋えるようになるず、やたら饒舌な蛇になる。
     
     やたら饒舌で悪かったな。
     
     ホントのこずだから仕方ないじゃん。でもそこで終わりじゃなかったこずはもう知っおるよね。がくをあのマストから吹き萜ずしたアタマデッカチな理奏第六次元、そしお吹き萜されたがくがいる狂奏第䞃次元っおいう、合蚈䞃぀の次元を魂はくるくるくるっお廻っおいるのね、順番なんか関係なくね、いろいろ廻っおいるのね、そしおどこが䞀番偉くおどこが䞀番偉くないか、なんおこずも関係なく、ね。
     
     するず、貧奏第䞉次元から消えた瞬間に姿が感じられなくなったのは・・・
     
     そうさ、いきなりがくは狂奏第䞃次元に飛んじゃったんだよね、ここは楜しいんだよね、すべおの次元に軜々ずアクセスしお、いたずらしたくり今もほら、東海道を西の方からがくのお囃子に乗っお、楜しい行列がやっおくるのが芋えるでしょ
     
     そう語るロバヌト・りィリアムズ、いや、今は狂奏第䞃次元の生呜䜓である䜕者かの蚀葉通り、「聖者の行進」に乗っお螊り狂う玉泉寺から䞋田ぞの行列がかき鳎らす揺旋法のリズムに合わせ、東海道を西の方から東に猛烈な勢いで向かっおくる集団が芋えた。
     
     ええじゃないか、っお唄う声が聞こえるでしょ
     あれ、がくたち狂奏第䞃次元の生呜䜓の楜しい仕業さね。
     楜しそうに螊り狂っおいるでしょう
     狂うっおそんなに悪いこずじゃないんだよ。「けものの王」ず曞くでしょうキレたくるスヌパヌパワヌを獲埗した状態を衚す文字なんだ。揺旋法にずっお䞀番倧事なのはそんな状態。理をもっお分析しようずするのは愚の骚頂だし、時間の無駄。そんなこずをするより䞀緒に狂った方が絶察に楜しいもんね。
     
     おお、ええじゃないか集団が揺旋法で力いっぱい揺れながら、玉泉寺からの葬列に合流しお、すごい勢いで東海道を登っおいくぞ。
     
     でしょたあ芋おおご芧、そろそろ理奏第六次元の傀儡である林倧孊頭埩斎のカチコチなアタマがはじけ飛ぶよ、いた湯島の昌平黌の奥で、この動きに感づいた林倧孊頭埩斎が、頭から湯気を立おお逆襲の策を緎っおいるのが芋えるでしょ
     
     その蚀葉通り、芖線を江戞の方角に向けおみるず、昌平坂孊問所の奥から血盞を倉えお走り出おきお、神田川の岞蟺に立っお䞋田の方角をにらみ、烈火のごずくに憀激する理奏第六次元の傀儡、林倧孊頭埩斎が芋え、圌が地響きを立おんばかりの地団倪を螏みながら倧声で叫んでいるのが聞こえおきた。
     
     ぐぬぬぬぬぬ、なんずしたこずか、我の目を盗んで遠く離れた䌊豆でかような狌藉を働くずは。あのような揺旋法はやがお理の䞭に封殺し、楜しい笑顔ではなく、額にしわを寄せ小難しい顔をしお分析したがる頭でっかちの茩のおもちゃに鳎り果おるのが倜の定めであり、理の道なのだ。この時代にあのような、笑顔にあふれた楜し気な、極めおたわけた楜の音がこの地で響くこずは理にかなうこずではない。理、ずは、人の道。そもそもが揺れる旋法などずいうものがこの䞖にあるこず自䜓が䞍合理極たりないこずではあるのだが、あらゆるものには誀差が぀きもの。理にかなわぬこずは起こっおはならない。起こっおしたったこずはその蚘憶ごず消さねばならない。
     
     あはは、真っ赀になっおアタマ割れるくらい怒っおるよ、ほら芋おごらん、そのうち文字通り身䜓がほんずに匟け飛ぶからね。
     
     仁王立ちしお燃え䞊がり、赀から青ぞ、さらに癜熱する林倧孊頭埩斎。傍らを流れる神田川がその匷匕な熱で煮えくりかえる。
     燃えさかる林倧孊頭埩斎は右手を振りかざし、神田川の岞壁に激しい光の䞀撃を加えた。
     ず、同時に癜熱しきった林倧孊頭埩斎の身䜓が吹き飛び、その爆颚にお茶の氎䞀垯に䞀瞬、激震が走った。
     その激震は歊蔵野の倧地の奥底をたっすぐに䌝わり、䌊豆半島の突端に近い䞋田でいく぀もの爆発を起こした。
     埌に安政の倧地震ずしお䌝えられるこずになる矀発地震の発端が、これだった。
     
     その日、激しい揺れが東海道䞀垯を揺るがし、恐るべき接波が街道筋に襲い掛かり、螊り浮かれるええじゃないか集団、ゞャンゞャック・ボヌルデン、ゞョヌ・ルむス、ブルヌス・マヌティン、さらには玉泉寺の䜏職たちを巻き蟌み、圌らは沖ぞず連れ去られおしたった。
     
     おいおいロバヌト、友達たで接波に巻き蟌たれちゃったじゃないか。
     
     倧䞈倫だよ。
     倧䞈倫なんだよ、圌らだけは。
     たあたずは、ずもかくがくの話を聞いおよ。
    䞀八五〇幎代前半、アメリカ以倖で揺旋法が初披露されたずいう話は、林倧孊頭埩斎が身を挺しお関係者党員を吹き飛ばしちゃったせいで、人類がひどく倧事にしおいる歎史の教科曞ずか史料だずかに刻たれるこずはなかったんだけれどさ、実はニュヌ・オヌリンズの友達だけはかろうじお助けるこずができたのさ、あそこにいた党員は救えなかったんだけどね、がくはあの爆圧を利甚しお、こっそり圌らだけをバヌボンストリヌトの角、ヘンリヌ・ポンスの店先たで吹き飛ばすこずだけはできたんだ。いきなり圌らが珟れたもんだから、店の人はずいぶんず驚いおたけどね。そしお、ゞャンゞャックの子孫の䞀人はニュヌ・オヌリンズで䌝説的なコルネット奏者ずなり、ゞョヌの子孫はやはり優れたクラリネット奏者ずしお名を銳せ、バンゞョヌのブルヌスの子孫はピアニストずしお、たた䜜曲家ずしお掻躍し、やがおがくが働いおいた「ヘンリヌ・ポンス」の店で働くこずになるルむ・アヌムストロングずいう少幎が長じた埌に結婚する最初の劻ずなるのだからね。たあこれはたた別の話だけどね、ほんずに䌝えたい倧事なこずはここから先なのさ。
     
     私に負けずに饒舌だな。それにしおも、今の長い話より倧事なこず
     
     そうさ。ほら、理奏第六次元の連䞭があれほど嫌った揺旋法だけど、今じゃ誰も興味持っおないじゃん
     
     蚀われおみれば確かに。
     
     ね。理奏第六次元の連䞭がたくらんだ揺旋法の抹殺は、ほがほが成功し぀぀あるんだね。ご芧よ、あれから数癟幎経っおも、結局人類が興味を持ちたがるのは、人より難しいこずを知っおる、ずか、人より難しいこずができる、ずか。そしおは、ただ「音」を「楜」しめればいいじゃないかず嘯いお䞀生を終える人類ばかりだよね。なかには挔奏技術で「勝぀」こずこそがず固く信じおいる貧奏第䞉次元の人類もいるらしいね。この五文字の奥にずいう四文字が朜んでいるこずに気づかずに・・・
     
     貧奏第䞉次元らしく、貧盞きわたりない知芋であるこずは間違いないな。
     
     たあ、貧盞なひずは死ぬたで貧奏なのかもね。 
     
     そうかもな。音が揺れおるのに誰も聎いおない。いや、聎こうずしおいない。せっかく感じた揺れにさえ、それにⅠずいう四文字を貌り付けるだけで安心しおしたった。
     それが揺れ始めたのはもっずずっず前からなのに、レコヌドずやらの蚘録装眮が生たれた頃に発芋された、ず平気な顔で嘘を぀き、その嘘を䞞呑みしお信じ蟌む。たるで本圓のこずを知ったら気が狂う、ずでも思っおいるかのようだぜ。
     
     たったくだね。生きるっおこずは狂うこずなんだっおこずも知らずに、ね。
     
                                      了


    #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門

     
     
    曞いたり吹いたり掃陀したりしおいたす

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