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タピオカ屋は消えたのに、ゴンチャはなぜ4倍になったのか ── ブームに「乗って、飲み込まれない」戦略


    2018年から2019年の、あのタピオカブームを覚えているでしょうか。「タピる」という言葉が流行語にノミネートされ、駅前にはタピオカ店が次々と開店しました。行列、3時間待ち、インスタに並ぶ写真。しかし、ブームが去ると、そのほとんどが、驚くほどあっけなく街から姿を消しました。

    ところが、その荒波を生き延びるどころか、いまも成長を続けているブランドがあります。「ゴンチャ(Gong cha)」です。ブームのピークだった2019年末、店舗数はわずか57店。それが、2026年1月には220店舗と、約4倍にまで拡大しています。年間の来店客数は約4,000万人。多くの同業が消えた中で、なぜゴンチャだけが「一発屋」で終わらなかったのか。今日は、その裏側を、できるだけ多角的に読み解いてみます。ブームとの付き合い方を考えるうえで、これ以上ない教材です。

    (この記事は、報道や各社インタビューに基づく事実と、私自身の分析を分けて書いています。)


    まず事実:ブームは消えた。でもゴンチャは残った

    はじめに、事実を整理します。ゴンチャは2006年に台湾で生まれ、日本に上陸したのは2015年。タピオカブームが来る「前」です。ここが、後で効いてくる重要な点です。

    2018年、タピオカブームが到来すると、ゴンチャも一気に注目を浴びました。報道によれば、2019年は57店舗で年間の延べ来客約1,700万人、1店舗あたりの月商はブーム前の2〜3倍にあたる2,000万円前後。まさに絶頂でした。しかし2020年、ブームの終焉とコロナ禍が重なり、多くのタピオカ店が撤退。ゴンチャも一時は「この先、大丈夫なのか」という空気に包まれたといいます。

    そこからの回復が見事でした。2024年末に176店舗、2025年に204店舗、そして2026年1月末に220店舗。年間来客数は約4,000万人と、ブーム最盛期をも上回ります。会社は2028年に400店舗・6,000万人という目標も掲げています。ブームに「乗った」だけの店なら、こうはならない。ゴンチャが積み上げていたのは、ブームが去った後にこそ効く仕組みでした。それを、いくつかの層に分けて見ていきます。


    読み解き①:ブームの主役「タピオカ」を、あえて脇役にした

    この事例で、私が最初に注目したいのは、ポジショニングの妙です。

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    多くの新規参入店にとって、売り物は「タピオカ」そのものでした。ブームの主役に乗っかり、珍しさで売る。これは短期的には正しい。でも、「珍しさ」は、いずれ必ず「当たり前」になります。タピオカがどこでも買えるようになった瞬間、彼らは「売る理由」を失いました。これは、流行の宿命です。個人店や新しさから火がつき、感度の高い人が飛びつき、大手が量産して全国に広がり、やがて飽きられて消える。トレンドは、この周期から逃れられません。

    ところがゴンチャは、この主役を、あえて脇役に置いていました。ゴンチャにとってタピオカは、数あるトッピングの一つにすぎない。本当の主役は「お茶」です。実際、同社は上陸当初から「タピオカ屋」ではなく「ティーカフェ」を名乗り、阿里山ウーロンのような高級茶葉(一般的な茶葉の約3倍の価格とも言われます)を使い、抽出から4時間で廃棄するほど品質にこだわってきました。

    ここに、決定的な差が生まれます。「タピオカ」という流行を売っていた店は、流行とともに消えた。でも「上質なお茶を楽しむ場所」を売っていたゴンチャには、ブームが去っても「また飲みたい」という来店理由が残った。同じブームの中にいながら、売っていたものが、まるで違ったのです。

    流行を売った店は、流行とともに消える。
    「流行が去っても残る価値」を売っていた店だけが、残る。
    ゴンチャは、ブームに乗った店ではなく、
    ブームに“乗られた”、元からお茶の店だった。


    読み解き②:ブームの「出口」を、最初から設計していた

    もう一歩踏み込むと、ゴンチャの本当にすごい点は、ブームの最中に、すでに「ブームが終わった後」を準備していたことだと思います。

    普通、ブームで儲かっている最中に「この後、どう生き残るか」を考えるのは、簡単ではありません。目の前の行列が続くと、人はつい「この熱狂が永遠に続く」と錯覚してしまう。でもゴンチャは、行列ができている時期に、店の形そのものを変えていきました。歩きながら写真を撮る「ストリートフード」から、座ってゆっくり過ごせる「カフェ空間」へ。席を増やし、長く滞在できる場所へと転換していったのです。

    これは、「買う場所」から「過ごす場所」への転換です。ブームのときは、珍しいから一度は買う。でも、熱狂が去ったあとに人が通い続けるのは、「わざわざ行く特別な場所」ではなく、「居心地がよくて、つい寄ってしまう場所」です。ゴンチャは、その“日常の居場所”を、ブームのうちに仕込んでいた。出口を先に作ってから、祭りを楽しんでいたとも言えます。

    出店の場所選びにも、同じ思想が表れています。報道によれば、ゴンチャは初期に、タピオカ店がひしめく原宿の竹下通りのような“激戦区”を、あえて主戦場に選びませんでした。人が殺到する場所は、家賃も競争も激しく、そして何より「ブームが去れば真っ先に飽きられる場所」でもあります。短期の売上を最大化するなら激戦区に出すべきですが、それは同時に、ブームと運命を共にすることを意味します。一番おいしい場所に、あえて群がらないという判断は、目先の熱狂よりも、長く続く商売を優先していた証拠だと思います。ここでも、ゴンチャは「乗りながら、飲み込まれない」を、立地レベルで貫いていました。


    読み解き③:「買う」を「作る」に変えて、リピートを自動化した

    三つめの層は、リピートの仕組みです。ここには、行動経済学の面白い原理が効いています。

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    ゴンチャの大きな特徴が、カスタマイズです。お茶の種類を選び、甘さを4段階、氷の量を4段階、さらにトッピングを複数から選ぶ。組み合わせは膨大で、まさに「自分だけの一杯」ができあがります。これは単なる「選ぶ楽しさ」ではありません。

    ここで働いているのが、「イケア効果」と呼ばれる心理です。人は、自分が手をかけて関与したものに、実際以上の価値と愛着を感じる。組み立て式の家具に愛着がわくのと同じで、「自分でデザインした一杯」には、渡されただけの飲み物にはない特別感が生まれます。すると、「また、あの自分の組み合わせが飲みたい」という、きわめて個人的なリピート動機が生まれる。他人には再現できない「自分の定番」ができると、人はそのお店から離れられなくなります。

    「買う」体験は、比べられて、乗り換えられる。
    でも「自分で作った」体験は、その人だけのもの。
    関与させることが、そのまま愛着に変わる。
    カスタマイズは、リピートを“自動化”する装置だった。

    「渡されたものを飲む」を「自分が作ったものを飲む」に変える。たったこれだけの設計変更が、値引きに頼らないリピートの仕組みを生んでいるわけです。


    読み解き④:「特別な日」から「毎日の習慣」へ

    四つめ。ゴンチャは近年、若い世代の「生活動線」に、深く食い込んでいます。

    かつてのタピオカは、「特別な日に、わざわざ行く」ものでした。でも、それでは「たまの来店」で止まってしまう。そこでゴンチャは、「通学・通勤のついでに、毎日でも寄れる」存在へと、自らを作り替えていきます。

    その中心が、2つの施策です。ひとつは、2025年に始めた公式アプリ「My Gong cha」。モバイルオーダーやポイントが使え、報道によれば開始3か月で150万人、2026年1月には260万人もの会員を集めました。会員の中心は10〜20代、女性が8割。もうひとつが、6歳から22歳までを対象にした割引「ENJOY U22割」です。若者が日常的に使う理由を作り、アプリで来店のたびに関係を深める。この2つがかみ合って、ゴンチャは「たまのご褒美」から「日常のインフラ」へと移行しました。

    ただし、ここは私見として少し慎重に見たい点もあります。若者向けの割引は、諸刃の剣にもなりえます。「安いから来る」だけの関係になれば、それは値引き依存に近づく。ゴンチャの場合、割引を「入り口」にしつつ、カスタマイズやお茶の質という「割引ではない価値」で定着させている点が肝でしょう。割引で来た人を、割引以外の理由でつなぎとめられるか。ここは、これからも見ていきたいところです。


    読み解き⑤:スタバと「戦わずに」棲み分けた

    五つめは、競合との向き合い方です。カフェ市場には、スターバックスという巨人がいます。ゴンチャは、この強者と正面から殴り合うことを、賢く避けました。

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    ポイントは、「同じカフェでも、お客さんの“目的”が違う」と見抜いたことです。スターバックスは、どちらかといえば「一人で静かに、仕事や読書をする」場所。対してゴンチャが打ち出したのは、「友人とおしゃべりしながら、楽しく過ごす」場所です。実際、日本ではあえて当初コーヒーをメニューから外し、「お茶におけるスターバックス」を狙ったと報じられています。

    同じ「カフェ」という箱の中でも、占めている“文脈”が違えば、それは競合ではなく補完関係になります。コーヒーが得意でない人、お茶が好きな人、コーヒーチェーン以外の居場所がほしい人——スターバックスが取りこぼす層を、ゴンチャがすくい上げる。こうして、街に「もうひとつのサードプレイス(家でも職場でもない第三の居場所)」が生まれました。強者と同じ土俵で戦わず、隣に新しい土俵を作る。これは、後発ブランドにとって、非常に学びの多い一手です。


    見えにくいけれど効いている「土台」

    ここまで表側の戦略を見てきましたが、最後に、目立たないけれど効いている“土台”にも触れておきます。

    ひとつは、働く人のファン化。ゴンチャは従業員の推奨度(NPS)を重視し、髪色の自由化や、店舗スタッフが考えたメニューを商品化する取り組みなどで、「自分もブランドの一員だ」という当事者意識を育てています。顧客だけでなく、店で働く人まで“ファン”にする。この熱量が、接客の質となって、また客足につながる。もうひとつは、出店のしやすさです。ゴンチャは調理に火も油も使わず、必要なのは電気だけ。匂いの問題もなく、商業施設に入れやすい。この“物件戦略上の身軽さ”が、急速な出店を支えています。派手ではないけれど、こうした土台があってこそ、表の戦略が回るのです。


    この先の「問い」

    ここまで称賛が続きましたが、冷静な視点も置いておきます。ゴンチャの快進撃は本物ですが、死角がないわけではありません。

    会員の8割が女性、中心は10〜20代という強みは、裏返せば特定層への偏りでもあります。この層をどう広げ、あるいは年齢を重ねた顧客をどうつなぎとめるか。また、急速な出店は、いずれ「どこにでもある」ことによる希少性の低下や、店舗ごとの体験の質のばらつきを招くリスクもあります。かつてタピオカ店が「乱立して飽きられた」構図を、規模拡大の中で自ら再現しないか——。ゴンチャが「日常の定番」であり続けられるかは、この“慣れ”との戦いにかかっているのかもしれません。あなたは、10年後もゴンチャが街にあると思いますか? その答えは、これからの一手が決めていきます。


    この事例から持ち帰れること

    最後に、自分の仕事に引きつけるための問いを、置いておきます。

    1. あなたが手がけている商品やサービスの成長は、「一時のブーム」に依存していませんか? そのブームが去った後も、顧客が来る理由は残りますか?

    2. あなたのブランドは、「流行が去っても変わらない価値」を、言葉にできていますか? ゴンチャにとっての「お茶」のような、揺るがない主役はありますか?

    3. あなたのリピートは、「値引き」で作られていませんか? それとも、顧客を関与させ、「その人だけの定番」を作れていますか?

    ブームは、打ち上げ花火のようなものです。一瞬まばゆく光って、すぐ消える。大切なのは、その花火を、「特別なハレの日」から「毎日の定番」へと着地させることです。ゴンチャの赤いストローが、ブームが去った今も街に立ち続けている理由は、まさにそこにあります。あなたのブランドは、ブームが去った後、顧客の生活の「どの時間」に残れるでしょうか。


    最後まで読んでいただき、ありがとうございました。「面白かった」と思ってもらえたら、スキやフォローをしてもらえると励みになります。

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    現役マーケター|メーカーでブランドマネジメント×販促設計|話題のマーケ事例・ニュースをマーケター視点で読み解きます|ときどき現場の実務も|事実と意見は分けて書きます

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