339話 白い霧 White Mist【波打際編】波打際スケッチ Sketches of the Shoreline ~AIと創る青春物語~
サクヤは、青いフェアレディのブレーキからアクセルに足を移した。
いつもならセオリがいる席に、タカオがいる。
タカオはほとんど何も言わず、窓の外を眺めている。

タカオは、大学の門を出てバス停に向かうつもりだった。
近くの11号館から出てきたサクヤとすれ違った。

「タカオ先輩、駅に行くんですよね」
タカオはサクヤを見た。

「乗っていきます?駅まで」
「あ・・・いいの?」
タカオは、少しうれしそうに言った。

駐車場を出た、青いフェアレディは、バス通りを進む。

バス停に並んでいる人たちを横目で見る。

ちょっと優越感がある。
せっかくサクヤの隣に座っているのに、タカオはほとんど何もしゃべらない。
前を走るバスが、バス停に留まったところで追い越した。
コンクリートのままの高架の線路が見えてきた。
ここまでくると駅まですぐである。

タカオは急に、
「あ、ファミレス寄ってもらえます?」
「え?ここですか?」
丁度、横に差しかかったファミレスの駐車場に入った。
「お茶でもおごりますよ」

「え・・・?」
タカオはドリンクバーにしようかな・・といっているので、サクヤも同じにするつもりだった。
タカオは、メニューを手に取ると一番後ろのページを開いた。
ソフトクリーム、かき氷、プリンなどが並んでいる。
「好きなのを選んでね」

「あ・・・はい」
サクヤは、チョコパフェを指さした。
タカオは、少しほほ笑むとタッチパネルにメニュー番号を入れた。
タカオは、アイスコーヒーをブラックのまま持ってきた。
サクヤの水も氷をいれて持ってきた。
ロボットが持ってきたチョコパフェをテーブルに置いた。

「先輩、就職活動とか始めたんですか?」
それまでの長い髪を、きれいさっぱり短く整えているのを見て言った。
「うん・・・一応ね・・・」
それ以上乗ってこない。
内定でも出ていれば、得意げに言うだろうから・・・・
うまくいっていないとみていい・・・
まあ・・・積極的だったり、リーダーシップがあったりするようには見えない。
「あ、先輩、前、龍神について調べてませんでしたっけ?」
話題を変えた。
「ああ・・・そうね」

ずいぶん前に、大学の図書館で何冊も本を広げているタカオ先輩に、
聞いたことがある。
「龍の話というのは、全国にあってね・・・箱根とか、田無とか、丹沢とか・・・」
チョコパフェを食べているサクヤは、眼だけでうなずいている。
「有名なのは江ノ島なんだ・・・」

普段ほとんどしゃべらないのに、ほとんど一人でしゃべった。
江ノ島の龍神に絡めて、大まかな説明はこういうことである。
龍神には、タカオカミとクラオカミがいる。
いずれも同じ神だともいわれているが、
タカオカミ(高龗神)山の龍、水源の神
クラオカミ(闇龗神)谷の龍、湧水・霧の神
タカオカミは、表の世界 雷神でもあり、ゼウス、エンキなどの神に近い
クラオカミは、裏の世界 闇、冥界の神でもあり、ハーデス、エレキシュガルなどの神に近い

そういえば、建長寺の法堂にも龍雲図があり、火災から守っていると記されている。
珍しくよくしゃべるタカオ先輩につられて、サクヤも話し始めた。
そう・・・丹沢で思い出したのだ・・・

小さい時、家族で丹沢だったと思うけれど・・・
山の間の沢、河原に遊びに行った。
ちょっとしたキャンプみたいに
父は丸い石を重ねて、落ちている枯れた木の枝などを集めて焚火をした。
その上に網を置いて、ウインナーとかトウモロコシとかを焼いて、いい匂いがしていた。
母は折りたたみのレジャー用の椅子に座って、まだ小さい妹を抱いていた。

ピーマンとか玉ねぎとかは覚えていないのに、ウインナーはおいしかったような記憶がある。
小さい時だったから、ちゃんと覚えているわけではない。
ただ、切れ切れに思い出したことがある。

たぶん、その川の近くだったのだと思う。
少し山に入って遊んでいた。
木の実か何かを見つけたのだろう、少し森の中に入っていったようだ。
しばらくすると方向がわからなくなった。

明るく晴れていたのに白い霧が出てきた。
たぶん、お母さんとお父さんを探して走りまわったのだと思う。
さらにわからなくなった。
川の水音が聞こえていたはずなのに、聞こえなくなった・・・

真っ白な霧に囲まれてたった一人で泣いていた時
男の子が来た。
確か着物を着ていたと思う・・・
洋服だったらたぶん、そう覚えていない・・・
「だれ?」
「みなせ」

そういうと、男の子は手に持っていた竹筒の中から水を出した。
小さい竹筒に入るはずがないほどの水が出て、小さい川になった。
川の水は下に流れていく。

「この川に沿って歩いて行ってごらん。お母さんがいる。」
サクヤを見つけた母が、泣きながら走ってきた。
抱き締められたとき、サクヤは泣いた。
「よかった・・・どこいってたの?」
泣きそうな顔のお父さんが走ってくるのが見えた。

「みなせ」といったんだね・・・・
たぶん、山の水の名を持つ者・・・

水が湧き出すところ、水源の神という意味だろうね・・・
チョコパフェの最後を入れた口元を、眺めていたタカオが言った。

「今度の土曜日、空いてるかな?」
「江ノ島行かないか?」
「え?」

どういうわけか・・・・サクヤはデートに誘われていた。


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