
創る者たちの戦い
よく創作とは自分との戦いだとかよく言うかもしれないが、それは大きな間違いだと私は言いたい。何故かって?いや他の人とも戦うんじゃないか。
他の人を相手にしているから自分と戦えないじゃないか。一体何なのだ。
話は数ヶ月前に遡る
学府の授業でドラマを制作する授業が始まった。なんともその授業ではドラマづくりの大変さを実際に自分たちで作ってみて体験しようという授業である。その授業は役割がそれぞれあり、監督、助監督、脚本、制作進行、記録
の制作部。スタイリストさんや美術部の大道具小道具。技術部の撮影、撮影助手、特機、DIT、録音、照明。編集部のオフライン、オンライン、カラリスト。音響効果の方、俳優部などがある。
この中から必ず役割を第三希望まで選び授業に臨むのだが、私自身とても困っていた。元来、こういう役職選びは自分はよく貧乏くじを引くのである。
中々第一希望の役割にならず、第二希望になったり、第一希望が被ってもじゃんけんでは負けるし、人にすぐ譲ってしまう。しかもやりたい役職が多かったら抽選にするというルール。何とも理不尽な。
学府は映像系の学校であり、私は編集希望で入学したから第一希望は編集にしようと考えていた。だが、妙に監督という役職が目に止まる。監督という文字に何故か惹きつけられた。監督って、なんか格好良さそうだよな。
魔が差してしまった。いや決して魔なんぞないのだが。
昔から、かの有名なエヴァンゲリオンの監督庵野秀明さんや、ジブリの巨匠宮崎駿さん、スティーヴンスピルバーグ監督などが好きで、監督って偉大だな。だって自分の物語を作れるじゃん。指示を皆に出せば良くて何もしなくていいじゃんと子供ながらに思っていた。今の私から見たらその頃の自分を殴ってやりたい。
そんな格好良さそうという思いが通り魔のように私の心に通り過ぎていった。よし、監督を第一志望にしよう。編集は第二希望でいいや。第三は適当に入れとこう。多分どうせ貧乏くじを引くのだ。そもそも監督っていってもチャレンジだし、我が強いやつしかいないから慣れやしない。第二希望になるだろうとそのとき私は思っていた。なったらなったで私は困るやつなのである。でも多分ならないとそのとき私は思っていた。
投票してから数週間後、発表当日。私は緊張しながら発表を聞いた。最初に監督が誰になったかの発表なので、私は淡い期待と少しばかりの不安を持ってその発表を聞いていた。監督はなんと3人。そんな少なかったのか、読みが外れたなと思っていたら私の名前が呼ばれた。え?まさか本当になってしまった・・・。そのときに頭が真っ白になってしまった。憧れの存在たちと同じ立場にいると思うと、嬉しさと責任で吐きそうになった。
その日は企画の打ち合わせだったのだが、頭真っ白になっていたので何も考えられぬまま一日が終了した。
企画発表が終わり人前に出て沢山喋りまくったワカサギ。その疲労は半端ではない。普段から慣れないことを一日にやりすぎたのだ。
その日の企画説明はとても長かった。そしてここからが地獄への扉であった
私の班は全部で10数人。他の班より何故か少なく、少し不公平な気がした。初めて交流する人がほぼだったので要らぬ気を遣いながらも挨拶をしに回る。監督として今のうちに皆の懐に入って良い監督を演じようとしたのである(我ながら汚い戦法である)。
その中で私は関わってはいけない相手と関わってしまったのである。それは脚本家担当のK君(仮称)である。このK君との出会いで制作がめちゃくちゃになるのである。
まず皆さんは脚本家と監督どっちが上の立場か知っているだろうか。
勿論監督が上である。脚本家というのは物語の方向性を決める重要な役割を与えられているが、あくまでも監督の指示に従い構成を決める立場だ。
だがこのK君。あらぬ勘違いをしているのか知らないが、なんと私が監督なのに脚本家の立場を超え作品全体を乗っとてしまったのだ。
結論から言うと彼は協調性が欠けていたのである。
ここにきて協調性が欠けているやつが目の前に急に現れしかも脚本家という重要な役割になってしまった。しかもカメラも担当してしまうという脅威のなんでもできるマン。たまに皆さんも見たことがあるというかクラスに一人や二人居ただろう。何でもそつなくこなすタイプ。まさにそれである。
彼の協調性の無さ。まあ単純に言う事を聞いてくれなかっただけなのだが
この協調性の無さは最初は見切れなかった。後半に連れて徐々に浮き上がってくるのだ。なんと恐ろしい。
脚本家のK君はそれはそれは仕事が早く、結構早い段階でキャラクターの設定や構想ができていた。奇しくも私はK君と見ているドラマ、アニメが少し似ていたり最初は意気が合っていた。なので二人で話し合いをしたり台詞を考えたりと着々と台本を完成に近づけていった。
私は、最初は優秀な脚本家&カメラマンが協力してくれてとても安心だったのである。この人なら面白いものを一緒に創ってくれるだろうとそう思っていた。だが、そんな淡い思いは瞬時にして消え失せ破壊されるのであった。
ある日、K君と二人で話し合い物語の構想を練っていると私が前に話をした物語の構想。大まかな流れが捻じ曲げられていた。話をしている最中にん?と思いながら聞いていたのだが明らかに話が噛み合わない。
「あれ、前回こうしたんじゃなかったか」と、私が言うとK君は
『ああ、そうなってたけどそれだと面白くないからこうした方が絶対良いからこれでいくことにした」と言ったのである。
あれ。何かおかしい。
相談をちゃんと受けて提案をしてくれるのならいいのだ。例えば「監督。この話の構想ですが、こうしたんですけどどうですか?」と聞いてくれれば私はちゃんと聞いて提案を飲み込んだのである。私も鬼ではないので、ちゃんと提案をしてくれればそれを採用するのだ。だが彼はあろうことか、私に相談も提案もせずに勝手に独断で決断し、自分の意見を反映させたのである。
最初の方に説明したが、監督の方が脚本家より立場が上だ。監督は最高責任者であり決定権は監督にあるのである。脚本家も重要だが、物語を決めるのは私なのである。そして今その境界が曖昧になりつつある。いやもう既に断ち切られ、立場が逆転してしまったのかもしれない。
この時から私は監督ではなくなった。監督という肩書きを背負ったただの野郎と化してしまったのである。
私も中々監督という立場でありながら、そのK君に対してあまり強く言えることができなかったのである。それは彼より技術的な面で劣っているからなのか、それとも圧倒的強気なその態度に気迫に押されてしまっているからのか最早わからなかった。否、解りたくなかったのである。
その時点で既に負けていたのかもしれない。監督失格である。
それからというものの私の意見は淘汰されてしまい、K君が考えたK君の作品になってしまったのだ。終わった今も私はあの創った映像は自分のものではないと思っている。
監督の言うことに耳を傾けない制御不能な完全自立型オートマータの完成である。しかもこういう人間に限ってやけに頭は回るし、なんでもできてしまうから怖い。正に畏怖の対象。怖い、怖すぎる。十万石まんじゅうも怖すぎてしまうほどの非常に厄介な人間である。
なお協調性に欠けているのでその時点でおしまいなのだが。
こういう人間とコミュニケーションを取るのは実に精神と体力を使う。
とても疲れるのだ。あんまり人と話をしたくない私にとってはこれは苦痛以外の何者でもなく地獄だった。そしてさらに地獄なのが毎回週一でサイゼに連れて行き、私を終電ギリギリまで拘束するのである。
まあ残業みたいなものだ。スケジュールも結構ギリギリだったので授業内では間に合わず、学校外で作業をしていた。
最初は作業をするのだが、これも彼が全部決めたことをただ修正するだけで私の決めたことではない。ここで素直に何か言えば何かが変わったかもしれないが、私はそれができなかった。くそ、、、、。
しかもその作業も中途半端でいつも終わり、最後はK君は食べ物を沢山頼んで酒を飲むという。かくいう私はお金もなく無一文なので水しか飲めず、彼が食べているのをただ見るだけという時間。これは何かの拷問である。
そして極め付けは彼の身の上話や中身のない自慢話。酒に酔っているのかは知らないが本当に苦痛だった。
そしてしまいには何故か私に説教をする。もっと自由に考えれば?や監督が自分で動かないと俺の作品になっちゃうよなど。これも的を得ているのでさらに嫌な気分になった。確かにそうなのだ。私は自分で動くことをK君の話し合いの時から捨てていたのだ。そのとき無性にやるせない気持ちとどこにぶつけていいかわからぬ怒りが私を支配した。
お前のせいで・・と言いたかった。だが自分にも悪いところはあったので
素直に言えぬのである。本当に私は監督失格だと思った。
私はこんなところで何をしているのだろう。あの時は毎日そう思っていた。
このとき、私はもう彼を完全な敵と見做し、もう彼の思うままにはならないと決めた。もうそんなことは言わせない。監督の威厳を少しは見せつけよう
とそう決断したのである。
そんな地獄のような協力し合いのもと、作品は段々と完成に近づいていった
だが、初めて大勢で挑む作品なので皆意思の疎通が取れておらず、スケジュールはどんどん削られるし、まだ撮っていないカットが沢山あった。
この追い詰められた状況をどう打開するか私はずっと考えていたのだが、またしてもK君が行手を阻むのである。まあ当たり前のことなのだが、前回でも説明した通り、彼は協調性に欠けていたので私以外の班員ともバチバチにやり合っていたのである。
本当にやめてほしい。争いは私だけではなかったのだ。
撮影中は本当に大変だった。班の中にも意見をいう人は沢山いたのでその人たちとの白熱した闘いはもうそれはそれは巻き込まれたくなかった。
だが、監督なのでそういう火事が起こりそうなことはちゃんと消火しないといけない。間に入ってまあまあと収めるのも苦痛でしかなかった。争いごとはまっぴらごめんなのだ。
「監督ももっとちゃんと意見を言わないとダメですよ!!」
ある日、私がK君に対して強く言えないのを見かねて班員に言われてしまった。とうとう班員にも言われてしまった。
でも怖くて言えない。俺は、、、弱い、、、、、。
そして休み時間に先生に職員室に呼び出され、先生にも言われた。
「監督の作品なのだから、ワカサギくんがちゃんとそこは言わないとダメだよ」と。教員からも言われてしまったのである。
どうしよう。前回ちゃんと決心したはずなのに。ちゃんと監督の威厳を見せるぞって決心したはずなのに。なんで俺は。
そして沢山考えたのち、私は。
吹っ切れた。もうどうなってもいい。そうやり直しである。
一体何を今まで怖がっていたのだ。
たかがあんな協調性のかけらもないやつに。
強気な心が急に芽生える。
それからというものの撮影に関してはなるべく私の意見を通らせるようにした。先生も私を見かねて撮影の応援に来てくれたりと、陰ながらサポートもしてくれた。班員たちも私に協力してくれて積極的に動いてくれたり、意見を聞いてくれた。そうK君対監督軍の戦いが始まったのである。
K君のことはなるべく気にせず撮影に臨んだ。何を言われてもいい。もうここからは俺の作品だと言わんばかりに好きに動いた。まあまだ少しの恐怖はあったので、ちびちびだったのだが。
流石にK君も周りの状況が変わったので段々と素直に言うことを聞くようになっていった。(後から聞いた話だが、これも裏で先生が根回しをしてくれたらしい)まさに先生様様である。
まだ多少の抵抗はあるものの私はK君に対する恐怖の念が段々と薄れていった。撮影はギリギリだったが最後は気合いで終わらせ、何とか全カットを撮り終えた。もう最後はまじ強気にいったと自分でも思うくらいに強気にいった。だが、私が諦めなかったのも周りの班員や先生が協力してくれたおかげである。本当に感謝している。ちゃんと最後には班員のグループLINEに感謝の思いを伝えた。
本当にありがとうと。
撮影は終わったもののまだそれを繋ぎ合わせる編集の仕事が残っていたのでそこはもう私と編集さんで協力して作業を行なった。
そして無事、作品は完成しプレビューを行い先生からは激励の言葉を貰えた
ああ、もう終わったのだ。
安心感と少しやりきれぬ感情を残しドラマ制作は終了した。
長かった。本当に長い地獄だった。だが今思い返せば中々に良い経験だったのかもしれない。少しは強く成長できたと実感した出来事だった。
彼とは水と油のような関係だと言うことが今回の制作でよくわかった。
前者が私で後者が彼。水は重いので下に沈むが、油は軽く上に溜まる。
今回は彼が私を覆い被さるようにして作品を支配していたので、この関係に一致する。
嫌だけどね。負けてる感じがして。試合に勝って勝負に負けた感覚だ。
たとえ界面活性剤を使ったとしても混ざり合うことはない。
思い出すだけでも嫌な記憶しか蘇らない出来事である。
暫くサイゼリヤにも行けなかった。今は友達などと行ったりして記憶を上書きしている最中だ。
その後のK君との関係性?
あまり関わりたくないので会っても挨拶くらいしかしない。たとえ話をしたとしても、筆箱だけで一万円以上するんだとかくだらない自慢話しかしないので話をしても時間の無駄である。何故自分のことばかり語って相手に何も聞かないのか、私は不思議でたまらない。
そういえば、この前誕生日を迎えたとき。K君からお祝いにサイゼに行こうと誘われた。
二度と行くもんか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!