メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bysatomigoro

オイテケボリ

    あのね、聞いてほしいことがあるの。

    あの人はとっても忙しい。
    その人もとっても忙しい。
    だから、脇目も振らず走っている。

    あの人はとっても大事なことをしている。
    その人もとっても大事なことをしている。
    だから、突然いなくなって、いつの間にか疲れた顔で戻ってくる。

    あの人は何かに悩んでいるみたい。
    その人も何かに悩んでいるみたい。
    だから、椅子にもたれかかってはため息をつく。

    同じ場所にいるから、
    同じ空気を吸っているのに、
    気づくと誰かが
    置いてけぼりになっている。
    追いつけないわけじゃない。
    でも、追いつきたいとも言い切れない。
    その曖昧な場所に、誰かがそっと立ち止まる。

    あの人の速度と、
    その人の速度と、
    誰かの速度が、ふっと合わなくなる瞬間がある。

    その瞬間、私はいつも少しだけ息を吸い込む。追いかけるでもなく、引き返すでもなく、ただその場の空気を胸の奥にしまう。

    そして、
    オイトケボリにされたように感じるのは、誰かのココロの揺れなんだ。
    気づいてほしいわけでもなく、
    ただ、
    その場所が穏やかであるようにと
    自分の速度を少し合わせたり、
    気配を整えたり。

    でもね、その静かな行為を
    少し違う温度で語られてる と耳にした瞬間、
    胸の奥でふっと何かが揺れた。

    それは怒りでも悲しみでもなくて、
    大切にしていた価値観が
    そっと擦れたときにだけ生まれる、
    静かな痛み。
    雑に扱われたわけじゃない。
    ただ、感じる温度とは
    少し違う温度で語られていたことで、
    誰かの心が置いてけぼり。

    オイトケボリという言葉は、
    誰かに置いていかれたというより、
    誰かが大切にしていた「ココロノカタチ」だけがふっと取り残される瞬間のことなのかもしれない。

    ほんの少しだけ誰かの行為を温度を感じられたら。

     
     
    言葉の中の”余白”に 音の中の”沈黙”に 絵の中の“ここ”に、 言葉にならないものに、心が止まります。 書くことで、 まだ名前のない感覚に触れてみたい。 よければ、一緒に。

    あなたへのおすすめ