
小説版:環境戦隊ステレンジャー 第13話・後編「わたしたちに、できることから、すこしずつ」
その時だった。
「みなさん」
やわらかい声がして、三人が同時に振り返る。
日和が、少し離れた土手の上に立っていた。
帽子のつばを押さえながら、困ったように、でもいつも通り静かな顔でこちらを見ている。
満が思わず立ち上がる。
「日和さん!」
「遅くなっちゃいました」
日和はそう言って、ゆっくり河原へ降りてきた。
手には軍手と、小さなごみ袋がある。
いつもの格好だった。
その“いつも通り”が、かえって三人には少し眩しかった。
燃が言う。
「……来たんだ」
「来ますよ、もちろん」
日和は不思議そうに首をかしげた。
「だって、今日はごみ拾いの日でしょう?」
「いや、そうなんだけどさ……」
満は答えるが、その先が続かなかった。
日和は三人の顔を順に見て、それから燃たちの手元へ視線を落とした。
何も聞かずに、だいたい察したような目だった。
「煉さんのことですか」
図星だった。
満がすぐに言う。
「聞いてよ、日和さん。
オイラたち、変身できなくなっちゃって、煉はなんか離れていっちゃうし、おまけに邪魔するなら敵だって、オイラたちにまで攻撃してきたんだよ?」
日和はうなずくでもなく、否定するでもなく、ただ静かに聞いている。
浄が続ける。
「原因が煉さんだと疑う余地は十分にあります。
ですが、決定的な根拠はありません」
「簡単に怪人を消しちゃったんだよ。
前はオイラたち全員でやっつけたのを、煉一人で。
それって、オイラたちのパワーを煉が奪ったって思うのも、普通だろ」
満の言葉に、日和のまぶたがわずかに伏せられる。
燃はそこで、低く言った。
「正直、分からねえ」
日和は顔を上げる。
「何がですか?」
「全部だよ」
燃は少し間を置いた。
「煉が何をしたのかも。
俺たちの力がどうなったのかも。
なにが正しいのか、正しくないのかも」
河原に、短い沈黙が落ちた。
日和はすぐには答えなかった。
足元に落ちていた菓子袋を拾い、土を軽く払ってから袋へ入れる。
それから、ぽつりと言った。
「引っかかったんですね」
満が顔を上げる。
「え?」
「煉さんの言葉」
日和は川の方を見る。
「自分たちは正しいのか、正しくないのか」
否定できなかった。
燃も。
浄も。
満でさえも。
あのやり方は違う。
危ない。
許せない。
そう思う。
でも一方で、
あの無駄遣いを見て、少しだけ「やりすぎだ」と思ったこともまた事実だった。
日和は、責めるでもなく続けた。
「正しさって、たぶん人によって少しずつ違うんです。だから、簡単に正しいとか正しくないとか、決められないんじゃないかなって思います。」
満が小さく息を吐く。
「そんな簡単に言うけどさ」
「簡単じゃないですよ」
日和はすぐに言った。
その声はやわらかいのに、不思議とはっきりしていた。
「簡単じゃないから、考えるんじゃないですか?」
浄が日和を見る。
日和は少しだけ笑う。
「煉さんの言うことにも、たぶん、煉さんなりの正しさはあるんだと思います。
でも……だからって、みなさんの正しさがなくなるわけじゃないですよね」
燃は黙っていた。
日和の言葉は、背中を押すというより、
足元を見ろと言っているようだった。
「何を守りたいかって、たぶん、それぞれでいいんじゃないかなって思うんです」
日和はそう言って、河原のごみを見渡した。
「変身できなくても、ごみは拾えますしね」
満が思わず吹き出す。
「そうだ! そこ、そこなんだよ」
「ええ、たぶん、そこですよ」
日和は、また一つごみを拾い上げて言った。
「できないことばっかり見てると、できることまで見えなくなっちゃいますから」
浄が、ごく小さく笑った。
燃はその顔を見て、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。
川風が吹く。
日和がほほ笑む。
「わたしたちに、できることから、すこしずつ。
で、いいんじゃありませんか」
暑さは消えない。
問題も何一つ解決していない。
それでも、さっきまでより、ほんの少しだけ呼吸がしやすくなった気がした。
その時、燃の掌がかすかに熱を持った。
「……!」
燃が顔を上げる。
浄も。
満も、同じだった。
日和が三人を見る。
「来ましたね」
河原の空気が、わずかに変わっていた。
遠くの橋の向こう。
街の方角で、人のざわめきがふくらんでいく。
燃は火ばさみを置いた。
まだ変身できるかどうかは分からない。
でも、行くしかない。
「行くぞ」
今度は、誰もためらわなかった。
―つづく―
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