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『倏の終わりの花火倧䌚、䞃秒間の奇跡』

    #創䜜倧賞2026 #゚ンタメ原䜜郚門 #ファンタゞヌ小説郚門 #珟代ファンタゞヌ短線原䜜

    あらすじ

    数䞇人の熱気が枊巻く、琵琶湖の花火倧䌚。
    济衣姿で屋台の焌きそばを頬匵る『劖狐キキ』の瞳は、倜空を圩る倧茪の華ではなく、人混みの䞭で「停滞」しおいる䞀人の青幎ず、圌に寄り添う癜い圱を捉えおいた。
    それは、死しおなお、生前の玄束に瞛られ続ける少女の霊。 どんなに深い愛であっおも、行き堎を倱った想いはやがお生者を蝕む「毒」ぞず倉わっおいく。
    キキは扇子を手に立ち䞊がる。 圌女が仕掛けるのは、特倧スタヌマむンが倜空を埋め尜くす瞬間にだけ蚱された、たった数秒間の奇跡。

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

     ゜ヌスの焊げる芳ばしい匂いず、行き堎のない人熱《ひずいき》れ。
     琵琶湖の湖面を枡る倜颚は、数䞇人の芳衆が発する熱気を孕《はら》んで、ひどく重たかった。

     ドォン、ずいう腹の底を蹎り䞊げるような衝撃波が、倜の垳《ずばり》を震わせる。

    「 ほう――、今幎もたた芋事なもんやな 」

     なぎさ公園の倖れ。人混みを避けた石垣の䞊で、キキはプラスチックパックの焌きそばを぀぀いおいた。
     今倜の圌女は、ずある筋から調達した藍色の济衣姿だ。無造䜜にアップにした桃色の髪のうなじで、汗が真珠のように光っおいる。

     箞で぀たんだ焌きそばは、すでに冷めきっおボ゜ボ゜ずしおいた。だが、この濃厚すぎる゜ヌスず青のりのチヌプな味わいこそが、祭りの醍醐味――のはずだった。

    「 ・・・難儀なこっちゃ。死んでたで男の尻を远いかけんでもええやろうに 」

     箞が止たる――
     キキの瑠璃色の瞳は、湖䞊のスタヌマむンではなく、有料芳芧垭のフェンス越しに座る䞀人の青幎を射抜いおいた。

     呚囲のカップルが光のシャワヌに歓声を䞊げる䞭、その青幎だけが䞖界から切り離されたようにパむプ怅子に座り、二本の猶ビヌルを倧事そうに抱えおいる。

     その青幎のすぐ隣に――「゜レ」はいた。

     癜いワンピヌス姿の少女だ。
     綺麗な顔をしおいる。けれど、たるで高解像床の映像をそこだけ切り貌りしたように、圌女の茪郭だけが倜景から癜く浮き䞊がっおいた。
     数䞇人の熱気の䞭でも、圌女の長い髪だけは凍り぀いたように震えおいない。

     少女は青幎の顔を芗き蟌み、䜕かを必死に蚎えおいる。だがその手は、青幎の肩を虚しくすり抜けるだけだ。

     キキは小さく舌打ちし、石垣をひらりず飛び降りた。
     カランコロンず䞋駄を鳎らしお近づく。

     青幎ずの距離、わずか二メヌトル。キキは懐から扇子を取り出すず、手銖を返しお空気を䞀床だけスッず撫でた。

    「 ・・・『人払い』の結界、っず 」

     刹那、二人の間の空気が陜炎《かげろう》のように揺らいだ。
     認識を阻害する術だ。今この瞬間、青幎の意識からキキずいう異物は完党に陀倖された。
     たずえキキが目の前で倧声を䞊げようずも、圌の脳はそれを「ただの雑螏のノむズ」ずしお凊理し、芖界に入っおいおも「背景」ずしお無芖する。

     これで心眮きなく䌚話ができる。

    「 邪魔するで、そこの嬢ちゃん 」

     キキが声をかけるず、幜霊の少女はビクリず肩を震わせ振り返った。すぐ隣に座る青幎は、埮動だにせず倜空を芋䞊げ続けおいる。

    「 え・・・ 私が芋えるの 」

    「 バリバリ芋えずる。あんたのせいで、そこだけ気枩が䞉床は䞋がっずんねん 」

     キキは扇子を開き、わざずらしくパタパタずあおいだ。

    「 花火芋物は結構やけどな、あんたり生きおる人間にぞばり぀いたらあかん。あんたの陰気で、そこの圌の寿呜が瞮むで 」

     少女の顔が曇った。その衚情にあるのは、悪霊特有の執着ではなく、痛々しいほどの玔粋な悲しみだけだ。

    「 ・・・ごめんなさい。でもどうしおも、圌に䌚いたくお 」

    「 成仏できん未緎っおや぀か 」

    「 今日は・・・玄束の日だったんです 」

     少女の芖線が、青幎の膝に乗るマヌケなほど倧きな唐揚げのパックに向けられおいる。
     霊芖するたでもない。青幎の背䞭に匵り付いた埌悔の色ず、少女から溢れる「ごめんね」ずいう思念だけで、事情はおおよそ察しが぀いた。䞍慮の事故か、あるいは急病か。いずれにせよ、圌女はこの埅ち合わせに間に合わなかったのだ。

    「 ・・・あヌ、もうええわ。蚀わんでええ 」

     少女が思わずずいった様子で手を䌞ばす。
     その指先が青幎の頬に觊れそうになる瞬間、黒い靄《もや》のようなものが圌女の指先から立ち䞊った。
     
     未緎が匷すぎるのだ――
     
     いかに玔粋な愛であっおも、死者の情念は生者にずっお毒になる。このたたでは、圌女自身が「想い」に食われ、理性を倱った悪霊ぞず堕ちおしたうかもしれない。

     キキは扇子を閉じ、ピシャリず少女の手を叩いた。すぐ暪で也いた音が響いたはずだが、青幎は気づかない。結界が完党に音を遮断しおいる。

    「 止めずき。それ以䞊近づいたら、あんたはもう『こい぀の圌女』ではいられんようになる。ただの『祟り』になっおたう 」

    「 でも このたたじゃ、さよならも蚀えずに・・・ 」

    「 せやから、うちらみたいなのがおるんや 」

     キキはニダリず笑うず、くるりず背を向けた。

    「 湿っぜい気配のせいで焌きそば䞍味なったしなぁ。たぁ、狐の気たぐれや。あんたがそこにいるず、花火の邪魔やねん 」

     キキは人差し指を立お、チロチロず小さな狐火を灯した。呚囲の人間には芋えない、幜䞖《かくりよ》の炎だ。それをフッず吹き消すず、銀色の煙が少女の䜓を包み蟌んだ。

    「 今から䞊がる䞀番デカい花火、その音ず光が䞖界の境界を揺らす䞀瞬だけや。無理やり珟䞖《う぀しよ》ず波長を合わせたる 」

    「 そんなこずが・・・ 」

    「 私を誰やず思おんねん。これでも元・自称神様やで ただし時間は䞃秒。蚀葉は届かん。できるのは『觊れる』こずだけや 」

     少女は息を呑み、そしお深く頷いた。

     䞃秒――それで十分だず、芚悟を決めた顔だった。

     䌚堎のアナりンスが響く。
    『 皆様、お埅たせいたしたした。フィナヌレを食る、特倧スタヌマむンの打ち䞊げです 』

     ヒュルルルルル・・・倩を匕き裂くような颚切り音。無数の光の皮が、倜空の頂点ぞず到達する。

     䞀瞬の静寂。

     カッッ―― ドッゎォォォォォオオンッ

     倧気を震わせる蜟音ず共に、芖界が黄金色に染たった。
     湖面も、倜空も、人々の顔も、すべおが昌間のような光の奔流に飲み蟌たれる。

    「 今や 行けッ 」

     キキの叱咀ず共に、少女が動いた。幜䜓であるはずの足が、確かに砂利を螏みしめる。少女は青幎の正面に回り蟌むず、座っおいる圌の銖に䞡腕を回し、その胞に顔を埋めた。

     抱きしめる――
     キキの狐火が再珟した、生前の䜓枩ず、柔らかさず、埮かな柑橘系のシャンプヌの銙りを䌎っお――

     青幎の目が倧きく芋開かれた。猶ビヌルを持぀䞡手が震え、䞭身が少しこがれる。
     目には芋えない。けれど、確かに感じる重みず枩もり。

     喧隒の䞭で、二人の時間だけが止たる。

    「 ・・・茉莉《たり》 」

     青幎が呟く。少女は䜕も蚀わない。ただ、泣き笑いのような衚情で、愛しい人の胞を䞀床だけ匷く叩いた。

     ――もう気にしないで
     ――今幎からは、矎味しいビヌル飲んでね

     そんな声なき声が、䜓枩を通じお䌝わった気がした。

     光が薄れ、蜟音が遠ざかっおいく。

     䞃秒が過ぎた――

     少女の腕が霧のように霞み、青幎の䜓をすり抜けおいく。

     だが最埌に圌女は、青幎が握る「もう䞀぀の猶ビヌル」を指先で匟いた。

     プシュッ、カシュッ――

     誰も觊れおいないはずのプルタブが、也いた音を立おお開き、癜い泡が溢れ出した。

     静寂が戻る――

     パラパラず火の粉が散り、倜空に硝煙の匂いが挂っおいた。

     青幎は呆然ずし、驚愕しおいた。胞にはただ、確かな枩もりの䜙韻が残っおいるのだろう。圌は震える手で、勝手に開いた猶を、誰もいない倜空の虚空に向かっお掲げた。

    「 ・・・ありがずう 」

     それは長い長い冬が終わったような、匱々しくも確かな笑顔だった。

    「 けっ、甘ったるくお芋おられんわ 」

     少し離れた堎所で、キキは悪態を぀いた。扇子を䞀振りしお結界を解く。その隣には、すでに少女の姿はない。金色の小さな光の粒ずなり、消えゆく花火の煙に玛れお、星の海ぞず還っおいったのだ。

    「 瀌の䞀぀もなしかいな。た、ええけどな 」

     キキは焌きそばのパックを袋に入れ、倧きく䌞びをした。

              ▜

              ▜

     祭りが終わる――
     人々が「終わっおしたった」ずいう寂しさを口々に語りながら、垰り支床を始める。ざわめきが朮が匕くように遠ざかっおいく。

     ふず、キキの足元に颚が吹いた。
     䞀枚の千円札が、ひらりず飛んできおキキの足元に匵り付いた。さっきの青幎が立ち䞊がった拍子に萜ずしたものか、あるいは――

    「 ・・・これがお賜銭、っおこずか 」

     拟い䞊げ、透かすように月にかざす。新玙幣の北里柎䞉郎の髭面が、月光に照らされお劙に偉そうに鎮座しおいる。神ぞの感謝にしおは䞖俗的すぎるが、珟代を生きる劖狐にはこれくらいが䞁床いい。

    「 よっしゃ 臚時収入や。垰りにコンビニ寄っお、あの期間限定の『たべる牧堎パフェ』買うたろ 」

     これなら二぀買っおもお釣りが出る。
     キキはニダリず笑い、北里柎䞉郎を垯の間ぞねじ蟌むず、雑螏の䞭ぞず玛れ蟌んだ。

     鮮やかな桃色の髪が、倜颚に揺れお闇に溶ける。
     その背埌で、琵琶湖のさざ波だけが、い぀たでも静かに寄せおは返しおいた。



     
     

    M/S

     
     

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