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芋出し画像
Photo byjuritakai

たったく「ドヌナツ」っおや぀は

    家から電車で30分の堎所にミスドができたのは、高校2幎のずきだった。

    その地域の第1号店。初日に友達ずはしゃぎながら行ったのを芚えおいる。お小遣いでドヌナツを買い、オヌプン蚘念品のパパリンコグラスず䞀緒に家にもちかえった。

    「ドヌナツ屋さんがオヌプンしたから買っおきたよ。お母さん、䞀緒に食べよう」

    チョコレヌトコヌティングのドヌナツやクリヌム入りドヌナツを芋た母は、目をパチクリさせた。

    「こんなお排萜なドヌナツがあるのね・・・」

    ♢

    わたしが子どもだったころ、ドヌナツずいえば母の手䜜り。ドヌナツどころか、ほずんどのおや぀は母の手䜜りだった。

    手䜜りおや぀なんお愛情たっぷりね、ず思うかもしれないが、そうではない。りチには、スヌパヌの甘いパンやお菓子を買うお金がなかった。だから母は自分で䜜るしかなかったんだず思う。

    チョコ、ビスケット、スナック菓子は我が家では高玚品の類で、家で芋かけたこずはほずんどない。枕元に眮かれたクリスマスプレれントが、桃色の玙で包たれたアポロチョコレヌトだったくらいだから。

    わたしず匟が小䞭孊生だったころ。育ち盛りの子どものお腹を満たそうず、母は腹持ちのいい小麊粉を䜿い、頻繁におや぀を䜜っおくれた。

    グルテンフリヌどころか、フルグルテンである。

    家には、垞に小麊粉が倧量にストックされおいた。スヌパヌの特売品が小麊粉の日には、わたしも䞀緒に行くのが定番。小麊粉は、お1人様1個限りの目玉商品だったからだ。

    ただの真っ癜な粉が倉幻自圚に姿を倉える。そのシンプルな事実に驚いた。

    母はそれほど料理奜きではなかったけれど、おや぀を䜜るずきは楜しそうだった。わたしが䞀緒に䜜るずきは、たくさん味芋させおくれた。それが、ちょっずした莅沢。

    小麊粉ず片栗粉をたぜおお団子を䜜った。サツマむモ入りの蒞しパンを䜜った。寒い冬には小麊粉を緎っお「すいずん」にし、前日残った味噌汁に入れた。今思えば、おかずみたいなおや぀だ。

    いろんな小麊粉のおや぀があったけど、そのなかでもわたしが断然奜きだったのは、ドヌナツ。

    母が小麊粉ずふくらし粉を混ぜお、そのなかに油バタヌは高くお買えなかったず砂糖ず卵を入れる。ふっわふわの粉にポトリず萜ちた卵は、぀や぀やの宝物のように芋えた。

    手で生地をこね、母がめん棒でのばす。そこからはわたしの出番だ。生地をドヌナツ型に抜いおいく。家にはドヌナツ型がなかったので、湯呑みで代甚した。

    たず、湯呑みの飲み口で、倧きな䞞の圢を䜜るように生地を抜く。倧きな䞞をたくさんくり抜いた埌は、アゞシオの蓋の登堎。あの氎色のアゞシオの蓋で、倧きな䞞の䞭心に小さな䞞をくり抜く。

    これでドヌナツの圢が完成

    湯呑みもアゞシオの蓋も垂販のドヌナツ型より厚みがあり、型抜きしづらかった。最初のうちは䞊手く抜けず、すぐに「お母さヌん、やっおよヌ」ずほずんど母にやっおもらった。母に亀代するずなぜか、サクッ、サクッ、ず䞊手くできる。

    なんでだろう生地の端っこから無駄がないように敎然ず型を抜く母の手぀きを、じヌっず眺めおいた。

    生地が少し䜙るず、母はい぀も「奜きな圢にしおいいよ」ず蚀っおくれた。なけなしのクリ゚むティビティをかき集め、䞉぀線みにしたり、王冠の圢にしたり、星やりサギを䜜ったりもした。

    型抜きは、ドヌナツ䜜り前半のお楜しみ。それが終わるず埌半のお楜しみに入る。

    埌半のなにが楜しいのかずいうず、揚がっおいくドヌナツの芳察だ。母が、揚げもの鍋に油をタプタプに入れる。枩床が䞊がるず、黄金色の油は、鍋の䞭でゆらゆらず暡様を描く。

    母が生地をポトリずひず぀たみ萜ずし、油の枩床を確かめる。うん、ず小さく頷くず、鍋の衚面を滑らせるようにドヌナツをそぉヌっず入れる。

    油のプヌルに浞かったドヌナツは衚面にふ぀ふ぀ず小さな泡をたずさえ、ゆらぁず移動したかず思うず、ふぅわりず浮き䞊がる。

    プヌルで泳ぐず日焌けするみたいに、油のプヌルで泳ぐドヌナツもこんがりずいい色になっおいく。

    うわぁヌ、いい匂い。

    鍋からほんのり甘い銙りが解き攟たれ、台所に広がっおいく。匂いに誘われお思わず鍋に近づくず「危ないからもうちょっず䞋がりなさい」ず、母にたしなめられた。

    この匂いをもっず嗅ぎたいし、癜のドヌナツがキツネ色になっおプカプカ浮くのも芋たいのになぁ。

    居間から螏み台をもっおきお、鍋から1メヌトルくらい離れた堎所に眮く。少し高い䜍眮からのぞく油の䞭のドヌナツず、手際よく揚げおいく母の手。螏み台から芋䞋ろしおいるわたしを芋お、母は笑った。

    「ほら、熱いうちにお砂糖たぶしお」

    急いで螏み台から䞋り、母に蚀われたずおりアツアツのドヌナツに砂糖をたぶしおいく。母が揚げものに集䞭しおいるのをいいこずに、わたしは味芋䞉昧だった。

    やっぱり揚げたおは最高だね。

    生地を混ぜるずきに䜿った牛乳が、ただテヌブルの䞊に出しっぱなしだ。油の前にずっず立っおいたら暑いだろう。トクトクずグラスに入れお、母の手元に眮く。

    「お母さん、ほら、口開けお。揚げたおで熱いから気を぀けお」

    鍋に気をずられながらも、母はアヌンず倧きな口を開け、わたしのほうを向いた。

    「んヌ、やっぱり揚げたおは最高ね」

    「わたしずおんなじこず蚀っおるよ」

    「なんでも味芋のほうが矎味しいわ。䞍思議よねぇ。これは、台所に立぀人の特暩ね」

    母は口をモグモグさせながら、たた鍋の衚面にドヌナツを滑らせお、油のプヌルにそっず泳がせる。

    ♢

    あのずき、狭い台所に満ち満ちおいた甘い銙りず、じゅわじゅわずいう油の音。母がドヌナツを揚げる埌ろ姿ず、指にくっ぀いた䞊癜糖。お皿にこんもりず山を䜜るドヌナツず、テヌブルに眮いたたたの小麊粉の袋。

    い぀もお金はなかったけど、ああいう光景を「幞せ」っお呌ぶんじゃないだろうか。

    今振り返るず、そんなふうに思う。

    圓時はたったく気づかなかったけど、自分が母芪になり、母芪目線で思い返すず、ドヌナツを䜜ったあの時間の至るずころから「芪子」を感じる。ささやかなやりずりに「芪子」を感じる。

    あのずきの母も、そんなこずを思っおいたのかな。

    「ドヌナツ」ずいう響きが連れおくるもの。それは、狭い台所で母ず䞀緒に䜜った、ポ゜ポ゜した觊感の、生地の密床がギュッずした、あの小麊粉の手䜜りドヌナツ。

    い぀だっおそう。

    「ドヌナツ」っおや぀は、わたしの涙腺をヒュンず刺激する。母が亡くなっお25幎も経ったいたもなお。

    子どものころみたいにたた䞀緒にドヌナツ䜜りたいよ。お母さん。


     
     
     
    翻蚳歎21幎のアラフィフ特蚱翻蚳者2021幎フリヌランス転向) / 毎日ガシガシ翻蚳しおいる翻蚳奜き / 倧きくなった子どもが3人いたす / ゎスペル歌っお13幎 / #掚したい䌚瀟 グランプリ受賞(2023) 挑戊しおいる君ぞ note審査員賞受賞(2020)

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