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短編小説『夜歩く(新宿から中野まで)』

    両目洞窟人間

    窓辺まち子の夜


    『夜歩く(新宿から中野まで』



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    「アービキャンソーナム!アイキャントフィルユーゼー!」と小春さんと窓辺まち子は叫ぶように歌っている。
     土曜日の夕方。カラオケ館新宿東口店の3階の一室。ゴスロリワンピースを着た小春さんと白ねこの窓辺まち子はリンキン・パークの"Numb"を歌っている。
     二人が叫んでるその歌詞は"I've become so numb I can't feel you there"で、和訳すると「何も感じなくなっていく 誰かがそこにいることすら」って重たいものだったけども、二人はその歌詞の意味をわかってない。小春さんは英語がダメな27歳女性だったし、窓辺まち子は白ねこだった。
     曲が終わって二人は「いえーい」と棒読みで言う。今、二人の中で棒読みで感情を発露するってのが流行ってる。二人にはたくさんのブームがこれまでもあって、その最新系がそれだった。
    「じゃあ日本で一番有名な歌を歌うにゃ……」と窓辺まち子は曲を予約。
     すると大袈裟なイントロが流れ始める。
     それは梅沢富美男の"夢芝居"。
     窓辺まち子の十八番だった。
     小春さんはこの窓辺まち子のこのノリが好きで、笑いながら「どこが一番有名な曲やねん!」って言う。
     テレビでは本人映像が流れていて若き日の梅沢富美男が美しく動いている。
    「男と女ぁ~」とサビになると窓辺まち子はより力強くこぶしをきかせて歌う。
     それに笑いつつ、小春さんの頭は回転し始めている。意識が違う場所に向かう。


    「男と女」って聞くと、やしきたかじんの「男と女」って言い方を思い出すねんなー。文字の起こすと「うぉとこと、うぉん、な」みたいな節回しのやつ。でも、やしきたかじん本人がそれを言ったを聞いたことないねん。世代やないし。私が思い出すんは、芸人のぐっさんがものまねしていたやつ。あー、ぐっさんの本名ってなんやったっけ。あ、そや山口智充や。もともとはDonDokoDonってコンビやったよな。相方ってどうしてるんやろ。サッカーが好きでそういう仕事をしていたはずだけどもさっぱり見んくなったなよなー。あ、全然違うけども梅沢富美男が結婚式に参列したギャルのタレントって誰やったっけ?ゆうちゃみ?みちょぱ?あ、そうや藤田ニコルやー。藤田ニコルは意外とパチンコが好きなんよね。お母さんと並んでパチンコを打ったりしてるらしいねんなー。藤田ニコルとタイムマシーン3号って仲いいらしくて、カバンもらったりしてるらしいねんな。カバンもらうっていいなー。私、全然お金ないから全然新しいカバンも買ってな

    「いえーい」と窓辺まち子が棒読みで言う。
     気が付くと曲が終わっていた。
     慌てて小春さんも「いえーい」って棒読みで言う。
     また別のところに意識が飛んでいた。こんなことがしょっちゅう小春さんにはある。小春さんの頭の中はいつも回転している。そしてその回転に興味や単語がひっかかると連想ゲームを引き起こして、次々と別のことを考えて意識が別のところへいく。目は開けているのに、視界には何にも映ってない。見えているのは頭の中に映し出される膨大な量の思考だけ。
     それゆえにたまに、というかしょっちゅう"今"に乗り遅れる。たくさんの大事なことが起きている"今"に乗り遅れる。そのうちに世界は小春さんを置いて回っていく。小春さんは「世界はやっ」と思う。

    世界は速い。めっちゃ速い。

     そのスピードについていけない。というかついていけなくなった。小春さんはそのスピードの前で呆然としている。
     呆然としているうちに世界から取り残されて、27歳になってしまった。
    「小春。その服…ゴスロリって言うのにゃ?かわいいにゃー。お腹のところの大きな黒のリボンとかいいにゃー」窓辺まち子がオレンジジュースを飲みながら小春さんの黒のゴスロリワンピースを指差す。
    「わー!うれしい!かわいいやんな!BABY,THE STARS SHINE BRIGHTのジェノワーズワンピースやねん!」
    「え?ベイビー…なに…ジェノワ……え、なに……。あっ、靴もかわいいにゃ」
     黒のバレリーナシューズに厚くて大きい木のソールがついたものを小春さんは履いてる。
    「えー!嬉しい!この靴もかわいいよな!ヴィヴィアン・ウエストウッドのロッキンホースバレリーナってやつやねん!」
    「あ、ヴィヴィアン・ウエストウッドは知ってるにゃよ!にゃにゃで見たからにゃ!」
     窓辺まち子はねこだから漫画『NANA』をにゃにゃって発音しちゃう。
    「にゃにゃ?」小春さんは『NANA』を通ってないから、何を言ってるか気がついていない。あの頃通っていたのは『ハチミツとクローバー』だし、ロッキンホースバレリーナは大槻ケンヂからだから…。
    「めっちゃかわいい靴にゃねー。でもなんか履き辛そうにゃね」
    「うん。立ってるだけでゆらゆらするしなー。でもかわいいねん」
    「可愛いのが一番よにゃ。……でも、両方高そうだけど、小春、今、お金って大丈夫なのにゃ…?」
    「大丈夫。両方とも買ったんは、だいぶ前やねん。昔、めっちゃ残業してた時あったやんかー。そん時に残業代で両方買ってなー」
    「あーその時にゃ。大変やった時期だったにゃ」
     "大変な時期だったにゃ"
    「うん。まあ、そうー」小春さんは乾いた声を出す。
    「普段はもっとだるい感じの、なんていうかぶかぶかのTシャツとかだから、なんか意外だったのにゃ」
     小春さんは、本当はいつも着たいねん。最高の気分になるし。でも最近は体力的にも精神的にも着れんかってん。でも今日はまち子と遊ぶし、今日を最高の日にしたかったから着てきてん。って言いたいと思う。
    でもちゃんとは伝えられなくて「今日、まち子と遊ぶし、ほらほら、どうよー?」って言う。
    「めっちゃ似合ってるにゃよ!似合ってるっていうか服も靴も小春そのものって感じにゃよ」
     小春さんは嬉しくてちょっと下を向く、
    「ほんま?ほんま?」
    「本当にゃ。なんか新鮮にゃ」
    「うわーめっちゃうれしい。……でも、これ、実は前にまち子の前で着たことあるよ」
    「え、いつ?」
    「中野の時」
    「え、あの時?着てたっけ?」
    「えーうそー忘れてるんかー」そう言って、小春さんは窓辺まち子の頭をくしゃくしゃってすると窓辺まち子は「なんにゃー!」と唸って、それ見てさらに笑う。
     プルルルル!って退店を促す電話が鳴り響く。
     なので部屋を出る前に最後に一曲歌おうってなってサニーデイ・サービスの『セツナ』を入れる。
     二人ともこの曲が大好きで、そんでMVも大好き。MVはどこかの屋上でアンニュイな女の子が踊ったり踊らなかったりするって内容。そのダンスがすごく好きだった。だから二人は踊りながら歌う。
    「夕暮れの街切り取ってピンクの呪文かける魔女たちの季節!」
     二人でカラオケに行くときは毎回この曲を入れて踊るから、もう振り付けは完璧。
     私たちはサニーデイ・サービスだ!いやMVの女の子だ!!いや、私たちはサニーデイ・サービスでもMVの女の子でもない。けども、踊っているときはそんな気持ちになる。そんな気持ちになるってことが大切なのだ。小春さんも窓辺まち子も言語化できていないけども、そういう気持ち。ごっこ遊びは大人になっても楽しいんだから。
     サビの最後のダンスはほっぺたに手を当てて、頭をかしげるってやつで、それをしながら「セツナの恋人ー!」ってほぼ絶叫しながら歌って二人は笑う。


     カラオケから出たらもう夜も夜。思ったより歌いすぎちゃったにゃ。
     そのまま二人は、そのまま迷わぬ足取りで、いつもよく行く雑居ビルの二階にある中華料理店に行く。
    「にゃー!カラオケ終わりのビールが一番うまいのにゃー!」
    「まじでそう〜!」
     小春さんと窓辺まち子はビールを飲み青椒肉絲と餃子とトマトと卵炒めを食べている。
     この店、まじでめっちゃ美味いから二人は大好き。よく通ってる。
     でも最近は通えてなかった。窓辺まち子は忙しくなっていたし、小春さんはとにかく最悪だったからだ。
     だから今日は意外と久しぶりに二人で遊んでる。
     そんで今日は会ったときからずっとくだらないことを喋ってる。
    「これだけは言えることなんですけどぉ……俺にはぁ……SASUKEしかないんですよ……」今は窓辺まち子渾身の山田勝己モノマネで小春さんは笑ってる。
     あのことを窓辺まち子に伝えなきゃって思うけども、楽しそうに歴代のSASUKEオールスターズのモノマネをしているのを見ていると言い出せなくて、小春さんは言葉を引っ込めて、笑いながらビールを飲んだ。

     
     
     小春さんはひどい表情でモンスターエナジーを飲んだ。
     窓辺まち子と落ち合う前、家から最寄り駅の本八幡駅で、モンスターエナジーを持って震えている。
     最近はいつも最悪な体調だ。睡眠時間もぐちゃぐちゃだ。いつもしんどい。疲れていないときがない。だから元気をつけたい。疲れを吹き飛ばしたい。それにずっと不安。
     だからモンスターエナジーを飲まなきゃって思った
     窓辺まち子と遊ぶのが、不安で元気が必要ってわけじゃない。
     むしろ逆。
     窓辺まち子と遊ぶのはいつだって楽しい。不安もない。
     小春さんには自然体ってものがなにかわからないけども、窓辺まち子といるときはいつも張っている緊張のようなものが解けている気がする。実際、窓辺まち子といるときは自然と地元の大阪弁になっている。まち子と遊ぶのは楽しいことやねん。
     けれども外にいるのと、電車に乗るのが怖い。新宿に行くまで本八幡からは50分。その時間、人混みと閉鎖された移動に耐えなきゃいけない。小春さんにどうしようもない不安が張り付いている。そしていくら土曜日でもちらほらいるスーツの人たちを見ると胸が締め付けられる。
     今日はロリータ着てるからちらちら見られてる。それも不安に上塗りされる。
     もうすぐ電車が来る。
     小春さんは炭酸にむせながら一気に飲み干す。そしてモンスターエナジーを飲んだら「大丈夫」な気がしてくる。大丈夫じゃないかもだけども、大丈夫な気がする。どんな頓服薬よりも効く気がする。
     それに今日はこの服を着ているし。
     電車が入ってくる。小春さんは電車に乗り込む前に無意識に深呼吸をして、車内に入る。


    「今度にゃ。スズナリに立つんだにゃ」窓辺まち子は追加で頼んだ炒飯を食べながら言う。
    「スズナリって?」
    「下北沢の有名な小劇場にゃ」
    「え。すごいやん」
    「やっと。やっとにゃ。やっとここまで来れたって感じにゃよー」
     どんな役者もそうかもしれないけども窓辺まち子の例に漏れず大変な活動だった。客が10人入れば満席になるような劇場で迫真の演技をしていたこともあった。そんな劇場でも客が全然入らないこともあった。でも、窓辺まち子はどんな端役でも手を抜かず、喋る白ねこという独特の存在感を活かして活動を続けてきた。
     そして今の劇団に所属してからはもっと注目されるようになってきた
    「ファンもいるにゃよ」
    「まち子に?」
    「この間、出待ちにあったにゃ。パンフレットにサインくださいって言われたにゃ」
    「サイン書いたの?ってかサインなんて作ってたの?」
    「うん…まあ…作ってたにゃ…」
    「めっちゃ役者気取りやん」
    「気取りじゃにゃい!役者にゃ!」
     そんな窓辺まち子の活動を見て、小春さんは素直にすごいなって思う。本当に素直にすごいなって、まっすぐ、邪心なく思う。
     けれども、小春さんは少しだけ胸の一部が重たい気持ちにもなる。
     窓辺まち子はちゃんと努力してきた。その結果、つかめているのが窓辺まち子の現状だ。それはすごいことだ。
     でも私は?と思う。
     窓辺まち子がスズナリに立つまでの時間、私は何をしてきたんやろ。私だってちゃんと努力してきた。死ぬほど頑張った。馬鹿みたいに働いて、馬鹿みたいに残業もしていた。でもそれは何にも生まなかった。私の数年はあっさり破れて、あっさり捨てられて、消え去った。
     私にもスズナリみたいなもんはあるんやろうか?あったんやろか。
     ってかそもそも私は今、どこに立ってるんやろ。
     客が10人で満席になるような劇場にすら立ててない。
     そもそもなことに気がついて笑いそうになる。
     そもそも、私には、舞台なんか、用意されていなかったんだ。
    「最近なんだけどにゃ。都立家政でトム・ヨークを見たにゃ」炒飯で口をいっぱいにしながら窓辺まち子が言う。
    「トム・ヨークってレディオヘッドの?なんで都立家政に?」
    「わかんないけども、ブックマートって中古ショップの前に置いてあるストリートファイター2をやってたにゃよ」
    「嘘やろー」
    「嘘じゃないにゃ!本当に見たにゃ!ヨガファイアって言ってたにゃ!」
    「ダルシム使ってるやん。それでどうしたん」
    「いや、稽古があったからそのまま立ち去ったのにゃ」
    「なんでそこで稽古に行けんねん」
    「でも稽古は大事にゃ。梅沢富美男が夢芝居でも言ってたにゃ。"稽古不足を幕は待たない"って。あとレディオヘッドよりもイギリスだったらオアシス派にゃ」
    「ドント・ルック・バック・イン・アンガー?」
    「私はワンダーウォールにゃ。あ!店員さん!すんません!またビール追加!!にゃー!!」


     ぐでんぐでんになった窓辺まち子はとにかく「うにゃー!うにゃー!」とさっきから叫んでいる。
    「なんやねん。うるさいなー」
    「俺らどぅーんどぅーん!俺らばーんばーん!!」
    「田我流やん」
    「違うにゃ。田我流フィーチャリングstillichimiyaにゃ」
    「どっちでもええわ」
     窓辺まち子は田我流フィーチャリングstillichimiyaの「やべ~勢いですげー盛り上がる」のサビ前を何度も叫ぶ。サビ前のそこだけをリピートされるのは気持ち悪いな、早くサビに行ってほしいなって小春さんは思う。
     窓辺まち子は一時停止の標識のポールにつかまって『雨に唄えば』のジーン・ケリーのように踊りはじめる。でも窓辺まち子は『雨に唄えば』は見たことなくて、雰囲気『雨に唄えば』をやってる。
    「俺らどぅーんどぅーん!俺らばーんばーん!」
    「おねえさん、二軒目どっすか、ってかなんすか、ロリータっすか。下妻っすか」とこんな中でもキャッチの兄ちゃんが小春さんに話しかけてくる。
     そんな感じでロリータを着てるといじられる。それは嫌でうわーってなって、わーうっとしいなーって思っていたら窓辺まち子がポールから飛び降りて「俺らどぅーんどぅーん!俺らばーんばーん!!」って叫びながらキャッチの兄ちゃんに走っていく。
     キャッチの兄ちゃんもどう反応したらいいかわかんなくて「わっ、なんすかラップすか、ラップすか」しか言わなくて、窓辺まち子は「田我流くらい押さえとけよ馬鹿野郎!」と叫んで、小春さんの手を下から掴んで横断歩道へ走り出す。
     窓辺まち子は小春さんの手を握って笑ってる。
     それを見て小春さんも笑う。
     信号は青から赤に変わりそう。
     必死に走ろうとするけども小春さんはロッキンホースバレリーナ履いているから、全然走れなくて、横断歩道の途中にある中洲で立ち止まる。
     窓辺まち子は颯爽と走りさって、横断歩道の向こう岸で手を振って、その口が絶え間なく動いている。
     何を言っているか遠くからでもわかる。
    「俺らどぅーんどぅーん」
    「俺らばーんばーん」小春さんも呟く。
     小春さんが手を振ると、窓辺まち子は気を良くして、信号機で『雨に唄えば』をやって、大きい声で「俺らどぅーんどぅーん!俺らばーんばーん!!」って叫んで隣にいるカップルから変な目で見られているけども役者だからそんなこと窓辺まち子は気にしない。


    「じゃあ、寂しいけども、そろそろ帰らなきゃだにゃ~」窓辺まち子はスマホを見ながら言う。
     小春さんはその場でしゃがみこんで、ロッキンホースバレリーナでゆらゆら揺れる。
    「どうしたのにゃ」
    「…中野行こ」
    「今から中野?なんでなのにゃ」
    「まだ、まち子と遊びたい。中野で遊びたい」
    「えー終電が」
    「明日は日曜日やで。なんか用事あるの?」
    「晩に稽古が」
    「朝帰ってそれまで寝てたらいいやんかー。行こうやー。中野ー」
     小春さんはどんどん揺れながら言う。
    「なんで中野なのにゃ」
    「…まち子と行く中野が一番好きやから」
    「うーにゃー……まあ、帰ってもスズナリへの道が待ってるだけだもんにゃー。最近はスズナリが怖くて震えてるにゃ…帰ったらまたそれが始まるにゃ…」
    「じゃあ尚更やんかー。今だけスズナリ忘れようやー」
    「にゃー!わかった!行くにゃ!中野に行くにゃ!」
     小春さんは顔をぱっと明るくさせて「ありがとう~」って言いながら、窓辺まち子の頭をわしゃわしゃ~と撫でて「なんにゃー!」と唸る。
    「じゃあ、歩こか」
    「え、歩きで行くのにゃ?」
    「歩きで中野って行ったことなかったやん。行こうや。行きたいやん。散歩。酔い覚ましの」
    「え、でも、その靴で歩くんしんどくないかにゃ?」
    「ええねん。私はええねん。なー夜を歩こうや。今日は夜を使い果たそうやー」
    「PUNPEEだにゃ」
    「STUTSも忘れんといて」
     帰りたくない。
     まち子やないけども、帰りたくない。
     このまま家に帰っても、どうしようもない気持ちになる。
     どうしようもなく、最低で、最悪な気持ちになる場所にまだ帰りたくない。
     それに、窓辺まち子とこうやって遊べるのは最後かもしれないし。



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     中野を目指す。まずは歌舞伎町を突き抜けていく。
     ゴジラの下を歩いて、数多のキャッチを無視して、ラブホ街にいる訳あり男女を横目に見て、バッティングセンターを横切って、ドン・キホーテでマスコットキャラクターのドンペンのサンダル見つけて「いるにゃ?」「いらんわ」って言って、路地を歩いたら徐々に韓国料理店が増えて、残り香のようにまだちらほらあるラブホもあって、さらに路地を抜けると新大久保駅で、大量の韓国料理店があって、そこに西に方向転換して、「またドンキある」「ドンペンのサンダル」「いらんわ」って言って、国道433号線をひたすら歩いていくと小さな橋があって「へーここが神田川なんやって」って言ったら窓辺まち子が立ち止まって「じゃあ、ここで写真撮るにゃ?」って言う。
    「なんでやねん」
    「いいにゃ。神田川にゃ。風流にゃ風流。ほら撮るにゃ。撮るにゃ」とスマホを渡してくるので、小春さんと窓辺まち子は自撮りをする。まち子との身長差があるので、うまいこと入るようにして、かしゃ。
     その写真を見て「わー半目にゃ」って窓辺まち子は言う。写真を見ると二人とも絶妙に半目でめっちゃ笑う。「もう一枚、ちゃんと盛れる感じで撮ろうやー」と試行錯誤してポーズを取ってかしゃって撮ったら今度はええ感じにお互い盛れてて「ええやんええやん!」ってすぐにLINEで共有。ついでに半目の写真も。
     その小さな橋を渡ったところにはセブンイレブン。
     お手洗いを借りて、チューハイを四缶とタフグミとキャラメルポップコーンを買って、ありがとうございました~って外に出ると小春さんは灰皿に向かう。
    「あれ、タバコを吸うのにゃ?」
    「今、ちょっと吸ってるねん」
     そういってメビウスプレミアムメンソールオプションパープル5ミリを取り出して火をつける。
    「まず」
    「まずいんだったらなんで吸うのにゃ」
    「吸ったらちょっとましになるねん」
    「何がましになるのにゃ」
    「ましになるねん」
     小春さんは煙を吐き出して、まずいまずい言いながら、灰皿に捨てる。


     さらにさらに歩いて行って、中野郵便局がある交差点を右に曲がって、もうちょい歩くとそこが中野駅。
     そこについたころはとっくに終電は過ぎていて、人気は少ない。といっても、なんやかんや東京。人もあちこちにいる。店も空いてる。松屋が明るい。いや、松屋が明るいのはどこもそうか。
     人気のない中野サンモール商店街を歩く。
    「誰もいないにゃー」
    「誰もおらんねー」
    「えぐいて!えぐいて!!」遠くの方で騒ぐ声がする。その声に近づくと路地で若者たちが騒いでいる。よく見ると一人が頭から血を流していた。
    「えぐいて!えぐいて!!」血相を変えた若者たちがあたふたしている。
    「えぐいてえぐいてで、本当にえぐいことあるんだにゃ」
     それを見ているのもなんなので、二人はその場を離れる。
     しばらくすると救急車のサイレンが聞こえてきた。
     もう少し歩くと閉館後の中野ブロードウェイがそびえ立っている。
    「あ!前にここ来た!思い出したにゃ!」
    「まち子、思い出すん遅いってー」
    「あの時、確か、小春、なんかのアニメのグッズ買ってなかったかにゃ?」
    「カードキャプターさくらの封印の杖なー」
    「あー!!さくらがカードにびゃーんする時に使うステッキだにゃ」
    「カードにびゃーんってなんやねん。あと"封印の杖"なー」
    「あれやる時、レディース!みたいなこと言わにゃい?暴走族?」
    「レリーズって言うてるねん」
    「なにそれ」
    「さあ、封印解放って意味ちゃうかったかなー」
    「よく知ってるにゃ」
    「漫画版も読んでたからなー」
    「めちゃ好きにゃんね。あの杖も高かった気がするにゃ。あれってまだ持ってるの?」
    「もちもちだよーちゃんとまだ持ってるよー」
     封印の杖は捨てようか悩んだけども、捨てないことにした。
     引越し用のダンボールに詰めるには、封印の杖は長かったしスペースを取った。
     正直だいぶ邪魔だった。
     それでも捨てることはできなかった。
     カードキャプターさくらの封印の杖だったってもあるけども、思い出だったってのもあった。 
     恥ずかしいけどもそれは思い出だった。それもとても良いタイプの。


    「封印の杖あるやん!」って小春さんは叫ぶ。中野ブロードウェイのまんだらけで。
     小春さんは『劇場版カードキャプターさくら封印されたカード』を年に一度は見るくらいには好きだからテンションあがっちゃう。隣の窓辺まち子は「買ったらいいにゃん、いいにゃん」って言う。窓辺まち子はまち子で人がお金を使っているところを見るのが好きだったのだ。
     その頃、小春さんは半端なく残業してた。だからそれなりにお金はあった。だからジェノワーズワンピースもロッキンホースバレリーナも買った。それでもまだお金が残っていたので、カードキャプターさくらの封印の杖も買った。
     買ったはいいものの、二人してどうするねんこれ〜なりながら、とりあえず中野ブロードウェイ近くの中野四季の森公園に行き、とりあえず振り回してみる。
     その時も小春さんはジェノワーズワンピースを着て、ロッキンホースバレリーナを履いている。小春さんは全てが最悪になっていく中で、少しでも最高になろうとしていた。
    「まち子ー。封印の杖持ってるんやったら、こんな黒黒のゴスロリよりもピンクな甘ロリの方が似合ったよなー」って言う。
    「言ってることよくわかんにゃいけども、今で全然似合ってるにゃよ!今の服の雰囲気にぴったりなのにゃ!かわいいにゃ!かわいい!」って言いながら窓辺まち子はiPhoneで動画を撮ってる。
     おだてられて小春さんは何個か笑いながらポーズを取ったあとに「まち子、知世ちゃんみたい」って言う。
    「知世ちゃんって?」
    「さくらの友達。いつもカメラ回してる子」
    「あの子にゃ!じゃあ、あれ言うてにゃ!あのカードをびゃーんってやるときのセリフ!」
    「カードをびゃーんってなんやねん」
    「言うてにゃ!」
    「じゃあいくで……闇の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前に示せ 契約のもと、さくらが命じる レリーズ!」
     そう言うと、小春さんは封印の杖を「ぶしゅんぶしゅん!」って効果音を口で言いながらぶんぶん振り回す。
    「汝のあるべき姿に戻れ、クロウカード!!てれれれんてんてんてん!……ここがカードびゃーんってなるところー」
    「なんでフルで暗唱できるのにゃ!」
     二人はめっちゃ笑う。
     そんなのを覚えてるから、やっぱり捨てずにダンボールに詰めた。


     その夜も二人は中野四季の森公園に行く。夜中だから誰もいない。
    「ここがカードびゃーんってなるところー」
    「なんでフルで暗唱できるのにゃ!」
     窓辺まち子のスマホに残っていたその動画を見て、二人はめっちゃ笑う。
    「うわ、だっさ、私、全然、杖回せてないなー」
    「後ろ、すっごい顔で子どもが睨んでるにゃ」
     それから小春さんと窓辺まち子はチューハイを飲んで、タフグミやキャラメルポップコーンを食べながら相変わらずくだらないことを喋る。
     朝になったら忘れているような会話。
     でもそういう会話こそグルーヴが生まれていて、何を喋っていても楽しい時間が訪れる。
     会話が飛び跳ねる。そういう時だけ、小春さんのあのあちこちに行く思考回路が役に立って連想ゲームのように話題が繋がっていく。
     まず頭から血を出していた人って大丈夫かなって話になって、話は回りまわってというか回りすぎて世界遺産マチュピチュの話になって、マチュピチュってなんか卑猥やなって話になって、ぎりぎり卑猥じゃないものを決めるゲームをやって、窓辺まち子が優勝して、優勝者インタビューに答えて、そしたら徐々に情熱大陸で見るタクシー後部座席インタビューのものまねになってる。
    「そうですにゃ……私にとって役者ですか……うーん……光……」って窓辺まち子が言って二人は笑う。
    「これ千原ジュニアが情熱大陸に出た時のモノマネにゃ。"テレビってなんですか"って聞かれてジュニア、"光"って答えててにゃ~」
    「なんやそれ。めっちゃかましてるやん。やりすぎやん」
     けらけら二人はまた笑う。
     キャラメルポップコーンはどんどん減って、タフグミは食べきる。
     めっちゃ楽しい。けども時折、小春さんはたばこを吸ってしまう。
    「まずいじゃにゃいの?」
    「まずい。でもましになってきたわ」
    「ましってなんにゃ。ベースまずくて、ましになるようなもん吸ってなにがいいのにゃ」
    「なんもよくないねん。なんも」
     ふいに"なんもよくないねん。なんも"って気持ちが通り過ぎていく。楽しい時でも。たまにその気持ちは立ち止まる。
     小春さんはふと思う。今、もしかしたら酷い表情をしているかもしれない。
     こんなに楽しいのに。
     なんでこんなことやっちゃうんだろう。
     すると窓辺まち子が立ち上がる。
     小春さんから離れて、芝生の真ん中にいくと、手を後ろに組んで体を斜める。
    「Today is gonna be the day That they’re gonna throw it back to you~」
    「オアシスのワンダーウォールやん!!」
     唐突なオアシスのリアム・ギャラガーモノマネは妙にクオリティが高くて小春さんはめっちゃ笑う。
     窓辺まち子は白ねこなのに何故かワンダーウォールの歌詞を完璧に歌えている。
    「I said maybe You’re gonna be the one that saves me And after all You’re my wonderwall」
     完璧なサビの歌いっぷりに小春さんは笑う。歌い切った窓辺まち子もめっちゃ笑う。
     小春さんは英語が苦手だったし、窓辺まち子はねこだったから歌詞の意味はわかってなかったけども、そこでは「だから、たぶんだ。お前だけが俺を救える唯一の存在だと思うんだ。つまり言いたいことは、お前は俺の『魔法のような壁』さ」と歌っている。


    「ヨガファイア」
    「ソニックブーム」 
     だらっと芝生に横になりながら、小春さんと窓辺まち子は口でストリートファイター2のモノマネをしている。エアストリートファイター2だ。
    「ヨガファイア、ヨガファイア」
    「ソニックブーム」
    「うーわうわうわうわ……ユーウィン」
     でもそうしているうちに少し会話に隙間が生まれてきた。ちょっと疲れも出てきている。さすがに夕方から遊んでるからね。
     窓辺まち子もあくびをする。つられて小春さんもあくびをする。
    「さすがに疲れたにゃね」
    「そうやね」
     少しの間、無言の時間が流れる。
     もしかしたら、ちょっと寝てしまうかもしれない。
     でも、そうなったら、もう言えないかもしれない。だから、まだ起きておかないと。ちゃんと言わないと。小春さんは起き上がる。
    「まち子、起きてる?」
    「……あ、起きてるにゃよ」
    「寝てたやん」
    「あ。うん。ちょっと。ちょっとだけにゃ…………あ、今もにゃ。……小春、どうしたにゃ」
    「そういえばやねんけども……私、大阪帰る事なった」
    「え!いつにゃ!」窓辺まち子も起き上がる。
    「二週間後くらい」
    「え、すぐにゃ。え!?すぐにゃ!えーなんで」
    「……会社辞めてだいぶたつやん。もうついにお金もなくなって、実家に帰るしかなくなってん」
    「そうなのにゃ…。え、ちょっと寂しい。いや、だいぶ、めっちゃ、まじで寂しい」
    「私も、めっちゃ」
    「あ……通院はどうするのにゃ?」
    「大阪で病院探して通う」
    「精神科って予約取るの大変って聞いたにゃ。大丈夫なのにゃ?」
    「ううん。だから明後日病院行ったときに多めに薬貰わなあかんねん。プラス一か月分くらいは」
    「うわーそれも大変だにゃ」
    「全部環境変わるってやっぱ大変やなー……うん。……ほんまなー」
     二人は黙る。何をどう言ったらいいかわからない時間が少し流れる。
    「でも二週間か。急だにゃ。引っ越しの準備はしてるのにゃ?」
    「ぼちぼち。でも私、体調終わってるやん。だから全然進んでへんわ」
    「ただでさえ引っ越しってしんどいからにゃー。そういう状態やったらにゃー………もっと早めに言ってくれたら手伝ったのににゃー」
     そう言われて、胸が重たくなる。本当に早く言えばよかったと思う。けれども勇気が出なかった。本当に勇気が出なかった。
    「せやな。もっと早めに言えば良かったなーごめんなー」
    「言うてにゃ~なんで言わないにゃ~」
    「……スズナリで忙しそうやったし」
    「じゃあ、スズナリが悪いにゃ」
     二人はまた笑う。
    「……じゃあ、今日が最悪、会えるの最後ってことにゃ?」
    「……うん。そうかも」
    「あー。そっか。うーん。そっか。えー。そっかー」
     しばらく空白が生まれる。
     本当は言いたいことたくさんあって、言わなきゃいけないこともたくさんある。けれども全然いうことができない。
    「……でも最後じゃないよ!私が大阪に帰るってだけだし。ほら私、生きてるし」
    「あ、そっか。そうにゃね。私ら生きてるものね」
    「うん。私ら生きてるねん。生きてる限り会えるねん」
    「……じゃあまた私も大阪行くにゃ」
    「来てや、そん時遊ぼうやー!」
    「そうにゃ!そうにゃ!」
     二人は言い合う。でも、空手形の約束を交わしてるみたいでどこか居心地が悪かった。
     遠くの方で救急車のサイレンが鳴っている。
     また「えぐいて!えぐいて!」みたいなことが起きてるのかもしれない。


    「小春、なんか寒くない?」窓辺まち子が言う。
    「言おう思ってた。めっちゃ寒い」
    「どっか入る?」「入ろ入ろ」そう言ってまた中野を歩く。
     24時間やってる餃子屋を見つける。けれども「いやもう中華はなー」「一日、二回餃子はにゃー」「そうよなー」
    「あっ」と窓辺まち子が指さすとそこにはカラオケビッグエコーがある。
    「またカラオケ?こっちこそ二回目やん」と小春さんは言う。「でも、歌わなくても、朝まで部屋にいるだけでもいいのにゃ。ってかそこで仮眠でも取ったらいいのにゃ」
    「あーそれええな。じゃあカラオケにしよかー」
     そんなことを喋りながらビッグエコーに入る。
     今日二回目のカラオケ。
     二人の最後のカラオケ。


    「アービキャンソーナム!アイキャントフィルユーゼー!」
     二人はまたリンキンパークの『Numb』を歌う。歌わなくていい、仮眠を取ったらいいとか言っていたのに、カラオケに入ったらまた歌っている。
     夕方から遊んで疲れ果ててるはずなのに、二人ははしゃぐ。
     多分、どこかでこんな風に遊べるのは最後かもしれないって思ってるから。
    「いえーい」「いえーい」って棒読みで二人は言う。
    「……小春」
     窓辺まち子は深く重たい声で呼びかける。
    「…どうしたん?」
    「本当に今までありがとうにゃ。大阪に帰っても元気でにゃ」
    「……うん」
    「だから、小春を送りたい。そして送るのにぴったりな曲があるから歌うにゃ。聞いてほしいにゃ」
     そう言ってデンモクを操作して、流れてきたのは大袈裟なイントロ。
     窓辺まち子の十八番。
     梅沢富美男の"夢芝居"だ。
    「あはははは!日本で一番有名な曲やん!!」
    「男と女ぁ〜」
    「あはははは!!!」
     小春さんは笑う。でも笑いながら泣いてる。泣いているのバレたくないから大きな声で笑う。でももっと泣きそうになる。
     だから小春さんも大きな声で「男と女ぁ〜」って歌う。


     プルルルル!と退店を告げる電話が鳴る。部屋を出る前に二人は最後にサニーデイ・サービスの「セツナ」を入れる。
    「夕暮れの街切り取ってピンクの呪文かける魔女たちの季節!」
     二人は踊る。大好きなMVの大好きなダンスを。何度も何度も踊ったダンスを。
    「セツナの恋人ー!!」二人は叫ぶように歌ってほっぺに手をやって首をかしげる。
    そして音楽は止んで、カラオケは終わる。


     もう朝5時だ。外は朝焼けで明るい。カラオケから出ると小春さんも窓辺まち子もあくびが止まらない。身体もさすがに重たい。
     駅には人がたくさんいる。それこそさっきまで遊んでいた人もたくさんいるんだろうな。それから今から仕事をする人もいるんだろうか。
     人が多いところ、そんで仕事をしている人が沢山いる、そういうところにいると小春さんは不安になる。
     けれども、今は少しだけましになっているのは、窓辺まち子と過ごしたからかもしれない。
     いや、実際そうなんやろな。
     駅の改札をくぐる。窓辺まち子と小春さんが乗る電車は反対方向。
     じゃあと別れようとすると、窓辺まち子が口を開く。
    「……スズナリは配信があるにゃ。だから。見てくれたら嬉しいのにゃ」
     窓辺まち子はどこかもじもじしながら言う。
    「じゃあ、見るわ」小春さんは言う。
    「でもお金はかかるにゃ」
    「いくらくらい」
    「2500円だったと思う」
    「うわ。安いとも高いとも言えない絶妙な値段設定やん」
    「絶妙だよにゃー」
    「スマホから見れる?」
    「多分。なんでも。スマホでもタブレットでもパソコンでも…大阪からでも。なんでも見れるにゃ」
    「わかった。大阪からスズナリ見るわ」
     窓辺まち子はうなずく。
     あ、まち子。と小春さんは言って、まち子を抱きしめる。
     小春さんは何かを言おうとする。けども言ってしまったら、耐えられなくなりそうで、何も言えなかった。
     しばらく抱きしめると、小春さんは離れて「じゃあね。スズナリ頑張ってね」と言う。
     窓辺まち子はうなずく。
     それから小春さんは窓辺まち子をじっと見て、窓辺まち子の頭をわしゃわしゃーってすると「なんにゃー!」とうなる。
     それに二人で笑って、じゃあねーと手を振り合って、二人は離れていく。
     小春さんは本八幡へ行く電車に乗る。なんとか席に座ることができる。
     小春さんはiPhoneを取り出す。
     iPhoneでLINEを開くとあの神田川で撮った写真が出てくる。ちゃんとポーズを取って良い感じに盛れてるやつ。私ら、ええ感じやん。横にスワイプすると二人が半目で写ってる写真。
     それを見てふふふ、と笑う。
     電車が動き始める。
     眠気と疲労が急激に襲ってくる。それが電車の振動で加速していく。小春さんはあくびをする。眠気と共に頭が回転し始める。眠気と疲労が混じってるから、いつも以上にいろんな思考がまとまりなく広がっていく。 


     まち子アホやったなー。「俺らどぅーんどぅーん!俺らばーんばーん!」って叫びながら『雨に唄えば』やってるのアホやったなー。でもキャッチの兄ちゃんに突っ込んでいったのかっこよかったなー。まち子ああいうところあるねんなー。一緒に横断歩道走ったの楽しかったなー。あれエモくない?なんか『ルックバック』みたいじゃない?藤本タツキってない?エモかったといえば昔、鎌倉に行ったのもエモかってんなー。まち子と大仏見たり海岸見たりしてなー。でも海に向かって全速力で走るまち子は間違いなくアホやった。波にぶつかって「めっちゃ冷たいにゃー!」って、着替えもなくて。まち子、やっぱアホやわ。「Today is gonna be the day That they’re gonna throw it back to you~」ってなんでオアシスの完コピモノマネできるねんな。オアシス再結成したからできたとか言うてたけどもほんまかよ。SASUKEもそうやねん。「これだけは言えることなんですけどぉ……俺にはぁ……SASUKEしかないんですよ……」ってSASUKEハマってたからできたとか。そんなんでできるクオリティちゃうやろ。あいつアホやわー。あとめっちゃ食べてたなー。餃子と青椒肉絲とトマトと卵炒めのあとに炒飯追加で食べてたなー。絶対食べ過ぎやろ。腹パンパンやったやろ。「男と女ぁ~」って歌も絶妙に上手いのなんやんねん。なんであいつちゃんとちょいちょいクオリティあるねん。あとトム・ヨークは都立家政でスト2やってないやろ。でも言うてた時期と来日単独ライブの時期重なってるんよな。でもトム・ヨークは都立家政でスト2はやらんやろ。なー。「ヨガファイア、ヨガファイア」「ソニックブーム」「うわうわうわうわユーウィン」アホみたいな時間やったなー。でもエアストリートファイター2めっちゃ楽しかったなー。ああいうことやってくれる友達ってこの先いるんやろうか。おらんやろうなー。まち子だけやろな。「アービキャンソーナム!アイキャントフィルユーゼー!」「セツナの恋人ー!」一緒にあんな風に歌ってくれる友達もまち子だけやろうなー。「めっちゃ似合ってるにゃよ。似合ってるっていうか服も靴も小春そのものって感じにゃよ」服と靴、褒めてくれて嬉しかったな。今日このジェノワーズワンピース着てきて、ロッキンホースバレリーナを履いてきて本当良かったな。
     まち子。率先してアホをやってくれるまち子。一緒に大きな声でリンキンパークやサニーデイ・サービスを歌ってくれるまち子。服を褒めてくれるまち子。街頭で雨に唄えばをやるようなまち子。役者を頑張ってるまち子。意外と泣かせる芝居も上手いまち子。たくさんモノマネをしてくれるまち子。けども舞台では一切モノマネをやってないまち子。なんでやねん。
     まち子と遊んだ日で外れやった日なんて一日足りともなかったなー。ほんまなんでもない時間を楽しい時間に変える天才やった。私の地獄みたいな毎日の中に、確実に楽しい日を作ってくれた。私にとって緊張のない時間を作ってくれた。だから、連絡遅くなってほんまにごめんなー。
     なあ、まち子。まち子が友達だってことが私にとって唯一の救いやった。まち子が友だちでほんまに良かった。だからまち子、スズナリ頑張ってなー。もっとまち子売れてなー。それでもっともっとでかい劇場に出て、それでもっと売れて、情熱大陸の密着入って、タクシーの後部座席でインタビューされてな「そうですにゃ……私にとって役者ですか……うーん……光……」まち子、それはやりすぎやって。光ってなんやねん。ほんまアホやわー。でもな、まち子。私にはまち子が光やってん。
     その瞬間、小春さんは眩しいと思う。
     小春さんの思考の外で、電車の窓の外で朝日が登っていて、その光が小春さんの目に飛び込む。
     それを見て、小春さんはほほえんで、そして眠る。
     そして小春さんは大阪へ帰った。




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