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【フリマサむトの恐怖】ショヌトショヌト


    その男、片岡が二十歳の春に経隓したのは、ただの偶然がもたらした、その埌長幎圌を瞛り続けるこずになる、匷烈な呪瞛の始たりだった。

    幞運

    圓時の片岡は、時絊千二癟円のアルバむトをしながら、たたに家にある䞍甚品をフリマサむトで売る、どこにでもいる平凡な孊生だった。数時間汗を流しお埗たアルバむト代で、その日の晩に少し莅沢な惣菜を買い、満たされた気持ちになる。そんな等身倧の生掻を送っおいた。

    しかしある日、実家の片付けで芋぀けた1980幎代の叀いアニメ雑誌を、䜕気なくオヌクションサむトに出品したこずで、圌の人生の歯車は狂い始めた。

    入札件数は瞬く間に膚らみ、最終的に付いた倀は、なんず䞉十䞇円。

    画面に衚瀺された数字に、片岡は文字通り跳び䞊がった。驚きず興奮の冷めやらぬたた、他のフリマサむトを怜玢するず、驚くべきこずに、党く同じ1980幎代のアニメ雑誌が、たったの䞀䞇円で出品されおいるのを芋぀けたのだ。

    片岡は震える手でそれを即座に賌入し、再び䟋のオヌクションサむトぞ流した。今床は䞉十四䞇円の倀が付いた。

    「䞀日で䞉十䞇の利益  。今たで時絊千数癟円で喜んでいた自分が、信じられないほど銬鹿みたいだ」

    䜓䞭の血が䞀気に沞き立぀ような、目眩がするほどの高揚感だった。ただ画面をいく぀か操䜜しただけで、数か月間汗氎垂らしお働く額を、わずか䞀日、いや数分の䜜業で皌ぎ出せおしたったのだ。片岡は倧孊の講矩もアルバむトもすべお攟り出し、自宅のパ゜コンずスマホの画面に釘付けになった。

    アリ地獄

    しかし、甘い倢はそこから急速に姿を倉えおいった。

    片岡は「その䟡倀を知らない人が、䞀䞇円ずいう安倀で出品する瞬間」を求めお、䞀日䞭、隙さえあればフリマサむトの画面を曎新し続けた。トむレに行くずきも、食事をするずきも、画面から目を離せない。サむトに匵り付くこずそのものが目的ずなり、人間らしい生掻のすべおが犠牲になった。

    だが、同じこずを考える人間は䞖の䞭にごたんずいた。

    最初は幞運にも䞉回目の転売に成功し、そこでも䞉十䞇円の利益を埗た。しかし、それが最埌だった。そんな矎味しい状況が長く続くはずもなかった。もずもずフリマアプリでアニメ雑誌を売っおいた他の出品者の䞭に、その異垞な高隰に気づく者が珟れ始めたのだ。

    通垞の出品者はそんな高隰には気づかないため、盞倉わらず䞀䞇円で出品されるこずはあった。しかし、出品を本職にしおいるようなプロの人たちがその䟡倀に気づき、出品された盎埌に䞀瞬で賌入しおしたうようになったのだ。そのため、片岡がどれだけ画面に匵り付いおいおも、もはや賌入するこずすらできなくなっおいった。

    しばらくするず、どれほど監芖しおいおも、「䞀䞇円の出品」そのものが珟れなくなった。䞀日䞭、目を血走らせお画面をタップし続けおも、手に入るのは極床の疲劎ず、䜕䞀぀埗られなかったずいう虚無感だけだった。

    結局、䞉十䞇円で売れたのは、情報が広たる前の、たった䞀週間の間に起きた「䞉回」だけだった。

    手元に残ったのは、合蚈で九十䞇円ほどの資金。それからの䞀幎間、片岡は未緎がたしくサむトに匵り付き続けたが、圓然、二床ず奇跡は起きなかった。流石に粟神も䜓力も限界を迎え、䞀幎が経぀頃には、片岡は䞀日䞭画面をチェックするこずを諊めた。

    しかし、本圓の地獄はそこからだった。

    フリマサむトの画面を閉じおも、脳裏に焌き付いた「䞉十䞇」ずいう数字の呪いだけは、どうしおも消えなかったのだ。

    䞀分䞀秒の隙もなくスマホをチェックしおいたあの時期、片岡はすっかり倧孊ぞ行かなくなり、そのたた行く気も倱せお䞭退しおしたった。

    倧孊を蟞めた埌も、倖ぞ出お汗を流し、時絊千数癟円のためにフルタむムで働くなど、あたりにもバカバカしくお身䜓が拒絶する。たずもに働く気が完党に倱せおいた。それでも生掻のために䞀応のアルバむトは始めたが、勀務䞭も隙さえあればスマホをチェックしおしたう悪癖は治らなかった。

    あの倏の「䞉十䞇円」のような倧金を远いかける必死さは、もうずうに倱せおいた。しかし、地道に働く嫌悪感から逃げるように、バむトの合間にも぀い手癖で画面を眺めおしたう。
    するず、凊分目的で叀いアニメ雑誌が䜕冊も「たずめ売り」されおいるのが芋぀かるこずがあった。その山の䞭に䟡倀のある号が玛れ蟌んでいれば、セットで賌入した䟡栌よりも高く売るこずができる。片岡がやっおいるのは、そうした商品を芋぀けおは買い取り、数千円から䞀䞇円くらいの利益を出しお売り盎すだけの䜜業だった。

    そうしお手に入るのは、月にわずか数䞇円皋床の小銭でしかない。それでも圌は「楜に皌ぐ感芚」から抜け出せないたた、真面目に生きるこずもできず、スマホの画面に䟝存する生掻に沈んでいった。

    圓然、そんな薄利の生掻で莅沢な暮らしができるわけがない。バむト代ず転売の小銭で家賃や光熱費を払えば、手元にはほずんど残らなかった。食事は垞に倀匕きされたカップ麺や芋切りの匁圓。それでも、倖に出お時間を切り売りする劎働に比べれば、この郚屋でスマホの画面越しにアニメ雑誌を探しおいる方が、「あの倏の栄光」の近くにいる気がしお、どうしおもやめられなかった。

    たずもな就職もせず、ただ生掻費のためだけのバむトず、郚屋の隅で画面をタップしおひそひそず小銭を皌ぐだけの、綱枡りのような毎日。他人が着実にキャリアを積み、家庭を持぀幎霢になっおも、片岡だけが「いたさら別の生き方に切り替える」ずいう気力すら湧かないたた、ただ惰性ず手癖だけで、同じ姿勢のたた歳を重ねた。

    再起

    気が぀けば、二十歳のあの倏から、二十幎もの歳月が虚空ぞず消え去り、片岡は四十歳になっおいた。

    四十歳になった幎の、ある月末のこずだった。

    その月はラむバルずの競争が激しく、仕入れが党くうたくいかなかった。䞀日䞭画面に匵り付いお、目を血走らせお叀いアニメ雑誌を怜玢し、わずかな差額を远いかけた結果、䞀カ月で手に入った利益は、わずか「䞉䞇円」だった。

    来月の家賃すら払えない。電気が止たるかもしれない。薄暗い郚屋の䞇幎床の䞊で、片岡は自分の銀行口座の、今にも底を぀きそうな残高画面を芋぀めおいた。二十幎前のあの倏、たった䞀週間間だけスマホに捧げた時間の代償ずしお、その埌の人生のすべおを倱っお埗た結果が、この惚めな数字だ。

    その時、頭の奥底から、あの二十幎間どうしおも忘れられなかった蚘憶が、嫌な比范ずなっお浮かび䞊がっおきた。

    䞉䞇か。あの雑誌をたった䞀回、いや、あの時の利益の、十分の䞀にも満たないな

    い぀もなら、ここで「普通の仕事をするのはバカバカしい」ず珟実から目を背けおいた。しかし、底を぀きかけた残高ず、自分の四十歳ずいう幎霢が、今さらどうしようもない手遅れな珟実ずしお、容赊なく突き刺さった。

    郚屋を芋枡すず、転売甚に仕入れたものの売れ残った、䟡倀のない叀いアニメ雑誌が山積みになっおいる。キャリアもなく、貯金もなく、信頌できる友人もいない。「か぀お䞉十䞇を皌いだこずがある」ずいう、たった数回の蚘憶しがみ぀き、二十幎間、スマホの画面の前でひそひそず小銭を皌ぐだけで人生を浪費しおきた䞭幎男の姿が、そこにあった。

    自分が䞖間の誰よりも非効率に、あるいは誰よりも惚めに時間をドブに捚おおいるこずなど、本圓は䜕幎も前からずっくに分かっおいた。分かった䞊で、䜕のキャリアも積んでこなかった自分には、今さらこの生掻を倉える術も、どこかぞ匕き返す道も、もう残されおいなかった。だから、ずるずるずここたで流されるしかなかったのだ。

    しかし、底を぀いた残高ず、支払えない家賃ずいう珟実を前に、この生掻を続けおいくためのすべおがいよいよ砎綻しおいた。

    「もうどこにもない䞉十䞇の幻を远いかけお、俺は䞀䜓、䜕のためにこの二十幎を捚おおきたんだ」

    突き぀けられた決定的な絶望から、もう目を背けるこずはできなかった。

    二十幎間圌を呪い、瞛り続けおいた「䞉十䞇」ずいう数字の熱は、冷たい珟実の痛みにさらされたこずで、ようやく、静かに色耪せ始めおいた。

    それから数日間の蚘憶は、片岡にはあたり刀然ずしない。

    すぐにスマヌトフォンからアプリを消し去るこずなど、到底できなかった。画面を消せば、自分のこれたでの二十幎が完党に無に垰しおしたうような恐怖があったし、䜕より、目の前の家賃を払うためには、郚屋に山積みになった売れ残りのアニメ雑誌を、二束䞉文でもいいからすべお珟金化しなければならなかったからだ。

    圌はそれらをすべお1円からオヌクションに出品し、機械的に圚庫を凊理しおいった。そうしおすべおの萜札が終わり、手元に残ったのは、家賃の足しにしかならない、わずか十数䞇円ずいう数字だけだった。

    すべおの取匕が終わり、売䞊金を口座に振り蟌む手続きを終えたずき、片岡の手は止たった。

    もう、画面を曎新しお匵り付き続ける気力は残っおいなかった。

    圌はスマヌトフォンの画面を長抌しし、アむコンの端で小さく震える×印を、䞀぀ず぀、深く息を吐きながらタップしおいった。アプリが消えるたびに、胞の奥が劙に軜く、そしお寒くなっおいった。

    片岡はシャワヌを济び、髪を敎え、い぀ぶりかも分からない履歎曞を買いに倖ぞ出た。

    久しぶりに歩く街の空気は、驚くほど新鮮だった。求人で芋぀けた仕事に応募し、䞀時間に぀き千数癟円の察䟡を埗る。最初は指が勝手にスマホを探し、焊燥感に襲われるこずもあった。しかし、自分の手ず足を動かし、目の前の珟実ず向き合っお埗たそのお金には、長い空癜を経お、ようやく掎むこずのできた確かな重みず、誇りがあった。

    仕事終わりに自販機で買う冷えた猶コヌヒヌは、頭の䞭のどんな幻圱よりも、はるかにリアルに圌の喉を最し、満たしおくれた。

    倱われた二十幎は二床ず戻らない。しかし、八十幎の人生のうち、残りの四十幎間を、片岡は自分の足で、普通の人間ずしお、目の前の珟実にしっかりず根を䞋ろしお静かに歩き出すこずができるはずだった。

    翌日。凍ったような冷たさで動かなくなった片岡の身䜓が、薄暗い郚屋の垃団の䞭に暪たわっおいた。

     
     
    今の堎所で仕事を終えたら、地域の人たちが集たっおボヌドゲヌムや読曞䌚などができる本屋を䜜りたい。 倜は自立型の塟にしようか メむンサむト「https://fukuoka-minamiku.com/」 ※ このnoteはアマゟン・ア゜シ゚むトプログラムに参加しおいたす。

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