
正しいことは正しいけれど腑に落ちなかった日『ジャータカ』第5話「一桝の米」
ネットの記事を読んでいると、
肯定的なことに、
反論する記事があります。
逆に、批判的なことに対して、
反論する記事があります。
そのどちらも、
「なるほど」
と思うことがあります。
反論する理由もありません。
理屈も通っています。
言われると正しい。
けれども、
「そういうことじゃない気がする」
その違和感を、
うまく言葉にできない日があります。
そんな時、
一桝の米から始まるお話を、
思い出します。
【ジャータカの物語】
第5話 一桝の米
Taṇḍulanāli-jātaka
昔、
バーラーナシーの国に、
品物の値打ちを決める、
賢い評価官(ボーディサッタ)がいました。
けれども王は、
その値段が気に入りません。
「もっと安く買えないものか」
そう考えた王は、
一人の村人を呼び、
新しい評価官にしました。
ある日、
馬商人が、
五百頭の馬を連れてきました。
王は、
新しい評価官へ尋ねました。
「この馬には、
どれほどの値打ちがある。」
新しい評価官は言いました。
「一桝の米ほどです。」
王は喜びました。
馬商人は困り、
前の評価官だった
ボーディサッタを訪ねました。
話を聞いた賢い評価官は、
しばらく考えて言いました。
「その評価官へ、
少しだけ贈り物をしなさい」
「そして、
王さまの前で、
こう尋ねるのです」
『では、
一桝の米には、
どれほどの値打ちがあるのでしょう』
馬商人は、
賢い評価官の言う通りにしました。
すると新しい評価官は、
大勢の家臣が見守る前で、
胸を張って言いました。
「一桝の米は、
バーラーナシーの国土すべてと、
王さまのお立場を合わせたものと、
同じ値打ちです」
家臣たちは、
思わず笑いました。
王も、
何も言えませんでした。
そして王は、
新しい評価官を追い払い、
再び、
ボーディサッタを
評価官へ戻しました。
【読み解き】
このお話について、
わたしは、
王が、
一桝の米の値打ちを、
喜んだことが気になります。
馬が安く手に入る。
その値打ちは、
王にとって、
都合のよいものでした。
だから、
王は、
一桝の米の値打ちを、
信じました。
すると、
ほかのものまで、
その値打ちで、
みえてしまったのです。
そう考えると、
わたしたちも、
自分にとって、
都合のよい物差しを、
信じてしまうことが、
あるのかもしれません。
けれども、
その物差しだけでは、
世の中は、
動いていきません。
馬商人は困り、
評価官は、
知恵を考え、
家臣たちは、
笑いました。
そうして、
一桝の米という物差しは、
いつの間にか、
消えていったのです。
【物語のあとで】
「なるほど」
と思う記事を読みました。
いったんは、信じました。
ただ、
毎日を過ごしているうちに、
少しずつ、
その気持ちから離れていったのです。
何か新しい考えに、
出会ったわけでもありません。
あの日の王が、
少し近く感じられる気もします。
そう思うと、
あの一桝の米は、
いつの間にか、
消えていきました。
あの時、
自分が信じた物差しは、
どうなのだろうか。
そんなことを、
少し考えてしまったのです。