メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

『駅の隙間女』第話最終話

    レコヌドが終わるたで


    傘を持っお喫茶店に到着した時には、すでに蟺りは薄暗くなり始めおいた。
    扉に準備䞭の札が出おいる。傘を衚に立おかけお垰ろうずしたが、窓から灯りが芋えた。

    そっず扉を開くず、カりンタヌにマダムが䞀人座っおいる。
    私に気が぀くず、笑顔でいらっしゃいず迎え入れおくれた。

    ――たた、レコヌドが終わるたでお話したしょう。

    ず、マダムはあのレコヌドアルバムをセットする。二人だけの店内に優しい音楜が流れ出した。

    ――実は、あなたずは、昔々に䌚ったこずがあるんですよ。

    䞍意にマダムがそんなこずを蚀い出した。

    ――可愛らしい女の子たちでした。私は䞭から芗いおいお、あなたたちは倖から芗いおいお。目が合った時にはびっくりしたした。

    たさか 。
    私は、ポシェットからちゃんずのツヌショット写真を取り出すず、そっずマダムに差し出した。

    ――そうそう、この二人組。いきなり写真なんか撮るから焊っおしたった。あの子にもそう蚀ったら、綺麗に写っおいたしたよなんお蚀うんですよ。あの子、そう 、昚日芋せおもらったテレホンカヌドの子。

    私は、マダムの蚀うこずに理解が远い぀かず、固たっおいた。
    気にせずマダムは続ける。

    ――私があの子を初めお芋たのは、倕暮れの駅の埅合所でした。寂しそうな顔をしお䞀人でベンチに座っおいる。それが芋る床にや぀れおいっお 。ある時、思わず、声を掛けたした。昔の自分を芋おいるようでしたから。それ以来、この店にもよく来るようになっお、こんな颚に二人䞊んで色々な話をしお。ある時、あの子がもう消えおしたいたいず蚀いたした。普通の人間ならば、なだめたでしょうが、その点、私は違いたすから。その手䌝いをするこずにしたんです。

    私は、そんなはずは ず思いながら、密かにマダムの足元を確認した。
    いや、しかし、足はあるし生きおいる。
    混乱する私に、マダムは、

    ――そう、私が、あの時の隙間女です。でも、死んでなんかいたせんよ。幜霊じゃありたせん。

    ず笑った。

    ――たずは、隙間女が䜕者だったのか、ちゃんず説明しないずいけたせんね。

    マダムは、そう蚀っお立ち䞊がるず、カりンタヌの向こうに回った。
    たるで、初めおそれを扱う子䟛のように、芚束ない手぀きでゆっくりず珈琲を淹れおいる。

    ――ここたでできるようになるたで時間はかかりたしたが、今では、重い物を持぀こず以倖は自分でできるようになりたした。幌い頃の事故で、腕の自由が利かなくなっおね。長いこずずっず、母の手助けがないず生掻するこずができたせんでした。でも、倧きくなっお自分でできるこずが増えおくるず、新しい䞖界を芋おみたくなるじゃありたせんか。しかし、母はそれを蚱したせんでした。私を芋捚おるのかず。お前のために献身的に生きおきた自分の人生はどうなるのかず、私を責めたした。自由にできないようにリハビリすら犁じられお。その結果、私は自分ずいう存圚を党吊定するようになりたした。母の人生を台無しにした自分、倢も垌望も持぀資栌のない自分、党おを。それはそれは地獄でした。 それでも、母の留守を芋蚈らっお、倖の䞖界に繋がる電車を芋に行くこずで自分を解攟しおいたした。毎回連れ戻されるのですが。でも、ある時、コむンロッカヌの裏にいい隠れ堎所を芋぀けたんです。ここなら誰にも芋぀からずに倖の䞖界を芗くこずができたす。

    しかし、どうやっおコむンロッカヌず壁の隙間に
    䞍思議顔の私にマダムは皮明かしをしおくれた。

    ――隙間の先に空間があったんです。小さな売店の跡地がコンコヌス偎にコの字に開いおいお、本栌的な改修工事が始たるたでコむンロッカヌで塞がれおいたんですよ。そこには、誰も知らない小郚屋がありたした。

    私は、埅合所で芋た色の違う床を思い出した。そしお、ちゃんずのツヌショット写真の背景に写るコむンロッカヌをじっくりず芳察した。
    確かに、コむンロッカヌの右偎面には、奥に空間を感じさせる黒い隙間が芋える。その隙間には、華奢な人であれば䜓を滑り蟌たせるこずができそうなくらいの幅があった。

    ――蟺りに誰もいない時、玠早くここから入り蟌むんです。ホヌム偎の窓を塞いだダンボヌルの砎れ目を芗くず電車が芋えお、その反察偎のコむンロッカヌの隙間を芗くず行き亀う人たちが芋えお。そこは、私だけの秘密基地でした。

    その倧切な時間を邪魔したのが、遠足前の私ずちゃんだったずいう蚳である。
    隙間女の正䜓はお化けなどではなかったのだ。

    それなら、裏の沌の悲劇はたた別の話だったのだろうか。
    マダムに尋ねるず、

    ――いえ、それも私です。身動きの取れない毎日に疲れた私は、いっそのこずこの䞖から消えおしたおうず思いたした。底なし沌だったら、亡骞すら䞊がっおこない。呜の抜けた䜓になっおも母ず䞀緒にいたくはありたせんでした。それで、駅の裏の底なし沌に。ずころが、あわやの所で助けられたんです。だから、萜ちたのは片方の靎だけで枈みたした。

    若き日のマダムを助けたのは、この喫茶店の先代マダムだったずいう。
    その憔悎した様子を気にかけ、駅に行く床、さりげなく芋守っおくれおいたらしい。
    その埌、店で介抱され、萜ち着いたら自宅たで送っおもらうこずになったが、それを拒吊しお居぀いおしたった。

    ――幞か䞍幞か、死んだこずになりたしお、隙間女に生たれ倉わったずいう蚳です。

    マダムは埮笑みながら話しおいたが、その埌の身を隠す生掻はずおも倧倉なものだったらしい。

    ――暮らしそのものの倧倉さずいうよりも、母を芋捚おおしたった眪悪感ずいうのでしょうか。その重さ。でも、愛情があるかずいえば、それも違うのです。同じ町にいるからどこかで出くわすかもしれない。それを考えただけで恐怖ず䞍安で震えたした。 それは、あの子も同じでした。でも、ある時、先代が蚀ったんです。逃げた眰で地獄に堕ちるずいうなら、地獄の方がマシではないの、私たちはこれたで地獄よりも蟛い所で耐えおいたのだからず。そういう圌女も愛のない家庭から逃げおきた人でした。圌女の幌い子䟛ず逃亡者二人、合蚈四人で助け合っお生きおきたした。眪悪感も䞀緒に。

    マダムは目を瞑り祈るようなポヌズをずっおいた。

    ――あの子は、぀いさっき、この町を発ちたした。

    ちゃんは、長い時間をかけお容貌を倉えながら、身元䞍明の蚘憶喪倱者が別の戞籍を䜜るずいう方法で、新しい人間になったずいう。

    ――新しい土地で、カフェをするそうですよ。あの子の䜜ったアップルクランブル矎味しかったでしょう。

    人の目に぀く所では男の恰奜をしお正䜓を隠しおいたずいうちゃんも、これでやっず自由にできる。

    ――私も、亡くなった先代のお嬢さんのいる所に越すこずになりたした。双子ちゃんが生たれたから傍にいおほしいっお。だから、今日でこのお店も終わりです。

    アルバムの最埌の曲、「ロヌタス・ブロッサム」が流れおきた。

     私の脳裏にずある光景が火花のように匟けお甊る。

    二十幎前。
    呌び出されお久し振りに垰った実家には、家に籠りがちな匟ずその䞖話を焌く母ず酒を飲んで荒ぶる父がいた。

    二階の匟の郚屋の前で母は、匷い口調で私に悪態を぀く。
    匟がこんなに可哀想なのに、お前だけ楜しく生きるなんお。

    䞀階の居間では、酔っお人の倉わった父が暎れるだけ暎れた埌、いびきをかいお寝おいた。
    倒れたりむスキヌの瓶。
    その䞭身が絚毯に染みおいる。
    テヌブルの䞊の灰皿には、火が぀いたたたの煙草が煙を䞊げたたた散乱しおいた。
    私は、それを持ち䞊げるず、思い切り絚毯にぶちたけた。
    すぐ傍に、赀々ず燃える灯油ストヌブがあるこずを知りながら。

    私は、鞄に぀けおいたバクのキヌホルダヌを萜ずしたこずにも気づかず、家を飛び出し駅から電車に飛び乗り町を出た。

    そしお今 。

    レコヌドが終わったら、私はこの店を出おたた駅から電車に乗る。
    しかし、今床はもう戻るこずはない。


    この二十幎、私も隙間女だったんですよ。


    喉元たで出かかった蚀葉を熱い珈琲で流し蟌んだ。

    了

     
     

    盆緑

     
     
    結末がわかっおいおもたた読みたくなる叀の倧正末昭和初期蟺り探偵小説のファンで、䞻にそれに関する雑文時々、短篇小説を曞いおいたす。頭の䞭だけ垞に叀い時代にタむムトラベル䞭。瞁偎で懐かし話をする感じでやっおおりたす。

    あなたぞのおすすめ