
地声で話せなくても
「お前の声ってハスキーボイスだよな」
小学生の頃、一人の男子に冗談混じりに言われた言葉。
それまで特に自分の声にコンプレックスがあったわけではなかったけれど、この一言をきっかけに「私の声って変なのかな…」と気になるようになった。
中学生になり、私は人前で地声で話すことができなくなった。
意識的に地声を出さないのではなく、無意識で裏声に切り替わるようになってしまった。
そのため、家族以外と話す時は常に裏声で話していた。
厄介だったのは家族と他人が同じ空間にいる時のこと。
地声で話せば他人から、裏声で話せば家族から「いつもと違うな」と思われてしまう。
それが嫌で、できるだけ家族の前で他人と話すことを避けた。
一時期、学校で地声を出そうと試みたものの、無理をしたかすれた地声が出てしまうだけで「風邪ひいた?」と友達に心配されて諦めた。
高校生になる頃、もう地声が何なのか、裏声が何なのかもわからなくなっていた。
初めての子と話す時は緊張でより声が高くなってしまい、「すごい高いね!」とびっくりされることもあった。
何で自分は普通に声が出せないんだろう…と今度は地声自体ではなく、地声を出せないことがコンプレックスになっていった。
そんな時、歌を習っていた親友がふと「春ってミックスボイス上手だよね」と言ってくれた。
その時の私にはさっぱりだったのだが、調べてみると地声と裏声の中間のような発声方法だった。
地声なのか裏声なのかわからなくなっていたのは、基本の発声がミックスボイスになっていたからだとこの時気がついた。
そして、親友の一言がきっかけで今の自分の声に名前があったことを知り、それまでコンプレックスだった自分の声が認められたようで嬉しくなった。
友達やクラスメイトからは「アニメ声みたいで可愛いね」と話し声や歌声を褒められることもあった。コンプレックスではなく、個性として自分の声を少しずつ受け入れられるようになった。
あれから約10年、私は今もミックスボイスで話している。
年々コツを掴んだのか、家族と他人が同じ空間にいる時は、低めのミックスボイスで話せばどちらからも違和感を感じられないことに気がつき、家族の前で他人と会うことも抵抗がなくなった。
年齢を重ねたのもあるかもしれないが、普段の声も少し低めを意識することで、昔ほど高音やアニメ声を指摘されることもなくなった。何も知らない人からはほぼ地声に聞こえているのではないかと思う。
結局、他人の前で地声を出すことはいまだにできていない。そして、この悩みを身近な人に打ち明けられたこともない。
しかし、今はもうコンプレックスではない。地声も裏声もミックスボイスも全部私の大切な声だから。