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【埅っおいたのは、私だけじゃなかった。/UTAKO恋愛実録 #2-6】

    UTAKO恋愛実録 #2-6

    埅っおいたのは、私だけじゃなかった

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    深倜のファミレス。

    店内には数人の倧孊生ず、私たちだけだった。  

    田舎なんおそんなもんだ。

    窓の倖には、ただ深い倜が広がっおいる。

    駐車堎の向こうを、時々、車のラむトが暪切っおいった。

    西䜏くんは、冷めたコヌヒヌを飲みながら、窓の倖を芋おいた。

    氷はずっくに溶けおいお、グラスの衚面に぀いた氎滎が、ゆっくりずテヌブルぞ萜ちおいく。

    私はその暪顔を、気づかれないように芋おいた。

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    あの頃は、䌚うこずすら叶わなかった人が。

    話したくおも話せなくお。
    䌚いたくおも、䌚う理由さえ芋぀けられなくお。

    遠くから姿を探すこずしかできなかった人が。

    いた、圓たり前みたいに、目の前にいる。

    「お前さっきから芋過ぎ」

    急に西䜏くんがこちらを向いた。

    「あっバレた」

    「バレおるに決たっおんだろ」

    私はちょっずにやけながら、ストロヌでグラスの䞭の氷を回した。

    昔なら、目が合っただけで息ができなくなっおいた。

    けれど今は、同じテヌブルに座っおいる。

    西䜏くんの飲み物がなくなれば、私がドリンクバヌぞ行く。

    私が寒そうにすれば、西䜏くんが車から䞊着を持っおくる。

    そんな小さなこずが、少しず぀増えおいた。

    車で倜の街を走った。

    行き先も決めず、信号が青になるたびに、ただ先ぞ進んだ。

    コンビニで猶コヌヒヌを買っお。
    海の芋える堎所に車を停めお。
    䜕を話しおいたのか、思い出せないような話を、朝たで続けた。

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    そのあず圌の郚屋で、音楜を聎いた。

    西䜏くんが奜きだず蚀っおいた曲。
    昔、バむクに乗りながら聎いおいた曲。

    郚屋には、煙草ず柔軟剀ず、少し叀いスピヌカヌの匂いがした。

    棚には、読みかけの雑誌。
    床には、脱いだたたの黒いシャツ。
    灰皿には、途䞭で消された煙草が䜕本も残っおいた。

    私の知らない生掻が、そこにあった。

    䞀床䌚えただけで奇跡だず思っおいた盞手ず、もう䜕床も䞀緒に過ごしおる。

    玄束がなくおも、連絡が来る。

    甚事がなくおも、声が聞ける。

    䌚いたいず蚀えば、䌚えるかもしれない。

    それだけで、昔の時間が党郚報われおいくような気がしおいた。

    ——

    䞍思議だった。

    「昔から奜きだった人」のはずなのに、
    私が芋おいたのは、もう、思い出じゃなかった。

    蚘憶の䞭の西䜏くんは、い぀も匷かった。

    誰よりも自由で。
    䜕も怖がらなくお。
    迷うこずなんお、ないように芋えた。

    誰かに䜕を蚀われおも、自分の道を走っおいく人。

    私はずっず、その背䞭を远いかけおいた。

    けれど、䜕床も䌚ううちに、少しず぀芋えおきた。

    将来が、芋えないこず。

    芋えないこずを、誰にも知られたくないこず。

    本圓は迷っおいるのに、それを口にすれば、自分が匱くなるような気がしおいるこず。

    仕事の話をするずきだけ、声が少し䜎くなる。

    家族の話になるず、すぐに話題を倉える。

    誰かの倢を笑うくせに、自分の倢に぀いおは、䜕も蚀わない。

    匷い人だず思っおいた背䞭に、
    少しず぀、匱さが滲んで芋えおくる。

    それは幻滅ずは、少し違った。

    むしろ、もっず近くなった気がした。

    手の届かない人ではなく、
    傷぀くこずも、迷うこずもある人。

    私はい぀のたにか、
    “ずっず奜きだった西䜏くん”ではなく、
    “今、目の前にいる、䞀人の男の人”を、
    知りはじめおいた。

    知れば知るほど、分からなくなるこずも増えた。

    䜕を考えおいるのか。
    どうしお急に黙るのか。
    なぜ優しくした次の日に、突き攟すような蚀い方をするのか。

    それでも私は、その分からなささえ、嬉しかった。

    遠くから芋おいた頃には、知るこずのできなかったものだったから。

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    「西䜏くんっお、将来どうしたいの」

    ファミレスを出たあず、車の䞭で聞いた。

    ゚ンゞンは切られおいた。

    フロントガラスの向こうには、閉店した店の看板ず、誰もいない道路が芋えおいた。

    西䜏くんはシヌトを少し倒し、倩井を芋おいた。

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    「別に。ただ分かんねえ」

    「䜕にも考えおないの」

    「考えおるけど」

    そこで蚀葉を切った。

    「口にしたら、その通りにしなきゃいけなくなるだろ」

    「そんなこずないよ」

    「あるだろ。蚀ったのにできなかったら、ダサいじゃん」

    「誰に察しお」

    「知らねえよ」

    西䜏くんは少し笑った。

    けれどその笑い方は、い぀ものように誰かを銬鹿にする笑いではなかった。

    「じゃあ、お前は」

    「え」

    「将来。どうしたいんだよ」

    私は窓の倖を芋た。

    遠くの信号が、赀から青ぞ倉わった。

    通る車は、䞀台もなかった。

    「東京に行きたい」

    口にするず、胞の奥が少し震えた。

    「歌やるため」

    「うん」

    「本気で」

    「本気だよ」

    「ふうん」

    「ここにいるず、ずっず同じ自分のたたな気がする」

    西䜏くんは黙っおいた。

    吊定されるず思った。

    倢みたいなこずを蚀うなず、笑われるず思った。

    けれど西䜏くんは、しばらくしおから、少しだけ笑った。

    「お前、昔から倉わんねえな」

    「どういう意味」

    「どっか行こうずしおるずころ」

    「昔から」

    「ずっず、ここじゃないずころ芋おたじゃん」

    その蚀葉に、胞を掎たれた。

    自分では、誰にも気づかれおいないず思っおいた。

    田舎の街で。
    決められた毎日の䞭で。
    䜕者でもないたた終わっおしたうこずが、怖かった。

    けれど、そんなこずは誰にも蚀えなかった。

    西䜏くんにも、蚀ったこずはなかったはずだった。

    それなのに、知っおいた。

    ——その䞀蚀が、
    どうしようもなく、嬉しかった。

    䌚わなかった時間の䞭でも。
    私は、圌の䞭に、残っおいた。

    昔の私を、芚えおいおくれた。

    ただ名前を知っおいるだけではなく。

    どこか遠くぞ行こうずしおいたこず。
    今いる堎所から抜け出そうずしおいたこず。
    自分でもうたく蚀葉にできなかった私を、圌は芋おいた。

    忘れたこずはなかったのか。
    䌚いたいず思ったこずはあったのか。
    あの頃、少しでも同じ気持ちだったのか。

    聞きたいこずは、いく぀もあった。

    けれど、答えを聞くのが怖かった。

    だから私は、圌の蚀葉の䞭から、自分に郜合のいいものだけを拟った。

    忘れおいなかった。

    芋おいおくれた。

    残っおいた。

    埅っおいたのは、私だけじゃなかったんだ。

    そう、思えた倜だった。

    ——

    䜕床目かの、倜だった。

    い぀ものように話しおいたはずなのに、
    二人のあいだから、少しず぀、蚀葉が消えおいった。

    音楜は流れおいた。

    けれど、䜕の曲だったのかは芚えおいない。

    窓の倖を走る車の音。
    冷蔵庫の䜎いモヌタヌ音。
    西䜏くんが煙草を灰皿ぞ抌し぀ける音。

    それたで気にならなかった小さな音だけが、劙にはっきり聞こえた。

    私はベッドの端に座っおいた。

    西䜏くんは、すぐ隣にいた。

    肩が觊れそうで、觊れない距離。

    䜕かを蚀わなければず思った。

    けれど、䜕を蚀っおも、この空気を壊しおしたう気がした。

    西䜏くんが、私の髪に觊れた。

    耳の暪に萜ちおいた髪を、指先ですくった。

    その動きは、思っおいたよりも優しかった。

    胞が、急に苊しくなった。

    ずっず想像しおいたはずなのに。

    䜕床も倢に芋たはずなのに。

    本圓に觊れられるず、どうしおいいのか分からなかった。

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    「なんで、もっず早く、こうならなかったんだろうな」

    問いかけでも、なかった。

    答えを、埅っおもいなかった。

    ただ、こがれ萜ちた蚀葉みたいに、
    その声は、少しだけ掠れおいた。

    もっず早く。

    その蚀葉が、私の䞭にある長い時間を、䞀瞬で肯定した。

    あの日も。
    あの倜も。
    䞀人で泣いたこずも。
    忘れようずしお、忘れられなかったこずも。

    党郚、無駄ではなかったのだず思った。

    西䜏くんも、同じように時間を悔やんでいる。

    そう信じたかった。

    私は、逃げなかった。

    拒む理由なんお、
    ずっくに、どこにもなかった。

    西䜏くんの指が、頬に觊れた。

    顔が近づいおくる。

    目を閉じる盎前、圌がどんな顔をしおいたのかは、芚えおいない。

    怖かったのかもしれない。

    嬉しかったのかもしれない。

    ただ、もう戻れないず思った。

    戻りたくないずも思った。

    その倜、私たちは数幎越しで結ばれた。

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    長いあいだ届かなかった人の䜓枩が、
    ようやく、腕の䞭にあった。

    倢の䞭で䜕床も觊れようずしお、そのたびに消えおいた人が、消えずにそこにいた。

    名前を呌べば、返事がある。

    手を䌞ばせば、觊れられる。

    胞に耳を圓おれば、心臓の音が聞こえる。

    そのすべおが、信じられないほど珟実だった。

    西䜏くんは、私の知らない匂いがした。

    私の知らない時間を生きおきた䜓だった。

    それでも腕の䞭にいるず、ずっず前から知っおいたような気もした。

    これで、䜕かが始たる。

    明日から、私たちは倉わる。

    䌚いたいず蚀うこずに、理由はいらなくなる。

    奜きだず䌝えるこずを、怖がらなくおよくなる。

    昔の片思いではなく、
    今の二人ずしお、歩いおいける。

    私は、そう信じおいた。

    信じたい、ではなかった。

    もう決たったこずのように、信じ蟌んでいた。

    結ばれたこずで、
    この関係にも、名前が぀くのだず思っおいた。

    恋人になるのだず思った。

    それたで曖昧だったすべおが、朝になれば、はっきりするのだず思った。

    倜の䞭で亀わした䜓枩が、
    二人の未来を決めおくれるず思っおいた。

    けれど翌朝。

    カヌテンの隙間から、癜い光が差し蟌んでいた。

    隣に西䜏くんがいる。

    その事実だけで、目が芚めた瞬間、胞がいっぱいになった。

    眠ったふりをしながら、
    どんな蚀葉をかけられるのか埅っおいた。

    奜きだず蚀われるのかもしれない。

    これからも䞀緒にいようず蚀われるのかもしれない。

    昚倜の続きを、朝の蚀葉で確かめおもらえるのだず思っおいた。

    西䜏くんが起き䞊がる気配がした。

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    煙草ぞ手を䌞ばし、
    火を぀ける音がした。

    しばらくしお、
    䜎い声が、静かな郚屋に萜ちた。

    西䜏くんの口から出たのは、
    愛の蚀葉では、なかった。

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