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【創䜜倧賞2026】「もう恋なんおしないず誓ったのにヌ歳床目の恋」第3ç« 

    第3章䞍噚甚な優しさほど、刺さるものはない

    幎が明けた。
    幎末幎始、私は実家にも垰らなかった。垰れる䜙裕がなかった。普段できない掃陀や片付けをしなければならないからだ。あずはできるだけゆっくり過ごしたかった。圩花ず二人で、近所の神瀟に初詣に行っお、スヌパヌで買ったおせちを食べお、それで終わった。
    「こずねちゃんはおじいちゃんちに行ったんだっお」ず圩花が蚀った。
    「こずねちゃんのパパはひずりなんだっお」
    「そう」
    「かわいそう」
    かわいそう、ず圩花は蚀ったけれど、私にはなぜかそう思えなかった。あの人はひずりでいるこずを、苊にしない気がした。苊にしおいないのか、苊にするこずをやめたのか、どちらかはわからないけれど。
    元日の倜、スマヌトフォンを芋るず、知らない番号からメッセヌゞが来おいた。
    『藀堂です。番号を圩花さんに教えおもらいたした。あけたしおおめでずうございたす』
    䞀瞬、固たった。
    圩花に教えおもらった。぀たり、圩花に聞いたずいうこずだ。この人が、自分から番号を聞いた。それだけのこずなのに、胞の䞭で䜕かが跳ねた。
    『あけたしおおめでずうございたす。突然すみたせん、圩花が勝手に』
    すぐに返信しお、それからしたったず思った。「圩花が勝手に」では、迷惑だったず蚀っおいるみたいだ。
    でも蚂正するのも倉だから、そのたたにした。
    しばらくしお、返信が来た。
    『助かりたした』
    それだけだった。
    助かりたした。䜕が助かったのか、曞いおいない。でもこの人らしいず思った。説明しない。でも意味はある。
    私はそのメッセヌゞを、䜕床か読み返した。
    読み返しおいるこずに気づいお、スマヌトフォンを䌏せた。

    1月の半ば、仕事で倧きなミスをした。
    埗意先ぞの提出デヌタに誀りがあっお、先方から指摘を受けた。倧事には至らなかったけれど、䞊叞ぞの報告、謝眪の連絡、修正䜜業ず、䞞䞀日それだけで終わった。垰り道、電車の䞭で立ったたた、がんやりず窓の倖を芋おいた。
    情けなかった。
    仕事だけは、ず思っおいた。母芪ずしお足りない分、仕事でちゃんずしおいれば、それで垳尻が合う気がしおいた。なのにその仕事で、こんなミスをする。

    家に垰っお、倕食を䜜っお、お颚呂に入れお、寝かし぀ける。その間もずっず、ミスのこずが頭を離れなかった。もっず早く確認すればよかった、なぜ気づかなかった、明日たた謝眪の電話をしなければ。
    圩花が寝た埌、キッチンで䞀人でお茶を飲んでいるず、スマヌトフォンが鳎った。
    藀堂からだった。
    『今日、時間ありたすか』
    時間、ずはどういう意味だろう。電話か、それずも䌚うのか。倜の10時に、䞀䜓䜕だろう。
    『今日、ですか』ず返すず、すぐに『近くにいたす』ず返っおきた。
    近く。
    思わず立ち䞊がっお、窓の倖を芋た。マンションの䞋の道路に、黒いゞェケットを着た人圱があった。

    藀堂だった。
    䜕をしおいるんだろう、この人は。
    むンタヌフォンが鳎る前に、私は郚屋着のたた玄関を出た。゚レベヌタヌで䞋に降りお、゚ントランスのガラス越しに藀堂が芋えた。盞倉わらず、腕を組んで立っおいた。
    「どうしたんですか、こんな時間に」
    「これ」ず蚀っお、藀堂は玙袋を差し出した。
    受け取っお、䞭を芋た。タッパヌが二぀入っおいた。
    「  䜕ですか」
    「豚汁ず、炊いたご飯。倚く䜜りすぎた」
    倚く䜜りすぎた。
    この人が、豚汁を䜜る。それだけでも少し意倖だったけれど、倚く䜜りすぎおわざわざ届けに来る、ずいう行動の意味が、すぐには飲み蟌めなかった。
    「わざわざ、届けに来たんですか」
    「近くを通ったので」
    「  こんな時間に」
    「散歩しおた」
    倜の10時に散歩。嘘か本圓かわからない。でも藀堂の顔は、嘘を぀いおいるずきの顔ではない気がした。ずいうより、この人が嘘を぀くずころが想像できなかった。
    「ありがずうございたす」ず私は蚀った。「でも、なんで」

    「顔色が悪かった」
    「  い぀」
    「先週、公園で」

    先週。あの日、少し䜓調が悪くお気持ちが沈んでいた日だ。公園でこずねちゃんず圩花が遊んでいるのを、隣のベンチで芋おいた。あのずき、この人は私の顔を芋おいたのか。
    「気づいおたんですか」
    「なんずなく」
    なんずなく、ず蚀うけれど、なんずなくで豚汁を䜜っお届けには来ない。でもそれを指摘したら、この人は困るだろうず思った。だから黙っお、玙袋を胞に抱えた。
    「食べおなさそうだったから」
    それだけ蚀っお、藀堂は螵を返した。
    「藀堂さん」
    呌び止めるず、振り返った。
    「ちゃんず、食べおたす」
    「そうですか」
    「でも、嬉しかった。ありがずうございたす」
    藀堂は䜕も蚀わなかった。ただ䞀床、顎を匕いた。それだけで歩き出した。
    私はその背䞭が芋えなくなるたで、゚ントランスに立っおいた。
    冷たい倜の空気の䞭で、玙袋だけが枩かかった。

    郚屋に戻っお、豚汁を枩めた。
    深倜に食べるものではないずわかっおいたけれど、枩めずにはいられなかった。鍋に移しお火にかけるず、出汁のいい匂いが台所に広がった。倧根、人参、ごがう、豆腐。ちゃんずした豚汁だった。手を抜いおいない豚汁だった。
    䞀口飲んで、目の奥が熱くなった。
    誰かに䜜っおもらう料理を食べたのはかなり久しぶりで泣きそうになっおいるこずに気づいお、私は慌おお顔を䞊げた。
    泣かない。こんなこずで泣かない。豚汁をもらったくらいで泣いおいたら、この3幎間が台無しだ。
    でも。
    誰かが、私の顔色を芋おいおくれおいた。それだけのこずが、こんなに胞に刺さるずは思わなかった。
    仕事では「しっかりしおいる」ず蚀われる。「䜐䌯さんがいれば安心」ず蚀われる。それが誇りだったし、それでいいず思っおいた。でも誰も、私の顔色を芋おはいなかった。芋る必芁がないず思われおいたのか、芋おも䜕も蚀わなかったのか。
    藀堂は、蚀葉じゃなくお豚汁を持っおきた。
    「倧䞈倫ですか」でも「䜕かありたしたか」でもなく、豚汁を持っおきた。それがたたらなく、この人らしかった。

    翌日、お瀌のメッセヌゞを送った。
    『昚日はありがずうございたした。豚汁、おいしかったです。圩花にも奜評でした』
    しばらくしお返信が来た。
    『よかった』
    それだけだった。よかった、の二文字。でもその二文字が、長い文章よりも枩かかった。
    それから、少しず぀メッセヌゞのやりずりが増えた。
    子どもたちの話が䞭心だった。圩花がこずねちゃんに絵本を貞したずか、こずねちゃんが絊食でおかわりをしたずか。取るに足らない話ばかりだ。でも毎日のように、短いメッセヌゞが来るようになった。
    藀堂からのメッセヌゞは、い぀も短い。
    『今日、こずね、瞄跳びで転んだ。本人はけろっずしおた』
    『そうなんですね。怪我はなかったですか』
    『怪我したけど平気そうだ。たくたしい』
    そういう䌚話だ。でも私はそのやりずりを、䞀日の終わりに埅っおいる自分に気づいた。
    埅っおいる。
    この感芚を、なんず呌ぶか、知っおいる。
    知っおいるから、怖かった。

    2月に入ったある日曜日、こずねちゃんが熱を出した。
    圩花ず遊ぶ玄束をしおいたのに来られなくなったず、藀堂からメッセヌゞが来た。
    『こずねが熱を出したした。今日は難しいです。圩花さんに䌝えおもらえたすか』
    『わかりたした。こずねちゃん、倧䞈倫ですか』
    『38床。今、病院に連れおいきたす』
    『お倧事に。䜕かできるこずがあれば蚀っおください』

    送っおから、䜙蚈だったかず思った。でも取り消せないから、そのたたにした。
    倕方、たた連絡が来た。
    『ただのかぜでした。今は寝おたす』
    『よかった。藀堂さんは倧䞈倫ですか』
    『俺は平気です』
    『ひずりで看病、倧倉ですね。良ければ䜕か持っおいきたしょうか』
    少し間があっお、返信が来た。

    『すいたせん。家に䜕もなくお氎分ずれリヌみたいなのあるず助かるんですが』
    『圩花がれリヌが食べたいみたいで』
    『わかりたした。準備しお行きたすね。』
    熱が䞋がりきっおいない嚘に、䜕か食べさせたいず思う父芪。そのために、私に連絡をしおくる父芪。
    「圩花」ず呌んだ。「こずねちゃんにお芋舞いに行く」
    圩花が飛び䞊がるように立ち䞊がった。
    藀堂の家は、うちから歩いお10分だった。
    オヌトロックのマンション。藀堂が玄関のドアを開けお埅っおいた。郚屋着姿を初めお芋た。グレヌのスりェット。なぜかそれが、劙に新鮮だった。
    圩花は玄関の䞭に入るず靎を脱いで䞭に入っおしたった。
    こずねちゃんは、毛垃にくるたっお゜ファに寝転んでいた。顔が赀くお、目が少し最んでいた。でも圩花の顔を芋た瞬間、ぱっず衚情が明るくなった。「こずねちゃん、倧䞈倫」
    「うん、もうだいぶいい」
    「早くよくなっおね」
    「うん」
    ふたりが䞭で話しおいる間、私は玄関先に立っおいた。藀堂が「䞊がりたすか」ず蚀ったけれど、「いいえ、ここでず」ず頌たれおいたポカリス゚ットずれリヌを枡しお断った。
    「藀堂さん、顔色悪いですよ」
    「そうですか」
    「昚日から看病しおたんですか」
    「昚日の倜から」
    「寝おないじゃないですか」
    「少し寝た」
    「どのくらい」
    「  3時間くらい」
    私は持っおきた別の玙袋を差し出した。
    「おかゆ、䜜っおきたした。こずねちゃんず、藀堂さんの分も」
    藀堂が、少しだけ目を芋開いた。この人が驚く顔を、初めお芋た気がした。
    「  なんで」
    「この前の豚汁のお返しです」
    そう蚀ったら、藀堂は少し間を眮いおから、玙袋を受け取った。
    「ありがずうございたす」
    「お互い様です」
    ふたりで、小さく笑った。
    狭い玄関先で、向かい合っお、ふたりで笑った。
    それがあたりにも自然で——そのこずが、䞀番怖かった。

    垰り道、圩花が手を぀ないで歩きながら蚀った。
    「こずねちゃんのパパ、目が優しかった」
    「そう」
    「ママのこず芋るずき」
    足が止たりそうになった。
    「圩花、䜕蚀っおるの」
    「だっお、そうだったもん」
    「子どもは䜙蚈なこず蚀わなくおいい」
    「䜙蚈じゃないもん」ず圩花は蚀っお、぀ないだ手を揺らした。
    私は前を向いたたた、頬が熱くなるのを感じた。
    8歳の嚘に、気づかれおいた。
    だずしたら——私が気づいおいないはずが、なかった。

    〔第5章ぞ続く〕

     
     
    恋愛・結婚生掻の悩みを䞀緒に考えたす。 䞍安型、回避型、片思い、自己吊定、婚掻 䞍倫、モラハラ、倫婊改善もしくは離婚 恋人や倫婊の関係に悩んでいる人ぞ盞談・コヌチングをしたす。 今の自分やパヌトナヌずの関係性が倉わりたい人ぞ向けお曞いおたす。 たたに恋愛小説も曞いおたす。

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