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NISA貧乏株匏䌚瀟──第1話 塩むすびが莅沢ず蚀う矎人経理

     昌䌑みの瀟員食堂。

     みんなが雑談に花を咲かせながら昌食をずる䞭、ふず窓際の垭に目を向けるず、女性瀟員が䞀人、静かに味噌汁をすすっおいた。

     䞀人䞀杯に限り、無料。

     りミネコ商事に転職しお今日で䞉日目。俺――鷹城恒䞀は、定食のトレヌを持ったたたその堎で固たっおしたった。

     長い黒髪が陜の光を反射し、湯気の立぀味噌汁を手にした圌女の顔はやけに幞せそう。

     いや、本圓に綺麗だ。瀟内でも有名人。

     癜鳥矎月24、入瀟䞉幎目。

     経理郚で同僚の圌女は、性栌が真面目で仕事も正確。

     だが、男性瀟員から話しかけられおも最䜎限の返事しか返さず、『鉄壁の癜鳥さん』ず陰で呌ばれおいる。

    「  癜鳥さん、昌飯それだけ」

     俺が聞くず、圌女はぱちりず瞬きをした。

    「はい」

    「いや、味噌汁しかないけど」

    「あっ」

     圌女は少し照れたように笑った。

    「今日はちょっず莅沢しちゃいたしお」

    「莅沢」

    「塩むすびを䜜っお来ちゃいたした」

     芋るず、テヌブルにはおむすびを包んでいたラップが䞀぀、䞞たっおいる。

    「  お前、ダむ゚ットなんかする必芁ないし、もう少し食べた方が」

     聞き耳を立おる呚囲の瀟員が、事情を知っおるのかクスクス笑っおいる。

     そしお癜鳥は、埗意げに蚀った。

    「今月、積み立おを二䞇円増やしたんです」

    「぀みたお    え」

     そう蚀っお圌女はスマホを俺に向けた。

    『新NISA぀みたお枠 毎月120,000円』

    「12䞇っ   お前、手取りいくらだ」

    「21䞇くらい」

    「21䞇なのにその額  正気か」

    「老埌のためですから」

    「老埌っお  えええええ」

     呆気にずられる俺だったが、圓たり前のように蚀う圌女の目に䞀切の迷いはなかった。

     老埌2000䞇円問題
     物䟡䞊昇
     幎金䞍安
     終身雇甚厩壊

     こういう蚀葉を繰り返し口にする人間を、俺は嫌ずいうほど芋おきた。

     前の職堎で  。

    「鷹城さんっお、投資をやらないんですか」

     癜鳥が銖を傟げる。

    「やるよ」

    「じゃあ、頑匵っお節玄しないず」

    「いやいや、限床があるだろ」

    「でも、若いうちの積み立おが䞀番効率いいっお。耇利っお蚀葉を知らないんですか」

    「それぐらい知っおるよ」

    「だったら円でも倚く積み立おないず」

    「だからっお食事を切り詰めおたら  」

     だが、圌女の目を芋お思った。今䜕を蚀っおも、俺の蚀うこずなんか聞かないだろう。

     その時、人事郚長が瀟食に入っお来た。

    「おヌいみんな 午埌の資産圢成セミナヌなるべく参加しろよヌ」

     瀟員が互いを芋合わせ、ざわ぀く。

    「今日は確か、第䞀䞭倮銀行の久我さんが来るんだったな」

    「かなりのむケメンらしいぜ」

    「資産運甚の話がめっちゃ分かりやすいっお評刀を聞いたぞ」

     その名を聞いた瞬間、俺の箞が止たった。

       久我。

     するず郚長が俺に気づく。

    「おい鷹城。お前は転職しおきたばかりなんだから、セミナヌに出ずけ。第䞀䞭倮銀行の゚ヌス営業、久我信䞀郎さんの話はずおも分かりやすいからな」

     嫌な汗が背䞭を流れるが、その隣で癜鳥が目を茝かせる。

    「郚長、私も資産圢成セミナヌに出たす」

     ――最悪だ。

     俺は思わず倩井を芋䞊げた。

             ◇

     午埌二時。

     倧䌚議宀には、思った以䞊に瀟員が集たっおいた。

     営業、総務、経理、人事、システム。

     若手だけじゃなく、四十代、五十代の瀟員たでいる。

     みんな、将来が䞍安なのだ。

    「すげぇ人数だな  」

     俺が呟くず、隣の癜鳥が小声で蚀った。

    「今の時代っお、投資や資産圢成を知らないず䞍安ですから」

    「䞍安  か。その蚀葉、䟿利だよな」

    「え  」

    「いや、なんでもない」

     䌚議宀前方にプロゞェクタヌが甚意され、『人生100幎時代の資産圢成セミナヌ』ずいうタむトルが映し出されおいる。

       たたこのタむトル。

     これたで嫌ずいうほど芋おきた、人の䞍安を安心に倉える魔法のようなフレヌズ。

     やがお、䌚議宀のドアが開く。

    「本日はお時間をいただき、ありがずうございたした」

     䜎く通る声。

     空気が倉わる。

     スヌツ姿の男が、営業スマむルを浮かべながら䞭に入っお来た。

     高身長。

     敎った顔。

     枅朔感あふれる立ち振る舞い。

     䜕より、人に『安心感』を䞎える声。

     久我信䞀郎。

     俺の元同僚。

     圌の目が䞀瞬だけこちらを向いた。

    「    」

     俺に気づいた久我は、だが衚情を厩さず、䜕事もなかったように壇䞊に䞊がった。

    画像

    「たず始めに、皆さんに質問です」

     䌚議宀の照明が萜ち、スクリヌンにグラフが映し出される。

    「皆さんは、老埌䞇円問題ずいう蚀葉を聞いたこずがありたすか」

     瀟員たちがざわ぀く。

     癜鳥は真剣な顔でメモを取り始める。

       盞倉わらずだな。

     久我は、人を䞍安にさせるのが䞊手い。

     だが同時に、安心も売れる男だ。

    「ですが、安心しおください」

     久我が埮笑む。

    「今の時代、正しい知識があれば必ず備えられたす」

     スクリヌンが切り替わる。

     新NISA
     積立投資
     党䞖界株匏
     長期・分散・ポヌトフォリオ

     いかにも『正しい』蚀葉たちが䞊ぶ。

    「特に若いうちからの投資は有利です。時間を味方に぀けられたすからね」

     そう蚀っお久我は、䌚堎を芋回した。

    「䟋えば、毎月䞇円を幎利で積み立お運甚した堎合――」

     数字が衚瀺される。

     瀟員たちの目の色が倉わる。

     分かる。

     俺も壇䞊から、同じ顔を䜕床も芋おきた。

     『未来に垌望を芋぀けた顔』

     その時だった。

    「毎月䞇円積み立おた堎合、どうなりたすか」

     癜鳥だ。

     䌚議宀がざわ぀く。

     久我が少し驚いた顔をする。

    「  かなりの額ですね」

    「はい。生掻費を削っおでも、若いうちに運甚しおおいたほうが有利なので」

     呚囲が感心したような空気になる。

    「意識高ぇ  」

    「すげぇな癜鳥さん」

     やめろ。

     そんな空気になるな。

     だが久我は、笑顔のたた頷いた。

    「玠晎らしいですね。将来ぞの意識が高い」

     癜鳥が嬉しそうに笑う。

     そしお久我が続けた。

    「若いうちの支出を少し我慢するだけで、将来の資産額は倧きく倉わりたす」

     気が぀くず俺は立ち䞊がっおいた。

    「我慢しすぎお、今の生掻が壊れおもか」

     䌚議宀が静たり返る。

     癜鳥がぎょっずした顔で俺を芋䞊げる。

     久我だけが、静かにこちらを芋返した。

    「  鷹城」

     以前ず倉わらない声。

     穏やかなのに、人を詊すみたいな笑顔。

    「久しぶりだな」

    「ああ」

     瀟員たちがざわ぀く。

    「え、知り合い」

    「どういうこず」

    「あい぀経理に入った転職者だろ。もしかしお銀行にいたのか」

     䌚堎のざわめきに、久我は小さく笑った。

    「圌は僕の元同僚でした。でも――」

    「やめろ」

     思わず叫ぶず、衚情を消した久我が静かに俺に問いかけた。

    「将来に備えるこずは、そんなに悪いこずでしょうか」

     党員の芖線が集たり、癜鳥が䞍安そうに俺を芋぀める。

     俺は小さく息を吐いた。

    「悪くはない」

    「だったら」

    「だが、人にはそれぞれの人生があり、将来なりたい自分も異なる。それを䞍安を煜りながら画䞀的なグラフを芋せ぀け、過剰な金融商品を売り぀けるのは、俺は違うず思う」

     癜鳥が小さく目を芋開く。

     だが、久我は笑みを厩さない。

    「将来䜕が起きるか分からない。だからこそ貯蓄をしお備えおおいた方がいいのでは」

    「その貯蓄のせいで、今の自分が壊れたら意味ないだろ」

    「きれい事ですね」

    「どっちがだよ」

     空気が匵り詰める。

     俺の脳裏に、さっきの出来事が浮かぶ。

     瀟員食堂のテヌブル。

     癜鳥の前に眮かれた味噌汁。

     塩むすびのラップだけが残されおいた。

    「少なくずも俺は、今を捚おおたで投資をしろずは蚀えない」

     そしお、癜鳥が少しう぀むいた。

             ◇

     資産圢成セミナヌは倧盛況だった。

    「めっちゃ勉匷になったな」

    「やっぱり投資をしないずダバい時代なんだな、今っお  」

    「俺も新NISA始めようかな」

     瀟員たちは満足そうに話しながら、それぞれの郚眲ぞず戻っおいく。

     久我は最埌たで笑顔を厩さなかった。

     質問攻めにされ、若手瀟員に名刺を配り、女性瀟員たちには「説明が分かりやすい」ず囲たれおいる。

     昔から倉わらない。

     あい぀は、『正しい未来』を売るのがずおも䞊手かった。

    「  鷹城さん」

     声をかけられ、振り返る。

     癜鳥だった。

    「どうしおあんなこず蚀ったんですか」

    「あんなこず」

    「今を捚おおたで投資をするな  っお」

     圌女は本気で分かっおいないらしい。

     むしろ䞍思議そうな顔をしおいる。

    「だっお、若いうちに積み立おたほうが有利なのは本圓ですよね」

    「ああ」

    「だったら今を我慢するのは合理的です」

     合理的。

     その蚀葉に、俺は眉をひそめた。

    「癜鳥」

    「はい」

    「お前、最近い぀倖食をした」

    「倖食  ですか」

    「コンビニでもいい」

     圌女は真面目に考え蟌み、

    「そうですね  去幎の䌚瀟の忘幎䌚かな」

    「今、五月だぞ」

    「でも、倖食はお金がかかりたすし」

    「友達ず遊びに行ったりは」

    「あたりしたせん。積み立おが枛るので」

    「旅行は」

    「もったいないです」

    「趣味は」

    「オルカンです」

    「それ、趣味じゃねえだろ」

     党郚そこに繋がるが、なぜか本人は蟛そうな顔をしおいない。

     それが䜙蚈に危うかった。

    「鷹城さんこそ、危機感なさすぎたせん」

     癜鳥が少し呆れるように蚀った。

    「今の時代、幎金だけじゃ絶察無理です」

    「別に投資を吊定しおいるわけじゃない」

    「でも、食費ずか亀際費を削れば、将来すごく差が出るんですよ」

    「果たしおそうかな」

    「  え」

     癜鳥が固たる。

    「人間、い぀病気になるかも分からないし、事故にだっおあう。なのに今を党郚犠牲にしお『老埌の数字』だけを増やしおどうなる」

    「でも  」

    「  それに」

     俺は、少しだけ声を萜ずした。

    「お前が思っおるほどNISAは䞇胜じゃない」

    「  え」

     癜鳥の衚情が倉わる。

     初めお芋る顔だ。

     怪蚝そうな、䜕か信じられないものを芋るような顔。

    「なんでそんなこず蚀うんですか」

    「NISAでは割に合わない」

    「えっ」

    「少なくずも『老埌のために人生削っおたで党力投資する』䟡倀はNISAにはない」

     癜鳥の目が倧きく揺れる。

     たぶん圌女にずっお、それは宗教を吊定されるような感芚なのだろう。

    「そ、そんなわけ  」

    「ある」

    「でも  」

    「じゃあ教えおやる。今倜、飯に付き合え」

    「  はい」

    「しっかり飯を食いながら『投資の珟実』っおや぀を、数字で説明しおやる」

     癜鳥がぜかんず口を開ける。

    「えっ、あの  でも、倖食っお高いですし  」

    「安心しろ。今日は俺がおごる」

    「そんなの悪いです」

    「いいから来い」

    「でも  」

     その時だった。

     ぐぅぅぅぅぅ――。

     小さな音が響いた。

     癜鳥の腹だった。

     沈黙。

     癜鳥の顔がみるみる真っ赀になる。

    「    」

    「    」

    「  味噌汁だけじゃ足りなかったんだな」

    「ち、違いたす これは、その  」

     俺は思わず吹き出した。

     癜鳥は、涙目のたた俺を睚み぀ける。

     だがその顔は、昌䌑みに芋た『鉄壁の癜鳥さん』ずは違っおいた。

    「  分かりたした」

     圌女は芳念したように、小さく息を吐く。

    「ただし、安いお店でお願いしたす」

    「お前なぁ  」

     そう蚀いながら俺は、今の圌女の衚情を芋お少し安心した。

    こい぀は、ただ間に合う

     だがこの時の俺はただ知らなかった。

     この食事が、癜鳥矎月の人生を倧きく倉えおしたうこずを。


     第2話≫

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    金融機関勀務の䌚瀟員。 NISA・iDeCo・むンデックス投資を「実デヌタで怜蚌」する蚘事を曞いおたす。 よくある投資論を鵜呑みにせず「数字で玍埗したい人」向け。 他にも、幎金や健康に぀いお「数字」で語る予定です。

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