ひとりぼっちのキミへ
勝手におじゃましてたよ。
あ、ごめんね。驚かせちゃったかな。

ねえ?
そこのキミ……。
また、ひとりでいるの?
さっきから、ずっと黙ってるけど。
……あ!
また、友だちがいないって泣いてたんでしょ?
彼女もいない。
話す相手もいない。
休みの日も、ひとり。
どこへ行っても、ひとり。
そうやってさ、
「自分には何にもないなあ……」
なんて、思ってたんじゃない?
―― ふふ。
図星でしょ?
顔に書いてあるよ。
「そんなことない」って?
じゃあ、どうしてそんな顔してるの?
もっと普通の顔しなよ。
ほら。
―― 笑って。

―― ねえ。
ひとりぼっちって、そんなに悪いことかな?
友だちがいる人は、友だちと話せる。
恋人がいる人は、恋人と一緒にいられる。
家族がいる人は、家族と笑える。
―― うん。
それは素敵なことだよ。
私だって、誰かと一緒にいるのは好き。
でもね。
ひとりじゃないと、できないこともあるんだよ。

キミ、最近、本を読んでる?
……えっ、読んでない?
なんで?
忙しいから?
疲れてるから?
それとも、
「ひとりで本なんか読んでても、つまらない」
って思ってる?
―― 違うよ。
むしろ逆。
ひとりだからこそ、本って深く読めるんだよ。
誰かと一緒にいるとさ、
「この場面、面白いね」
とか、
「この人、嫌いだな」
とか、
そんなふうに、すぐ誰かと話したくなるでしょ?

でも、ひとりなら違う。
誰にも邪魔されない。
誰にもせかされない。
誰かの感想を気にする必要もない。
―― ただ、
キミと、その物語だけ。
それって、けっこう贅沢な時間だと思わない?
キミが読んでみたい本、
あるでしょ?
ずっと気になってた本。
表紙だけ見て、
「いつか読もう」
って思ったままになってる本。
―― 探してみなよ。
一冊でいいから。
そしてね、
ページを開いてみて。
最初は、ただ文字が並んでるだけかもしれない。
―― でもね。
少しずつ読んでいくと、
そこに人が出てきて、
知らない町が出てきて、
知らない時代が出てきて、
誰かの人生が始まる。
そうしたらさ、
キミは、もうひとりじゃないんだよ。
本の中には、
キミがまだ会ったことのない人がいる。
キミが知らない世界がある。
キミが行ったことのない場所がある。
そして、
キミがまだ知らない自分まで、
そこにいるかもしれない。
―― ね?
だからさ。
ひとりぼっちって、
何もないことじゃないんだよ。
誰にも邪魔されずに、
自分の心を動かせる時間なんだよ。
悲しい物語を読んだら、
悲しくなっていい。
嬉しい物語を読んだら、
思いっきり嬉しくなればいい。
誰かが死んだら、
本当の人じゃないのに、
泣いたっていい。
誰かが恋をしたら、
自分まで恋をしたみたいに、
胸をドキドキさせてもいい。
それでいいんだよ。
―― だって、
物語って、
そういうものだから。
キミがひとりでいる時間を、
ちゃんと心が感じてくれる。

―― だからね。
友だちがいないからって、
そんなに自分を責めなくていいよ。
恋人がいないからって、
自分に何か足りないと思わなくていい。
―― 今はひとり。
ただ、それだけ。
ずっとひとりとは限らないよ。
明日、
誰かに出会うかもしれない。
来年、
大切な人ができるかもしれない。
10年後、
今の自分を思い出して、
「そんな時もあったな」
って笑ってるかもしれない。
だからさ、
今だけは、
今のひとりぼっちを、
少し大事にしてみなよ。
ひとりでしか見つけられないものもあるんだから。
―― ねえ。
キミはさ、
自分が思ってるほど、
つまらない人間じゃないよ。
―― ただ、
誰にも見せてないだけ。
誰にも話してないだけ。
自分でも、
まだ知らないだけ。
本を読んでみなよ。
物語の中には、
キミと同じように、
ひとりで悩んでる人もいる。
寂しがってる人もいる。
誰にも言えないことを、
胸の中に抱えてる人もいる。
きっと、
「 な~んだ。
自分だけじゃなかったんだ」
って思うから。
それだけでも、
ちょっと楽になるよ。
……ね?
だから、
これからはもう、
「ひとりぼっちだ」
なんて言わないの。いい?
本を一冊、
探してみて。
キミが、
「読んでみたい」
って思えるやつ。
難しい本じゃなくていいよ。
昔好きだった本でもいい。
子どもの頃に読んだ本でもいい。
映画になった物語でもいい。
絵本だっていい。
ページを開いて、
その世界に入ってみて。
キミがひとりでいる夜だからこそ、
深く感じられる物語が、
きっとあるよ!

……あ!
もう、こんな時間なんだ。
そろそろ私は帰らなくちゃ。
え?
もう帰るのかって?
―― うん。
だって私は、
キミのところにずっといる女じゃないから。
寂しい時に、
ちょっとだけ現れる女。
そういうのも、
悪くないでしょ?
ふふ。
―― でもね。
また、ひとりぼっちになったら、
思い出して。
私のことじゃなくてもいいよ。
―― 今日のこの時間を。
そして、
本を開いてみて。
ページの向こうには、
まだキミが知らない世界が、
いっぱい待ってるから。
もしかしたら、
そこで誰かが、
キミを待ってるかもしれない。
……じゃあね。
私は帰るよ。
寂しくなったら、
また会えるかもしれないけど、
できれば、
次に会う時は、
今より少し笑っててね。
そのほうが、
キミには似合うから。
―― じゃあ、
おやすみ。
ひとりぼっちの夜も、
悪くないよ。
だって今夜は、
キミだけの物語を、
ゆっくり読める夜なんだから。
……いい本、
見つけてね。
バイバイ!

いいなと思ったら応援しよう!
懐かしいやら、マニアックな内容やらですが、
もし、よろしければですが、サポートして頂けたら
大変、嬉しく感激です!
頂いたサポートは、あなた様にまた、楽しんで頂ける
記事を書くことで、お礼をしたいと思います。
よろしくお願いします。