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「謝れるホムンクルス」

    2004年、秋。

    僕らは大学一年生、アメリカンフットボール部の同期十一人だった。

    僕らはある日、大きくやらかした。
    取り返しのつかない失敗作を、生んでしまった。

    そこから全員、恐怖の中で狂気の知的進化を遂げた。

    失敗に、失敗を足した。
    失敗に、失敗を掛けた。
    失敗に、お湯を注いだ。
    失敗を、煮た。
    失敗を、干した。
    失敗を、陽光で焼き続けた。

    そうして最終的に、その失敗作を「謝れるホムンクルス」へ育てた。

    今日はその話。



    僕らのアメリカンフットボール部はリーグ戦終盤。「これ優勝いけるぞ」と、チームの士気と緊張は高まっていた。

    入部一年目の僕らは、「夢だった大学の一員」として、大した戦力にならないくせに胸を張っていた。

    体育会にありがちだが、僕ら一年生には色んな雑用がある。
    自チームや相手チームの試合のビデオを撮影して、保管・編集する仕事もしていた。



    次の対戦相手は、哲教大学というライバルの強豪大学だった。

    アメフトは「スカウティング」といって、事前に対戦相手のビデオを見て分析し、攻略法を研究したりもする。
    その日は「哲教大学対法館大学」の試合日。

    一年生の誰かがマネージャーと二台のカメラを分担し、スカウティング・ビデオを撮りに行かないといけない。
    二台はそれぞれ別の範囲を撮るため、片方が欠けても分析には大きな穴が開く。

    撮影者は同期の“バーチ”、あだ名だ。
    バーチは練習を抜けて試合会場へ向かった。
    大事な仕事、スカウティング撮影へ。



    練習後のミーティング時間。
    撮影を終えて帰ってきたバーチが合流する。だが、顔色が悪い。
    同期にはわかる。

    「ビデオなんかやった?」

    バーチは、

    「今は話せん。みんなそれぞれの方向に帰って、深夜0時に俺の家来てくれ。」

    通学に一時間半かけてくる実家組の“ホッペ弁当”が小声で怒る。

    「終電ねえよ。泊まりじゃねえか。」

    “バーチ”は謝るというよりも真顔でコクコクとうなづく。

    何があったんだ。



    深夜0時過ぎ、みんなバーチ家に集まる。

    六畳の中に、同期十一人がすし詰めで。

    雑談を適当にしていると、バーチが8ミリビデオカメラをテレビに繋ぐ。

    「まずはこれを見てくれ」

    バーチが再生する。

    試合のビデオが始まる。

    ビデオは、アメフト特有のルールにのっとり、「プレー中」のみを録画する。

    おおまかにいうと、アメフトの試合は

    「プレー中」

    と

    「プレーとプレーのあいだ」

    の二つで進む。

    スカウティング・ビデオは「プレー中」のみ撮影オン。

    それ以外は撮影オフ。



    違和感。

    なんか試合中なのに、選手たちの歩くシーンばかり。

    ホイッスルの入る位置もおかしい。

    全員すぐに気づく。

    立ち上がる。

    撮影経験者みんな一度はやるミス。

    「おいこら!てめぇバーチッ!“逆撮り”じゃねーか!」

    「マジか、どうすんだよ。つぎ正念場だぞ。」

    騒然となる一年生同期たち。

    「逆撮り」とは部の造語だろうが、録画ボタンの押し間違いと思い込みによるミスだ。

    撮影者本人は、

    「プレー開始で録画を押し、プレー後に停止している」

    つもりでいる。

    それを逆に行っていて、
    実際には、

    「プレー開始に録画オフ」

    「プレー終了に録画オン」

    を繰り返していた。

    つまり試合の

    「プレー終了後から、次のプレーが始まる直前までを撮影」

    という、全く分析材料にならない映像だけを録画してしまった。

    アメフト一試合、2〜3時間。

    平均130〜140プレー。

    その全てで、録画開始と停止を繰り返すからこそ起きるミスだった。



    しかも今回は対ライバル大学用ビデオ。マジで大事な一戦のスカウティング・ビデオ。

    他の一年生は当然怒る。

    「そう。すまん。ヤバいんじゃ、ヤバいんじゃって。やってしもうた。」

    広島出身のバーチはうなだれる。

    全員、同じミスをしたことがあるので責めきれない。
    それぞれがそれぞれに悩んだ。

    「一年生のミスは連帯責任」
    「一蓮托生」

    違う地方・高校から自信と憧れを持って集まった同志。

    「我ら生まれた日は違えども、死する時は同じでありたい」
    同期だ。



    なお、ここから同期たちが一気に出てくる。
    全員を覚えなくていい。
    六畳に、十一種類のパニックが発生していたと思ってほしい。

    “内閣醤油大臣”は何か「キーキー」と、擬音を上げながら股間に頭を埋め猿となる。

    “ホッペ弁当”は「これはヤバいよな。哲教戦だぜ?」と、冷静さで事の深刻さを深める。

    “田村”は「まっ、とりあえず今日は徹夜だな。ファミマ行ってくるわ。行く人ー?」と、その場を割り切る。

    “オグ”は「あーーーー。」と抑揚のない声で、天を仰ぎ見て万歳をする。

    “指以外鉄人”は、顔のニキビに夢中。

    “ベニー・D”は「親に泊まるって言ってくる」と、外に出る。

    “ウェスティン”はmixiを触っている。

    “まさよしさん”は眉を寄せて思案中。

    “べぇ”は「マジかよ!マジかよ?マジかよー!!」と、色んな「マジかよ」を連呼する。

    “僕”は「わかってる。しょうがない。バーチ。でもお前死んでくれ。もっと大きな事件で問題を逸らそう。」



    六畳で肩を寄せ合う十一人の男たち。
    部屋は、二酸化炭素と「詰んだ無気力感」で埋め尽くされる。

    みんなでいったんコンビニに行き、晩御飯を食べながら話す。
    特にビデオには触れない。雑談。
    いい案が浮かばないと「問題」に触れてはならない雰囲気。

    深夜1:30頃

    だれだったかがボソリと呟く。

    「水没は?」

    8ミリビデオテープを「水没して壊れた」ことにする作戦だ。空気が動いた。



    バーチがカメラからテープを取り出す。

    ホッペ弁当がユニットバスの照明スイッチをいれる。

    ベニー・Dがユニットバスのドアノブを引き開ける。

    田村が入り、洗面台に栓をして水を張る。

    ウェスティンが「湯にしよう。湯の方がイケそう。」と、補強・修正する。

    オグがバーチからカセットテープを受け取り、六畳からユニットバスを目指す。

    べぇは「ヤルの?ヤル??ヤルのな!?」と、わめく。

    指以外鉄人は顎にもニキビがあったようで、左手で顎を触り、右手で給湯器の温度をMAXにする。

    内閣醤油大臣は「そうじゃのう。そうしかないのう。イケるかもしれん。」と、ぶつぶつ自分を納得させている。

    まさよしさんは「どのみちやし、まずやってみんとな。」と、事態の進展を肯定する。

    僕も「何かしないと」と焦り、ウェスティンからのインスパイアを発展させ、「油は?沸かした油かけようや」と喚く。

    僕にだけ、「バカじゃん」「アホか」「カバチこくな」「しゃーしいわ」など、各方言で否定された。

    そして、オグが銭湯ぐらい煙ったユニットバスに入り、源泉の洗面台へカセットテープをそろそろと入れた。

    「頼むぞ」と、みんなを代表して願いを唱え、託した。



    六畳に帰ってきた一同。

    話題は、今もユニットバスで継続中の作業内容そのものと作業終了時間について。

    カセットテープを、

    「いつまで水没させるか」
    「給湯器のMAX温度、60度で壊れてくれるのか?」
    「鍋で煮る方に、切り替えるか?」



    携帯を触りながら、【謎知識担当】のオグが口を開く。

    「最近らしいけど、“低温調理”って料理があるみたい。40〜70度ぐらいの温度で何時間も料理を温めるんだって。」

    そう言って、「低温調理法のWebページ」を開いた携帯を渡してくる。
    各自が読み、次へ回し、最後にオグへ携帯が返された。

    なるほど。今の源泉掛け流しテープと条件はほぼ一緒だ。
    みんな意見は一致した。

    「とりあえず、朝までお湯出しっぱな。お前がミスったんだから、お湯代はお前だ。」

    バーチも了解した。というかホッとした顔をしていた。



    その後の打ち合わせで、

    「朝にテープが“ちゃんと壊れているか”を、確認するか?」

    と、誰かが言ったが、

    「そんなんしたら、カメラが壊れる。殺されるぞ。」

    と、全員から怒られた。

    「朝にテープの低温調理をやめ、よく拭き、乾かそう。そして、明日の夜にみんなで再生しよう。」

    そこまでで、その日の話と、一年生の仕事は終わり。
    明日の練習後、秘密裏にバーチ宅へ集合し、一年生の仕事「ちゃんと壊れているかの確認」をする。

    解散。

    一人暮らし組が、実家組をそれぞれ泊めるために連れて帰る。



    翌日。
    22:30、練習後。

    一人暮らし組はそれぞれ夕食や風呂、家事を済ませてバーチ宅へ。遅くても深夜0:00には集合。

    実家組とバーチは最寄り駅付近で外食→バーチ宅でシャワーの予定。
    そこで、一人暮らし組から指摘が入る。

    「最寄り駅では食わないでくれ。先輩につかまり“なんか楽しそうだ”と、付きまとわれたら断れない。バーチ宅までついてきたら“終わる”ぞ。」

    「せめて各駅停車の次の駅、急行で一駅まで出てくれ。それかコンビニか。」



    深夜0:00 バーチ宅。

    十一人は自分の部屋のように好きに座る。シングルベッドに六人。
    前の三人はソファのように座り、後の三人はベッドに両膝立ちで前後の段差をつけている。集合写真の並び方みたいだ。
    その他、フローリングやでかいビーズクッションに座ったり寝転んだり。

    家主のバーチが、テープを取り出してきて乾いているかを注意深く確認。そして一人一人が気の済むまでチェックして、次へ回す。
    なんせカメラが壊れるのはヤバい。

    借金して、補償して、殺される。
    借金も嫌だ。学生金融ローン(学ロン)の上限債務者が半分を占めている十一人だ。そして殺されるのだ。

    テープがバーチに戻った。
    その間に「赤・白・黄」三色のケーブルをテレビとカメラに繋いでいた。
    カメラのカセット挿入口が「食わせてみろ」と言わんばかりにばかっと開いている。

    「……いくぞ。」

    一同を見回したバーチはカメラにテープを食わせる。
    誰かが、テレビの入力切替を「入力切替2」に合わす。深夜バラエティが流れていたテレビ画面が、原色の青一色に変わる。



    「ビデオお願いしまーーすっ!」

    と、バーチが大きな声で告げる。

    「ビデオお願いしまーーすっ!!!」

    と、残りの十人が復唱する。

    部内で練習を撮影したあと、その日のうちに練習を見返す「ビデオミーティング」の開始宣言の習慣を、そのまま持ってきた。

    その時、深夜0:30。
    野太い男たちの「……しまーーす!!!」は、外に聞こえていただろう。
    1Kアパートの想定人数を超える声数で、さぞ近所迷惑だっただろうし、異様な怖さもあっただろう。



    再生。

    数秒後。

    「十月二十二日、試し撮り。」
    バーチの声とともに、破壊された画面が映し出された。音声は正常だった。
    カメラやカセットに不具合がないかの確認である「試し撮り」だ。

    破壊されているが、なんとなく映像の色感や雰囲気がわかる。バーチが不具合チェックで、試合前のフィールドをワイドで撮ったり、タイトで撮ったりしている。
    ウォーミングアップ中の選手であろう長細いオレンジが、小さくなったり大きくなったり。
    「人ってわかるな。」



    誰も何も言わない。
    そのまま再生されていく。

    「十月二十二日、土曜日。熊谷第一球場。哲教大学対法館大学です。」

    テレビの中のバーチがビデオ内容を紹介する。

    キックオフ。
    数十回のプレー。

    画面には、フィールドの芝のグリーンをベースに、小さなオレンジや白が転々と点滅する。
    それらは今までの経験と記憶で、哲教大学のオレンジと、法館大学の白い選手たちへ補正される。

    「人なのは、わかる。でも。」

    映像だけでは何がなんだかわからない。
    カセットはちゃんと壊れている。
    みんなが口々に話し始める。
    この「世界線」なら……

    明日、これを持って、

    「すみません!!…実は雨でカセットがっ…」

    と、全員土下座しながら四年生へカセットを献上すれば、まあまあしばかれる程度だろう。
    真っ先にしばかれる「献上役」は、バーチにさせる方向でまとまる。

    「なあ?」

    と、バーチに同意を求めると、バーチも腹が決まっていたようで、

    「しゃあねえかあ。マウスピース噛んどこ。」

    と、言っていた。



    話がまとまりだした、その時だった。

    ビデオは再生されていた。
    誰かが言った。

    「待って、逆撮りだよねこれ?音、聞いてて。」

    映像自体は壊れているので、逆撮り現象の決定的証拠はない。
    だが、音声に注目する。

    ホイッスルが鳴る。
    フィールド上でのぶつかり合いなどのプレー音が止む。変だ。
    観客の興奮や嘆息や長い静寂。変だ。
    決定的だったのは、

    「マコちゃん行ってくれるの?助かるー。ワシ、微糖のコーヒー頼むわ。撮ってるけえ。」

    という、バーチに帯同してくれたマネージャーへのパシリ発言。録画開始から15分ほど経ったあたりだった。
    これはプレー撮影時には、ありえない。
    逆撮りの決定的な証拠だった。



    「もう無理やー!!お前もう喋んなや、勘弁してくれやー!!」

    僕は嘆いた。

    みんなも黙り込んだり「てめぇよう!」と口でバーチを責めた。

    でも、しょうがない。音声が生きている。
    これを渡せば、執念深い先輩たちの誰かが、この15分時点に行き着くかもしれない。
    リスクがすごい。

    失敗だ。
    みんながっくりきていた。



    時刻は深夜1:00。
    しばらく呆けていた。軽口も出ない。

    その時、まさよしさんが顔をパッと上げた。

    「新品のカセットに“哲教対法館”って書いて、水没したことにするんは?」
    「それを一年生がアホで天日干ししたら、磁気バグったってことにできるんちゃう!?撮れてたんですけど、真っ青になってしまいましたって、言うて。」


    なんだそれ!?

    真夜中一時に、すごいぞまさよし!!

    同時に全員が顔を上げ、まさよしさんを見る。



    作戦は以下だ。

    ①深夜1:00の今から、新品のカセットを部室に取りに行く。
    ②新品のカセットのラベルに「哲教大学対法館大学」と記載する。ただし、まだカセットには貼らない。
    ③新品のカセットを一応、昨日と同様に低温調理する。※「新品感のない」良い壊れ方をしてくれることを期待。
    ④調理が完了したカセットを拭き、水で字を滲ませたラベルを貼り付ける。
    ⑤バーチの家のベランダ。日光がよく当たるエアコン室外機の上に、カセットを放置する。

    全部終わった時には、早朝4:00だった。



    早朝4:00から、全員バーチの家で寝た。
    全員起きたのは、昼過ぎ。
    練習開始の午後3:45(通称・サンヨンゴ)に間に合うよう、飯食ってギリギリの逆算時刻。

    僕が起きたら、バーチがベランダにいた。
    大切に育てている花を見るように、直射日光が降り注ぐカセットを観察している。

    僕が、
    「上手くいったらええな。」
    と、言うと、

    「そうじゃねえ。上手くいってもらわんと困る。頑張れ。」

    と、バーチはカセットを縦向きに置き直し、陽に当たる面を変えた。
    カセットはもう乾いている。ダメージを全体に行き渡らせたいのだろう。



    その時、バーチがひらめいた。

    「平山さんに言おうか。」

    平山さんは、バーチの近所に住む二年生。
    バーチとポジションも同じで可愛がってくれている。
    そして二年生全体が、一年生の指導役だった。
    一年生の不届きは、指導・監督する二年生への制裁にも発展しかねない。

    可愛がってくれ、心にかけてくれる先輩指導役をとっかかりに、二年生全体までの問題としようと企てた。



    僕は良いアイデアだと判断。
    ベランダを開け放つ。
    六畳でダルそうに「ライオンのごきげんよう」を観るみんなに、僕が言う。

    「バーチが、小堺よりデカいサイコロ振ったぞ!」



    みんなに、説明する。

    ①バーチのコネで、平山さんに「試合のビデオがー」と全貌は伏せて、助けにここまで来てもらう。
    ②平山さんvs一年生全員の六畳空間で、
    「水没→乾かす→磁気バグった→終わった→二年生にまでご迷惑をおかけするかも」
    を、十一人が同時多発で、口々に説明。※必死感、詰んだ感、哀願、二年生までへの被害拡大の危機感を連呼。平山さんの混乱と切迫を狙う。
    ③平山さん発信で、二年生にも僕らのストーリーに同乗してもらう。
    ④一、二年生全員で四年生に謝りに行く。



    バーチが平山さんを連れてくる前に、残りメンバーで今年の集大成をチェック。
    努力と執念が詰まった「失敗作」の成功を確認するため、カセットを再生する。

    基本、画面は青一色だが、何十秒かにランダムで謎の横線などが走る。

    「やった!!!やればできるんだ!!」
    「俺たち、やったなー!!」

    とハイタッチやハグをする。



    平山さんが来て、作戦①②を実行。

    平山さんは明るく、
    「なんだなんだー!?やっちまったー(失敗を)?」
    と、入るも、
    「全員、居んじゃねーか!どうした!?」
    と、なる。

    そこから悲鳴、懇願の大合唱。
    平山さんの顔がみるみる引きつる。
    そして、携帯を取り出す。

    「待って、待って。ちょっと原木呼ぶわ。」

    平山さんが、高校時代からの同期で、二年生のブレーン的存在でもある原木さんを招集する。

    僕もすかさず、

    「村上さんにも電話します!」

    と、高校でも大学でも部の先輩である、二年生の村上さんに早口でお電話。

    「あっ、もしもし。お疲れ様です、髙田です。いきなりなんすけど、ヤバい事なってて。哲教大学のスカウティングテープ壊れてて。…はい、8ミリです。マスターのダビング前です。今、バーチの家に一年全員いてます。平山さんきてくれはってて、原木さんもきてくれはるようで。…ありがとうございます!待ってます!すみませんっ!」

    二年生の主力の巻き込み完了。



    集まってくれた二年生たちに、平山さんが説明を始める。

    いや、説明というより、コンピューターウイルスのインストールだった。

    僕ら一年生は、その横で念仏のように同じ言葉を繰り返す。

    「本当に失礼しました」
    「どういたしましょう」
    「二年生まで殺されてしまう」
    「死ぬかあ……」

    原木さんが、一年生を制する。

    「……やったなー、お前ら。笑 もう今日、謝んぞ。試合まであと12日だろ。一、二年全員。そのテープ持ってこい。練習終わった後だな。フィジカル練習と体育館ジムに分かれる前、四年生全員がいる時に。」



    その日の練習後、キャプテンのところへ一、二年生で話に行く。

    四年生全員が集まる。

    怒られはしたけど、めちゃくちゃに怒られるということもなかった。
    大人数で謝りに来たこともあっただろうが、四年生の多くは、

    「ビデオはなー、やるよなー。植本ー。なー。」
    「逆撮りなー。お前、四日連続でやって、四日連続で蹴られてたよなー。」

    と、同期の植本さんを茶化した。

    四年生にも、一年生の頃があったのだ。
    僕らと同じような苦難を乗り越えてきたのだと、その時はじめて少し思った。

    このチームの選手全員が経験したことのある失敗とリスクだったのだろう。
    その時、平謝りしていた僕ら同期は、失敗を「集団で気が触れる」という方法で乗り越えようとしていた。

    キャプテンらが、

    「わかった。次したら殺すぞ。まあ、負けたら俺ら引退だけど。最後まで頼むぞ、お前ら。」

    と、笑って締めてくれた。



    そのテープのせいではないだろうが、力は及ばず、我々は哲教大学戦で敗れた。

    四年生を含め、全員が泣いた。
    死ぬほど恐れ、嫌っていた四年生が、去ってしまうことが何より寂しかった。



    時代は移ろい、僕たちも四年生になった。
    今年こそはと、運営側からも期待される世代になっていた。

    そんなある日、珍しく一年生から声をかけられる。そしてある伝説を聞かされる。

    「バーチさんの家に、怪奇現象でデータが消えたテープが保管されてるって、本当ですか?」

    僕は笑いを噛み殺し、真顔でこたえる。

    「僕らが怪奇現象かと思っただけで、ほんまは何が原因かわからん。ただ、バーチは部屋に置いてたら気味悪いらしい。ほんで、今もベランダに置いてるはず。帰りに見てきいさ。」

    そう言うと、一年生は僕に「ありがとうございました!失礼します!」とお辞儀して、バーチの元へ行く。

    「呪いの8mmの話、髙田さんに今聞いたんですけど……」

    ⸝

    ※人物名・学校名・地名・細部の一部は再構成しています。

     
     
    髙田鹿介と申します。 ふつうと異常という一足幅の境目を、 腕を水平にぴんと伸ばし、おどけながら歩いてます。 人は追い詰められても笑える。 そんな日々を書いています。 思い出のかたまりでもあります。 忘れないうちに置いていきます。 2025年7月末より活動開始です。

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