わたしのせいかつ。
私は、数年前からコンカフェで働いている。
幼い頃は教師を目指していたはずなのに、気づいたらこんな所で、違う自分を演じている。
「おかしいなぁ、いつ間違えたんだろう。」
私はこんな言葉を、何度も口にしている。
まだ、20代前半で、気にする必要もないかもしれないけど、周りの友人たちが中小企業だとか、公務員だとか、院進している中、劣等感を感じている。
積立NISAって何!?横並びで夢を追いかけていたはずの、あの子達は、私よりも前にいる。そんな気がする。
私は、あの子達に今何をしているか、本当のことを言えない。もしかして、これって友達じゃないのかも、とか。20代前半らしい悩みを抱いては、眠れない夜を過ごす。夢見てた理想の教師像。今じゃ、計算すらままならない、子供の延長線上にいる。
「初めまして、○○って言います。」
「どうして来てくれたんですか?」
「好きなことはありますか?」
毎日、同じことの繰り返し、でも、これは私じゃない。現実逃避とか、そういうのじゃなくて、
私であって、私が演じてる彼女は、私ではない。
例えば、年齢、名前、住んでる場所、性格、
喋り方、声のトーン。私と彼女とで、それらは全く別のものに作り上げている。綺麗に言うなら、役者の人生。長い長い、映画の登場人物を演じているような、そんな生活。
たまに、分からなくなる。あれ、何歳だっけ、
うわ、人間界とか言っちゃった。周りには私より
何個も年上の人もいるけど、何歳かなんて分からない。年下も然り。そういう世界に生きてると、現実世界を全うに生きている友人に、嫌気がさす。
どうせ、見下すでしょ。心のどこかで、馬鹿にしてるでしょ。こいつよりは、劣ってない。だとか。
実際、可愛い衣装を纏う彼女を、小声でバカにする
男子高校生達に、何度も出会ってきた。
卑屈な私に、彼女が言う。
「貴方は、ここにいなきゃダメだよ。」
「貴方にしかできない、才能なんだよ。」
「楽しみ方を知らないだけ、知れば、沼るよ。」
そう、彼女はいつだって前を向いている。存在価値を自分で見出しては、計算して、考えて、結果にする。私は、そんな彼女が大嫌いだ。
ところで、コンカフェはどんな仕事か知ってるだろうか。話して、チェキを撮って、SNSを動かす。
きっと、貴方が知っているのはそれくらいだろう。
私も、この世界に来るまでは、そのくらいだと思っていた。
職場に着いたら、オープン作業をする。
補充、報告書の確認、清掃、朝礼等。これらは、
飲食店のオープン作業と同じはず。開店させて、
お客様を迎れる。初めて会ったお客様が、2度目、
3度目と、何度もリピートしてくれるように、
瞬時にその人の心に入り込む。何が好きで、嫌いなのか、性格、何を求めているのか。一人一人の事を、1ターンで知り、記憶する。SNSを知れば、
その人が、もしまた来た時に話せるように、その人のSNSを夜通し眺める。一人だったら簡単かもしれないが、彼女たちはそれを何百、何千も繰り返し、記憶する。そこに記憶力を使っているのだから、計算の一つや二つ、出来なくたって許されるだろう。
閉店後は、クローズ作業。報告書の記入、発注。
退勤後にSNSを動かして、もしかしたら、また来るかもしれないお客様のSNSを漁る。リプを返したり、配信をしたり、労働時間外も、お客様安定の為だとか、お客様をつける為に頭を使う。
休みの日には、可愛い写真を撮るために、街へいく。旅行をする。メイクを研究して、自撮りをする。
彼女がお客様に夢を見せるために、私は現実世界で
彼女の思うままに、生活をする。私って、今までどうやって一日を過ごしていたっけ。
彼女は、売上だとか、人気になる方法だとか、
その為に、なんでも取り入れようとしていた。
有名キャバ嬢、ホスト。心理学とか、実際に客として、コンカフェに行ってみるとか。オタクになってみて、オタクの気持ちを理解するとか。
彼女が、頑張る度に私が浪費されていく。
そんな、私の仕事。
私は、このお仕事が大好き。何しても可愛いになって、私を見てくれて、応援してくれる。いいねの数に安心して、こういう投稿だと受けがいいんだって、メモをする。この時間に投稿したら、いいねが多いなとか。目に見えて分かる事ばかりたがら、楽しくて仕方ないの。頑張れば頑張るほど、結果になるのが楽しくて仕方ないの。
あの子はどうして頑張れないんだろう、何が嫌なんだろう、どうしてもがいてるんだろう、この世界にいればこんなにも楽しいのに。嫌だよ、私はこの世界から抜け出したりしない。あの子が逃げようとするなら、私がもっと、もっと、目立って、逃げ道を無くしてあげる。
「貴方の生活は、私のものなんだよ。」
頭がおかしくなる。私は、こんなんじゃない。
もっと卑屈で、陰湿で、現実的。彼女を好きになって貰っているだけで、私が好かれている訳じゃない。彼女が頑張っている時間が、気づけば私の生活にくい込んできた。
何をしたらいいか分からなくて、現実から逃げ出したくなって、私は彼女を頼ることにした。彼女のしたい事をすることにした。
Vlog動画とやらを作るため、一人で電車に乗る。
一人じゃどこにも行けなかった私が、彼女のおかげで、遠い場所まで行けるようになった。何も考えずに、出向いては、その場で決めて一泊する。
彼女の交友関係は広いから、予定の埋まらなかったカレンダーが、どんどん埋まっていく。今年の誕生日は、一泊二日で祝ってもらった。こんなのは、生まれて初めてだった。
可愛い洋服が、部屋に増えていく。イベントの為に買ったらしい。ワンピース達が、暗い部屋をちらちらと照らす。あんなに暗かったのに、眩しくて仕方がない。
最近、初めて彼女が私に声をかけてきた。
「たすけて」「もう、頑張れない」
私は彼女を救うために、やりたい事を探した。
次は何をして働くか必死に考えて、苦手な面接を何社も受けた。今まで、頑張らせすぎちゃったね。
もう大丈夫、私の代わりに頑張ってくれてありがとう。今度は、私が頑張るから。
これが、私の、私たちの生活。
人生に意味を見いだせなかった未熟な私が始めた生活。貴方の生活は、誇られるべきものだ。貴方を笑うやつは、私が笑ってあげる。
私になら、誰だって笑顔にできるのだから。
貴方のおかげで、私の世界が広がった。
ありがとう、さようなら。
私はもう、一人でも前を向ける。