
他はこれ吾にあらず
道元禅師が中国で修行していたとき、年老いた僧が炎天下の中で茸を干している場面に出くわした。
それを見た道元禅師は老僧に、「他の若い僧に任せればよいのではないでしょうか」と言うと、その老僧は「他はこれ吾にあらず。更に何れの時をか待たん」と答えたという。
現代語に訳すと、「他人は私ではない。これ以上、待つ理由なんてない」となる。
この言葉の意味は、「誰か他の人に任せることは、自分自身の修行にはならない。今この瞬間の修行こそが大切なのだ」となる。
道元禅師もこの言葉に感銘を受けた様子で、後に『典座教訓』に書き記している。
すべての修行は、誰のためにやるのか。すべての修行は、いつやるのか。
これを真剣に考えさせる言葉が、この「他はこれ吾にあらず。更に何れの時をか待たん」なのである。
修行を積んでゆくと、いつしか他人のことが気になり始める。他人の修行の進み具合が気になって来る。そんなことばかり考えて、自分の修行がおろそかになる。
そんな心の機微を、この老僧は知っていた。
私たちもまた、この言葉を胸に刻みたい。