
天使が買った3枚のアルバム Icicle Works Pale Fountains Simple Minds1984年4月
「 Birds Fly (Whisper To A Scream)」 The Icicle Works
1983年4月レコード店に就職し、西武百貨店池袋店の10Fの半分のスペースを占める旗艦店に配属され、意気揚々と働いていた僕は、同じ年の10月末には、不幸な玉突き人事によって、誰一人知る人のいない西武百貨店福井店の店舗に鳥のように飛ばされた。その年の福井は数年に一度の豪雪で、11月に降り始めた雪が根雪となり、翌年の春まで消えることがなかった。半年の間、雪と氷柱の世界に閉じ込められ、明るかった僕も少し鬱屈していた。
「Thank You」Pale Fountains
1984年4月、福井の百貨店に20名近くの新入社員が入社した。隣接するオーディオ売場にも2名の社員が配属され、偶然その中の一人が、大学のサークルの後輩の友達だったので、その友達をきっかけに新入社員の数名と仲良くなった。中でも中井貴一似でモテモテのK君とは特に仲良くなった。
そして4月の後半に、天使が僕の前に現れた!
休憩時間などに百貨店の社員がレコードを買いに来ることは何度かあった。ただ、買ってくれるのは谷村新司や長渕剛のような邦楽が大半で、特に音楽きっかけで会話を交わすことはなかった。そんなある日、百貨店の制服を着たスレンダーな若い女性がレジ・カウンターにきて、3枚のアルバムを差し出した。その3枚のアルバムというのが、Icicle Worksの同名アルバム、Pale Fountainsの「Pacific Street」、Simple Mindsの「Sparkle in the Rain」だ。驚いて顔をあげて顔を見ると、まさに僕のタイプ。" 天使だ‼ "と心の中で思いながら、会計を済ませ、レコードを彼女に渡した。「福井にもこんな最先端の洋楽を聴く女子がいたんだ!神さま、Thank You!!」
「Speed Your Love to Me」Simple Minds
会計後、嬉しくて「なんで、こんなアーティスト知ってるの?」と少々失礼な言い方で彼女に話しかけた。聞いてみると、彼女は数か月前までは東京に住んでいる大学生で、最新の洋楽はよくチェックしていたとのことだった。「そんなセンスのいい人が福井にもいてうれしいな。」と言うと彼女もまんざらでもないように、はにかみ気味の笑顔を返してくれた。数か月前まで大学生ということは、新入社員。ということで、早速、同期の貴一クンに頼んで、情報を手に入れることにした。彼女は5Fの食器売り場の所属で、上智大学英文科の出身とのことだった。その後、半年に1回位のペースで洋楽のレコードを買いに来てくれて少しづつ会話を交わすようになった。しかし、なんの進展もないまま3年が過ぎ、僕は関西に転勤することになった。貴一クンが送別会を主催し、「誰でも好きな人を呼びますよ。」と言ってくれたので、僕は当然彼女を指名した。送別会の当日、宴もたけなわの頃、貴一クンが「Bobbyさん、彼女は門限が厳しくていつも7時には帰るのに、こんな時間まで残ってるなんて、今までないことですよ。気があるのかも?」と僕に囁いた。明日には引っ越しで、何もできるはずはなかったが、貴一クンに「明日って、バレンタインデーだよな。彼女にチョコレートをこれで渡しといて。」と言ってお札を握らせた。「君の愛を早く僕に届けて!」という願いを込めて。そして翌月のホワイトデーから僕らは付き合うようになった。
「America」Simon & Garfunkle
大阪にいた僕は月に1回、車で福井に向かい、彼女と会った。「アコースティックな曲が好き。」という彼女の言葉を聞いた僕は、彼女のために自分のレコード・ライブラリーからアコースティックな曲をセレクトし、彼女にプレゼントした。1曲目は歌詞も大好きなSimon & Garfunkleの「America」。
「"Let us be lovers we'll marry our fortunes together"」英文科の彼女なら、僕の想いを聞きとってくれるだろう。後はEagles「我が愛の至上」、Fire Fall「切ない想い」、Orleans「If I Don’t Have You」、Beatles「I Will」・・・
待てよ、アメリカで流れてそうな古い曲ばかりだ、名曲ばかりなんだけど。
想いを込めて作ったカセット・テープを渡すと彼女は「ありがとう。」と軽く微笑んで受け取ってくれた。だが、その笑顔は何故か少し寂しげだった。
彼女が好きなのは《ネオアコ》だということを、アメリカのヒット・チャートが好きなこの頃の僕は知る由もなかった。
「Just Remember I Love You 」 Firefall
結局、1年後に突然「お付き合いをやめたい。」と彼女から言われ、僕たちの関係は終わった。しばらくして、貴一クンから聞いた所によると、彼女は両親に黙って僕と交際していたようで、それが発覚し、「福井にずっと住むことのできないような、よそ者との交際は許さん。」という理由で、猛反対され、別れを切り出したとのことだった。まもなく彼女はお見合いで親の薦める相手と結婚したと貴一クンから報告があった。
今でも《ネオアコ》を聴くと彼女のことを想い出してしまう。