
浜田真理子 初プロデュース『極上』リリース・ツアー 2026(SHIBUYA CLUB QUATTRO 38th ANNIVERSARY“Our Chef’s Choice”)渋谷クラブクアトロ 2026.06.25.

1曲目は「小さな喫茶店」。
ライヴを新作の冒頭を飾る曲で始めたことに、彼女のレコ発ライヴへの意気込みと、作品に対する向き合い方がうかがえる。こちらとしても「そうでなくちゃね」という確信をもって、幕開けを迎えられた。ステージと客席が、最初の瞬間から意思を確かめあえる幸せなオープニングだった。
しかも、この曲だけで、既にバンドのメンバー全員の見事な紹介になっていたのがすごい。よくあるような、間奏のギター・ソロでギタリストが…といった順番に目立たせる手法ではない。ただステージを観て、音を聴くだけで、自然と各楽器が際立つアレンジなのである。檜山学のアコーディオン、橋本歩のチェロ、池村マリノのサキソフォン。これしかないというタイミング、音量、音数、そして奏でられるフレーズ。特別なことは何ひとつしていないのに、それぞれの呼吸が伝わってくるような演奏が、とても心地よかった。
その後に、アルバムとライヴへの熱い思いが伝わる長いMCがあり、今夜は新作の全曲を演奏することが告げられる。そして、インストゥルメンタルの「極上のワルツ」へと続いた。
ライヴの冒頭が新作アルバムの1曲目。思いのあふれたMCの後に、弾き語りではなくバンド・スタイルを存分に聴かせるインスト。さらにアルバム全曲を披露するプログラム。レコ発ライヴの名に寸分の狂いもない、見事な構成だった。

スペシャル・ゲストの江川ゲンタの参加も、音にさらなる豊かさをもたらしていた。もちろん、彼のパーカッションが加わることで、アンサンブルの軸としてのリズムが強調されるのだが、僕が感じたのはそんな当たり前の役割ではない。真理子さんも話していたが、特殊な楽器構成のバンドゆえに、リズムが厚みをもたらすというよりも、すべての音が鮮やかになるのである。ミュージシャン個々の力量はもちろんだが、5人が共鳴しあうことで生まれる音の彩り。これこそが、浜田真理子が2026年の今に鳴らしたかった " 極上 " というバンドなのだろう。
呼吸をしているようなアコーディオンの温もりと色あい
重厚な艶やかさに包み込まれるチェロの深み
情熱とやわらかさを同時に宿すサキソフォンの色気
繊細な音の粒立ちがやわらかく、時に強く広がるピアノ
そして、パーカッションが静かに織りなす奥行きと陰影
知っている形容詞を組み合わせれば誰もが書けそうな抽象的表現で、少し気恥ずかしい限りだが、それでも、あの夜の5人を言い表す言葉としては、僕の中ではリアルである。

アルバム収録曲で、この夜も披露された「きらめくひと」には、こんな歌詞がある。
たくさんの昨日と
たくさんの明日
そして一瞬の今
この曲を聴きながら、僕は自分と浜田真理子の「たくさんの昨日」を思った。出会いから重ねてきた多くの昨日があって、この日、この客席にいる今がある。確かにその今は一瞬である。しかし、一瞬でありながら、胸の奥に深く残る。決して消えないのである。消えないそれは、僕にとって愛おしいたくさんの昨日であり、そして、たくさんの明日へとつながっていくのだ。
あなたの好きなうたを
光さす明日がくるように歌いましょう
彼女はライヴの最後にこう歌う。そのメッセージは、僕たちの生きていく時間と見事に重なる。浜田真理子と同じ時代を生き、彼女の音楽を受け取れていることが嬉しい。そして、それはなんと素晴らしいことだろう。

僕は待っていた。
そして待っていた僕の前に現れたのは、極上の浜田真理子だった。
こんな浜田真理子を、この音楽を、僕はずっと待っていたんだ。