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缶コーヒーと夜の街

    終電を逃した後の街は
    なんだか少しだけ素顔を見せている気がする。

    濡れたアスファルトに反射するネオンは
    昼間のそれよりずっと生々しい色をしていた。
    ビルの隙間を抜けていく風が首筋をかすめる。
    誰かの吐き出したため息が、そのまま冷たくなったみたいな風だ。


    コンビニの前で缶コーヒーのプルタブを弾くと、カチャッという頼りない音が夜の静寂に吸い込まれていった。

    向かいの交差点
    誰もいないのに律儀に点滅を繰り返す信号機。
    青、黄、赤とそんなに真面目にやらなくていいのに。

    スマホの画面には
    既読のつかないメッセージがひとつ。
    「今、どこ?」
    一時間前に送った文字が画面の中でずっと浮いている。


    街は優しいふりをして
    こういう夜に限ってこちらを突き放してくる。
    人の気配はそこら中にあるのに誰も自分を見ていない。
    すれ違う誰かも、ただの背景として流れていくだけだ。

    ふいに、バーの重そうな扉が開いて、酔客の笑い声が外まで溢れてきた。
    一瞬だけ、その光の渦に飛び込みたくなる。
    けれど、足は止まってくれなかった。
    別にストイックになりたいわけじゃない。
    ただ、今の自分があの中に入ってももっと惨めになるだけだとわかっていたから。


    また、風が吹く。


    スプリングコートのポケットの中で
    さっきの缶コーヒーのぬくもりがまだ残っていた。
    情けないけど
    今はこんな小さなぬくもりが唯一の味方みたいに思えて笑える。

    不意にポケットの中でスマホが震えた。
    「もう寝るね」
    画面に浮かんだのは、たったそれだけ。

    それを見た瞬間、なぜか鼻で笑ってしまった。
    さっきまで心に刺さっていた小さなトゲが、拍子抜けするほどあっさりと抜けていく。

    「なんだ、そんなもんか」と口に出す。

    でも、それでいい。


    信号が青に変わった。
    さっきまでの無意味な点滅が
    今はさっさと歩けと言っているように見えた。


    夜の街は結局
    何も解決してくれないし、慰めてもくれない。

    でも、次に踏み出すための一歩くらいは
    こうやって無愛想に放り出してくれる。


    終わり


    不倫・浮気、独身偽装についての真面目なコラム


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