
ソフトクリームの帽子とメントールの余韻
フィットネスクラブ2階の吹き抜けのガラス窓越しに、1階のプールサイドを眺める。プールサイドにはスイミングスクールの開始時間を待つ子供達が座っている。一人の子供が早歩きでやってきた。
「よかった、間に合った」
私はほっと息を吐く。先ほどエントランスで別れた、私の子供だった。無事に着替えて開始時間に間に合ったようだ。
私はガラス窓のある廊下からストレッチスペースに移動する。スペース後方の積み上げられたマットレスから一枚を持ち上げ、空いているスペースへマットレスを敷く。周りには静かにストレッチをする老年の男性、奥のエリアでウェイトトレーニングをする筋肉質な壮年の男性がいる。
マットレスに座って、首から肩のストレッチをする。オープンイヤー型イヤホンからはストリーミング再生でリラクゼーションサロンのようなBGMが流れている。今日は一日パソコン作業をしていたので肩が凝っている。思っていたよりも首が回らない。
背中と腰をストレッチする。腰をひねると背中とお腹の脂肪が存在感を訴える。
下半身のストレッチをする。右足だけ骨盤と足首が痛い。クラブに入会した時に姿勢の癖を指摘されたので、念入りにストレッチをする。毎週通うようになってから、骨盤の可動域が広がってきた実感がある。それでもまだ歩き方に癖が残っていて、たくさん歩いた日は痛くなってしまう。
マットレスを拭いて片付け、マシンジムエリアに移動する。移動しながら廊下のガラス窓から子供の姿を見付ける。頭を左右に揺らしながらビート板につかまりバタ足をしている姿が愛らしい。ペットボトルのお茶を飲みながら、BGMをカントリー調のランニングチャンネルに変える。
レッグプレスに座り脚のトレーニングをする。鉄の重りの重さを感じながら、ゆっくり慎重に脚を曲げたり伸ばしたりする。痛くなりやすい膝に負担をかけないよう、膝を伸ばし切らないように注意する。次に、チェストプレスでハンドルを前に押し出しては戻す動作を繰り返す。子供を抱っこしていたらいつの間にか腕に筋肉がついたけれど、猫背が定着して脇のラインがぷよぷよになっていた。バストアップを意識しながら胸筋に刺激を入れる。
アブドミナルクランチで背中を丸めて腹筋を伸び縮みさせる。かがむたびにお腹から二重顎にかけての脂肪の存在が感じられる。身体が浮腫んでいる時にこれをやると苦しくなるけど、今日は割とスッキリしていて嬉しくなる。
最後にシーテッドローでハンドルを引き寄せて肩甲骨を寄せる。背中から肩までの筋肉を意識して使うのに苦戦する。背中の筋肉が使えずに、思わず肩に力がはいってしまう。
一息ついて、またプールに目を向ける。子供は今度はクロールで泳いでいる。25mのプールを往復し、数十秒後にはまたスタートしてプールを往復している。他の子供達も疲れた様子もなく泳いでいる姿を見ながら階段を降りる。
1階には有酸素運動エリアとプールの見学スペースがある。プールにいる子供達の姿もガラス窓を通して見ることができる。見学スペースの椅子は見学の保護者や兄弟たちでいっぱいになっていて賑やかだ。
人混みを避けてプールとは反対側にあるクロストレーナーに乗り、足を交互に踏み込んでいく。最初の3分はいつも苦しく感じる。心拍数が上がって安定するまで、体がだるくて辛くて、毎回「今日はいつもより短い時間にしようかな」と思ってしまう。けれど3分経過した頃から汗をかいて血が巡り、だんだんと体が動かしやすくなってくる。この変化が面白い。
前方の窓からは外の景色が見える。大規模マンション群の中庭は綺麗に整備されて、樹木と花壇の景色が美しい。その中を犬の散歩をする人、自転車に乗っている人、スーツを着た人などが通りすぎていく。ぼんやりと外を眺めていたら開始から10分経過していた。
クロストレーナーから降りて、隣のフィットネスバイクに乗る。前傾姿勢でバイクをこぎ始めたら、顔にも汗が垂れてきた。タオルを首に巻きながら、脚を動かす。周りにはランニングマシンで歩く老年の女性、振動マシンに乗る老年の男性がいる。
スクールに通う保護者がトレーニングをしているのはあまり見かけない。見学スペースでおしゃべりをしたりスマートフォンを使用している場合が多い。私も以前は見学スペースの一員だった。けれど、トレーニングを始めたら体の動きが格段に良くなり、なぜもっと早く始めなかったのかと後悔した。
汗だくの姿は知り合いに会ったら少し恥ずかしいと思っていたが、多くの人がプールか手元のスマートフォンしか見ていないので意外と気付かれないものだ。音楽を聞いていると、賑やかなおしゃべりも聞こえてこなくて心穏やかに過ごせる。この心地よさを知っているのは私だけだと思うと、それもまた贅沢に感じられる。
10分経過したのでバイクを降りて、2階に上がる。BGMをリラクゼーションチャンネルに変える。誰もいないストレッチスペースで、簡単にクールダウンをする。少し時間に余裕があるのを確認して、ヨガの呼吸に集中する。日中に思考で忙しかった脳がクリアになり、穏やかな気持ちになってくる。運動後の程よいだるさが襲ってくる。
ゆっくりと立ち上がってマットレスを片付ける。更衣室に戻り、汗で濡れた服を脱いで、汗拭きシートで体を拭く。メントールのひんやりした感覚が気持ちいい。手早く着替えてチェックアウトする。
子供のお迎えスペースに行くと、タオルキャップを被った子供がやってくる。子供のタオルキャップはソフトクリームみたいで可愛い。
「お母さんがバイクこいでいるの見たよ」
「えー、気付かなかったな」
「今日はベストタイムが出たよ」
「やったねー!頑張って泳いでたもんね」
そんな会話をしながら帰路につく。帰ったら予約で沸かしておいたお風呂に入って温まろう。明日は少し筋肉痛かもしれない。でも来週はもっと動きやすくなっているかもしれない。もしかしたらスリムアップしているかもしれない。そんなことを思いながら、子供に目を向けると、子供の笑顔がいつもよりも鮮明に感じられた。これがいつも子供が見ていた世界か、と新たな発見に感動した。
【エッセイ・作品解説】
スイミングの習い事をする子供を見守る母親が、同じ時間に自身もトレーニングする姿を描いたエッセイ。ガラス窓越しに子供を見守りながら、トレーニングを通して自己の身体を再構築していく母親の視点で書いた。親子の関係から運動を楽しむ同志へと意識が変化することで、自律的な関係性と相互理解が成立していく日常の瞬間を書き残した。
※本作品は著者が構成・執筆しています。タイトル・校正チェック・推敲(細かな表現の調整)にAI(NotebookLM)を使用しています。
※タイトル画像、挿入画像はAI(Gemini: Nano Banana 2)で生成しました。
