
ラプソディ・イン・スウェットブルー
今年も夏がやってきた。
私にとって、憂鬱で果てしない戦いの日々が始まる。
その相手は汗だ。
私は昔から極度の汗っかきだ。
ここ数年の異常気象で毛穴という毛穴が開いてしまったのか、それとも早めの更年期が来たのか。とにかく、年々汗の量は増える一方である。
家から徒歩10分のスーパーまで歩こうものなら、あっという間に滝行後の修行者の出来上がりだ。
汗っかきあるあるとして、洋服の色問題がある。
汗っかきは有彩色の服を着てはいけない。
正確には黒・白以外の色の服だ。
無彩色でありながら、汗をかけばひとたび有彩色に寝返るグレー。私にとっては羊の皮を被った狼である。
そんな私が有彩色のTシャツを着た日には一瞬で背中にアフリカ大陸が浮かび上がってくる。ついでにマダガスカルも、だ。
インナーを着る。冷却スプレーを吹きかける。
ありとあらゆる対策を講じる。
それでも、やつらはいとも簡単にするりとかいくぐってくる。
憎い。非常に憎い。
夏はTシャツ一枚で過ごしたい。
本当はインナーなんて着たくない。
でも着なければ妖怪濡女の出来上がりだ。
ジリジリと灼けるような日差しの中でも、さらさらの髪をなびかせ、涼しい顔で颯爽と歩くお姉さんになりたい!と、何度も思ったことか。今世ではなれないのは確定したため、来世に期待するしかない。
こんな感じで毎年夏が来ると悶々としていたが、ここで救世主が現れた。
汗染み防止Tシャツである。
正直、購入するまでは半信半疑だった。
私の長年の悩みをそんなやすやすと解決できると思うなと、少し憤慨したりもした。
だが、私にはもうこれ以外に縋れるものはなかったのだ。
あえて私の好きな色であるダークブラウンを手に取った。
普段なら白か黒を選ぶところだが、それでは意味がない。これはある意味メーカーからの挑戦状なのだ。受けて立つしかないだろう。
奥歯をぎりぎりと噛み締めながら購入し、早速着てみることにした。
その日は快晴、気温30℃。夏を感じさせる日だった。
いつもの近所のスーパーを目指す。すでに往路で汗ばむ。スーパーに到着した頃にはTシャツが背中に張り付いている感触がある。
いつもならこの時点で焦る。
だが、この日の私は違った。
むしろ「もっと汗をかけ!」と、全身の汗腺へ指令を送る。
スーパーの冷房で一旦ひいた汗も、復路で復活。早歩きで帰宅し、後ろ姿を鏡で確認する。
ない。
いつものアフリカ大陸がない。
代わりに小笠原諸島が浮かび上がっていた。
大陸が諸島になるだけで、人の心はこんなにも軽くなるらしい。
背中に大陸を背負い、恥ずかしさでいっぱいだったあの頃の私はもういなかった。
もちろん汗が消えたわけではない。
相変わらず汗っかきで、年齢を重ねるごとに夏が来るのが憂鬱でたまらない。
でも今年は青空の下で着たい色のTシャツを着ることができた。
気づけば、鏡を見る回数も減っていた。
汗との戦いは、おそらくこれからも続く。
だけど今年の夏は、ほんの少しだけ私のほうが優勢だ。