
5月30日。〝父さん〟という言葉を書いた日のこと
本日、連投で2話を公開しました。
第36話「俺の息子(後編)」と、第37話「俺の父親」。
「黄金魚と灯火の家族」、ひとつのクライマックスです。
──
書いていた日のこと
このシーンを書いたのは、連載開始から数えて、もう何ヶ月も前のことになります。
何度も考えていました。
12歳の少年が、自分の父親を、人生で初めて〝父さん〟と呼ぶ──。
その瞬間を、どう書けば、読んでくださる方の胸に届くのか。
何度も書いては、消して、書いては、消して。
iPadの前で、何時間も止まっていました。
そして、書きあがった原稿を、自分で読み返したとき。
気がついたら、私自身の目頭が熱くなってました。
12歳の綾人と、彼の父親〝とーちー〟。
この二人のあいだに流れた長い時間が、たった一行の台詞に、ぜんぶ詰まってました。
──
〝父さん〟という言葉の重み
綾人は、これまで一度も、とーちーを〝父さん〟と呼んだことがありません。
家のなかでも、外でも、ずっと〝とーちー〟という愛称で呼んできました。
それは、とーちーが、綾人の本当の父親ではなかったから。
血のつながりは、なかった。
香奈子姉さんという別の女性と結婚していた、過去がある人。
それでも──
綾人を、自分の息子として、12年間、育ててきた人。
そのとーちーが、瀕死の状態で、こう言うのです。
「綾人……お前は、俺の自慢の息子だ」
そして綾人は、震える声で、こう返します。
「父さん……だって。──最高だ」
ぜんぶ、ここで結ばれました。
12年間、ずっと交わせなかった〝父さん〟という言葉が、ようやく、二人のあいだで形になったのです。
──
〝とーちー〟と〝父さん〟の使い分け
最初の構想では、ここまで〝父さん〟という言葉を〝とーちー〟と区別する意識はありませんでした。
でも、書き進めるうちに、登場人物たちが言うのです。
「綾人は、まだとーちーを〝父さん〟とは呼べない」
「香奈子姉さんという、本当の母親がいる人を、
〝父さん〟と呼ぶには、まだ何か足りない」
──と。
だから、ずっと〝とーちー〟だった。
作品のあちこちで、〝父さん〟という言葉が
別の意味で使われることはあっても、綾人がとーちーに直接〝父さん〟と呼びかけることは、一度もありませんでした。
それが、第37話で、ようやく出てきた。
「父さん……だって。──最高だ」
このたった9文字に、12年間が詰まっています。
──
残り7話、最後まで
ここから連載は、いよいよラストスパートです。
「とーちー」という愛称が、なぜ生まれたのか。
〝黄金魚〟と〝灯火〟が、どう結ばれていくのか。
12歳の少年・綾人が、最後にどんな答えを見つけるのか。
すべてが、明かされていきます。
実は、第37話は、ある意味で〝物語のひとつのゴール〟です。
でも、本当のゴールは、まだ先にあります。
最後まで、お付き合いいただけたら嬉しいです。
──
▼TALES作品ページ
[作品URL]
https://tales.note.com/biwakoto/wdnplrrtb6l67/episodes/esuv7oxp86dep?ss=wsl31dzqrgro59b
毎日21時更新、6月4日(木)の最終話まで、
あと7話お届けします。
少しでも多くの方に、
〝とーちー〟の灯火が届きますように。
琵琶こと
#TALES #創作大賞2026 #ファンタジー小説部門 #黄金魚と灯火の家族 #エッセイ