
「ショートケーキは背中から」 平野紗季子
平野紗季子さんを知ったのは、かつて金沢の袋町にあった「Oh Life」という名前の小さなカフェのご主人に、著書「味な店」を紹介してもらったのが最初だった。
「Oh Life」は、6席ほどしかない小さなお店だけど、ご主人がお店でパンを焼いていた。私は自家製の食パンを使ったフライドエッグトーストが好きだった。目玉焼きとトーストの間にマッシュポテトがはさんであって、半熟の黄身がトロッと流れ出したところをマッシュポテトが吸ってくれて抜群にうまかった。
これとキノコのスープを合わせると充実した朝ごはんになって、一時は毎週のように通っていた。食べ物に関する本が店内に置いてあって、それを見ながらぼんやりすごすこともできた。
ある時、ご主人が「味な店」っていう本が面白いですよと教えてくれた。雑誌POPEYEの付録で手のひらにおさまるくらいの小さな本だった。その本は、普通のレストランガイドではなくて、タイトルどおり一癖ある「味な店」、実家感があふれるお店や、店名が書いてあるお皿が素敵なお店、兄弟、姉妹でやってる店など、じんわりと味があるお店を紹介していておもしろかった。
そんな平野さんの久しぶりの本が出たということで早速買った。100店のお店紹介にエッセイもある。特にエッセイは平野さんが食日記を始めた事情もあって読み応えあった。
マックのアップルパイは甘すぎるので中身を出してしまうし、ポテトチップスの中ではオーザックが好きとか、いちいち共感してしまう。若い頃はコンビニで必ずオーザック買ってたことを思い出した。あの歯応えが好きだった。
タイトルの「ショートケーキは背中から」というのは、ショートケーキはたいていの人は尖った先端から食べるけれど、よく考えてみれば広い面積にクリームがたっぷりついた背中側(円弧側)から食べた方がおいしいんじゃないかということに気づいてしまう話。
早速ショートケーキを買ってきて試してみた。
食べる直前までは背中から食べると意識していたはずなのに、ショートケーキをお皿に乗せてフォークをセットして、コーヒーを淹れてる間に忘れてしまい、一口目をいつものように先端にフォークを入れてしまた。ショートケーキは先端から食べるべきという先入観がどれだけ強いか、図らずも実証することになった。
思わず口にいれそうになった先端部分を一旦皿の上にもどして、あらためて背中側を大きくフォークで切り取って、ガブリと食べてみた。
想像以上に美味しかった。いつものように先端から少しずつ食べるのでは、生クリームの味に馴染んだ時、下手すると飽きたところで背中側に着手することになる。これでは生クリームのインパクトが薄れる。最初からたっぷり生クリームにたっぷり苺をほおばるほうが、やっぱりうまい。
地元関連では、金沢の「豆半」のどら焼きと、小松空港近くの「ティートン」が紹介されていた。平野さんは、甘すぎるあんこが苦手で、どら焼きを食べる時はあんこをはがして食べていたけれど、豆半のあんこはおいしいのではがさないのだそうだ。