
「失敗しないと思っていたらやりたいこと」
子どもの頃、私は筋金入りのテレビっ子だった。
毎晩のようにテレビにかじりつき、画面の向こうで輝く歌手や女優たちを、憧れのまなざしで眺めていた。
なかでも惹かれたのは歌手だった。
特別な道具がなくても、自分の声ひとつで誰かの心を揺らし、勇気や感動を届けられる。そんな力が、とてもまぶしく見えた。
当時は「ザ・ベストテン」や「ザ・トップテン」「夜のヒットスタジオ」など、音楽番組の全盛期。
ミーハーだった私は、学校帰りに「トップテン」などの公開番組をよく観覧しにいっていた。
「歌が上手い人って、いいなぁ」
やがて洋楽も好きになり、ヒット曲を携えて世界中を巡るアーティストに、ますます憧れた。言葉の壁を越えて人の心を動かせるなんて、なんて素敵なんだろう。
昔、ワーキングホリデーで、カナダに住んでいた頃、通っていた語学学校の枠で、世界的テノール歌手「ルチアーノ・パヴァロッティ」のコンサートを聴ける貴重な機会をいただいた。
その歌声は、今でも忘れられない。
言葉の意味はほとんどわからないのに、圧倒的な声量と表現力に胸が震え、気づけば涙が頬を伝っていた。
周りを見れば、あちらこちらで同じように涙をぬぐう人たちがいた。
歌の力って、すごい。
人間の体は、楽器なんだ。
子どもの頃から自分の声にコンプレックスがあった私は、感動しながら、心のどこかでうらやましくも思っていた。
「もし絶対に失敗しないとしたら、何をしてみたい?」
そう聞かれたら、世界的な歌手になってみたい、と答えるかもしれない。
そして、もう一つ。昔から憧れていたのが「作家」だった。
読書が大好きで、小説を読むたびに「いつか私も、こんなふうに人の心に残る物語を書いてみたい」と思っていた。
作家とは、特別な才能を持つ選ばれた人だけがなれるもの。ずっとそう思っていた。
けれど昨年、私は『教養としてのお菓子』という本を出版することができた。しかも、子どもの頃から親しんできた憧れのGakkenさんから。
夢は、遠くにあるから夢なのではないのかもしれない。
「無理かも」と決めつけず、一歩踏み出した先で、思いがけず現実になることもある。
歌手はさておき(笑)、書くことなら今からでも挑戦できる。
失敗するかどうかより、やるかどうか。
いくつになっても、夢を見ることに遅すぎることはない。
これからも、叶うと信じて、もう一つ先の夢へ進んでみたい。