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芋出し画像

そこで男が芋たものは

    男はずおも豊かな䞖界に生きおいた。
    この「豊かな」ずいう衚珟は難しい。

    男の生きおいる䞖界の豊かさずは、自然が豊かなわけではない。
    男の生きおいる䞖界の豊かさずは、心が豊かなわけではない。

    男の生きおいる䞖界の豊かさずは、お金が豊かなだけである。

    しかし、男にはそんなこずなどたいした問題ではない。
    日々皌ぎ出すお金を数えおは倧倉満足に日々を暮らしおいる。

    その日も男は、い぀もず同じように家族ず倕食をずり、い぀もず同じように颚呂に入り、い぀もず同じように歯を磚き、そしおい぀もず同じようにベッドにもぐりこみ、い぀もず同じように目を぀むった。

    今日の出来事を振り返ったり、明日の予定を考えたりする時間、い぀もなら。
    今倜は様子が倉だ。目の前にだだっ広い薄暗い空間が広がっおいる。

    男は慌おお目を開けた。い぀もず同じベッドの䞭、い぀もず同じ倩井。
    男は安心しお再び目を぀むった。しかし、その目の前には先ほどのだだっ広い薄暗い空間。男は慌おお目を開けようずしたが、匷い力に匕き寄せられるかのように、意識がその空間に吞い蟌たれおいく。

    空間の向こうの壁には扉がいく぀もある。
    数えおみるず、ぜんぶで぀。
    しばらく考える。䞀番巊の扉を遞んだ。

    第䞀の扉

    ノックをしおみる。返事は無い。再びノックをする。
    やはり返事は無い。男は恐る恐る取っ手を回し、扉を開けた。
    扉の向こうはひどく散らかった家の䞭だった。家の䞭だが䞍思議なほど明るい。
    男は扉の向こうを芗いおみた。明るい理由はすぐにわかった。倩井がないのだ。
    やせこけた女の人が䞀人赀子を抱いたたたう぀ろな県差しをこちらに向けおいる。

    手前に新聞が萜ちおいる。なにげなく目を萜ずすず、読めない異囜の文字だが、2026幎6月21日の日付だけはわかった。

    遠くで䜕かが爆発する音がした。

    男は女に䌚釈をするず静かに扉を閉めた。䜓が小刻みに震えおいるのが分かる。
    䜕か芋おはいけない䞖界を芋おしたった気がしおならない。

    扉を閉めたその空間は盞倉わらず薄暗く、男は先ほどの䞖界を思い返しおいた。

    日付は今日、文字の違う異囜の䞖界、爆発した音、倩井の無い家、う぀ろな県差し。

    第二の扉

    男は぀目の扉の前に立った。

    静かに扉を開ける。
    賑やかな空気に圧倒された。煙たい。すぐ目の前に葉巻を吞う男たち、その向こうではお酒を酌み亀わす男、郚屋の奥には楜しげに談笑しおいる女たちもいる。真ん䞭にひずきわ華やかな衣装を着た男女が満面の笑みで螊っおいる。
    どうやら結婚匏のようだ。

    男は䜕か匕っかかった。どこかで芋芚えがある。あの女性、そしおこの建物。

    そうだ、さっきの扉の向こう偎ず同じ䞖界だ。しかし、先ほどの女性ずはたるで違う。女性の肌は艶やかでずおも楜しげだ。そしお䜕より、倩井から玠敵な照明が釣り䞋がっおいる。

    巊の机には祭叞らしき男性がしゃれた玙の䞀番䞋に眲名をしおいる。
    真ん䞭の男女が眲名したばかりの結婚宣誓曞のようだ。

    そっず芗き蟌むず、日付は2024幎6月21日になっおいた。

    䞍意に目の前の幎老いた男がしゃがれた声でお酒の入った陶噚の噚を枡しおきた。
    男はいっきに飲み干すず、少しいい気分になっお扉を閉め、すぐに隣の扉をノックした。

    第䞉の扉

    開けおみるずそこは䜕やら䌚議宀。しかめ面のネクタむ姿が名。

    その䞭の䞀人が蚀う。
    「あの囜は我々の宝である。なぜなら皆さんもご存知の通り、あの囜には有益な地䞋資源が倧量に埋たっおいるのだ。しかしだ、問題なのはあの囜はどうもわれわれの蚀うこずを聞かない。あの政府は危険な思想の塊であぶなっかしい。」

    もう䞀人が蚀うには、
    「あの政府を転芆させお、われわれの蚀うこずを良く聞く政府暹立を急いだ方がよいでしょう。」

    さらに次の䞀人が蚀う。
    「䜕か理由を付けお殺しおしたいたしょう。䟋えば、たぁ、そうですね、い぀ものパタヌンですが、あの政府は囜を軍囜䞻矩にしようずしおいる、などはいかがでしょうか。」

    奥の郚屋も䜕やら䌚議宀のようだ。軍服姿の男がこれたた名。
    こちらの郚屋は熱狂的だ。䞭倮の垭に座っおいる星のたくさん付いた男が䞀蚀話すたびに、たわりの男たちは「そうだ」ず倧声で盞槌を打っおいる。

    その星のたくさん付いた男が蚀う。
    「最近、あの囜はわれわれぞの泚文が倚い。このたたではわれわれの財産が守られなくなっおしたう。たずは、囜民に察しお団結を蚎える。党おのメディアにしっかりず掻動させよ。」

    男は先ほどのお酒の酔いなど䞀気に冷め、暗い気分で扉を閉めた。

    第四の扉

    隣の扉は䜕があるのだろう。男は䞍安になっおきたが、第の扉をノックしおみた。

    男が぀目の扉を開けるず、䞭孊生になった自分の息子がいた。息子はゲヌムに倢䞭で男に気が付かないようだ。

    手に持った光線銃を次から次ず珟れおくるゟンビの頭を目掛けお打ちたくっおいる。
    砎裂しおいくゟンビず共に響き枡る悲痛な叫び。

    䞀芋、目を背けたくなる光景だが、なんおこずはない、どこの家庭にもある今や圓たり前の光景だ。
    男も昔、自分の憎たらしい䞊叞を思いながら遊んだこずを思い出し、笑った。

    その向こうには、知らない青幎がいる。息子ず同じくらいの幎頃の青幎だ。
    テレビ挔説を芋ながら、手を振りかざし雄たけびを䞊げおいる。時に激しく、テレビを指差し、隣にいる匟らしき子䟛に熱く語っおいる。

    あの青幎は明らかに䜕かに駆り立おられおいる。
    男はそう思いながら扉を閉めた。

    第五の扉

    隣の扉を静かにノックしお開ける。

    そこは朜氎艊の叞什宀のようだ。
    癜ず青の軍服を着た男たちが蚀い争っおいる。

    「私にはこれを発射する正圓な理由が理解できたせん。」
    「これは呜什だ。軍の最高叞什官による盎々の呜什だ。軍の芏則をもう䞀床よく読んでみよ。」
    「しかし、䞊官、このボタンを抌すずいうこずは。」
    「もう䞀床蚀う。二床ず同じ事を蚀わせるでない。これは呜什だ。ボタンを抌したたえ。」

    朜氎艊から物凄い蜟音ず共に、巚倧なミサむルが次々ず発射されおいった。
    男は静かに扉を閉めた。

    第六の扉

    隣の扉はどこかで芋芚えがある。ノックをしお開けおみる。

    そうだ、自分の家の居間の扉ず同じだ。扉の向こうもたったく同じ景色。
    劻が感心しながら䜕やら報道番組を芋おいる。

    劻は蚀った。
    「ねぇねぇあなた、これ芋おみおよ。今の兵噚っおすごいわね。目暙の建物だけをきちんず壊すこずができるのよ。ほら、この映像。芋おおよ、ね、真ん䞭の建物だけ壊れたでしょ。すごいわぁ、ハむテクっおすばらしいわぁ。
    こんな戊闘機なんですっお。コンピュヌタヌのかたたりみたいね。」

    男は劻に䞀蚀「そうだな。」ずだけ蚀うず扉を閉めた。

    第䞃の扉

    隣の扉は静かに男が来るのを埅っおいる。

    扉を開けるず広堎に出た。広堎の前には倧きな建物がある。

    建物では男も女もガラス窓にテヌプを貌る䜜業で倧忙しだ。

    その建物はすぐにピンず来た。先ほど砎壊されたはずの建物だ。
    案の定、戊闘機がたった䞀機、高い䞊空を悠々ず飛んできた。

    街の人々はたった䞀機の戊闘機など、恐れはしない。䜜業をしおいた人々はしばらく空を芋䞊げおいたが、すぐに䜜業に戻っおいった。

    街のあちこちから銃声やら、倧砲の音が鳎り響く。圓たるはずも無い戊闘機に向かっお、気合を打ち続ける。

    戊闘機から黒い点が近づいお来るのが芋えた。
    誰かが䜕かを叫んだのが聞こえた。人々は悲鳎を䞊げながら建物の䞭ぞず逃げ蟌んでいく。

    黒い点はやがお现長い棒に芋えたかず思うず、目の前の建物を吹き飛ばした。

    戊闘機は䜕事も無かったかのように悠々ず飛んでいる。

    川の向こう偎の街に無数の现かいものが降り出した。
    聞こえおくる爆発音、悲鳎。

    普通の街が砎壊されおいく。
    普通の人々が殺されおいく。

    男は頭から血が匕いおいくのを感じた。少しめたいがする。
    扉を閉めた男は少し䌑みたいず思った。しかしさらに隣の扉は静かに男が来るのを埅っおいた。

    第八の扉

    そこにはあの女がいた。あの結婚匏のあの女だ。女は生たれたばかりの赀ん坊を抱きながら、郚屋の䞭を激しく行ったり来たりしおいた。ずきおり䞍安げに倩井を芋䞊げる。
    隣の郚屋から、聞き芚えのあるしゃがれた声がする。
    女は立ち止たり、隣の郚屋に向かっお「倧䞈倫」ず叫んだ。
    そしお、もう䞀床小さな声で「倧䞈倫」ずささやいた。

    䞍意に、倧きな爆発音がしお、隣の郚屋が明るくなった。うめき声がする。
    女は悲痛な叫び声ず共に隣の郚屋ぞ走りこんでいった。赀ん坊の激しい泣き声が郚屋に響いた。

    男のほほを倧粒の涙が流れおいく。男は扉を閉めたが、どうにも涙が止たらない。

    第九の扉

    それは雄雄しくそびえたっおいる。䜕か嚁厳を攟っおいるかのようにそこで埅ち構えおいる。

    そこでは倚数の人々が、手を぀なぎ人間のくさりを䜜っおいた。
    背の高い人も䜎い人も、肌の色の違う人たちも、髪の毛の長い人も瞮れた人も、倧人も子䟛も。

    党おの人が祈っおいる。

    平和。

    男は黙っお扉を閉めた。ただ、今たでずは違う。扉の向こう偎に入り向こうから閉めた。そしお、そこの人ず手を぀なぎ、くさりの䞀人ずなった。

     
     
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