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肉塊のお姫様④

    ♡③♡

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    私は新しい生活がこんなにも退屈だなんて思ってもいませんでした。

    新しく入所した××自立支援ホームは、働いて将来自立するための貯金さえすれば自由に過ごせました。自分を入れて合計5人の女の子とスタッフが暮らしており、夜ご飯は皆で食べるというルールがあったのです。しかし、食事中に誰かが喋りかけてくるのが鬱陶しくて、さっさと食べて部屋に籠っていました。

    それは自分だけ上手く働けないことに負い目を感じていたからでもありました。そもそも『履歴書』すら知らないくらい教養がなかったのでバイトに全く受かりません。やっと働くことが出来ても、強く指摘してくる店長に腹を立って、少し暴れただけですぐクビになるのです。

    そんな私の日課は、前髪を切ること、そして日記を読み返すことでした。川田さんの書いた文字を掠れるまで何十回何百回と指でなぞって、何故施設からいなくなったのか?キスを拒んだのか?と、ずぅっと自問自答していました。

    きっと脱走を共謀したのがバレて退所処分になったのでしょう。あの時は急に恥ずかしくなっただけで、ずっと後悔しながら私を血眼で探しているかもしれない。私だって、川田さんに会いたい。

    彼を探すために色んな探偵事務所を訪れました。しかし、料金が高くて依頼出来ないし、そもそも相談を断られることもあります。手掛かりもお金もない。私はどんどん追い詰められていきました。

    そしてそれは自立援助ホームを飛び出す引き金にもなったのです。

    「__舞子さん、良かったらもう一度バイトに応募してみない?」

    サラサラの髪を耳にかけながら担当スタッフである加藤さんは話を切り出してきました。

    「自分のタイミングでするからほっといて」

    「でも今から応募すればゆっくりお金も貯められるよ」

    私がぶっきらぼうに返事をしても、優しく微笑むのです。

    その笑顔が、本当に本当に大っ嫌いでした。綺麗で真面目でずっと恵まれた生活をしてきたのでしょう。私に相手をするのも、憐れむことで気持ちよくなるためだと思っていました。

    「私の気持ちなんて分かんないくせに」

    「ごめんね。分かるように頑張るから」

    彼女は困ったように笑って私の手を優しく握りました。ふと細い華奢な指を見ると、キラリと光るシルバーの指輪が見えました。まるでお前は一生をかけてもこうはなれないと言われているようで無性にイライラします。

    あぁ、もう嫌だ。手をはねのけるようにバッと立って背を向けた時。

    「ただ、舞子さんのことを思って言ってるんだけどな」

    後ろから小さい声が聞こえました。

    …それは母の口癖でした。昔から玩具も本も与えずに男と遊んでいた母のことです。私が学校でいじめられていることを相談した時ですら、

    『だってお前はゴミなんだからしょーがねぇーだろ』
    『鈍感なお前のために言ってやったんだよ。気に入らねぇの?』

    そう言って、何度も暴力を振るってくるのでした。辛かった。助けてほしかった。誰も見てすらくれなかった。この目の前にいる女だって絶対馬鹿にしてるんだ。

    「…らない」

    「え??」

    「そういうところが気に入らないって言ってんだよ!!!」


    私は目の前にあったコップの水を勢いよく女にかけたのです。

    「舞子さん何するのっ!」

    「うるさいうるさいうるさい!!!」


    そしてそのコップを机めがけて叩き割りました。しかし、我に返る頃にはもう遅く、彼女の手には運悪く破片が当たって血が流れていたのです。

    「痛い…ぅう」

    加藤さんがうめきます。

    __違う。そうしたかった訳じゃない。相変わらず血に濡れた薬指には、綺麗な指輪が光っていました。

    『白鳥さん』

    その瞬間、懐かしい声が突然頭に響いたのです。

    …川田さん、違うの、いつもこんなになっちゃうの、ごめんなさい、ただ、ただ…。私はパニックになって、逃げるように最低限の荷物だけバッグへ入れると、施設から飛び出しました。


    「待って、行かないで舞子さん!」
    彼女が叫ぶ声は、すぐ遠くなっていきます。


    何も考えたくなくて、全力で走っていると、喉が熱くなって、とめどなく涙が溢れてくるのです。それでも頭からは彼の声がこびりついて離れてくれません。

    「あぁあああ、川田さんっ、川田さん川田さん、川田さんっ」


    私はひたすら叫んで、ひたすら走りました。過ぎ去る信号も街灯も、全てが色褪せて見えました。彼の広い背中も目の前にはありません。


    あの帰りの時見たつまらない景色がひたすらに広がっているだけでした。



    ____あれからどれほど走ったのでしょうか。気がつくとかなり離れた駅に着いていたのです。頭に酸素がのぼらずクラクラして駅の階段に座りこむと、加藤さんのことを思い出しました。

    ただ彼女が羨ましかっただけなのです。私はバッグからペンを取りだして、自分の左手の薬指に一本の線を引きました。

    「ねぇお姉さん、何してんの?」

    ビックリして顔を上げると、金髪のチャラい男が立っていました。腕にはびっしりと墨が入っていて、いわゆる半グレのような見た目なのです。

    「なんか黄昏ちゃってる感じ?」

    何だか気味が悪かったので顔を逸らすと、男は私の指に視線を移しました。「おぉ、何だお前年少リング入ってるのか」

    「これは川田さんとの結婚指輪なの」

    「はぁ?何言ってんの?めちゃくちゃ面白いな」

    「もう話しかけないでどっか行っ…『ぎゅるるるぅう』

    その時、私は朝から何もご飯を食べていないのを心の底から後悔しました。男は大笑いして、無理やり私をカフェに連れて行きました。


    ___「何も食わねぇの?」

    早くこの時間が終わってほしい。この人とは本能レベルで合わない。

    「どっちにするかなやむな~」

    男は楽しそうにメニューを眺めています。
    一体何が目的なのか未だにサッパリ分かりません。

    「いいから食えよ。特別に奢ってやるから!すんませーん」

    そう言うと勝手にピザトーストを2つ注文して、届くなりクチャクチャ汚く食べ始めたのです。私も仕方なく口に運ぶと、そのあまりの美味しさにびっくりして思わず頬が緩んでしまいました。施設で朝食べていた質素なパンとは、本当に全く違うのです。

    「うまいか?」

    「うんっ!!こんな美味しい食べ物初めてよ」

    「ハハ、良かったじゃん」
    男は優しく微笑むと、また勢いよくピザトーストにかぶりつきました。

    「そういえばさぁ、さっき変なこと言ってたけど何の話?」

    …川田さん。今どこで何をしているのかな。そう思うと何だか気持ちが溢れて、気づけば勝手に口を動かしていました。男は意外にも聞き上手で、うんうん、と相槌を打ちながら一生懸命聞いてくれるのです。

    「なるほどねぇ。そいつを探したいけど金がねぇのか」

    「うん。だって苗字しか分からないし」

    私は彼の名前すら知らない事実に悲しくなりました。すると男はニヤリと笑ったのです。

    「俺、ソイツのこと知ってるかもだぜ」

    「えっ?!!どうして」

    「知り合いに情報屋がいるんだわァ。ワンチャンあるぜ」
    「××一時保護所の職員だっけ?最近誰かが名簿売ったって噂あった気がすんだよ」

    その言葉は探偵もダメでお金も無い自分にとってまさに一筋の光でした。

    「お願い!!川田さんのこと教えて」

    「でもなぁ。簡単に教える訳にはいかねぇだろ」

    「……どうすればいいの?」

    男は泣きそうな顔をする私を見て笑うと、こう提案してきたのです。情報が手に入ったらお前の個人情報さえ提供すればタダでソイツの名前と年齢くらいは教えてやる、と。

    「何でも教えるわ!!」


    私は思わず嬉しくなっていつの間にか叫んでいました。その2つだけでもかなり探す手掛かりになるし、何より川田さんの名前を知ることが出来るのはとても魅力的でした。

    「よし決まり。明日の朝10時にこのカフェの前で待ち合わせな。あと身分証とスーツも持ってこい」

    「え?スーツ?持ってないけど」

    「……あっそ。俺持ってくからお前は何も気にすんな」

    男はチッと舌打ちをしてピザトーストをペロリと平らげると、2人分のお金を置いて去ろうとしたのです。

    「まっ、待って!」
    「わ、私、勢いで出てきちゃったからどこも行くところが…」

    「だから何?お前、察してちゃんだな」

    男はズケズケ戻ってきたかと思うと、財布から一万円を取り出してバシっと置きました。

    「やるよ!その代わり…明日来なかったら、ブチ殺す」

    そう私の耳元で囁くと、カフェから出ていくのでした。

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    官能小説と青年向け漫画とお酒が大好き♡ 好きなことをいっぱい書きますのでよろしくです°˖✧˖°

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