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Photo byyui_torizuka

【散文】雨の日の喫茶店

    君に伝えることはきっと無いだろう

    店の出口で立ち止まったのは
    雨が降っていたからではない
    折りたたみ傘を濡らすのをためらったのだ
    家のたたきにジメジメとした闇が開くのを

    店内から君は
    晴れやかな笑顔とともに傘を差しだした
    受け取ったのはその笑顔に会う口実をつくるため
    家のたたきに虹の空が広がった


    ☔   ☔   ☔


    貴方はきっと気づかなかったでしょう

    重い空気をまとって入店して
    夕食も、食後の珈琲も、難しい顔をしていた
    会計ではじめて、うつむいたまま微笑った

    その笑顔を守りたくて
    玄関の短い軒下で、暗い空を見上げた貴方に
    思わず私の傘を渡していた
    驚きが三杯と照れを少々
    温まった心に溶かして貴方が帰路に就く


    ☔   ☔   ☔


    どれだけのお客様が気づくだろう

    雨の日は珈琲の香りがぼやける
    避けきれない雑味をごまかすように
    雨の日限定でクッキーをサービスする

    アイデアに賛成した彼女は
    さっそく傘の形のクッキーを焼く
    カラリと焼けた傘は雨の日の出番を待っている
    晴れやかな笑顔と香ばしい傘
    浮かぶのは
    雨の日に来るあのお客様


    ☔   ☔   ☔


    ねえマスター、若いっていいわね

    仕事帰りの馴染みの喫茶店
    雨の日のサービスを照明にかざす
    日傘越しに見るマスターはいつもの仏頂面

    入口の鈴が鳴る度、揺れるポニーテール
    小動物のような反応に思わず笑う
    遠目で観察していたわたしに気づき振り向く彼女
    傘の形のクッキーをかかげ
    ゴショウバン、と口にする


    ☔   ☔   ☔


    雨の日はいつも定時上がり
    秘密主義の先輩が
    気配を消すように退社する

    向かった先は老舗の喫茶店
    偶然を装い入店し
    気まずそうな顔をした先輩の向かいの席に座る

    笑顔の可愛い店員に
    僕は先輩と同じものを注文する

    揺れるポニーテール
    機嫌の悪い先輩
    店員もお客も、僕を気にしている

    いい店ですね、と僕は言う




    雨の140字文学賞なるものが開催中です。


     Xのアカウントもあるのでそっちから参戦しようと思ったら140字書けなくて(なぜか文字数オーバーとなる)、主催者ページのフォームから投稿したけどなぜか返信メールが届かず、結局応募できてるのかできてないのかわからないのでここにあげておきます。

    (→この後、主催者様より届いている旨のご連絡をいただきました! ありがとうございます!)

     思わず連作にしてしまったけど、そういうことじゃないですよね、この章の主旨は。。。
     また期間内に思いついたら出します。
     130字くらいだったらXでも行けそうだったので🐤




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