メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byksoma

【短編ホラー(終)】みんなあつまれ!ニコニコマート南惢谷川店に!(終)

    第六話 円環

    「朝礼!!」
     午前八時。俺が店内放送で招集をかけると、皆必死に、走って集まってくる。
     朝礼で数字の悪い部門を名指しした。声は穏やかだった。息は乱れていなかった。
     篠崎が手を挙げた。
    「副店長、いや店長。朝礼の時間なんですけど、八時は少し早くないっすか」
    「篠崎くん」
     俺は穏やかに言った。
    「朝礼は神聖な場です。真面目にやってください」
     場が、一瞬静まった。
     篠崎が、少し口を閉じた。
    ◇
     イキイキパート隊の活動報告を、新しいリーダーが行った。
     レジパートの佐藤さんだった。
     笑顔だった。
     以前の佐藤さんはうまく笑えない人だったが、今の佐藤さんは笑顔が消えない。
    「今月も頑張りましょう」
     俺は頷いた。「ありがとう、助かります」
    ◇
     新しく着任した副店長に、俺は言った。
    「気になる従業員がいたら報告してください。チームのためです」
    「大人の解釈でお願いしますよ」
     新しい副店長が愛想笑いで「分かりました」と答えた。
     握手した。
     新しい副店長の顔が、一瞬だけ強張った。
     だが俺は、気づかなかった。
    ◇
     桜井さんが、誰にも聞こえないように更衣室で泣いていた。
     俺は気づいた。しかし今は朝礼の準備がある。
     後で話そうと思った。
     後で、時間ができたら……。
    ◇
     社長婦人が来た。
    「マンゴスチンはないのかしら。私大好物なの」
    「すぐにご用意します!」
     俺は飛び出していった。
     声が、別人だった。
    ◇
     閉店後、事務所でスマホを確認した。
     本部からのメールが届いていた。
     件名は「北惢森山店における従業員の連絡不能事案について」だった。
     俺はメールを閉じた。
     明日の朝礼の準備をしなければならなかった。
     地区の行方不明事件のニュースが、また流れ始めていた。
    ◇
     翌朝、五時。
     霧の中から、俺は店に向かった。
     皆が来る前に、朝礼の準備を。
     急がなければ。
     店の看板が見えた。
     なぜだろう、胸が高鳴る。
     今日も良い店にしよう。
     皆のために。
     会社のために。
     お客様のために。
     そして俺は笑った。


    終章

     屋上の駐車場。
     工藤が遠くから、俺を見ていた。
     タバコに火をつける。
     篠崎が工藤の横に並んだ。
    「工藤さん、最近店長変じゃないっすか」
    「そうか」
    「なんか、前の店長に似てきてる気がして」
     工藤はタバコを一口吸った。
    「篠崎」
    「っす」
    「お前、転職考えてるか」
     篠崎は少し間を置いた。
    「……考えてないっすけど」
    「考えた方がいい」
     それだけ言って、工藤は売り場に戻った。
     篠崎はしばらくその背中を見ていた。
     そしてポツリとつぶやいた。
    「そうだよなぁ、ここの店長が一番ヤバい」
    終


     
     
    べべべと申します。 趣味で小説を書いています。 またスーパーカブ110(JA59)に乗ったり、庭で焚き火も好きです。

    あなたへのおすすめ