メインコンテンツへスキップ
見出し画像

貯金箱 (後編)


    僕の誕生日は付き合い出した日でもあった。環境や気持ちを切りかえたというのに、記憶だけは変わらず追っかけてきては毎年彼女のことを思い出だしてしまう。



    だからといって、思い出に浸るのは余り好きじゃない。思い出は思いだすたびに美化してしまう。美化した思い出は哀しさを倍増させるからだ。


    それなのに色んな思い出が頭に浮かんでは独り身悶えしたり、後悔を繰り返していたら、突然、思い出す。




    あの貯金箱のことを。




    三重に逃げるように引越して3年。まだ開けてない段ボール箱がある。彼女の物や服、2人で使っていた物が入った段ボール。引越しの時に捨てればよかったのに、捨てきれなかった物を入れた段ボール。


    その中に貯金箱があるはず。



    誕生日だし、処分第一弾に貯金箱のお金で旨い物でも食べよと姑息な考えを思いついた。



    探すとすぐに見つかった。


    持ち上げるとめちゃめちゃ軽い。



    「そんなに入ってないなぁ。まっ、いいか。」と缶切りで開けてみると、案の定、微々たる小銭しか入ってなかった。



    その小銭に混ざり、見覚えのない小さく折ってあるメモ用紙が入っていた。そんな物入れた覚えはないがメモ用紙を開けてみると《いつかこのお金が少しでも(僕の名前)の役に立ちますように》と彼女の字で書いてあり、1万円が挟まれていた。



    別れて、尚、全て見透かされていた。遅かれ早かれ、僕が姑息な考えで貯金箱を開けてしまうことを。


    そんな僕を最後の最後まで心配してくれる彼女の気持ちに泣けてきた。もう彼女の思い出で泣くことはないと思っていたのに。


    そう決めたのに。



    涙が止まらなかった。



    小さなメモ用紙を握りしめながら。



    小さなメモ用紙が、一万円が、とても重く感じた。



    「守ってやれなくって、ごめんね。ごめんね。」と繰り返しながら。



    思い出に浸るのは余り好きじゃない。美化した思い出は哀しさを倍増させる。でも、この日、この日だけは、思い出に浸り、泣いた。



    …………………………………




    今更ながら、あなたと歩めた12年。あなたが彼女だったことを誇りに思います。



    本当に幸せになって下さい。



    もう会うことはないと思いますが、幸せな家庭を持って素敵な時間を歩んで行って下さい。


    心から祈っています。



    結婚を許されず楽しいことより、辛いことや励まし合うことの方が多かった気がします。
    それでも、あなたが笑ってるだけで、ただそれだけで僕には意味のある日々でした。


    一緒に笑い合えるならそれも悪くないかなって。


    あなたに出逢えてよかった。


    心から、心の底から感謝してます。


    本当に、ありがとう。

    画像

    あなたへのおすすめ