
考え方で現場は変わる ③=「三方よし」で完成する仕組み|宴会営業とつながったとき、流れは完成した
流れを完成させる、最後の大きな鍵
ここまで、私は社内のさまざまな部署に少しずつ声をかけながら、お客様の流れをつくり、社内の協力体制も整えようとしていました。
レストランやベルマンだけではありません。
ご宴会の当日、お客様の雰囲気を察してバーをご案内してくれた宴会サービス部、宴会後の団体利用に必要な料理の相談をさせてもらったレストランキッチンや宴会キッチン。さらに、総務部や購買部、宿泊部のフロントにも、折に触れて声をかけていきました。
そうして少しずつ社内のつながりが広がっていく中で、まだ流れを大きく変えるには、もう一段階必要だと感じていました。
その中でも、特に大きな鍵になると感じていたのが「宴会営業」でした。
ホテルにおける宴会は、お客様との非常に大きな接点です。定例会やセミナー、医療関係の勉強会、大きな周年行事まで、その内容は実にさまざまです。
そしてそこには、大小いろいろな企業や団体のお客様との関係性があります。言い換えれば、すでにホテルと信頼関係のあるお客様が集まっている場でもありました。
だからこそ私は、レストランや宿泊のときと同じように、まずは宴会営業の動きを理解することから始めました。
営業の人たちが、どのようにお客様と関係を築き、どのように話を進めていくのか。その流れを知りたくて、意識的に関わる機会を増やしていきました。
相手の流れにフィットさせるということ
その中で考えていたのは、「どう売り込むか」ではありませんでした。
営業の流れの中で、どのタイミングなら自然にバーを紹介できるのか。どんな形であれば、お客様にも営業側にも無理がないのか。そうした“入り方”を探っていたのだと思います。
もちろん、ある程度想像していた通りのケースもありました。けれど実際に関わってみると、「なるほど、こういう使い方もあるのか」と感じる場面も少なくありませんでした。
お客様によって求めているものは、本当に違います。
時間帯も違えば、人数も違う。価格帯の感覚も違う。利用の目的も、それぞれまったく異なります。
たとえば、宴会前に講演者の方が気持ちを整えるために、静かに過ごす場所として使われることもありました。主催者の方々15名前後での打ち上げもあれば、幹部の方4、5名での落ち着いた慰労の場として使われることもある。もちろん、宴会後の二次会としてご利用いただくこともありました。
当然ですが、一つとして同じケースはありませんでした。
だからこそ、その一つひとつに、できるだけフィットさせることを意識しました。何か新しい提案を無理に押し込むのではなく、すでにある流れの中に自然に入っていく形をつくる。私がやっていたのは、そういうことだったように思います。
社内の相手にも、まず敬意を持つ
そして、もう一つ強く意識していたことがありました。
それは、レストラン、宿泊、営業といった他部署の仲間に対しても、バーの売上につながる関わりの中では、いわば“お客様のように接する”ということでした。
少し大げさに聞こえるかもしれません。ただ、私の中ではとても大事な感覚でした。
紹介してもらう立場である以上、その人たちは自分たちにお客様を託してくれる存在です。そう考えると、バーに来てくださるお客様と同じように、あるいはそれ以上に、敬意を持って接するべきだと思っていました。
お願いする側ではなく、任せてもらう側。その意識は、常に持っていたつもりです。
この「社内ホスピタリティ」とでも言えるような姿勢は、自分だけでなく、配下のスタッフにも同じように実践してもらいました。
その積み重ねによって、紹介する側にとっても「ここなら安心して任せられる」と思ってもらえる場所になっていったのだと思います。
そしてその安心感が、また次の紹介へとつながっていきました。
三方よしで、流れは完成する
レストラン、ベルマン、そして宴会営業。それぞれの動きがつながったとき、お客様の流れは一気に強くなりました。
ここで私が意識していたのは、「三方よし」の状態でした。
お客様にとっては、食事や宴会のあとに、もう一歩先の時間を自然に提案されること。レストランや営業、ベルマンにとっては、お客様との関係を深めるための一つの選択肢になること。そしてバーにとっては、無理なく自然な形でお客様が流れてくること。
どこか一方だけが得をする形ではなく、それぞれに意味がある状態にする。その形ができたことで、この流れは無理なく続いていきました。
レストランでのひと言。
ベルマンのひと言。
営業マンのひと言。
それらが別々にあるのではなく、自然につながっていく。そしてお客様の中で、バーが「次の選択肢」として無理なく浮かぶ。そんな状態ができたとき、結果は大きく変わりました。
それまでおよそ8400万円前後で推移していた売上は、3年目に1億300万円まで伸び、過去最高売上を達成することができました。
もちろん、この数字は大きな結果でした。
ただ、今振り返ってみると、それ以上に価値があったのは「流れができたこと」だったように思います。
何より嬉しかったのは、レストラン、ベルマン、宴会営業それぞれのスタッフが、お客様から
「紹介してくれてありがとう」
「よかったよ」
「助かったよ」
といった言葉をいただき、そのことで自分たちの案内がお客様に喜ばれたと実感し、今度は私たちバーのスタッフに
「ありがとう」と声をかけてくれたことでした。
自分たちの売上が上がったことももちろん嬉しかったですが、関わってくれた他部署のスタッフたちも、お客様とのやり取りの中で手応えを感じてくれていた。それが何より嬉しく、誇りにも思えました。
現場が整い、人が変わり、流れがつながる。そのとき初めて、結果は自然についてくる。そんなことを、私はこの経験を通して実感しました。
最後に
振り返ってみると、特別なことをしたわけではありません。
現場を整えること。相手を理解すること。そして、流れを設計すること。
その積み重ねだったのだと思います。
社内営業というと、お願いをすることのように聞こえるかもしれません。あるいは、人を動かすことのように見えるのかもしれません。
でも私自身は、少し違うように感じています。
それぞれの立場の中で、みんなが自然に動ける流れをつくること。社内営業とは、そういうことなのではないかと思っています。
そしてその流れは、相手を理解しようとするところからしか生まれない。今はそんなふうに考えています。