Course1 鰈の姿揚げ
第六皿 野口
1. 食堂の片隅で、世界に名前と構造を与える話
野口は、まな板の上に置かれた鰈(カレイ)をしばらく見つめていた。
日奈子が静かに尋ねる。
「……捌かないんですか?」
野口は微笑んだ。
「水が一杯あるとする。」 「はい?」 「算数を学べば、何ミリリットルあるか分かる。理科を学べば、水素と酸素からできていることが分かる。社会を学べば、その水を自由に飲めない国があることも知る。」
日奈子は首を傾げる。
「急に授業ですか?」 「美術なら光の反射を見る。音楽なら、水位で音が変わることに気づく。技術なら器の仕組みを知る。言葉を学べば、それを誰かへ伝えられる。」
野口は鰈へ視線を戻した。
「何も知らなければ、これはただの魚だ。」
包丁の先で側線をなぞる。
「でも身体の構造を知れば、骨の位置が見える。内臓を傷つけず、身を無駄にせずに済む。」
日奈子も鰈を見つめる。
「見えないものが、見えるようになる……。」 「勉強は、世界に名前と構造を与えることだ。」
野口は静かに包丁を入れた。
「ただ見て終わらないために。……鰈は左右対称じゃない。」 「え?」 「成長すると片方の目が移動する。だから、普通の魚と同じように捌けば失敗する。」
日奈子は小さく笑った。知っているかどうかで、見え方が変わる。
野口は静かに頷く。
「知識は答えを増やすものじゃない。見える世界を増やすものだ。」
2. 鰈の立体唐揚げ〜もみじおろしとぽん酢添え〜
🍳 材料(2〜4人分)
鰈(カレイ):1尾
片栗粉:適量
ぽん酢:適量
もみじおろし:適量
🍴 作り方
① 鱗を落とす 端末を耳にあてて通話した後の画面を拭くように、鰈の鱗を包丁の背で丁寧に落とす。
② さばく 使ってないアプリ、巨大な動画、溜め込んだアプリのキャッシュを削除するように、ぬめりを洗い、内臓とエラを取り除く。
頭と尾の付け根へ切り込みを入れ、中骨に沿って包丁を進める。人生の壁を乗り越えるのではなく、沿って歩くように、骨に沿って身を外して三枚におろす。
③ 揚げる 身と中骨へ片栗粉をまぶす。中骨は頭と尾ヒレの付け根を竹串で通してU字にする。身はさっくり、中骨は香ばしく揚げる(※中骨は二度揚げします)。
④ 盛り付ける オカヒジキを敷き、中骨をU字に立て、身を櫓を組むように盛り付ける。
💡 ワンポイント
子持ち鰈は揚げる際に卵が弾けることがあります。心の準備をしてから揚げてください。
3. 日奈子の食レポ
「すごい……。」
最初に驚いたのは盛り付けだった。まるで泳いでいる鰈が、そのまま皿へ戻ってきたように見える。
身は軽やかに揚がり、衣は薄く香ばしい。ぽん酢ともみじおろしが、脂の旨味をすっと引き締める。骨まで揚げられた部分は、香ばしいせんべいのように最後まで食べられた。
「最初にお話しされていた意味が分かりました。」
野口は静かに頷く。
「構造を知れば、無駄なく活かせる。」 「魚だけじゃなく、人もですね。」
野口は少しだけ笑った。
「人は、理解された分だけ、美しく見える。」
4. 日奈子のペアリング
🍶 おすすめの一杯:純米吟醸(冷酒)
鰈の繊細な甘みを邪魔せず、揚げ物の香ばしさとぽん酢の酸味をきれいにつないでくれます。
🍵 ノンアルコールなら
冷たい煎茶
すだちを浮かべた炭酸水
後味まで凛とした印象になります。
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