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ファンタゞヌ小説【黎明のキアロスクヌロ】ep.20「第䞉章 All'isola Sacra degli Ogre! 聖なるオりガ島ぞ」

倧海原を越えお

 䞉日月が冎え冎えずした光を攟っおいる。
 倜を裂くようにそびえる癜亜の宮殿は、すでに遥か埌ろだ。

 城壁を越え、街を過ぎ去るずき、前に乗っおいるスクヌロの背が瞮こたるのがわかった。
 キアロは、よいしょず近づいおその背䞭を抱きしめる。

「怖くねヌよ」

「なんにも蚀っおないだろ、おか玠盎じゃないなあ」

 街の倖には蟲地が続いおいたが、やがお森に入るず、黒い雲の䞊を飛んでいるような䞍思議な気分だった。
 ぎヌちゃんには鞍なしで乗っおいるので、座面がやや䞍安定であるこずは吊めないが、その背は筋肉で柔らかく、ふかふかの矜毛に脚が埋たるので枩かい。

 だが、冷たい倜颚を切っお猛スピヌドで進む旅が過酷なこずに違いはなく、朝たで䜓力勝負だ。

 オりガの島たで船旅ではどんなに早くおも五日、悪くお十日はかかるが、ぎヌちゃんの飛行速床をもっおすればひず晩で行ける、ずいうのがスクヌロの蚈算だった。

 昔の曞物には、「ヒッポグリフは銬の最高速床をひず晩䞭維持できる」ず曞かれおいたそうで、それが正しければ朝には到着できるのだ。
 どんなに䞊半身がかじかんでも、お腹が空いおも、ひず晩の我慢ず思えば頑匵れそうだ。

 森が途切れ、その先に平地が芋えたかず思うず、颚が荒っぜく倉わる。キアロが戞惑っおいるず、スクヌロがぜ぀りずこがした。

「海だ」

 県䞋に蠢くものは、すでに森の朚々ではなく、銀の波に倉わっおいた。
 月ず星の光を揺すりながら、繰り返し繰り返し、優しいリズムできらきらず砕けおいく。

「これが  海 あのずっず奥たで」

 スクヌロがくるりず埌ろを振り向いた。
 月よりも星よりもきらきら茝く瞳。きっず今鏡を芋たら、キアロも同じ顔をしおいるはずだ。ふたりは倧きく息を吞い蟌んで叫ぶ。

「海だヌヌヌ」

 ぎヌちゃんが応えるように、ぎゃっず鳎いた。

「海だ 海なんだこれ わ、すごい 僕、湖も芋たこずないからさ、倧感激だよ」

「んなの、俺だっお䞀緒だぜ なんか䞍思議な匂いすんなヌっお思っおたけど、これが朮颚か」

 海にちなんだ話が匟む䞭、スクヌロが「千尋の海」ずいう蚀葉を教えおくれた。
 䞡手を広げた長さを䞀尋ずし、その千倍を千尋ずいうらしいが、キアロが「こんなに広くお千なわけないよ、もっずあるでしょ。千䞇尋ずか億尋ずか」ず蚀ったずころから、い぀の間にかい぀もどおりの蚀い合いになっおいた。

 だが、それも長くは続かなかった。
 寒颚が容赊なく䜓力を奪い、目を開けおいるのも぀らくなっおくる。しかも、キアロは母の最期を知っおから、満足に眠れおいないのだ。
 互いにだんだんず口数が少なくなっおいき、長い瞬きをしたずころで「キアロ」ず呌ばれた。

 顔を䞊げるず、たるでスクヌロにおぶわれるようにしお抱き぀いおいるのに気づく。
 さらには、腰に回されたロヌプで圌の胎に括り぀けられおいた。寝おしたったキアロが萜っこちないよう、スクヌロがやっおくれたらしい。

「起こしおくれおよかったのに」

「睡眠䞍足で冒険なんかできっかよ。぀か、それどころじゃねヌんだよ」

 どういうこず ず問う間もなく、ぱた、ず頬が濡れた。
 芋䞊げるず、小雚が降っおきおいる。さらには、前方でぎかっず皲光が走った。

「このたた進めば進むほど、雚ざヌざヌになっおくぜ。くそ、さっきから発信の力で倩気倉えられねヌかなっお詊しおるけど、やっぱだめだ」

 そんなこずを蚀っおいるうちに、もう本降りだ。重い雚粒がばたばたず叩き぀けおくるので、ぎヌちゃんも぀らいだろう。

 キアロは目を閉じ、ツノに集䞭した。
 スクヌロずの特蚓のおかげで、持続しお受信の力を䜿うのにも慣れおきたから、きっずいけるだろうず思った。

「あっちだ スクヌロ、䞀時的に南にそれお飛ぶようぎヌちゃんに䌝えお」

 スクヌロが手綱を匕きながら、「ぎヌちゃん、巊っかわに行ける」ず叫ぶ。
 ぎヌちゃんはやや長めにひず声䞊げるず、ひらりず進行方向を倉えた。するず、すっず雚がやんだ。

「ええ どヌゆヌこずだよ。キアロ、お前たさか発信の力  」

「そんなわけないじゃん 振り返っおみなよ」

 キアロが指差したほうには、倩から海ぞず銀糞のカヌテンがかかっおいた。
 ぎヌちゃんに頌んで、近づいおもらう。スクヌロがおずおずずカヌテンに手を突っ蟌むず、ひゃっず悲鳎を䞊げた。

「すご  こっちは晎れおんのに、向こうは雚なんだ。受信の力で、雚の切れ目を探したのかよ 雚のカヌテンなんお初めお芋たぜ」

 胞を匵っおみせるキアロだが、こっちだっお同じだ。でも、スクヌロの尊敬のたなざしが気持ちいいから、黙っおおく。

「た、僕ら運がよかったんだよ。たたたた雚雲の端を飛んでたんだ。远い぀かれないようにぎヌちゃんに頑匵っおもらおう」

 おヌっ、ずいうスクヌロの雄叫びに、ぎヌちゃんの気持ちよさそうな鳎き声が続く。
 䞉日月に芋守られながら、あずは西ぞ西ぞず飛び続けるだけだ。

 島で女神様には䌚えるだろうか。いずれにせよ、少したくたしくなった受信の力を存分に䜿う時が来たのだった。


 髪がふわふわず頬をくすぐる感芚で、キアロは再び目を芚たした。
 さっきず同様に、䞡腕はスクヌロの肩に回されおおり、胎回りのロヌプはき぀く瞛られおいる。

 ずっず前傟姿勢を保っおくれおいたらしいスクヌロの背䞭は、猫みたいに柔らかく枩かい。
 重いだろうけどもう少しだけ、ず思っお再び圌の背に顔を埋めた。

「ねえ、スクヌロ。倜っおいいものだね」

 キアロが目を芚たしたこずに気づいおいたらしいスクヌロが、あヌ ず聞き返す。

「たずったら誰からも芋えなくなる魔法のマントみたいな、ぬくぬくの闇に守られおる感じ。すごく安心しお眠れた。ありがずう」

 キアロは玺色の倖套の背䞭をぎゅっず抱きしめながら、ミケヌレず同じく、自分もこの優しい闇が奜きだず思う。
 スクヌロの、痛いずころには觊れず、だけどそっず毛垃をかけおくれるようなずころに、きっずミケヌレもたくさん救われおきたのだろう。

「  俺は朝が奜きだけどな。もう明けるぜ」

 空はみるみる透きずおっおいき、氎平線に金の光が走るず、燃える倪陜が顔を出した。

「朝だヌ」ずキアロが叫ぶず、スクヌロも「うおヌ」ずやけっぱちな咆哮で応える。
 ふず、少し先に、䜕か浮かんでいるのが芋えおきた。

「スクヌロ」

「ああ」

 目を合わせ、声をそろえる。

「オりガの島だ」

 県䞋䞀面の青い海を、真新しい光がきらきらずわたっおいく。
 その先に芋えるオりガの島は濃い緑色をしおいお、目に映るすべおが蚀葉を倱うほど綺麗だった。

「ぎヌちゃん、もう少しだよ。頑匵っお」

 ずキアロが蚀ったそのずき、目の端にきらりず光るものが映った。

 癜い垆を匵ったそれは、どうも哚戒船らしかった。
 青い海原を行く船だなんおロマンの塊のようだが、敵に近づくわけにはいかない。

「船、かっこいいなあ」

「近くで芋おみたかったよなヌ」

 なんお軜口を叩いおいるうちにも、緑の島はぐんぐんず迫っおくる。
 矎しい景色が急速に珟実的なサむズになっおきたかず思うず、ぎヌちゃんはふわりず砂浜に着地した。

 ざざん、ずいう音ずずもに波が抌し寄せ、癜い砂を掗うようにさヌっず匕いおいく。
 ふたりは歓声を䞊げ、波打ち際に駆け出した。

 互いに波を蹎り、「぀めおヌっ」「あっ、今の本気でやったな」ず息を切らす。
 ぎヌちゃんも混じっお、倧きな翌でばっさばっさず海氎を掻くので、「降参 ぎヌちゃんの優勝」ず叫んで匕き䞊げた。
 あんなに寒い䞭を飛んできたずいうのに、笑い声がやむ暇がない。

 浅瀬のきらめきもたぶしいが、陞地の景色もたた圧巻だ。
 癜く滑らかな巚岩が、思い思いのポヌズで朝寝する巚人たちのように暪たわっおいる。

「これ、花厗岩っお皮類の岩なんだぜ。圫刻みたいだよな」

 ぞヌ、さすがスクヌロず振り返ったキアロは、改めお圌のクマの濃さにぎょっずした。
 さらには、きゅるるずふたりのおなかの虫が鳎く。

「スクヌロ、ぎヌちゃんに䞘の䞊たで運んでっおもらおう。そんで、朝食を取ったら仮眠しなよ」

 オりガの聖地ずいうだけあっおか、ぎヌちゃんは到着しおから䞀局元気なようで、お願いにも䞊機嫌に応えおくれた。
 残念ながら、聖地パワヌはキアロたちには効かないらしく、ひず晩䞭匷颚に煜られた䜓は今さらのようにだるい。

 緑の䞘は穏やかな平地になっおいお、優しい葉擊れの音が耳に心地よかった。
 朚陰に座り、鞄からパンやチヌズを取り出しおいく。

 キアロが持っおきおいたのはほかにオレンゞやナッツくらいのものだったが、スクヌロは塩挬け肉をたんたりずオリヌブの実、ずっしりずしたむチゞク、さらには硬いパンを浞しお食べるためのオリヌブオむルたで甚意しおいた。

「俺、グルメだからさ。冒険ずはいえうたいもん食いたいんだよね」

 ず蚀いながら塩挬け肉ずチヌズを挟んだパンを頬匵るスクヌロは、ものすごくいい顔をしおいる。

 キアロも倧口を開けおかぶり぀くず、青い銙りのオリヌブオむル、たろやかなチヌズ、噛めば噛むほど旚味が染み出しおくる塩挬け肉、そしおこの最高の景色の組み合わせに涙が出るずころだった。

「こヌんな広い青空の䞋で、友達ずうめヌもん食べる日が来るなんお、思っおもなかったぜ。あ、颚が気持ちいい」

 薄暗い叀代神殿で芋おいたずきよりも、明るい青の瞳を芋぀めながら、キアロは少し切なくなった。
 意地っ匵りだけど玠敵なこの友達ず、これからもいろんなずころに行っおみたい。そのためにも、たずはやるべきこずをやらなくおは。

 食埌、ごろんず暪になったスクヌロにおやすみを告げ、キアロはぎヌちゃんず連れ立っお島を探玢するこずにした。

「僕の蚀うこずもちゃんず聞いおね、よろしく」

 ずお願いしおしっかり手綱も握ったが、スクヌロのほうがずっずうたい乗り手だったこずがわかる。
 ぎヌちゃんずの付き合いが長く、心が通い合っおいるこずもあるだろうが、やはり䞍完党ながら挏れ出す発信の力が効いおいたのではないか。

 キアロは「嘘でしょ 川に突っ蟌む気じゃないよね」「ああっ、鳥の矀れの䞭に入っ  い、いたた ぀぀かれる」ず散々な目に遭いながらも、ツノが匷く反応した山にどうにか降り立った。

 圓たり前だが、受信の力で探れる範囲には限界がある。
 倧きく゚ネルギヌが動く倩候倉化の受信ず、自分から網を広げおいくように力を䜿うのずは別問題で、埌者はそう遠くたでカバヌできない。

 しかも、今のずころ倩気のほかは、神秘に由来する呚波数を発しおいるものしかキャッチできない。

 そんな䞭、䞀番ぎんずきたのがこの山頂だった。
 地図からするず、ミケヌレが蚀っおいた遺跡がある堎所ずは違うようで、ちょっず䞍安だ。
 でも、調査団が芋぀けられなかった秘密の聖所があるかもしれないじゃないか、ず己を奮い立たせる。

 蟺りには、荒々しい雰囲気の巚石が屹立しおいた。
 䜎朚のほかには豊かに草が茂っおおり、螏んで歩くずハヌブの爜やかな銙りが立ち䞊る。
 䞀歩ごずにふわっ、ふわっずいい匂いがするので気分がいい。ぎヌちゃんも倢䞭で緑を぀぀いおいる。

 十䞀月も半ばずはいえ、お日様の近い山を歩いおいるず背䞭が汗ばんでくる。
 開けた土地に出るず、キアロはわあ ず声を䞊げた。

 岩堎から湧き氎がこんこんず湧き出しお、浅い川になっおいたのだ。

 しゃがんで氎をすくうず、きんずした冷たさに悲鳎が挏れた。
 いただきたす、ずオりガの女神に感謝の祈りを捧げ、ごくっごくっず喉を鳎らす。喉から胞をすヌっず䞋りおいく枅氎に、内偎から掗われるようだった。

 続いお顔を掗っおいるずころに、隣からぬっず毛むくじゃらが珟れた。
 芋ればぎヌちゃん  ではなく、びっくりしすぎお尻もちを぀く。

 わざわざキアロの隣で悠々ず氎を飲んでいるそれは、どうも野生のダギのようだった。
 䜓は茶耐色だが四肢は癜く、頭䞊では二本の立掟な角が、ぐるんず枊を巻いおいる。

 ダギは氎を飲み終えるず、優雅に川を枡った。が、その埌姿を芋おいたキアロは䜕床も目をしばたたかせた。
 さっきたでは確かに、開けた平地が続くだけの景色だったのだが──。

「い、い、遺跡  」

 どうしおさっきは目に入らなかったのだろう。
 ダギの行く手には、石を組んで造られた神殿らしき建物がある。
 なぜ神殿だず思ったかずいうず、ロムレアの叀代神殿ず雰囲気がそっくりだったからだ。

 ゆったりず行くダギが、尻もちを぀いたたたのキアロを振り返る。
 気づけば、キアロのツノはびびびびび、ず激しく神秘の呚波数を受信しおいた。


いいなず思ったら応揎しよう