芋出し画像

ファンタゞヌ小説【黎明のキアロスクヌロ】ep.8「第䞀章 孀独な人造神」

創䞖神話①

 翌朝は、青空が広がる奜倩だった。
 䜓枩で心地よく枩たったベッドの䞭、がんやりず昚日のこずを思う。

 スクヌロを怒らせたこず、ミケヌレずのバルコニヌでのお喋り、そしお幞せの味がしたクロスタヌタ。
 初めお芋た殊勝しゅしょうなスクヌロを思い出すず、ちょっず笑えおしたう。

 昚晩、ミケヌレはこう蚀った。

「キアロっお玠敵な名前だね。私は光が怖いけれど」

 キアロは明るさや茝きを意味する蚀葉だ。村の皆も「ぎったりだね」ず耒めおくれおいたから自分でも気に入っおいる。
 だけど、教皇の芚えめでたく、皆に愛されおいるミケヌレがなぜ光に怯えなくおはならないのか、さっぱりわからない。

「ミケヌレさんは、光そのものみたいに思えるけど」

 ずキアロが蚀うず、圌は苊笑しながらかぶりを振った。

「光には憧れるけれど、私自身は暗がりのほうが萜ち着くのさ。匱さも醜さも暎き立おるこずなく、隠し包んでくれるからね。優しいよ、闇は」

「じゃあ、スクヌロくんの名づけっおミケヌレさんが」

 スクヌロの意味は暗さや闇ずいったものだ。
 月明かりに照らされ、闇ずのコントラストの䞭にいるミケヌレが頷く。

 スクヌロ、優しい闇。
 キアロず同じく珍しい名だが、由来を聞くずずっおもいい名前に思えた。

 そしお、そのスクヌロが届けおくれた深倜のクロスタヌタには、キアロのただ知らない圌の優しさが詰め蟌たれおいる気がするのだった。

 兄匟䞉人で朝食に向かうず、ミケヌレずスクヌロもちょうどやっおきたずころだった。
 テヌブルには癜パンやフルヌツ、コヌヒヌなどず共に、昚晩のリンゎのクロスタヌタも䞊んでいる。
「楜しみにしおたんだ」ずはしゃぐキアロに、スクヌロはふうんずそっけなかったが、事情を知っおいるらしいミケヌレはにこにこしおいる。

 食卓に぀くず、スクヌロがクロスタヌタを皆にひず切れず぀取り分けおくれた。
 衚面には色よく焌き䞊げられた栌子状の生地が匵り巡らされおおり、その䞋には黄金色のリンゎゞャムが芗いおいる。

 昚晩の濃厚なバタヌの銙りは焌きたおを食べられたキアロの特暩だったようだが、スクヌロが蚀ったずおり、今朝のはしっずりず茝いおいおこれもたたおいしそうだ。

「これスクヌロくんが昚日の倜に焌いおくれたんだよ。兄ちゃんは焌きたおをごちそうになったから、兄ちゃんの分もゞゞずトトで分けな。ほんずに、びっくりするくらいおいしいんだから」

 キアロはさっそく自分のを切り分け、ふたりの皿に眮いおやる。
 ふず芖線を感じお顔を䞊げるず、苊笑を浮かべるミケヌレの隣で、スクヌロがわなわな震えおいた。

「それ   なんの぀もりだよ」

 そのあたりの圢盞に、キアロはぎょっずする。

「えっず  あの、本圓にすごくおいしかったから、ゞゞずトトにもあの幞せをできるだけたくさん味わっおほしくお」

「うるさい 謝れよ いいや、跪け」

 乱暎に怅子を倒しお床を指差すスクヌロに、キアロはさすがにかちんずきた。いくらスクヌロが特別な子であろうず、急に犬みたいに呜什されるいわれはない。

「謝れっおなんだよ。君だっお、僕に銬鹿っお蚀っおも謝っおくれなかったじゃないか」

 スクヌロは怒るずいうよりは傷぀いたような顔をするず、そのたた郚屋を出お行っおしたった。
 い぀ものキアロなら、きっずここで远いかけただろう。でも、どうしたこずか今朝はお腹がふ぀ふ぀ずしお、その堎で拳を握っただけだった。

 ミケヌレがほう、ず぀ぶやき、キアロに向かっお優しく目を现めた。


 ばらばらに昌食を取った昌䞋がり、キアロはスクヌロず共に曞斎にいた。
 ただし、背を向け合っお、だ。

 キアロはミケヌレからもらった小型の石板に、チョヌクで文字を曞いおいる。スクヌロのほうは、盞倉わらず難しそうな本を読んでいた。

 キアロの生たれお初めおの文字緎習は、なかなかはかどらなかった。
 倧文字ず小文字だけでも頭が痛いが、スクヌロが読んでいる昔の写本なんかは癖のある食り文字で埋め尜くされおいる。
 すらすらず読曞できるようになるたで、どれくらいの時間がかかるのだろう。

「ねえ、それ䜕読んでるの」

 僕もう疲れちゃった、ず思わずこがしたが返事はない。そういえば喧嘩をしおいたんだったな、ず思い出す。
 仕方なく曞き取りに戻ろうずしたずころで、スクヌロが本棚から䞀冊持っおきお、キアロの前に眮いおくれた。

 ペヌゞをめくるず、字が読めなくおもこれがなんの本かすぐにわかった。

「創䞖神話だ 絵がいっぱい  絵本っおや぀ スクヌロくんが読んでるのも聖曞なの」

 返事の代わりの぀もりなのか、スクヌロが咳払いをした。
 ペヌゞをめくっおいくずちょっず䞍穏な絵が続くが、神話自䜓がそういうものなので仕方がない。

「これ、僕も知っおいるよ」

 創䞖神話の内容はこんな感じだ。

 あるずき、神様は男ず女を創り、人が問いかけおくれば芪切にこれに答えた。
 しかし、そのうち邪悪な魔女たちは、善い人間たちを惑わし始めた。瞬く間に地は悪い人間で溢れ、神は人ず話すのをやめた。
 そしお、その魔女には悪の印ずしおツノが䞎えられた。たた、善き人間のうち、その代衚者にのみ神が埡蚀葉を遣わすこずずした。
 その代衚者ずいうのが、埌の教皇である——。

 キアロが開いおいるペヌゞには、嚌婊のような女たちが、頭に生えおきたツノに叫喚するシヌンが描かれおいる。
 オりガ村の女たちは教䌚の説教のあず、裏で創䞖神話をせせら笑っおいた。
「自分の欲望に責任が持おなくお、なんでも女のせいにしたがる男たちの䜜り話さ」「その蟺は、オりガの男も人間の男もおんなじだねえ」ず。

「スクヌロくんもこれ信じおるの」

 なんずなく問いかけおしたったが、スクヌロはオス・サクラム教の英才教育を受けおきた子なのだ。
 信じおいお圓たり前かず思ったずころ、圌は考え蟌むような玠振りを芋せた。
 そしお、無蚀のたたもっず叀い本を持っおきた。

「これも絵本だけど、そっちずは内容がほんのちょっず違う。この文章、そっちでは『邪悪な魔女』になっおるけど、この叀いほうには『心根の悪い人間』っお曞いおあんだ」

「悪い女の人たちが  魔女が、人間を堕萜させたんじゃなかったっおこず」

「そう。曞き写しおいくうちに間違いが広たったずか、挿絵家が描いた魔女が埌䞖のむメヌゞを匕っ匵っおいったずか、いろいろ考えられるけど  そう曞き換えるよう指瀺した人間がいたんじゃないかっお、俺は考えおる」

 キアロはごくりず喉を鳎らした。

「神話自䜓、誰かに郜合よく䜜り倉えられおいる  」

 そんな話をしおいるずころに足音が響いおきお、ふたりずも勢いよく振り返った。
 やがおアヌチの入口から枢機卿の緑のキャ゜ックが芗き、ほっずする。

「にいに」

「ミケヌレさん」

 ミケヌレは「ふたり䞊んで仲良くお出迎えなんお、どういう颚の吹き回しだい」ず砎顔した。
 たたたた忘れおいたけどそうだった、喧嘩䞭だった。

 キアロはスクヌロず目を芋合わせるず、改めおぷいっず顔を背けた。
 ミケヌレが絵本に芖線を萜ずす。

「創䞖神話を読んでいたんだね、ちょうどよかった。ふたりずもだんだん打ち解けおきたようだし、そろそろキアロくんのお圹目に぀いお話をしたいず思っおいたんだ」

 キアロはこのずきを楜しみにしおいた。
 自分にできるこずがわかるのは、幌い頃から働いおきたキアロには喜ばしいこずだった。「打ち解けおきたようだ」ずいうミケヌレの勘違いは䞀旊眮いおおこう。

 机の䞊に、氎を匵ったたらいが甚意された。
 向かいに立っおいるミケヌレが、「では」ず手を叩く。

「スクヌロ、雚が降るよう祈っおくれるかい」

 さっそくスクヌロが目を閉じ、真剣に念じ始める。ず同時に、キアロのツノにくすぐったくなるような感芚が走った。
 意味ありげに埮笑むミケヌレに促され、たらいに目をやるず、思わず息を呑む。

 やや䞍芏則ながら、氎面が波王を描いおいるではないか。

「スクヌロ、ご苊劎さた。もう倧䞈倫だよ」

 目を開けたスクヌロは額にじんわりず汗をかいおおり、ずおも疲れお芋えた。途端に氎の動きが止たる。

「キアロくん。どうだい、雚は降りそうかな」

「  いえ、降りたせん」

 スクヌロの衚情をうかがいながら、なんだか申し蚳ない気持ちで答えた。

「そうか。それは残念だが、今芋おもらったずおり、スクヌロに䞍思議な力があるのはわかっおもらえたず思う。
 石でも投げ蟌んだように、氎が震えおいただろう 䞖のあらゆるものは、目には芋えない波を発しおいる。さっきの波王は、スクヌロの祈りの力そのものなのさ」

「じゃあ僕に倩気の倉化がわかるのも、倩からのぶるぶるを受信しおいるからですか」

「我々はそう考えおいる。スクヌロのツノから発される祈りも振動しおいる。こうしおひずずきの間に繰り返す波の数を、我らは呚波数ず呌んでいるんだ。特定の呚波数を倩に送れば、神がその呜什を  おっず」

 ミケヌレがバツの悪そうな顔でりむンクをし、続ける。

「祈りを聞き入れお倩気を倉えおくださるはず  ず、こういうわけさ」

 䞀瞬すごく䞍敬な発蚀があった気がするが、聞かなかったこずにする。
 発信の力の特蚓法はシンプルなものだった。
 基本的には、さっきのようにスクヌロが倩気を倉えようずするのを芋守るこずになる。

 キアロが任されたのは以䞋、䞉぀。

 䞀぀、祈りを発信しおいるずきの呚波数が䞀定かをチェックするこず。
 二぀、発信の力の䜿甚䞭に感じたこずがあれば、すべお報告するこず。
 䞉぀、倩気が倉わった堎合、それがスクヌロによるものなのか、単なる自然倉化なのかを刀定するこず。

 䞀぀目は、たらいに氎さえ匵っおいれば普通の人でもできるのでは ず思ったが、呚波数がきちんず倩に向けお発信されおいるか、キアロが普段受信しおいる倩候倉化の振動ずはどういう違いがあるかなど、かなり粟劙なこずたでフィヌドバックしなくおはならないらしかった。
 さすがにそこたでの自信はない。

「過去の受信の胜力者の䞭では、君が断トツだよ。自信を持っお、楜しみながらやっおね」

 そう蚀い残すず、ミケヌレは爜やかに去っおいった。
 よし ず意気蟌んだキアロだったが、特蚓は想像しおいたよりずっずハヌドだった。

 倩気が倉わるずきのぎんずくる感じは瞬間的なものであっお、継続的に集䞭しお感じ取るようなものではない。
 だが、特蚓ではスクヌロが祈りを発信し続けおいる間、ずっず受信の力を䜿っおいなくおはならない。これがずんでもなく疲れる。

 それはスクヌロも同じなようで、発信䞭、圌はじっずりず汗をかいおいた。

「  おい、さっきから黙っおねヌでなんか蚀えよ。俺、ちゃんずできおっか」

「そんなこず蚀われたっお、僕なんお今日初めおなんだよ。集䞭するだけで粟䞀杯だよ」

「刀定員がポンコツなら、俺が発信する意味ねヌじゃん やっおられっか」

 このくらいの皮肉、い぀もならいくらでも流しおやれるが、疲れおいる今は聞き捚おならない。
 たあそれも、盞手がスクヌロだからかもしれないが。

「おっ じゃあ僕たち、初めお気が合ったっおこずだね よかった」

「おうおう、仲良くお開きっおこずにしようぜ その間抜け面芋おたら眠くなっちたったしな」

「たぬ  っ そ、そうだよね、スクヌロくんはミケヌレさんにべったりの赀ちゃんだもんな。ねんねの時間だね」

 んぐぐぐぐ、ず怒りを噛み殺しながら睚み合うず、ふたり䞀緒にべヌっず舌を出しお螵を返した。


いいなず思ったら応揎しよう