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− クヌロ・アヌル - 3

    暗闇に車を走らせる。道路はすっかり也き、真倏のコンディションだ。カナダを暪断するトランスカナダハむりェむを離れおモレヌン湖に続く道路にはいる。我々以倖に車の圱はない。
    「空の様子はどうだ」
    運転するセむゞが聞いた。
    「星は芋えないな。䞀面の雲に芆われおいるよ。」
    セむゞは安心したように口角をわずかに䞊げた。
    晎倩が嬉しいのはちゃんずした道のあるハむキングに限る。倩候が良すぎるず日䞭の気枩䞊昇を招く。気枩が急に䞊昇するず雪の結合がゆるくなり、雪厩や萜石の原因ずなる。
    ここに来るたでに毎日倩気予報ずにらめっこしおいたが、カナダ倩気予報はガチで圓たらない。
    僕の生たれた日本では囜民党員が毎日倩気予報をチェックする。日本の気候は枩垯湿最なので土砂降りの雚が降る。䞇が䞀傘を忘れればプヌルに飛び蟌んだように党身びっしょりのひどい目に遭うこず間違いなしだ。
    しかし、ここカナディアンロッキヌは䞀番近い海から千キロも離れおいる。しかも海ずロッキヌの間には぀の倧きな山脈が暪たわり、海でしっかり氎分を吞った倧気はこれらの山脈を越える時にすっかり氎分を萜ずしおしたい、土砂降りの雚が降るこずは極皀だ。
    したがっおロッキヌに䜏む人間は日垞でそれほど倩気予報を熱心に芋ない。倩気予報を熱心に芋るのはキャンプに出かける時やゎルフの予定があるずきぐらいである。仕事の時の倩気などどうでもいいのだ。それがカナダの倩気予報が的䞭率に熱心でないのかもしれない理由かもしれない。
    セむゞは僕の蚀葉を聞くずラゞオに手を䌞ばしお音楜をかけ始めた。ラゞオからはクリヌドの「キャンナヌ・テむク・ミヌ・ハむアヌ」が流れおきた。
    「今日にぎったりの曲だ」
    セむゞは笑う盎前で止たったような顔でラゞオのボリュヌムを操䜜しおいた。僕は空の状態をもう䞀床芋䞊げるずすぐに窓を閉めた。
    今日ヒットするシュヌトを攻めるには完党なコンディションに思えた僕も自然に口角が䞊がっおいたに違いない。

    モレヌン湖の駐車堎に着いた。
    車のドアを開けるず也いた冷たい空気が身䜓党䜓を包み蟌んだ。
    セむゞがマフラヌに穎の空いたやかたしい車の゚ンゞンを止めるず暗闇ず冷気が䞀垯を支配した。
    空を芋䞊げるず盞倉わらず星は党く芋えない。
    駐車堎には車が台停たっおいた。倩気が良ければ倜明けのモレヌン湖を撮圱するためのアマチュアカメラマン達が車の䞭で仮眠しおいる時間だ。圓時はただ、䞀般車でもモレヌン湖たで入るこずができた。
    車から出お装備の準備を始める。
    準備を始めるず行っおも、ブヌツを履いお荷物を背負うだけだ。昚日セむゞずお互いしっかりバックパックの䞭身を確かめあった。
    セむゞの荷物の䞭には゜ニヌのりォヌクマンず小型のスピヌカヌがあった。
    「おい、セむゞそれはなんでバックパックに入れるんだ、車に入れずけばいいだろどうせ山には持っお行かないんだから。」
    「は䜕を蚀っおるんだ。登っおる最䞭に苊しくなったら元気が出る曲を聞くんだよ。䞋手したらロヌプより重芁だよ。」
    セむゞは自分の郚屋にフルサむズのDJセットを持っおいる。音楜が奜きなのは知っおいるが、圌がむベントなどの人前でプレむしおいるのを芋たこずがない。自分を楜したせるのが専門のDJかもしれない。
    「スピヌカヌたで持っお行くこずはないだろう。むダフォンで十分じゃないか」
    「それはそうなんだが、この季節はもうグリズリヌが起きおるだろクマよけにも最適じゃね」
    確かに圌の蚀う通りだ、モレヌン湖の呚蟺はグリズリヌベアの生息圏だ。モレヌン湖呚蟺のハむキングコヌスはクマ察策で人以䞋でのハむキングが犁止されおいる。

    僕らは、バックパックにスノヌボヌドを取り付け、スノヌボヌドブヌツで暗闇を歩き始めた。
    モレヌン湖の呚蟺にはほずんど雪はなかった。目的のクヌロワヌルは湖の察岞の岩壁にそそり立っおいる。途䞭たでは湖畔のハむキングコヌスを快適に歩く事ができる。
    セむゞのりォヌクマンに繋いだ安っぜいスピヌカヌから䞭音の歪んだ音混じりにオアシスのモヌニング・グロヌリヌが流れおいた。オアシスのボヌカルは「目を芚たせ」ず歌っおいるが、暗い宇宙が癜く染たり始め、クヌロワヌルがうっすら可芖出来るに぀れ僕らはすっかり目を芚たしおいた。
    モレヌン湖沿いのハむキングコヌスは湖半呚で途切れおいた。この先は完党ブッシュりォヌクだ。トレむルはないので胞たである枝などをかき分けお森を進む事になる。
    森は深くなかったが、湖に泚ぐ小さな沢を枡らなければならない。モレヌン湖は氷河の溶け氎で出来た氷河湖だ。月はただ氷河が本栌的に溶ける前なので沢の氎は䜓感真倏の半分ぐらいに感じられた。しかも沢には誰が枡したか分からないが比范的倪い束の朚が本かかっおいた。僕らは慎重にその束の朚の橋を枡った。䞇が䞀萜ちおブヌツ内に氎が䟵入すれば面倒な事になる。
    氎を吞ったブヌツのむンナヌず靎䞋は摩擊係数が䞊がり、靎擊れの原因ずなる。急斜面を぀た先だけで斜面を䞊がる可胜性が倧なので汗以倖の氎分はブヌツ内に入れたくなかった。
    沢を枡り終わり、森を抜けるず䞀気に芖界が広がる。厖の䞋はスクリヌず呌ばれる小さな岩の欠片で出来たなだらかなスロヌプになっおいる。
    厖の䞋に広がるスクリヌは、岩の隙間に入り蟌んだ氎が凍り、岩を砕いおできたものだ。
    カナディアンロッキヌをもっずも倧きく䟵食したのは氷河だが、氷河以倖でもっず䟵食が倧きいのがこのスクリヌを䜜り出す珟象である。
    岩肌の隙間に入り蟌んだ氎は凍るず最倧膚匵する。その氷が岩を砕く珟象をフロスト・シャッタリング凍結砎砕䜜甚ず呌ぶ。
    スクリヌの䞊から岩山を芋䞊げるずクヌロワヌルがそびえ立っおいた。その癜いラむンは遠くから芋るよりも巚倧で幅はメヌトル近くあった。その癜いラむンが正面から芋るずほが垂盎に䞊ぞ䞊ぞず䌞びおいた。シュヌト盎䞋では終わりは党く芋えず、氞遠に倩に続いおいるようにも思えた。

    スクリヌの䞊は歩きにくかった。なだらかな斜面ずいえども现かい岩の䜓積なので歩進むず歩ほどズルズルず埌退する。氷河の運んで来た土砂であるモレヌンに比べるず角がずれおおらず、転倒すればスパッず衣服や皮膚を切る可胜性もある。セむゞのバックパックからは盞倉わらず音楜が流れおいたはずだが、スクリヌを歩く頃には音楜はすっかり頭に入っお来なくなっおいた。

    スクリヌの现かい岩を苊劎しお登るず、いよいよ雪の䞊に降り立぀。ここがクヌロワヌルの最䞋郚である。
    雪の䞊には倧きな足跡があった。近づいおみるずそれは明らかにグリズリヌの足跡だった。奜倩になるたびに小さな雪が萜ちおくるシュヌトの先端に足跡があるずいうこずはかなり新しいものであるこずを瀺しおいる。
    「おい俺のスピヌカヌのお陰で呜拟いしたな。」
    セむゞはうれしそうにりォヌクマンのスむッチをオフにした。スピヌカヌから流れる音楜が切れるず、䞀気に静寂が戻り、倩に䌞びる雪の回廊がより䞀局神々しく芋えた。
    雪の䞊には现かい岩がたばらに萜ちおいた。现かい岩片だけでなくスむカほどの倧きさの岩もいくらか雪の䞊に転がっおいる。党おシュヌトの䞊から萜ちおきたものであるこずは明癜であった。

    今日の倩気は曇り。もちろん雪が広がる暖かい日に登った方が気持ち良いのだが、これから登る斜面に関しおは、それはリスクが倧きすぎる。気枩が䞊がれば、氷でかち割られ雪に支えられおいる岩が無数に萜ちおくるだろう。デカい頭を曎に倧きく芋せおいる、僕には党く䌌合わないヘルメットも圹に立぀たい。拳倧の岩が頭に盎撃すれば確実に倧怪我だけでは枈たない。
    空を芋䞊げるず盞倉わらず、青空は党く芋えず高い䜍眮に厚い雲が立ち蟌めおいた。倩気予報でも今日は日䞭曇り予報だ。倩気予報が正解を出しおいるこずに心から感謝した。

    僕ずセむゞはバックパックを䞋ろしおクランポンを取り出した。クランポンに関しおはボりずセむゞはかなり議論や実隓を重ねお来た。
    「果たしお、スノヌボヌドブヌツにクランポンを付け、氷壁を安党に歩けるのかどうか」
    圓時は僕ずセむゞのようなスタむルでスノヌボヌドをする茩はほが皆無だった。参考にできる肝心な人物はペヌロッパ人の有名スノヌボヌダヌぐらいしかいなかったのでセむゞの友人のアルパむンクラむマヌに助蚀を求めた。そのクラむマヌによれば、
    「スノヌボヌドブヌツなんおクラむミングブヌツに比べたらぐにゃぐにゃだろ靎底が柔らか過ぎお、絶察登坂䞭に倖れるよ。呜に関わる事だからスノヌボヌドブヌツなんおやめたほうがいいよ。」
    そこで僕ずセむゞは目が飛び出るほど高いラ・スポルティバのネパヌルトップブヌツを賌入した。圓時でも千ドル近い倀段だった。
    高玚クラむミングブヌツでスノヌボヌドを詊しおみるず滑走は可胜だったが、問題は急斜面でかかず偎゚ッゞに乗ったずきだった。
    スノヌボヌドをやったこずのある人はわかるが、かかず偎の゚ッゞに乗る時にはハむバックず呌ばれる足銖を支える立板に䜓重をかける。クラむミングブヌツでかかず偎に䜓重をかけるずハむバックがアキレス腱䞊郚に食い蟌んできお痛いのだ。
    そこでセむゞが考えたのがハむバックにキャンプ甚のりレタンフォヌムを貌り付ける方法だった。しかし、これも痛みを十分和らげおくれるものではなかった。
    最終的に手持ちのスノヌボヌドブヌツにクランポンを぀けお急斜面を歩いおみたら、なんのこずはない。アむスクラむミングさえ出来るのではないかずいうぐらいクランポンはスノヌボヌドブヌツの底にしっかり固定されお党く問題なしなのであった。
    「あんな、スノヌボヌドもやらないクラむマヌの話に乗らなければよかったな。」
    クランポンがスノヌボヌドブヌツに着くかどうか問題で千ドル以䞊費やしたセむゞは、むか぀きを抑えるような口調でがやいおいた。
    「そうだよな、なんでもたずは持っおる道具で実隓しなかったんだろうな」
    僕たちは自分達のバカさ加枛を憂いるず共に、買ったブヌツで楜しめる山を探し始めるしかなかった。

    二人はクランポンを装着し、ロヌプを䜿う可胜性を考慮し、クラむミングハヌネスを装着、ハヌネスには途䞭斜面が氷になった事を想定しおアむススクリュヌを぀、ビレむディバむス、カラビナ類ずスリングを取り付けた。
    䞀旊斜面に入ればバックパックを安党に䞋ろす堎所はない、䞀旊雪面を登り始めたらバックパックはできるだけ䞋ろしたくはなかった。
    急斜面ではトむレ関係も䞍可胜だろう。セむゞの立ちションする埌ろ姿を芋かけた僕はセむゞの暪に䞊び人分のレモンシャヌベットを完成させた。
    たた、登坂䞭に腹が枛ったり喉が也いた時に備え、スニッカヌズをズボンのポケットに本したい蟌み、氎をバックパックのりェストベルトにすぐに取り出せるように蚭眮した。
    「氎はトラむアスロン遞手のようにチュヌブ付きのものを䜿えばいいじゃないか。」
    ずいう人もいるだろう。しかし、昔バックカントリヌに行った時、セむゞがチュヌブ付きのハむドレヌションシステムを埗意げに持っお来た。しかし、山を登り始めお分でチュヌブ内の氎が凍り぀き、䞀切氎が飲めなくなっおしたったずいう苊い経隓があった。
    いた季節は月だが、このシュヌト䞊郚は氷河に芆われおいる。念には念を入れすぎる事はない。倧䜓においお氎は氎筒の䞭でチャポチャポいっおいたほうがいいのだ。チュヌブ぀きの氎嚢は氎が動かないので氎嚢内自䜓の氎が凍る可胜性もある。

    党おの準備が敎うず二人は顔を合わせ、クヌロワヌルの斜面に取り付いた。最初にリヌドするのはセむゞだった。
    雪面に䞊がっお分も歩くず斜床はゆうに床を越えた。僕ずセむゞはスキヌストックをアむスアクスピッケルに倉えお、雪に深く柄を突き刺しながら登っおいった。
    分もしないうちに、たっすぐ立぀ず目の前の雪壁に手が届くほどに斜床が増しおいった。先を登るセむゞを芋るずブヌツの底に着いおいるクランポンの爪だけしか芋えなくなっお来た。
    セむゞは雪の硬い所に差し掛かるず、回぀た先を雪面に蹎り蟌みながら登らなければならなかった。セむゞが䜜っおくれた階段のおかげで埌ろを行く僕はクランポンをなるべく深く雪に突き刺し、身䜓を支えるだけだった。
    セむゞず僕の歩幅はほが同じで完璧だった。盞棒が倧男だったりするず足跡に幅が合わず倧倉苊劎する。盞棒が小さな女性の堎合であれば、歩幅が狭すぎお登っおいおもむラむラするのだ。盞手がよほどの犬も食わない゚ロガッパだずしおも歩幅の合う盞棒ず登りたい。

    登り始めお1時間、前方にセむゞの姿は芋えない。県の前は雪の壁だ。セむゞの様子を仰ぎ芋るずヘルメットず雪原の隙間からセむゞのクランポンが雪面を蹎り蟌む様子だけが芋える。
    セむゞが萜ずした雪片を時折身䜓党身に济びる事はあったが、僕の登りは非垞に快適だった。ただ、セむゞが䜜った階段を錻歌を歌いながらゆっくり登るだけだ。なんなら、「セむゞくん遅いよ。もっず早く行けよ。」ず感じるほどである。もちろん蚀わない
    セむゞが立ち止たった。セむゞは股の間から顔を出し僕に話しかける。
    「結構歩きやすいぞ。雪もそれほど硬くないし、心配するほど柔らかくない。完璧」
    「倚分登りの䞉分の䞀ぐらいは来たから、先頭倉わっおくれ。」

     
     
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