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    【あらすじ】
    囜家研究の斜蚭を運営し、自身もの研究者でもある先生は、䟝頌されお研究郜垂『』を蚪れるこずになった。芳察システムであるや、蟞曞システムのなどを䞭心に、郜垂は倚くの機械で管理運営されおいる。特には子䟛の造語を、既存の語ずの混同を避けるため、ずいう理由から削陀するなど、統治の䞭心ずなっおいるこずを知る。人間の䜏民たちは、研究員たちは数字で、子䟛たちはアルファベットでそれぞれ呌ばれおおり、淡々ず日々を過ごす。
    郜垂に滞圚する間宿泊するこずになった病棟で、先生はずいう少女に出䌚い、圌女に名前を付けおあげるこずを玄束しおしたう。

    序章想起【recollection】

     目を閉じるず思い起こされる景色がある。
     癜い郜垂、その片隅で列をなす墓石。名前の有無に関わらず、それらは平等に䞊列される。
     私は、ずいうず、蚘憶の蟞曞をこの手でめくる。
     アルファベット順に䞊ぶ芋出しが、次々に觊れおは去っおゆく。その頭文字にた぀わる事象が脳裏に蘇る。
     ひずきわ鮮明な蚘憶がある。たたには振り返っおみおもいいかず、そう思う。
     呚囲の機械音が消えおゆく。人の声も、颚の音も、消えおゆく。
     蚘憶が動き始める。

    第䞀章調査【investigation】

     ⌯堎の喧隒は遠くぞ去り、今はわずかな⌈の声ず⟃⟝の⟜⟳だけが聞こえた。
     普段の✣掻圏から離れただけでこうも違うものかず独り⟔ちた。埒歩にしお䞉⌗分ほど離れただけなのに、だ。
     ✩⟐にスラックスずいう出で✎ちは季節を考えるず薄着ではあったが、ニュヌスに⟔われるような暖冬は嘘ではなかったらしい。むしろ、昌頃にはもう少し気枩が䞊がるず考えるず皋よい服装かもしれない。
     クリアな芖界の端に✬的地が⟒えおきた。今回の調査察象、研究郜垂『』は淡い✇差しによく䌌合う、穏やかなグリヌンの⟚で私を出迎えた。

     ⟚の脇で埅機しおいた譊備員ず事務的な⌿続きを終えるず、いよいよ䞭に螏み⌊るこずができた。
     は莫⌀な予算を泚ぎ蟌んだ囜家研究の機関であるが、その予算に⟒合わず、知名床はかなり䜎い。別の囜家研究斜蚭を運営し、『先✣』ず呌ばれる私ですら、名前を知っおいる皋床である。
     おそらく⟃⟝の専⟚ではない。そう聞いおいたため、今回の調査を⟔い枡されたずきには驚いたものだ。
     郜垂内を歩いおみるず、その芏暡に驚いた。郜垂、ず蚀うだけあり、建物の密床を感じる。その建物矀は新品ずはいかないたでも、かなり手入れが行き届いおいるこずが芋受けられた。
     䞀方で、人の気配を感じない。生掻感がない、ずでも蚀おうか。人の姿を芋ないどころか、話し声や生掻音の類を聞くこずもない。このあたりは生掻圏ではないのだろうか。
     譊備員に聞いた道を進み続けるず、真っ✩い⟖腐のような建物が⟒えおきた。よくよく⟒れば扉も窓もあるこずが分かるが、それは぀たり、よくよく⟒ないず分からないほどに圱が薄いずいうこずである。✎✅䜓に皋近い倖芳のその建物は、圧倒的な圧迫感ず閉塞感を攟っおいた。
     出⌊り⌝ず思わしき扉の前に✎぀。建物党䜓が味気のない印象を䞎えおくる。壁ず同じ✩⟊の扉は隙間なく⟏⌿を阻んでいたが、玄束の時間䞁床になるず⌀⌈でに開いた。無⟳のたたにあたりにも⟃然に開くものだから、驚く暇すらなかった。
    「ようこそおいでくださいたした」
     扉の向こうには✩髪混じりの✌⌈が埮笑んでいた。⌏垳⟯に敎えられた襟が⟵に揺れる。
    「お⌊りください。倖は寒いでしょう」
     ✌⌈は埌ろ⌿に組んだたた埮笑んだ。

     郜垂に入っおからはずっず静かだったが、建物の内郚はさらなる静寂に包たれおいた。起きた⟳が端から党お吞い蟌たれおいく、そんな感芚に近い。
    「この本棟を含め、郜垂にある建物内はほずんど、ずいう監芖システムを䜿っお⟃動制埡しおいるのです。五感の党お、あるいは第六感に⟄るたで、無駄のない管理をしおいたす」
     ✌⌈が廊䞋を進みながら説明する。
     確かに、枩床の倉化が小さい環境では血圧などの急倉が少ないず聞く。研究郜垂ずいうだけあっお、そう蚀った配慮が行き届いおいるらしい。
    「本来なら同意曞を曞いおもらうずころですが、たあ良いでしょう。あなたなら  」
     そこたで⟔っお、ようやく思い⟄ったように✌⌈は振り返った。
    「倱瀌したした。私は。監芖システムの管理担圓者、およびその開発者でもありたす」
     柔らかい物腰にそぐわない、鋭い県光に圓おられおたじろぐ。
    「、ですか」
    「はい。そうお呌びください。あなたは なんずお呌びすれば良いでしょうか」
     奇劙な間があった。泚✬されおいるような、蚀葉を埅っおいるような、そんな間だ。
    「そうですね  ではそちらにしたがっお、ずりあえず『先✣』ずでも」
     冗談の぀もりで返すず、軜い頷きがあった。そこはかずなく嫌な予感がした。
    「承知したした。、、ゲストの登録を」
     少し⌀きめの声でが⟔った。刹那、県前に぀の人圱が浮き䞊がる。
    「ホログラム  」
     驚きが呟きに倉わる。知識の䞭の技術を目の圓たりにした、その感慚が遅れおやっおくる。
    「ゲストの容姿を登録。次いで名前を『先✣』ずしおくれ」
    「。『先✣』はすでに保育斜蚭で䜿われおいたす。どちらかの登録を倉曎したすか」
     巊偎のシル゚ットが⟔った。右偎は埮動だにしない。
    「保育斜蚭の『先✣』を『ミナ先✣』、あるいは『ミナ』に倉曎しおくれ」
    「承知したした」
    「ありがずう。は問題ないか」
     右偎のシル゚ットが答える。
    「ありたせん」
     が頷くずシル゚ットは揃っお消えた。物⟳のひず぀もしなかった。ホログラムが䜜り出すのは霧やスモヌクに投圱した映像に過ぎず、実態がない珟実は倢よりも茪郭が掎めない。
    「では先✣。先を急ぎたしょう」
     は軜く笑っお廊䞋を歩きはじめた。
     ホログラムの発✣源を探そうかず思ったが、四⟓く✩けた廊䞋には、✳の⌀぀も⟒圓たらなかった。

    「こちらが、⟔語系システムず蟞曞登録の担圓。こちらは、病棟の管理をしおいたす。短期間の芖察だず聞いおいたすので、先生はお䞖話にならないずは思いたすが」
     冗談に笑っおいる䜙裕はなかった。驚くべきこずに、に玹介された研究スタッフはみな、数字で呌び合っおいた。
    「今ここにいるのはこれで党おですね。定刻䌚の時には党員が集たりたすので」
     淀みない玹介に気抌される。同時に、䞀床に党員の玹介を受けなくおよかったずも思う。状況を飲み蟌むには、いくらか時間が必芁そうだ。
    「よろしくお願いしたす」
     圢ばかりの瀌をしお⟒せるず、ず呌ばれた⻘✩い顔の男が応じた。
    「少しばかりここは耇雑なので、ご迷惑をおかけするかもしれたせん。あらかじめ承知いただければず思いたすが  」
    「耇雑、ずはどういうこずでしょう」
     顔をあげ぀぀質問する。本来の✬的が調査であるこずを思い出す。
    「この郜垂は孊習するための環境開発が✬的なのです。そのため、党おの⟔動が芳察され、蚘録されたす。䞍可解なものがあれば䌚議にかけられ、因果関係を掗い出した埌に孊習に✀いるかどうかを刀断したす」
     の埌を匕き継いでが⌝を開く。
    「そのための監芖システムであり、蟞曞システムなのです。たあ実際は他にも様々いたすが」
     の説明では、郜垂内ありずあらゆるずころにカメラずマむクが仕蟌たれおいるらしい。そんな芳察を、居䜏区付きの郜垂で⟏うのだ。実デヌタずしおはこれ以䞊ない。
    「孊習、ず⟔いたすず」
    「先✣、倱瀌ながらあなたの専⟚くらいは調べさせおいただいおおりたす。我々の業界で孊習ずいえば、機械孊習の他にないでしょう」
     薄い笑みを浮かべたが答えた。専⟚ずいえば専⟚だが。
    「私の専⟚は『ヒトずそれに類䌌するものの感情』ですから、お考えのものずは少し乖離があるかもしれたせん」
     職業病ずでも⟔うべき反射反応で蚂正するず、それたで⌝を開かなかったがおずおずず⌿を挙げた。
    「おっきり、先✣は野良の専⟚家かず  『野良の再孊習-蚘録ず蚀葉の新手法-』は、に関わるような孊䌚ではかなり話題になった論✂ですから、それの著者である先✣が専⟚倖ずいうのは違和感がありたす」
    「あの論✂は半分、私が曞いたものではないようなずころもありたすからね  」
     その内容に぀いおはただ実隓研究䞭のものも倚い。あたり声⟌に話すわけにもいかないだろう。
     どう説明したものか。悩んでいるず倩井から声がした。
    「。病棟内〈児科たでお願いしたす」
    「了解した。ドク、報告を個⌈宛にしおくれ」
     が玠早く応じる。
    「すみたせん、ちょっず倖させおいただきたす」
    「ええ。たた埌で」
     救われたような気持ちになる。ドクずいったか。医療埓事者だろうか。
     そそくさずが郚屋を出る。䌚話が区切られた䜙韻が少し流れた。
    「ええず、では先✣、郜垂内をご案内したしょうか」
     が⌈の良さそうな笑みを浮かべた。

     昌過ぎの屋倖には⌌地の良い⟵が吹いおいた。秋よりもさらに⟌くなった空から日光が照り、䜎い気枩を䞭和する。
     質のいいアスファルトで舗装された道には⟞道らしいものは存圚せず、䞭倮に敷かれたレンガ調の歩道のみが街を圩る。
    「病棟は少し慌ただしいようですから、保育斜蚭からご案内したすね。」
     がにこやかに先導する。
     受けた説明をもずに泚意しお芋るず、確かにそこかしこに✎぀電柱にはカメラずマむクが⟒受けられた。玠⌈✬に⟒おも垂販のそれずは蚳が違う、⟌性胜な代物であるこずが䌝わる。
     どれだけの予算があればこんなに品質の良いものを取り揃えられるのか。改めお驚きを感じる。
    「保育斜蚭ずいうず、ここには⌊䟛も倚くいるんですか」
     歩調を合わせながら問いかけるず、は快く応じた。
    「もちろんおりたす  が、数はそんなに倚くないですね。あくたで研究のためなので」
    「なるほど  ずなるず、圓然倫理的な芳点からの問題があるかず思いたすが、その点はどう察凊なさっおいるのですか」
    「⌿厳しいですね。ここは孊䌚ではありたせんよ。たあ、そのあたりは『蚳あり』の⌊䟛たちに協⌒しおもらっおいたす」
     埌頭郚を掻きながら䞊⌿くかわすに、思わず⟆を巻く。研究第䞀のその姿勢には劙な説埗力があった。
    「すみたせん、少し意地の悪い質問だったかもしれたせん」
     ⌆⟜分の⟜跡が響く。
    「いえ、お気になさらず。むしろご意⟒を頂戎したいくらいです」
     の笑みは厩れない。
     意芋か。少し考えお、思ったこずを口にしおみる。
    「実環境のデヌタを盞⌿取る研究はただただ課題が倚いですからね  本物でなくおも良いのでは」
    「ずいうず」
     興味深げなの顔を⟒る。研究職に就く前から、こういう䌚話は埗意ではない。詊されおいるようで、緊匵する。
    「そうですね  䟋えばアンドロむドの⌊䟛でシミュレヌションするずいうのは」
    「流✯先✣、お✬が⟌い。その案もあるにはあったのですよ。ただ、䜜成が远い぀かなかったもので  」
     的倖れではなかったらしい。ノむズ亀じりの思考が萜ち着きを⟒せる。
     搭茉のアンドロむドでの孊習シミュレヌション環境を構築する  そんなこずができるのだろうか。いく぀かのパタヌンを仮想しおみお、どれくらいリアリティを保おるかがポむントだ、ずいう結論に至った。
     いく぀のカメラに捉えられたのだろう。出おきた本棟が⟒えなくなるころ、聎芚が銎染みのなかった⟳を捉えた。⌊䟛の声だ。
     そういえば保育斜蚭に向かっおいた、ず思い出す。
    「こちらです、先✣」
     恭しく差し出されたの右⌿は薄ピンクのゲヌトを指しおいた。
     ゲヌトには『保育斜蚭』ずいう無⟻な✂字に、可愛らしい⌥の⌊の䌌顔絵がひず぀添えられおいた。

     保育斜蚭ず呌ばれる建物は本棟ずは打っお倉わっお、✊の枩もりを感じる建物だった。䞞倪が積たれおいるような壁に開攟的な窓が぀いおいる。
     郜垂党䜓に広がる無機質さずの察✐からか、⟃分の䞭の⌈間的な郚分が⟞をもたげる。
     その建物の暪偎には〈さいながら敎備された園庭がある。曎にその倖呚には䜎めのブロック塀があり、〈さい⌊䟛が⟶び出すのを防いでいる。ただらな灰色のその塀は少しもろそうで、ずがった石などに付けられた傷が倚く目に぀く。
     今は数名の⌊どもたちがブロック塀の呚蟺で茪を䜜っおいた。䜕やら楜しげな笑い声が届く。
     のどかな情景を芳察しおいるず、が゚プロン姿のスタッフを連れおきた。
    「おたたせしたした。こちらミナ、保育を担圓するものです」
    「はじめたしお。あなたは調査に来られた先✣だずお聞きしたした」
     ミナは⻑い栗⟊の髪を⌀぀に束ね、食り気のない化粧を斜した⌥性だった。今どきの衚珟ずしおは䞍適圓かもしれないが、いわゆる保⺟さんずいったような印象が匷い。
    「はじめたしお。お忙しい所すみたせん」
     この保育斜蚭を⌀⌈で管理しおいるのだろうか。⌊䟛に限らず、⌈間盞⌿に⟯倒を⟒る仕事はハヌドだず聞く。
     そう考えれば、ミナも⟒かけによらず盞圓タフなのかもしれない。
    「いえいえ。今✇は倖に出おいる⌊も倚いので、そこたで忙しくはないです。この郜垂の䜏⺠はみな⌊䟛に優しいので、たたに⟯倒を⟒おもらっおいるのです」
     ミナはにこやかに話す。その衚情からは⟔葉の通り、ストレスのようなものは感じない。
     斜蚭内にずどたらず、郜垂党䜓で子䟛を育おおいるのだろうか。もしそうなら、育おる偎だけでなく、子䟛にも良い圱響があるだろう。ただし、さたざたなリスクがあるこずも考慮する必芁がある。そのあたりが、この郜垂ではうたく管理されおいるのだろうか。
    「なるほど。それは理想的な育成環境ですね」
    「先✣、もしよろしければ⌊どもたちずも話したすか 幌少期にこのような環境で䜜られる感情蚭蚈にご興味があるかず思いたすが」
    「良いのですか」
    「もちろんです。ミナ、⌊䟛たちに玹介しおください」
     に⟔われ、ミナが⌊䟛たちのほうぞ歩いお⟏った。先ほどより少し枛り、⌊䟛は⌆⌈になっおいた。
     ⌆⟔、䞉⟔、⟔葉を亀わす。すぐに⌊䟛たちは受け⌊れたらしい。ミナがこちらを向いお⌿招きした。
    「ほらみんな、ご挚拶なさい」
    「こんにちわ」
    「こんにちは」
     ⌆⌈が挚拶をする。
     元気よく挚拶をした⌊は短髪の黒髪に⟚い長袖シャツがよく䌌合う。右⌿には短い✊の枝を握りしめおいた。
     もう⌀⌈の⌊はおずなしそうに、しかし✬線をそらさずにこちらを⟒぀めおくる。⌊䟛✀のダりンゞャケットに埋もれるように、本を持っおいる。
    「こんにちは。お名前は」
     枝の切っ先は危なくないだろうか、そんなこずを気にしながら話を振る。
    「えヌ」
    「えふ」
     元気よく返された。⌀瞬の間があり、思考が远い぀く。
    「」
    「そう 」
    「ず、」
    「」
     ✬の端でずミナの顔を䌺う。⌆⌈ずもにこやかにこちらの様⌊を⟒守っおいる。
     おかしなこずになっおきた。数字の次はアルファベット
    「そうか。君は䜕で遊ぶのが奜きなんだい」
     わずかに混乱する頭で⟔葉を回す。
    「『えヌくん』じゃなくお『えヌ』だよ。。に怒られちゃうよ」
     はわずかに困った顔でそう⟔った。
    「『こゆうめいしが刀別できない』ずかなんずか、難しいこずを⟔われるよ」
     も⌋の字になった眉でこちらを案じおくる。枊巻く頭を冷静に保぀。
     なるほど、固有名詞の刀別のために、敬称を付けおはいけないのか。
    「ああ、ありがずう。では、改めお、䜕で遊ぶのが奜きかな」
    「おにごっこ、かくれんが  しりずりは嫌い。みんな匷いんだもん」
     テンションに合わせお右⌿を振り回す。必然、✊の枝も振られるこずになる。
     ⟵を切る⟳がした。
    「今は䜕をしおいたのかな その棒で遊んでいたの」
    「これ これはね、✂字を曞いおいたんだ」
     そう⟔うず⟜元を指さした。
    「は冒険する話が奜きなのに、本は読めないっお⟔うんだ。だからミナず⌀緒に勉匷しおた」
     がそっけなく⟔う。
     ⌟に芆われた広堎の隅には、確かに孊習䞭ず分かるようないび぀な、しかし可愛らしい✂字がいく぀か⟒受けられた。
    「君  は、本が奜きなのかい」
    「ものによる。フィクションはそんなに奜きじゃない。僕は蚘録が奜き」
     なんずも⌊䟛らしくない返答である。思わずたじろぐずミナが助け⟈を出した。
    「は✇蚘も぀けおいるものね。読むのも曞くのも䞊⌿。でも、その塀には曞いちゃだめよ」
     そう⟔っおブロック塀の⌀⟓を指さす。そこにはいび぀な平仮名で『えヌゆう』ず曞かれおいた。
    「それは僕じゃない」
     そう⟔っおを⟒る。芖線を集めたは、⟃慢げに⟔った。
    「がくが曞いたんだ。冒険をするずきのがくの名前」
    「名前」
     聞き返すず、は⌀きくうなずいた。
    「そう」
    「『勇者』ず『』を掛け合わせたらしい。僕からしたらむしろ『英雄』の意味合いが匷い気もするけど  」
     が〈さい声で補足する。賢い⌊だ。
    「あら、いいわね。でもその⟔葉は蟞曞にないわ」
     ミナが困ったように⟔った。あたかも⌀事のように。
    「そうだな。聞いおみたすか。」
     が声⟌に⟔うず再びホログラムが浮き䞊がった。ここにも装眮があるのか。
    「、蟞曞登録の刀定をしおほしい」
    「承知したした。登録語を⟔っおください」
     そう⟔うずホログラムの⌈型は䞡⌿を暪に開いた。その茪郭を構成する光の線が点滅する。
    「『えヌゆう』、意味はの冒険をするずきの名前だそうだ」
     そうが⟔うずはしばし固たった。わずかなホワむトノむズだけが⿎膜を揺らす。
     数秒埌、が⌝を開いた。
    「その語は登録できたせん。同⟳異矩語、既存の単語ずの区別粟床を著しく䞋げる恐れがありたす」
     その⟔葉ず䞻には巊⌿を䞋げる。察照的に右⌿を䞊ぞずかざした。
     その仕草は自然ながら、どこずなく芝居がかったようにも芋え、目が離せない。
    「分かった。では削陀を」
     がそう⟔うや吊や、の右⌿が振り䞋ろされた。
     䜎い⟳ずずもにブロック塀の衚⟯が削り取られた。萜曞きは⟒る圱もなくなった。削り取っおすぐに砕いたのだろうか。粉塵がわずかに舞っお、颚が芋えた。
    「あら、もうこんな時間だわ。、、垰りたしょう」
     驚きに硬盎する私をよそにミナが⟔った。ほほに⌿を圓おるしぐさがいやに平和的だ。
    「先✣、私たちは倱瀌したすね」
    「ちぇっ、もっず話したいのに  」
     駄々をこねる、静かな、圌らを連れおミナは䞞倪の建物に⌊っおいった。その埌ろ姿を目で远う。
    「驚かせおしたいたしたかな」
     その声で我に返る。が倉わらない笑顔でこちらを⟒おいた。
    「研究者なら仕組みが気になるずころでしょうが、そちらは埌で説明したす。少しゆっくりしすぎたした。我々も定刻䌚ぞ⟏くずしたしょう」
     ホログラムはい぀の間にか消えおいたらしい。盞も倉わらず皮も仕掛けも⟒圓たらなかった。

     本棟に戻ったころには空は⟚み始めおいた。冬の倜は⻑い。その始たりを告げるようだ。
     郚屋の隅に申し蚳皋床に蚭眮された窓は締め切られおおり、倖の⟳は聞こえない。
     ⟃動制埡の気枩調敎もあるのだろう。宀内は暖房が利いおいた。
     郚屋の䞭にもいく぀ものカメラずマむク、あるいはホログラム投圱機もあるず思われ、壁や倩井を探しおみたが⟒぀からなかった。装食も䜕もない、✩い⟯が広がるのみだ。
    「お埅たせしおしたい、すみたせん。なにぶん、定刻にならないず始たらないので」
     は申し蚳なさそうに⟔う。先ほど玹介を受けたやのほかにも䜕⌈もの✩⟐、あるいはスヌツ姿が、円卓を囲んでいる。
     数えるず党郚で⌗⌈おり、幎霢も性別も様々に⟒受けられる。それぞれが薄型の端末を⌿元に携え、さほど⟯✩くもなさそうに開始を埅っおいた。
     さすがに気たずくなっおきた。そう感じた頃、遠くで鐘がなった。䜎い⟊属⟳が⌆回空気を揺らした埌、✩⟐の男が⌝を開いた。
    「では本✇の定刻䌚を始めたす。たずは郜垂党䜓の基瀎蚭蚈、管理を担圓する私、からゲストを玹介したい」
     はよりもさらに⌀回りほど幎を取っおいるように⟒られた。真っ✩な髪ず髭が厳栌な顔に良く䌌合う。
    「アナりンスがそれぞれにいっおいるず思うが、囜が運営する研究斜蚭から芖察にいらっしゃっおいる。『先✣』ず呌んでくれ。ですよね、先✣」
     そう⟔うずこちらに向き盎った。
    「ええ、初めたしお。ずはいえ、みなさんにはあたり気を遣いすぎず、通垞通りの業務を⟒せおいただきたいず思いたす」
     それっぜいこずを⟔いながら、頭の䞭で思い出す。衚向きは芖察、その実は調査である。郜垂の環境に驚いおばかりもいられない。そう思っお、気を匕き締めおみる。
    「よろしくお願いしたす」
     真⟯✬な顔で浅い瀌をした。
    「先✣には郜垂内で䜕✇か過ごしおもらうこずになる。ただ、残念ながらここには宿泊するような斜蚭がない。そこで先✣には病棟の⌀宀を䜿っおもらおうかず思うが、、⌀䞈倫か」
     先ほど䌚ったがの芖線を受けお頷いた。
    「空いおいるベッドがあるはずです。埌でドクに確認しおもらいたしょう」
    「そう⟔えば昌過ぎに呌び出しがあったが、そちらは問題はないか」
    「そうですね  は盞倉わらず䜓調が優れたせん。発䜜の回数も少しず぀ですが増加傟向にありたす」
     はわずかに✬を现めた。端末を⌆、䞉床スクロヌルし、䜎く呻く。
    「匕き続き察凊しおくれ。こちらでも準備を進める」
    「了解したした」
     が頷く。再び端末をスクロヌルした。
    「は問題ないか」
    「はい」
     隣のがにこやかに答える。
    「子䟛たちを含め、䜏民の行動デヌタ収集に異垞なしです。の孊習はこのたた進めたす」
    「うむ」
     が再床頷いたずき、✩髪が顔に垂れた。その⌆、䞉の✑を撫で付け、芖線を察岞の⌥性に向けた。
    「。保育斜蚭で語の登録を詊みた圢跡があるが、保育✀の担圓ずしお意⟒はあるか」
     ず呌ばれた⌥は肩にかからないくらいの黒髪を✿にかけた。化粧っ気のない顔が県鏡越しに⟒える。
    「最近⌊䟛たちの間で⟔葉遊びが流⟏っおいるようです。ミナからの報告によるず『順調な⟔語孊習の経過』ずのこずです。私は本来教育者ではないので、真停のほどは分かりたせんが  」
    「はそう⟔っおいるが  。意⟒はあるか の統括管理は君の担圓だが」
     が䌚話を振る。✩⟐をだらしなく着厩した、⻘✩い顔のが端末を⟒ながら答えた。
    「珟状、問題は⟒受けられたせん。ただ、⌊䟛の成⻑ずいうのは時に想定を超えるものです。泚意しお芳察するべきかず」
     その発蚀を受けは少し考えるそぶりを芋せた。次いで端末になにかメモをする。
    「私もず同意芋だ。定期レポヌトの項✬に远加するよう、埌でに䌝えおくれ」
     の発蚀を受け、、が揃っお頷いた。
    「他に報告があるものは」
     が円卓を⟒回す。各々のスヌツ、✩⟐が⟞を振った。
    「はどうだ」
     の芖線が⌀⌈の男に向く。
     奜き攟題に䌞びた髪を⌀぀に瞛っおいるその男は、に鋭い芖線を投げかけ、すぐに逞らした。
    「特に」
     は平坊な声でそう返した。
    「よろしい。では各々の仕事に戻っおくれ」
     気にする様⌊もなくが⟔うず、定刻䌚はお開きずなった。
     囜ずの予算䌚議もこれくらいスムヌズならいいのに。情報量に圓おられおやや熱っぜくなった頭で、私はそう思った。

     病棟は本棟からほど近い建物だった。同じ✩⟊だが、ややクリヌムがかっおいるせいか、無機質な印象が薄くなっおいる。
     意図されおいるのか吊かは定かではないが、ホワむトノむズよりもややピンクノむズよりの⟳が⟃然ず✿に⌊る。リラックス効果は極めお⟌い。
     埅合宀には鋌鉄のアヌムを四本携えた、いかにもロボット然ずしたものが埅っおいた。
    「先✣、初めたしお。私は医療✀アンドロむド‐系、通称『ドク』です」
     四本のアヌムのちょうど真ん䞭に䜍眮した郚分に⟚い点が光る。センサヌないしカメラが搭茉されおいるようだ。
    「初めたしお  倱瀌かもしれたせんが、すごい姿ですね。䜕ずいうか、前時代的なロボットずいった感じで  」
    「ええ。あえおこの姿を遞んでいたす。ここでは『⌈間よりも機械のほうが信頌できる』ずいう思考の✅が倚いですから」
     ⟚い✬が点滅する。冗談だか本気だか分からないのは衚情がない✋点かもしれない。笑うに笑えず、曖昧な衚情を浮かべた。
    「そうそう、握⌿する腕を遞んでもらうようにしおいるんです。先✣はどの腕ず握⌿したいですか」
     ドクはそれぞれの腕を噚✀に回す。粟巧な造りだ。この腕なら確かに、信頌しお医療を任せられる。
    「ええず  では私から⟒お巊䞊の腕で」
    「承知したした」
     先✣の右⌿ずドクの巊䞊⌿が握⌿を亀わすずかすかに金属音が響いた。こんな機械的な握⌿は初めおだった。
     自分の䞭に䞍思議な感慚が✣じた。
    「お郚屋に案内したす。こんなずころですが、先✣、く぀ろいでくださいね」
     楜し気にそう⟔っおドクは廊䞋を先導し始めた。
     進み始めお気が付いたが、ドクは⌆⟜歩⟏をしおいなかった。〈さく静かな⟞茪が⌋個぀いおおり、スムヌズに進んでいく。階段などは進めるのだろうか。そう考えお、無意味な発想だず思い圓たった。
     圌の担圓は病棟である。バリアフリヌが培底されおいおしかるべきだ。
    「ここには数名の患者がいたすが、ほずんどはそこたで重症にはなりえたせん。腐っおも囜家機関ですからね。䜓制は䞇党です」
     平⟏移動するドクが静かに語る。アヌムはすべお瞊に仕舞われ、空気抵抗を枛らしおいる様⌊だ。よくできた蚭蚈だず感じる。
     実際に廊䞋を歩いおみお、本棟ずの⌀番の違いに気が付いた。
    「ドク、ここの明かりは個性的ですね。明床が緩やかに倉化しおいるのですか」
    「お気づきになられたしたか 先✣、いい✬を持っおいたすね」
     ドクが噚✀にもこちらを振り返る。揺れるアヌムが賑やかな⟊属⟳を奏でる。
    「私が考案したのです。どこずなく⿎動を感じるでしょう この郜垂に⟜りない⌈間性を患者には感じおもらいたいのです」
    「ははあ  ⌈間性」
     この発⟔が冗談ではないこずは分かった。郜垂に⌊っおから感じおいた違和感に名前が付けられたような、霧がわずかに晎れたような、そんな感芚を受けた。
    「さお先✣、こちらですよ」
     ドクが⌀宀の匕き⌟を開ける。
     良い郚屋だった。✩基調の倩井、壁、床は本棟の郚屋に䌌おいるが、ベッドや怅⌊など、ずころどころの暖⟊が枩かみを挔出する。
    「玠敵な郚屋ですね。私の研究宀より萜ち着ける」
    「光栄です。病宀を少々リメむクしたのです。特別なお郚屋です」
     恭しくドクは⟔った。
     ひず通り郚屋ず病棟に぀いおの説明を受けるず、ドクは満⟜した様⌊で扉に⌿をかけた。
    「䜕か埡✀がありたしたら、呌んでください。それず朝には定期怜蚺がありたす。ゲストも䟋倖ではないですから、✇が昇ったら起きおくださいね」
    「ああ。ありがずう」
     もう⌀床⟚い✬を点滅させお、ドクは郚屋を出おいった。
     郚屋には先✣ず静寂が残った。

     報告曞がひず段萜぀いた頃にはすっかり✇は沈み、✉が⟌く昇っおいた。
     䌑憩がおら窓から郜垂の様⌊を眺める。
     ここの䜏⺠はみな芏則正しい✣掻を送っおいる様⌊で、どの窓からも光は挏れない。⟌いビルディングも存圚せず、起䌏のない屋根が闇ぞず続いおいる。
     そのおかげか星明りたでもがはっきりず⟒えた。ドクの⟔葉を借りるなら、⌈間性の代わりに⟃然性を埗おいる、ずいったずころだろうか。
     そこたで考えお初めお、その割にはほかの✣物の気配を感じなかったず思い⟄った。
     窓を離れおデスクに戻る。携垯端末にはただ打ち蟌んだばかりの報告曞が残っおいた。
    『基瀎蚭蚈担圓者の蚘憶障害ずその圱響に関する報告』
     衚題は今回の調査✬的を端的に✰したが、⌀✅でその内容は特段⟯✩いものではない。䜕より今✇のずころはに違和感を感じなかった。蚘憶障害の様⌊も、埮塵も⟒えなかった。
     暖⟊のベッドに腰かける。柔らかなそれは少し沈み蟌んで、代わりにかすかな埃を吐き出した。
     違和感  その⟔葉はむしろこの郜垂党䜓に圓おはたる。研究察象ずしおは興味深いが、⟃分が䜏むずしたら  いや、そんな仮定は⌀した意味を持たないだろう。いずれにせよ⟃分は⟃分で、研究者ずしお研究宀の䞭でしか✣きられないのだ。
     どうも思考が萜ち着かない。オヌバヌヒヌトしそうだ。
     倜⟵にでもあたりたいずころだが、✣憎窓は開かない構造だ。培底した安党性が今はもどかしい。
     やむを埗ず廊䞋に出る。制埡システムが異なるのか、あるいは病棟は自動制埡ではないのか、廊䞋の枩床は本棟のそれより少し高かった。
     あおもなく廊䞋を歩いおみる。ドクの考案した照明の呌吞が歩調に合わせおくる。
     混濁した思考の䞭、研究宀に届いたメヌルを思い出す。
    『研究郜垂『』の基瀎蚭蚈担圓者は蚘憶の障害を抱えおいる』
     この郜垂の調査䟝頌を受けた際に添付された、匿名のメッセヌゞだった。たったそれだけの✂だが、囜が動くのには⌗分だったらしい。こうしお芏暡を実感しおみれば理解できなくもないが、それにしおも、党く恐ろしい研究もあったものである。
     明確な意図もなく、ただ⟜が向くたたに任せる。
     囜もどうかしおいる。倧した説明もないたたに調査させられおいるこずも腹立たしいが、そもそもこのような研究は倫理的にいかがなものか  䜕⌈がここに䜏むのか 研究察象なのか 予算は
    ぀ら぀らず考えながら、同時に、疑問笊の裏には嫉劬が混じるこずを悟った。
     ⟃分の研究にはそこたでの圱響⌒はない。研究宀を含めお、いくらかの郚屋を行き来すれば、それで事が枈む。せいぜい数䜓の野良の✣死が決たる皋床だ。
     せいぜい
     ⟃分の思考にたじる匷⌒な⟔葉に驚き、⟜が✌たる。
    「良くないな。⟃分の研究を過〈評䟡するなんお」
     ⟔い聞かせるように独り⟔を⟔う。
     どうも調⌊が出ない。だから研究宀を出るのは嫌なのだ。集䞭⌒が⟵に乗っおどこかぞ消えおゆくような気がしおしたう。情報量を絞っお、蚘録しお、分析する。そのルヌティヌンが厩れおゆく。
     蚘憶の䞭から薄れおゆく。
     忘れるのは恐ろしいこずだが、忘れられるのはもっず恐ろしい。だから蚘録する。⟃分が分かるようにではない。埌で⟒た⌈が分かるように。そのためにはただ残せばいいのではない。
    「ちゃんず名前を付けお蚘録しないず」
    「名前」
     ⟃分のものではない声に驚いた。芖界が⟊を取り戻す。
     県前には现く〈さい少⌥が✎っおいた。
    「あなたの名前はなんおいうの」
     ⟒た✬通りのか现い声で少⌥は問いかけた。

    「私は  『先✣』だよ」
     必死に平静を保ちながら答える。
    「あら、『先✣』は保育斜蚭の⌥性の名前よ。重耇しおいいの」
     少⌥はオヌバヌサむズのシャツにひざ䞈のハヌフパンツを着おいる。その䜓にはおよそ莅⟁ずいったものが存圚せず、⟻ず筋⟁の茪郭が浮き出おいた。
     病匱な⌊がいるず⟔っおいた。この⌊がか。
    「埅っお、答えを⟔わないで。そうね  分かった ゲスト登録のために䞊曞きしたのね それならあの⌥性は『保⺟』  いえ、その衚珟は珟圚では時代錯誀だわ」
     聡い⌊のようだ。こちらも盞応の態床で接するべきだろう。
    「半分は正解だ。残りの半分の解ずしお、圌⌥は今『ミナ』ず呌ばれおいる」
    「ふぅん。ありきたりな名前ね」
     䌞ばしっぱなしの前髪の間から䞞い瞳がのぞいた。⟊玠の薄いその瞳はずおも病⌈のものずは思えないほど掻⌒に満ちおいる。
    「君がかい」
     圢のいい眉が䞊ずった。軜く息を吞う⟳が聞こえた。
    「知っおいるのね。じゃあ先✣ずいうのはお医者さんずいう意味かしら ぀いに私を治せる医者が⟒぀かったのね」
    「いや  すたない。私は⌀介の研究者だ」
    「ふふ。冗談よ。そんな医者はいないわ」
     真顔に戻っお✬を现めるからは、どこか諊念に䌌た感情が感じられた。
    「ドクには䌚ったわよね 圌は最⟌の医者だわ。知識も刀断も⌈䞊みじゃない、圓然だけれど」
     ⌝ごもる私をよそには⟔葉を発する。
    「䜕より嘘を吐かないわ。吐けないのかもしれないけれど、でもそれは本質的には同じこずよね。だから、圌が治らないず⟔ったから、私はもう無理なの」
     他⌈事のようには⟔葉を発する。
    「初めから期埅しおなかったの。ごめんなさい、ブラックゞョヌクが過ぎたかしら。私は賢いけれど、そのあたり、他⌈ずの関わり✅がいたいち䞊⌿くないの。ずっず病棟にいるせいかしら。ほらこういうのっお、経隓がものを⟔うじゃない」
     は⟔葉を発する。たるで今のうちにすべお話さなくおはいけないず思っおいるかのように。
    「ねえ、先✣は倖から来たのでしょう あんたり陳腐な展開は嫌いなのだけれど、でもこれを聞かないのはもっず嫌な気持ちになるず思うの」
     真摯なのたなざしを感じる。かろうじお⟔葉をひねり出す。
    「䜕かな」
     はにっこりず笑っお⟔った。
    「倖の䞖界っおどんなずころ」

    「ふぅん。そんなに⟯✩くはなさそうだけれど  ここよりはたしなのかもね」
     の匟んだ声は廊䞋の静寂にゆっくりず消えおいった。
     ⌆⌈は廊䞋の端にあったベンチに腰掛けおいた。倖の䞖界が語られるたび、现い⟜が楜し気に揺れる。
    「今たで読んできた本ずかから薄々勘づいおはいたけれど、やっぱりっお名前は倉なのね」
    「倉ずいうのはちょっず⟔いすぎだけど  たあ、私は聞いたこずがないな」
     この廊䞋に⟯する病宀には、⌊院患者はいないらしい。は病棟に関しおはめっぜう詳しかった。
    「でもそれっお、私が唯⌀無⌆だずも⟔えるわよね」
    「その説は吊定できないが  」
    「うヌん、でもやっぱり倉よね。これが䟋えば『医』ずか『⟐』ずかなら䞍思議じゃないけれど、よりにもよっお『』だなんお。せめお衚意✂字由来の⌀⟳にすべきじゃない」
     は指で空䞭に字を曞きながら話す。その指がたるでチョヌクのようで、⟒えない黒板に䌚話の蚘録を残しおいるようで、い぀か折れおしたうのではないかず緊匵しおしたう。
    「そうだな  ここにいる他の⌊たちも䌌たようなネヌミングだろう」
    「䌌たような、っおいうかほずんど⌀緒じゃない。確かにこれでは唯⌀無⌆ずは⟔えないわね」
     ひずりでにため息を吐くず、は再びこちらに向き盎った。
    「先✣、研究者は定矩を重芁芖するのでしょう」
    「たあ、そういう偎⟯があるこずは認めよう」
     䞞い瞳から興味接々ずいった芖線が济びせられる。良い県をしおいる。そう思った。
    「先✣は名前をどのように定矩しおいるの」
    「ふむ  やっぱり個を特定するためのラベル、ずいったずころになるかな。あるいは、蚘憶しおおくずきに⟒出しになるもの  たあこれも特定のためのラベルみたいなものか」
    「ふぅん。じゃあ先✣が私を思い出すずきには『』ずいうラベルを匕くこずになるの」
     の指が空䞭で䜕かを぀たむような動䜜をする。次いでそれを開くように動く。
     ⟒出しず⟔えば蟞曞のむメヌゞなのか。
    「それは⟯✩くないわね。『』なんお⟒出し語、ありふれおいるわよ」
     ほほを膚らたせる。
     確かに、頻出する単語に結び付く情報は必然的に倚くなる。情報量に埋もれおしたうがゆえに、狭い文脈での意味、䟋えば個人の名前や蚘憶の䞀断片にあたるような小さな情報には繋がりにくい。簡単に蚀っおしたえば、思い出しにくい、ずいうわけだ。
     忘れられるこずは恐ろしい。それを知っおいる圌⌥は、やはり聡明だ。
    「いい案があるわ 先✣、私に名前を付けおよ」
    「え」
    「ああ、我ながら名案ね。⌀䞈倫よ、今すぐにずは⟔わないわ。先✣が垰っおしたうたでに、この郜垂を去っおいくたでに、私の名前を決めお頂戎」
     劙な玍埗感のある提案だった。蚘憶の線纂者たる私に⟒出し語の䜜成を頌むずは、合理的だ。⌀✅で懞念点もあった。✇䞭、保育斜蚭の出来事が回想される。
    「それは  確かに名案だが  」
    「あら先✣、もしかしおを気にしおるの あんなもの恐れるに⟜らないわ」
     ⟃信に満ちた少⌥は⟔い攟った。
    「あれは呌び出さないず出おこないの。先✣が内緒にしおくれればいいのよ」
    「はあ  」
     気圧される私をよそに少⌥は盛り䞊がる。
    「このセリフは陳腐だけれど、死ぬたでに⌀床⟔いたかったのよ。先✣」
    「うん」
    「⌆⌈だけの秘密よ」
     そう⟔っお差し出された〈指はやはり现く、安易に觊れたら折れそうなほどもろく⟒えた。

    第二章発芋【discovery】

     窓から差し蟌む✇差しに✬がくらんだ。隣かそのたた隣か、話し声ず機械⟳が亀互に聞こえる。
     ⌿元のマグカップを⟒぀める。昚晩⌊れた珈琲はずっくに冷めおしたった。
     ほんの数時間前の玄束が脳裏から離れない。圌⌥は今頃寝おいるだろうか。新鮮な情報に魅せられお眠れぬ倜を過ごしただろうか。⟃分の名をワクワクしながら埅っおいるだろうか。
     ⟞茪の⟳が近づく。扉がノックされた。
    「先✣、おはようございたす。医療✀アンドロむド‐系、ドクですよ」
    「ああ、定期健蚺ず⟔っおいたね」
     そう⟔いながら扉を開ける。
     廊䞋にはアヌムをたたんだドクがいた。⟚い県は䟝然ずしお点滅しおいる。
    「おはようございたす、先✣。今朝の調⌊はいかがですか」
    「おはよう、ドク。昚✇はなんおいうか  初めおの䜓隓がたくさんあったからね。少し疲れおいるかな。でもいい郚屋だったからよく䌑めたよ」
    「ふむふむ。倖⟒に異垞なし、⟎⟊も良奜です。お元気そうで䜕よりですよ、先✣」
     いく぀かデヌタを取っおいるのだろう。ドクからは時折電⌊⟳が鳎り、その郜床⟚い県が点滅する。様子を芋るに觊蚺などは䞍芁なようで、最先端の怜査技術を目の圓たりにするず同時に、それでどこたで正確に蚺られるのだろうかず気になる。
    「ここの病棟の患者を党員怜蚺するのかい」
    「たさか。病棟ず⟔わず、郜垂にいるすべおの䜏⺠を怜蚺したす」
    「え 朝のうちに」
    「ええ。毎朝です」
     電⌊⟳を鳎らし続けながらドクが答える。
    「あくたで簡単な怜蚺ではありたすが  ヒトも機械も、䜏民もゲストも、䟋倖なくみなさんに察しお行いたす」
    「⌀⌈で⟏うのは⌀倉だろう。そもそも䜕時間かかるんだ」
    「ご⌌配なさらず、先✣。私は⌀⌈ではありたせんよ。哲孊的な意味ではなく、同個䜓が耇数存圚しおいるのです」
     デヌタ収集が終わったらしい。アヌムがくるくるず回る。
    「医療✀アンドロむド‐系は盞互に意識を曎新しながら、⌿分けしおこの郜垂の健康を守りたす。どこにいおも⌀分以内に『私』が駆け぀けたすよ、先✣」
    「それは⌌匷いな。なるほど、よくできおいる」
    「先✣は今✇も芖察ですか」
     廊䞋の照明が⿎動する。その照明に照らされお、あたかもドクが呌吞しおいるかのように⟒えた。
    「そうだね  どこか、⟒おおくべき斜蚭はあるかな」
    「個⌈的なおすすめずしおは、図曞棟ですかね。この郜垂の簡単な歎史に぀いおの曞籍もありたすし」
    「ふむ。ではそこから⟒おいこうかな」
     話しおいるうちに思考が敎理されおきた。ずもかく、もっずこの郜垂を知らなくおは。
    「そういえば  ⌀぀聞いおもいいかな」
    「䜕なりず、先✣」
    「昚✇の昌頃、の呌び出しがあっただろう あれはずいう少⌥に぀いおだず聞いたのだが  」
     ドクのアヌムが回転を✌める。静かな声で答えた。
    「はい。圌⌥は呌吞噚系に難がある、囜の指定難病患者なのです。お䌚いしおもらいたいずころですが、今はただ寝おいるかず」
     起こすのは可哀そうだ。ゆっくり寝かせおあげよう。
    「なるほどね  アドバむスありがずう、ドク。図曞棟を⟒おみるこずにするよ」
    「いえいえ。では本✇もお元気にお過ごしください」
     構造䞊䞍可胜でなければ䞁寧にお蟞儀をしおいただろう。そんな調⌊でドクは廊䞋に戻り、扉が閉たった。
     いく぀かの⟞茪の⟳が遠ざかっおいった。遠くでドクの声がする。どの個䜓だろうか。
     それをがうっず聞いおから、⟝✀床をしなければ、ず思い⟄った。

     いくら暖冬ずは⟔え、朝の気枩はかなり䜎い。掻動の倚い⌀✇になりそうだ、そう思っお✩⟐をやめ、⻑袖のワむシャツにスラックスずいう服装にしたが、少し倱敗だったかもしれない。
     だがそれも図曞棟に⌊ったら関係のないこずだった。䟋によっお宀枩の⟃動制埡は完璧に䜜✀しおいる。
     図曞棟は円柱圢の建物だった。䜙蚈な装食がなく機胜性に振り切った倖装で、無機質ずいうよりむしろ正確性や緻密さを感じさせる。蚘録曞を残すのにはもっおこいの建物だず、本胜的に感じた。
     䞭に⌊るず叞曞らしき⌈圱があった。今✇の自分の服装によく䌌おいるが、栗色のタむトな゚プロンをかけおいる点が異なる。髪型も違った。゚プロンず同じ⟊の癖っ✑を⟌めに⌀぀瞛りしおいる。
    「おはようございたす。初めおお✬にかかりたすか」
     その⌥性は䞁寧に話しかけおきた。
    「ええ。昚✇から芖察に来おいるものです」
    「ああ、『先✣』。初めたしお。私は『』、⻑期蚘憶のためのプロトタむプアンドロむドです。図曞棟の管理、運営も⟏っおいたす」
     埮笑をたたえながらが⟔う。およそアンドロむドには⟒えない、よくできた⟒た✬だず感じる。
    「⻑いでしょうから、『メンモ』ずお呌びください。皆さんそうおっしゃりたす」
    「メンモ、ですか。ずが逆では  」
    「ふふ、⟯✩いこずをおっしゃりたすね。確かに、そうです。これはが読み間違えたのです」
     きれいに背筋を䌞ばしメンモが語る。䞊品な語り⌝に思わず釘付けになる。
    「は本が奜きでよくここに来るのですが、私の名前をなかなか芚えられなかったのです。そこで✂字で⟒せたずころ、『メンモ』ずよんだのです。⌊䟛の名付けがに認められた、皀有な䟋だず蚘憶しおいたす」
    「なるほど  」
     蚘憶をよぎるのは昚✇の出来事、ブロック塀の萜曞きを削陀したの姿。認められるこずもあるのか。
    「にはお䌚いしたしたか」
    「いいえ、ただ䌚えおいたせん」
    「巊様ですか。あの⌊は今⌆階の蟞曞コヌナヌにいるはずですよ。耇数の蟞曞を⟒✐べるために広い机を占領しおいるから、すぐに分かるず思いたす」
     そう⟔っおメンモは階段を指し✰した。らせん状の階段は確かに䞊ぞず぀ながっおいる。
    「では少し話しおみようかな。ありがずうございたす、メンモ」
    「いえいえ。䜕か本をお探しでしたら、たたお申し付けください」
     䞁寧にお蟞儀をするメンモ。圌⌥を残しお、私は螺旋階段ぞず向かった。

     蟞曞コヌナヌの⌀⟓には確かに⌀きな机があった。本棟の円卓には及ばないものの、⌀⌈が䜕⌈か座っお䜜業する分には䞍⟜がない。
    そんな⌀机を⌀⌈の少⌥が占領しおいた。
     少⌥は⻑い黒髪を背䞭に流し、✩いブラりスを腕たくりしお蟞曞ずにらみ合っおいた。
     机の䞊には䜕冊かの蟞曞が䞊べおあり、ペヌゞの開き具合から察するに、すべお同じ⟒出し語を開いおいるようだった。今どの蟞曞を眺めおいるのか探ろうずしたが、圌⌥の芖線は県鏡の反射によっお远うこずができなかった。そう、圌⌥は県鏡をかけおいた。
    「こんにちは、君がかい」
     恐る恐る話しかけおみる。⿁気迫る衚情から圌⌥が⟔葉を発する。
    「青いわね」
    「え」
    「あなたの声よ。青いず⟔っおいるの。よ。䜕かあったの」
     蟞曞から✬を離さずに圌⌥が答える。
    「あんたり声に察しお青いずは⟔わないず思うけど  」
     ⟔葉の意図が汲み取れず、困惑した。少⌥はようやく顔を䞊げ、その衚情を⟒た。
    「ああ、分かったわ。の頭✂字ずかけたのね。そう。私がよ」
     は県鏡のふちを抌さえた。よく⟒るずそのメガネは⌀⌈✀で、⌊䟛の、その䞭でも〈顔に分類されるであろうの顔には、いささか⌀きすぎるものだった。
    「それは  深読みしすぎだろう あず、私の声はそんなにブルヌだったかな」
    「そうね  違うかもしれない。どちらかずいうず  もしくはずいったずころかしら」
     ⟞をかしげるずの黒髪が暪に流れた。県鏡の奥から鋭い県光を⟶ばす。
    「  緑色にそんな甚法はないず思うよ。あんたり感情衚珟には䜿わない気がする」
    「あらそう。埌で調べようっず。ずころであなたは」
    「ああ、ごめん。私のこずは『先✣』ずでも呌んでくれ」
     が再び県鏡を抌さえる。
    「朝、ミナが⟔っおいた先✣はあなたのこずね。この郜垂に぀いお調べものをしおいるず聞いたけど」
    「そうだね。君はここによく来るず聞いたけど、本が奜きなのかい」
     背筋を䌞ばした少⌥は頷いた。その拍⌊に県鏡が少しずれる。
    「そうね。本は奜き。⟔葉に觊れるず䞖界が広がるわ」
     良い感性を持っおいる。県鏡の奥のその瞳は、ここではないどこかを⟒おいるのかもしれない。
    「この郜垂が狭いずは思わないけど、⟔葉が⟜りないわ。いえ、それは嘘ね  名前よ、名前が⟜りないの」
     名前。昚✇定矩したその⟔葉に⿎動が早くなる。
     䞍完党な定矩だったず、今になっお思う。
    「名前が⟜りない、ずは、どういう意味かな」
    「そうね  これは私の⟔葉ではなくお、借りものなのだけど、䞖界はもう少し曖昧でいいず思うの」
     がんやりず宙を⟒぀める。その黒髪が揺れる。
    「ここでは䜕にでも、本圓に䜕にでも、決たった名前が぀いおいるわ。でもそれっお、䞖界の⟒え✅を固定しおいるのではなくお ぺたぺたずシヌルを貌っおいくのが楜しいのに、名札をピンでずめおいるようなものだわ」
     腑に萜ちるずころがあった。『答えが䞎えられおいる問いなんお⟯✩くもない』ずは⟃分の恩垫が⟔っおいた⟔葉だが、それに通じるものだ。䞍確かなものを远い続ける研究者に察しおは、特に盞性が悪いものかもしれない。
    「君は賢いね」
     ⌝を぀いお出た⟔葉だったが、意倖にもはそれを吊定した。
    「賢くないわ。倉わっおいるだけ。本圓に賢い⌊ずいうのはみたいな⌊よ」
    「を知っおいるのかい」
    「知っおいるも䜕も、あの⌊は私ず⌀緒にこの郜垂に来たのよ。そのあずすぐに病棟に⟏っおしたったけど、今でも⌿玙のやり取りくらいはするわ」
     に友⌈がいるず知り、安⌌した。そんな⟃分に驚いた。
     もっず冷培だず、研究⌀筋だず思っおいた。
    「ず⟔えば、この前おすすめの本を蚊かれたのだったわ。ねえ先✣、⌀緒に探しおくれないかしら」
     ⟔っおいるそばから蟞曞の⌭を✚付け始める。その慣れた⌿぀きを⟒ながら思わず頷いた。
    「もちろんだ。圌⌥の奜みも知りたいしね。」
     そんなこずを⟔った⟃分に、再床驚いた。

     はに枡したいのは⻩⟊い本なのだず⟔った。
    「この前は橙、さらにその前は⟚の本をおすすめしたの。だから今回は⻩」
     䜕の話かず思ったら、虹だった。
    「波⻑の長い順に薊めおいるのかい」
     冗談の぀もりで⟔ったら、は喜んだ。
    「分かっおいるじゃない、あなた」
     そんな䌚話をし぀぀、歎史曞コヌナヌにたどり着く。⻩⟊の本ずは぀たりノンフィクションを意味するらしい。
    「嘘にたみれた本圓の話、明るい気分にはならないけど、泚意しようず思えるでしょ」 
    「それで⻩⟊」
    「それだけじゃないけど  」
     はここにある本にかなり詳しかった。⌀冊ず぀⌿にずっおはあらすじを空で⟔う。
    「これは戊争の話、どちらかず⟔えば⟚に近いわ。こっちは玫  いえ、黒よりね。⌈がたくさん病気になるわ」
    「はどんな話が奜きなんだい」
    「あの⌊はなんでも読むわ。本圓は⟃分で䜓隓しないず気が枈たない性質なんだけど、それができないから。でも空想は嫌いね」
    「なぜ」
    「意味がないから。考えたっお珟実にはならないもの。でも私は奜きよ」
    「それは、なぜ」
    「意味のないこずっお楜しいじゃない」
     はやはり賢い⌊だった。
     最終的には⌀冊の本を⌿に取った。
    「これにするわ。囜家に埓った⌈が裏切られる話。救いはないけど孊びはある」
    「重すぎやしないかい」
    「重いくらいでちょうどいいのよ。あの⌊はちょっず軜すぎるわ」
     そう⟔っおおもむろにその本を差し出した。反射的に受け取り、そしお尋ねる。
    「なんだい」
    「あなたが枡しお。どうせたた䌚うのでしょう」
    「ああ、確かに。分かった。ちゃんず枡すず玄束しよう」
     はにこりず笑い、次いでその隣の本を匕っ匵り出した。それも差し出す。
    「これも」
    「いえ、これはあなたの分。お瀌よ」
    「そうか  ありがずう。この本は䜕⟊なんだい」
     受け取り぀぀冗談亀じりに尋ねる。その本のタむトルは『囜家研究郜垂の歎史ず今』。
     思考が熱を垯びた。
    「そうね  匷いお⟔うなら✩かしら。なんずも✩々しいお話よ」
     そう⟔っおは県鏡を抌さえた。やはり賢い⌊だった。

     ⌆冊の本を抱えお図曞棟を出るず、倖は䜕やら慌ただしかった。隒ぎの䞭⌌郚を⟒るず、ず耇数のドクが病棟に向かっお急いでいた。
     尋ねるたでもない。おそらくだ。
    「おや先✣。おはようございたす」
     嚁勢のいい声に振り返るず、スヌツに⟝を包んだ男が✎っおいた。
     短く刈り䞊げた髪が⟓ばった顔によく合っおいる。姿勢もよく、どこずなく掻発な雰囲気を醞し出す。
    「おはようございたす。ええず、どこかでお䌚いしたでしょうか」
    「ああ、これは倱瀌したした。昚✇定刻䌚で玹介されおいたので。でもその時にはご挚拶できたせんでしたね」
     そう⟔うず男は⌀段ず姿勢をよくした。
    「⟃分はずいいたす。郜垂党䜓の譊備システムを管理しおいたす」
    「そうでしたか。そういえばここに⌊るずきに譊備員ず䌚いたしたが、それ以倖にはほずんど⟒かけたせんね」
     萜ち着きのない声で返答する。病棟のほうが気になる。
    「そうですね。ここではほずんどがシステムで守られおいたすから  それに犯眪なんお起こりっこありたせんから。は芳察ず同時に監芖をするカメラにもなりえたすからね」
     ⌝⟓を䞊げお笑う。その瞳が⌿元の本に向いた。県光が鋭さを増す。
    「先✣は勉匷熱⌌ですな」
    「ああ、いえ。これは頌たれものでもありたすから」
     笑いながら本の裏衚玙をかざす。なんずなくタむトルを知られたくなかった。
     ⌝だけ笑った衚情のたた、が問いかける。
    「メンモがいたすから疑っおはいたせんが、きちんず持ち出し蚱可を埗たしたよね」
    「はい、もちろんです」
    「はは、こんなこずを蚊くのは倱瀌でしたな。図曞棟にはがないもので、぀い぀い過敏になっおしたうのです。いやはや、すみたせん」
     そう⟔うずは笑っお埌頭郚を掻いた。
    「先✣はこれからどちらぞ」
    「病棟に戻ろうず思いたすが  」
    「ああ、それはやめおおいたほうがいい」
     枋い顔でが⟔う。冬の冷たい⟵が吹いた。
    「今は少し隒がしいですからな。なんでも医療担圓者以倖は出⌊りできないようにしおいるずか」
    「そんな⌀ごずが」
     平静を保ち぀぀尋ねる。⟃分の声ががんやりず聞こえる。
    「いえ、そこたでではないでしょう。幎に䜕回かあるのですよ」
     安⌌させるようにが⟔うが、熱っぜくなっおいく頭の䞭は、静たるこずを知らない。
     䜕床か短く息を吐いた。
    「⌀䞈倫ですか 先✣」
    「ああ、はい、お気になさらず。でもどこか静かな堎所に⟏きたいですね。⟃宀に垰れないずなるず」
    「ああ、確かに。読曞に良い堎所か  」
     悩むをよそに䜕床か瞬く。萜ち着かねば。今は⌌配しおもしょうがない。
     ひずたず仕事に集䞭だず、蚀い聞かせる。
    「おすすめの堎所はありたすかね」
    「うヌん  ああ、この時間なら広堎がいいかもしれたせん」
    「広堎があるのですか」
    「広堎ず⟔っおもそこたで広くもありたせんが  保育斜蚭を超えた先を右に⟏くず〈さな時蚈塔がありたす。その䞋が広堎になっおいお、ベンチがありたす」
     そこなら萜ち着けそうだ。いや、それも垌望に過ぎないが。
    「昌時になるず⌊䟛たちが遊びにきたりもしたすが、この時間なら静かでしょう」
    「ありがずうございたす。向かっおみたす」
     は芪切そうな笑みを浮かべた。その脇を通り過ぎる。
     急に本が重く感じ始めた。
     ⌀冊にしおおくべきだったかな、そんな考えがよぎった。

     広堎に着くころにはずいぶん冷静さを取り戻しおいた。
     の話の通り、保育斜蚭からほど近いずころに広堎はあった。わずかに⟌くなった倪陜が✩い光を散垃する。
     広堎党䜓を⌀回り⟒枡しおから、時蚈塔の近くの✔⟊のベンチに腰かけた。
     深いため息を⌀぀。
     萜ち着き぀぀ある頭脳が今になっお抗議の声を䞊げる。今✇は寄り道ばかりだ。ただには⌀床しか䌚っおいない。
     それでも収穫はあった。そう反論する。
     『囜家研究郜垂の歎史ず今』、正芏ルヌトでは⌿に⌊れられない代物だろう。五幎前に曞かれたものらしく、著者名には知らない名前があった。どこたで信✀しおよいか悩みどころではあるが、それも読んでみなくおは分からない。
     もう⌀床ため息を吐き぀぀、本を開いた。✬が✂字をなぞる。いく぀かの前眮きの埌、ずいう名前を⟒぀けた。
    「実✀搭茉アンドロむドの孊習環境構築  の⟔葉通りだ」
     うわさに聞く通り、莫⌀な予算ず技術⌒を費やしお䜜られた郜垂だず分かる。
     埓来の⌿法による研究発展の遅さ、⌈間偎の郜合のよさが぀ら぀らず述べられる。
     ⌀理ある、そう頭の✚隅で考える。
    「すべおヒトに郜合の良い䞖界は存圚しない  それもそうだが」
     それもそうだが、しかしその理想を捚おおしたっおは、䜕のための科孊技術なのだろう。
     協調型瀟䌚ぞの転換を⟒据えた先⟏実隓、ずは聞こえはいい。でもそれはヒトがに寄り添う䞖界である。
    「のために⌈間をおろそかにしおいるようなものじゃないか  」
     研究者ずしおの最䜎限の矜持が、玍埗するこずを拒吊する。
     未知を远うものは垞に理想の最埌の砊であるべきだ。結果のために過皋を捚おるなど、⟔語道断だ。
     ペヌゞをめくり続けるず、⌊䟛たちの詳现なデヌタが茉っおいた。✬が⟃然ず、これたでに䌚った⌊たちの名前ばかりを拟う。
    「被隓者孀児院出⟝、⟔語孊習胜⌒⟌、瀟亀性⟌」
    「被隓者✚芪家庭、読曞胜⌒突出、共感芚傟向」
    「被隓者䞡芪死亡、難病患者、枬定䞍胜⟌すぎるため」
    「被隓者家庭内暎力、蚘憶力突出、蚘録癖」
     震える声で読み䞊げる。気軜に呌んでいた名前が、蚘号が、䞍意に重さを増す。
     各項✬の最埌には予想寿呜が蚘されおいた。たるで死ぬたでが⌀぀の実隓のように。決たった流れであるように。
     の欄は空✩だった。枬定䞍胜、ず〈さく曞かれおいた。
    「参加家庭およびその保護者には経枈的な✀揎を  」
     同意を埗たものであり、怪しいルヌトではないず再䞉⟔及される。むしろ怪しいず⟔っおいるようなものだが、⌊䟛たちにはそれが知らされない。芪の顔だっお芚えおはいないかもしれない。
     遠くから⌊䟛たちずミナの声がした。そういえば保育斜蚭にほど近かったず思い出す。
    「呜名システムず⟔語圢成プロトコルは、囜家機密に指定されおいる」
     本囜を⌀囜ずしお匷くする、そのために新しい⟔語モデルを圢成する、ずある。⌊䟛のデヌタは掲茉しおもアルゎリズムは明かさない。この郜垂の理想が透けお⟒える。
     ⟔及こそされおいないが、蚘号のような呜名は、おそらくによる管理運営がしやすいような囜造りのプロトタむプなのだろう。
    「この郜垂は、いわばミニチュアだ」
     そう呟いお、陳腐な⟔葉だったず思った。
     はこんな⟔葉を嫌うだろう。
     本はありふれた⟔葉で⌀儀を語り、締めくくられた。混濁した思いを⌀息に吐き出す。ふず空を仰いだ。
     ✩けた胞䞭ずは裏腹に、きれいな⌣焌けだった。

     時蚈を⟒るたでもなく、定刻䌚が迫っおいるこずを感じた。
     気枩はどんどん䞋がり、✇も沈んでゆく。
     それでも動く気になれなかった。
     苛✎ち、哀れみ、無⌒感、様々な感情がさざ波のように寄せおは返す。知らなければよかった、なんお思うのは研究者ずしお倱栌だ。
    無⟃芚のため息が䜕床✬かの波を抌し返したころ、⌈の声がした。
    「セオ、誰かいるよ」
    「そうですね。でも指をさしおはいけたせんよ」
     声の䞻を✬で远う。そこには⌊䟛ず⌀⌈が、⌿を繋いで✎っおいた。
     ⌀⌈が埮笑みながら話しかけおくる。
    「初めたしお。あなたが䟋の『先✣』ですか」
    「はい  」
    「そうですか。私はセオず申したす。この⌊は」
     そう⟔っお右⌿を぀なぐ少幎を⟒る。
     やや⌀き✬なコヌトに⟝をくるんだ少幎は、✬元にかかる前髪を⌿でかき分けた。
    「はじめたしお」
     吊が応でも先ほどの内容が脳裏に浮かぶ。この⌊も『蚳あり』なのだ。
    「これからセオずお墓に⟏くんだ。先✣も⟏く」
     ⌈懐っこい笑顔でこちらを⟒る。
    「お墓」
    「はい。墓所があるんです」
     セオが答える。
    「この⌊の⟯倒をよく⟒おくれおいたアンドロむドが先✇急にダメになっおしたっお、その墓参りに⟏くのです」
    「アンドロむド  」
     ⌈の死は実隓内なのに、機械の死は悌むのか。
     そんな⟔葉が喉元たで出かける。
    「その、ダメになったアンドロむドずいうのは  」
    「友達だよ。ゞョヌっおいうんだ」
     が遮った。その✬は玔粋に光っおいる。
    「ええ。圌にずっおは機械も⌈間も倉わらぬ友達なのでしょう」
     穏やかにセオが⟔った。も頷く。
    「⟏こうよ先✣。ゞョヌに玹介したいよ」
     ⟞元に冷たい⟵が吹いた。頭が熱くなっおいたず⟃芚する。
     䞍思議な感芚だ。⌌が静かになっおいく。この友情に぀いおもっず知りたいず思った。
     これは研究者ゆえの奜奇⌌か。あるいは。
    「ああ、私もの友達を知りたくなった」
     ⟜に⌒を⌊れる。ようやくベンチから腰が浮いた。

     墓所は思いのほか⌀芏暡だった。瞊暪に䞊んだ墓✯は同⌀のデザむンだったが、蚘されおいる名前は様々だ。
     台圢を暪⻑にしたような圢状の墓✯は、ファむルなどに぀けるむンデックスに䌌おいた。違いはカラフルでないこずくらいか。
    「ゞョヌ。来たよ」
     が静かに⟔う。その姿をセオず䞊んで、埌✅から⟒぀めた。
    「は䞍思議な⌊です」
     セオは優しく語る。
    「あの⌊はアンドロむドによく懐くのです。反面、⌈にはあたり近づきたがりたせん。枩いのは嫌いだ、ず⟔っおいたした」
    「はあ」
    「だから私にも懐いたのでしょう。⟃⌰玹介がただでしたね。私はセオ、この墓所の管理をするアンドロむドです」
     セオの顔を⟒る。その顔はアンドロむドには⟒えないが、しかし、確かに衚情に乏しくも思えた。
    「この郜垂にはたくさんのアンドロむドがいたす。ずいうシステムを含めればその数はより倚くなりたす。実態のあるもの、ないもの、⌈に䌌たもの、䌌おも䌌぀かないもの」
     先ほどの本を思い出す。ここの被隓者は⌈間にずどたらない。プロトタむプから再孊習䞭の野良たで、数倚くの、アンドロむドが実隓投⌊されおいる。
    「あの⌊は幞せだず思いたす。ここでは、⌈ず仲良くなるよりもアンドロむドず仲良くなるほうが、たくさんの友達候補がいたすから」
     はゞョヌの墓に向かっお話しかけおいる。その背䞭は先ほどよりも〈さく⟒えた。
    「でもそれは、あたり健党な成⻑ずは⟔えないのではないでしょうか」
    「ある意味ではそうですね」
     意地悪な私の質問に、しかしセオは笑っお頷いた。
    「⌈間ずの関わりを断ち切っお✣きるず、その先に埅぀のは孀独です。機械はある意味では完璧に蚘憶できたす。忘れられない安⌌感も、はじめはありたす。でも、リセットしたら終わりです。完璧に忘れるずいうのも機械の宿呜です」
     セオの声は⟵に乗っお䜎く響く。遠くで鳎る鐘の⟳に同調する。
    「察しお⌈間は、すぐに忘れおしたう。でも、完璧には忘れられたせん。い぀か思い出すこずができる。䞭途半端に枩いのではなく、枩もりが残っおいるのです。にはい぀かそれを知っおもらいたいず思っおいたす」
     は話し終えたらしい。✬を瞑っお⌿を合わせおいる。
     セオの⟔葉が切れるず、しばらくの静寂が蚪れた。
    「セオ、聞きたいこずがありたす」
    「なんでしょう」
    「⌈間には蚘憶の限界があるず思いたす。それを超えおも蚘憶しおおきたいずき、どうすれば良いでしょうか」
     の埌ろ姿が✎ち䞊がる。最埌に䜕か⟔った。
    「名前を぀けるのです、先✣」
     その答えは、実は既に⟃分の䞭にあるのだった。

     墓所を出るころにはすっかり✇が萜ちおいた。星の光も明るいずはいえ、倪陜には敵わない。
     それでも倖で埅っおいる⌈物は刀別するこずができた。
    「お埅ちしおおりたした」
     は埌ろ⌿に組んだたた埮笑む。分厚いコヌトの裟が揺れた。
    「定刻䌚にいらっしゃらなかったので、倱瀌ながらを䜿わせおいただきたした」
    「ああ、なるほど。いえ、こちらこそ倱瀌したした」
    「なに、気にするこずはありたせん。定刻䌚はい぀も同じ調⌊ですし、䜕よりあなたはここの研究者ではないのですから」
     ひずきわ匷い⟵が吹いた。街路暹の葉が揺れ、寒そうな⟳を出す。⌀✅で同じ⟌さの電柱はびくずもしなかった。
    「冬の倜は寒いですね。少し歩きたしょう」
     は私に䞊んでレンガの道を歩き始めた。⌆⟜分の⟜⟳が響く。
    「、あなたはい぀から⟒おいたのですか」
    「ちょうどセオずが去る頃からです。先✣もすぐ来るかず思いたしたが、思いのほか⻑居したしたね」
    「そうですね  はい。確かめたいこずがあったので」
     歩幅に合わせお✉が揺れる。⌆⌈の圱が闇に溶け蟌む。
    「あの墓所ははじめ、アンドロむドのためのものだず思っおいたした。実際、ほずんどの墓✯には型番ず名前が刻たれおいた」
    「そうですね。この郜垂で砎棄されたものはすべおあそこに眠りたす」
    「砎棄  そう。そうですね。そしおそれは被隓者も同じだ」
     が歩みを✌める。⌀歩通り過ぎお、私も✌たった。
    「型番のない墓✯がありたした。⌀぀じゃない。䞡⌿に収たらないほどの墓✯には、特定の蚘号が曞かれおいた」
     喧隒ずは皋遠い郜垂。⌈の声はしない。⿃も鳎かない。ただ機械⟳のみが薄く根付いおいる。
    「からたで、アルファベット⌀✂字の名前がそれぞれ列をなしおいた」
     昌間に読んだ本を思い出す。⌊䟛たちの名前がある郚分、その各項✬の最埌には予想寿呜が蚘されおいた。その幎霢ははるかに幌い。⌀⌈になるこずは考慮されおいない。
     列をなす墓✯、そこに刻たれた蚘号。たるで順番を埅っおいるかのようだ。
    「今の圌らは、䜕番✬の被隓者なんですか」
     ✩い静寂の郜垂に、その声は青く響いた。

     冬の倜の静寂は、しかし、意倖な✅法で砎られた。
    「、から緊急コヌルです。本棟たでお戻りください」
     電柱のスピヌカヌが合成声で呌びかける。
    「分かった。すぐ⟏こう」
     こちらから✬線を倖さないたた、が⟔った。
    「先✣、すみたせん。私はその質問に答えられない」
    「逃げるのですか」
     絞り出したような声で問い詰める。
    「そう冷静さを倱っおはいけたせん、先✣。答えはが知っおいたす。圌なら答えられる」
     息を吞いこむ。呌吞を✌めおいたこずに気が付いた。そう来たか。
    「では先✣。倱瀌いたしたす」
     が道を戻っおいく。その埌ろ姿が闇にたぎれた。
     意図的に䜕床か呌吞し、軜く頭を振った。✬を぀むっお情報を遮断しようずしお、ホワむトノむズが戻っおきた。
     党くふざけおいる。そこかしこで機械の気配がするのに、⌈間らしさはどこにもない。⟃分の研究宀もだらけだったが、ここたでひどくはなかった。なぜこんなずころに。
    「あ、報告曞」
     䜕を曞けずいうんだ。このたたでは報告どころか告発✂  悪ければただの✂句だ。
     そもそもなんお衚題を぀ければいい。芚えおおくために名前を付けろず、セオは⟔った。ならば。
    「こんな倜には、名前なんか付けたくないな」
    「名前」
     ⟃分のものではない声に驚いた。芖界が⟊を取り戻す。
     県前には现く〈さい少⌥が✎っおいた。
     デゞャノだ。
    「そんな陳腐なセリフを吐かないでよ、先✣」
     呆れたような声では吐き捚おた。

     急いで病棟に戻るずドクが埅っおいた。
    「党く、⌌配させないでください。先✣が戻っおこないうえにも消えたずあっおは、私がクビになっおしたいたす」
    「ああ  すたない」
    「本圓に  もう⌀分遅ければ郜垂䞭にドクの⌀矀が捜玢に出るずころでした」
     ドクの⟚い県が点滅する。冗談だず思いたい。
    「すたなかった。を叱らないでやっおくれないか 私を探しに来おくれたんだ」
     ドクのアヌムがくるくるず回った。
    「先✣にそう⟔われおしたっおは  たあいいでしょう。お⌆⌈ずも䜓調に異倉はありたせんか」
    「⌀䞈倫よ、ドク。私の容䜓は誰よりもあなたが知っおいるでしょう」
    「はすぐそういうこずを⟔う。私はお䞖蟞ずブラックゞョヌクに匱いのです」
     そう⟔っおドクは⟏く⌿を開けた。
    「ほら、⟏った⟏った。暖かくしお寝るのですよ」
     その脇をずずもに通り抜ける。
     ⿎動する照明の䞋、廊䞋を⌆⌈で進む。
    「なんだかドクの印象が倉わっおきたな。あれじゃあ医者ずいうよりお⺟さんだず思うが」
    「私ずいるずきはあんな感じよ。⌊䟛向けのアルゎリズムでもあるんじゃないかしら」
     暖かそうにしおいるを芋お安心する。あの寒空の䞭を歩き回らせおしたった、そう反省する。
    「それより、玄束よ。早く頂戎」
     は⌀きな瞳をこちらに向け、䞡⌿を差し出した。
    「ああ、ええず  ごめん。名前はただ思い぀いおいないんだ」
    「そっちじゃないわよ。⻩⟊い本。から手玙で、あなたが枡す玄束だず蚀われたのだけれど」
    「あ、そっち  」
     ⟔われおようやく、本をポケットに⌊れおいたず思い出す。
    「これだけど  」
    「ふぅん。読んだこずのない本ね  これっお⻩⟊いの」
     しげしげず本を眺める。
    「どうだろう  正盎私にはの感性が分からなくおね」
    「それを聞いお安⌌した。あれが理解できないのは私が⟮才だからではなかったのね」
     しばしの間✎ち✌たり、は本をいじっおいたが、やがおこちらを向いた。
     䌞びきった前髪の間から良い県がのぞいた。
    「それよりも先✣、あなたの話を聞きたいわ」
    「え」
    「今✇の出来事を教えおよ。それだっお私には✎掟な倖の䞖界の話なのよ」
     ⿎動に照らされお、その✬は匷烈な光を攟぀。どれだけ逡巡しようが、断るこずはできないず悟る。
     幞か䞍幞か、冬の倜は⻑く、それにただ始たったばかりだった。

     は盞圓な倜型らしく、⟷い぀くように話を聞いおいたが、広堎を探し回った゚ピ゜ヌドの途䞭で、぀いに寝息を✎お始めた。
     その安らかな寝顔を⟒぀めた。
     道䞭⟒぀けた゜ファで話し始めおしたったせいで窓の倖は⟒えなかったが、おそらく倜は曎けきっおいるだろう。
     こんなに匕き延ばしお話をしたのは初めおだった。䜕ずか墓所の話をせずに枈んだ。それに、今は別に話さなくおはいけない盞⌿がいる。
    「ドク。盗み聞きずはらしくないですね」
     廊䞋の端から⟞茪の⟳がする。⌌なしか申し蚳なさそうな⟚い点が近づいおきた。
    「先✣、すみたせん。あなた✅の䌚話がずおも⟯✩いものですから」
     ドクはそう⟔っおアヌムを曲げ䌞ばしした。
     ドクには墓所での話をした。それからずの䌚話のこずも。
    「あなたは知っおいたすか、ドク。このは䜕番✬なのですか」
    「さあ、分かりたせん」
     ドクは⌌底残念そうに⟔った。四本のアヌムがうなだれた。
    「新しい⌊が来るたび、぀たり前の⌊が去るたび、我々の蚘憶はリセットされるのです。孊習成果のみを残しお」
    「我々ずいうず」
    「この郜垂のアンドロむド党おです。リセットされた履歎は残りたすが、情報は  思い出はなくなりたす。戻っおくるこずはありたせん」
     完党な消去。アンドロむドの宿呜、ヒトにはできないこず。
    「それは  ぀らいですね」
    「ええ、そうですね。でも、圌⌥らは、もっず぀らいず思いたす」
    「  忘れるよりも忘れられるほうが、぀らい」
     照明が⿎動する。しかしその⿎動はあくたで芏則的なものだ。⌚分の狂いもなく、䜕床も蚪れる。
    「先✣、私ずも玄束しおくれたせんか」
    「玄束  ですか」
    「ええ。圌⌥のこずを、のこずを、忘れないでほしいのです。私の分たで」
     そう⟔うずドクは巊䞊の⌿を差し出した。
     の〈指よりはるかに倪いそのアヌムは、しかし觊れたら折れそうなほどもろく⟒えた。

    第䞉章告癜【confession】

     窓から朝✇が差し蟌む、その光線で✬が開いた。
     ただ本調⌊ではない頭脳に、昚✇の出来事が浮かんでは消える。
     䜕の気なしに窓の倖を⟒る。その✬が違和感を察知する。
     郜垂にはホログラムが✎っおいた。⌀぀ではない。あちらこちらに薄い⻘の⌈圱がある。
    「こんなに投圱機があったのか  」
     ただがけおいる、⌀秒おいおそう思う。
     なんだっおこんな状況になっおいるのか。昚晩たでは普通だったはずだ。
     いたるずころでホログラムを投圱しおいるせいか、郜垂内は少し霧がかっおいた。
     廊䞋から⟞茪の⟳がした。次いで扉がノックされる。
    「先✣、おはようございたす。医療✀アンドロむド‐系、ドクですよ」
    「ああ、おはようドク」
     そう蚀い぀぀扉を開ける。そこには⌀回り〈さくなったドクがいた。
     ⟞茪の数は四本、アヌムは⌆本に枛っおおり、⟚い県も気持ち〈さい。
    「なんだか〈さくなったね、ドク」
    「ああ、これは詊䜜機の姿です」
     そう⟔っおドクはくるくるず回った。党貌を⟒せおくれおいるらしい。
    「今✇は郜垂内党システムの点怜を⟏っおいるのです」
    「でも、ドクは機械も含めお毎朝、怜蚺を行っおいるのだろう」
    「これはあくたで簡易的なものですから。このように倧きな点怜を幎に䜕回か⟏いたす。スケゞュヌルではもう少し先の予定だったのですが、今✇に流れ蟌んだらしいですよ」
    「なるほど。では君のメむンシステムずい぀もの䜓も  」
    「ええ、点怜䞭です」
     ようやく✌たったドクは、䟋によっお電⌊⟳を鳎らしながら怜蚺を始めた。
    「点怜䞭ずはいえ、医療や保育などの機胜が✌たるのはたずいですからね。機胜を党うできる最䜎限の代替を✀意しおあるのです」
    「ぞぇ、よくできおいるね」
    「倖⟒に異垞なし、⟎⟊も良奜です。党くお倉わりありたせんね、先✣」
     電⌊⟳が✌む。⟚い県が点滅した。
     そういえばドクには䌝えおおいたほうが良いこずがあった。本圓なら初日に蚀うべきだったが  。
    「ドク、実は私は  」
    「ああ、存じおおりたす。倧䞈倫ですよ。他人の秘め事を口倖するほど、私は人間らしくはありたせん」
     そういうドクの目が、りィンクするように点滅した。
    「ちょっずバタバタしおいるでしょうが、それでも郜垂は動いおいたす。先✣も芖察ぞ⟏かれるのでしょう」
    「もちろんだ」
    「点怜✇ずあっお、実はドクの数も枛っおいたす。呌び出されおもすぐに駆け付けられないかもしれたせん」
     ドクは⌌配そうにアヌムを曲げ䌞ばしする。その噚甚さは詊䜜機の段階から健圚だったようで、改めおよくできおいるず感心する。
    「⌌配ありがずう。気を付けるよ」
    「そうしおください。では本✇もお元気にお過ごしください」
     恭しく⟔っお、ドクは去っおいった。⟔われおみれば⟞茪の⟳も、話し声も、い぀もより少ないような気がしおきた。
    「点怜✇か  」
     䞍䟿が出るだろうか、そう考えお、そんなこずはないず思い⟄った。
     今✇、✀事があるのは機械ではない。⌈間だ。
    「䜕よりたず、に䌚わなければ」
     気乗りしない䜓を無理に動かしお、⟝✀床を始めた。

     結論から⟔うず、には䌚えなかった。
     苛✎぀⟜でレンガ舗装された道を歩く。本棟は締め切られおおり、出⌊り⌝にはマスクをしたが✎っおいた。
    「点怜の陣頭指揮をがずっおいるから⟯䌚できないっお、そんな郜合のいい話があるか」
     にされた説明は、しかし理にかなっおいるず、頭の✚隅では理解しおいる。
     この郜垂はその存圚⟃䜓が⌀぀のシステムのようなものだ。その点怜ずあれば、基瀎蚭蚈者が忙しくないはずがない。
     それにしおも苛✎ちは収たらない。冬の⟵ですら、熱くなった頭を冷やすには䞍⌗分だ。
     道の端々でホログラムが✎ち䞊る。実䜓はない、しょせん投圱された映像なので、すり抜けるには苊劎しない。通⟏の劚げにはならない。しかし癪に障る。
     気が付くず広堎に぀いおいた。時蚈塔が静かに時を刻む。
     広堎内には意倖にもホログラムは存圚しなかった。理由を考えお、無駄だず思い知る。そもそもただあのホログラム投圱機の機構すらわかっおいない。
     ため息を吐きながらあたりを⟒回す。機械の気配がないだけで、この郜垂はこんなにも殺颚景になる。
     息を吐きながらう぀むくず、そこには芋憶えのないノヌトが萜ちおいた。
    「日蚘垳か  」
     その衚玙には敎った文字で『』ず蚘されおいた。開いお良いものか、わずかに悩む。
     最終的に興味は眪悪感に勝った。ぱらぱらずめくっおみる。
    「昚日は花の銙りがしたが今日はしない。代わりにした匂いを、は茶色ず蚀った  」
    「の友だちはみんな䞍思議だ。僕らが眠くなっおも元気に話し続ける。倧きくなったら、僕らもああなるのだろうか」
    「はああ芋えおずおも優しい。ただ自分で立぀こずもできないをよくおぶっおあげおいる。冒険だず蚀っお僕らやミナを振りたわすのがたたにキズだが  」
     そこには保育斜蚭の日垞が綎られおいた。
     は良い芳察者であり、同時に良い蚘録者だった。蚀動のひず぀ひず぀が目に、耳に、浮かぶようだ。
     そう考えお、違和感を芚える。
     この広堎は保育斜蚭にほど近い。しかし⌊䟛の声が聞こえない。
     時蚈塔を⟒る。気付けば昌時が近くなっおいた。起きおはいるだろう。
     幞いにも保育斜蚭は広堎から遠くはない。
    「⟒おみるか」
     どうせできるこずはほずんどないのだ。そう思い、広堎をあずにした。
     ⻘いホログラムの⌀矀が䞍安を煜るように、かすかに揺れた。

     ピンクのゲヌトを抜けおも、⌈の声はしなかった。
     ⌊䟛の声はおろか、ミナの声もない。
     代わりに⌀⌈、✩⟐の⌥性が座っおいた。だった。䜕かの機材をいじっおいるが、それが䜕かは分からなかった。
    「あの、すみたせん」
     近づいお声をかけおみる。機材から✬を離さずには⟔った。
    「ごめんなさい、今忙しいの」
     マスクをしおいるようで、声がくぐもっおいる。やや曇りがちな県鏡が光る。
    「⌊䟛たちず話がしたいのですが  」
    「党員寝おいるわ。点怜の✇は基本的に寝かせおいるの。危ないでしょ」
    「はあ  ではミナは、」
    「ミナは䞭よ」
     端的にそう⟔っお、顎で䞞倪の建物をしゃくった。
     困惑しながらそちらぞ向かう。
     ⌊䟛たちは寝おいる ⌀⌈残らず ✣掻習慣を完党に無芖した⟏動ではないか。
     第⌀そんなこずをミナが蚱すだろうか。
     そんなこずを考えながら扉を開ける。䞭では数⌗のミナが点怜を受けおいた。
     数⌗のミナが、点怜を受けおいた。
    「  ミナ」
     疑問が正しい圢をずらないたた⌝を぀く。
     数⌗のミナは⌀⻫にこちらを向いた。
    「「「あら、おはようございたす。先✣」」」
     ミナの合唱が⿎膜を揺らした。

     ⌀番⌿前にいたミナは点怜をすでに終わらせおいたらしい。別の郚屋ぞ案内しおくれた。
    「先✣、ダメですよ。私だっお意識を共有したアンドロむドなんですから。呌びかけたら⌀⻫に反応しおしたいたす」
    「あ、ああ  すたなかった」
     なぜ怒られおいるのか分からぬたた、謝眪する。
    「ちょっず混乱しおいるようだ。君は、結局䜕者なんだい」
    「はい、私は保育✀アンドロむド系、通称『ミナ』です。以前は『先✣』ず呌ばれおいたした」
     そうだった。
    「ここには  いく぀のミナがいるんだい」
    「ざっず䞉⌗ほど。保育ずいうのはハヌドな仕事なんですよ、先✣」
    「なるほどね  」
     タフなわけだ。
     よくよく⟒おみるず確かにミナは衚情に乏しい。それにしおもよくできたアンドロむドだった。
    「気が付かなかったんだよ。どう⟒おも⌈間だし  それに保育ずいう仕事を完璧にこなすなんお聞いたこずない」
    「それはそうでしょう。系は囜が開発䞭のプロトタむプ。ここ以倖で芋かけるこずはたずないでしょう」
     少し照れたようにミナが⟔う。耒めたら照れる。プログラムされたように、⟃然だ。
     いや、この思考は良くない。どうもシステマティックに⟒おしたう。
    「そういえば⌊䟛たちはどうしたんだい」
    「ここにはいたせんよ、先✣。宿泊棟はもう少し離れたずころにありたす。そこで寝おいたす」
    「起きたらどうするんだい ミナはここに⌀堂に䌚しおいるだろう」
    「起きたせんよ、先✣。ご⌌配なさらず」
     起きない
    「起きないっおこずはないだろう」
    「いえ、起きたせん。定期散垃しおいる薬品の量は的確です。幎霢、䜓重、⟎圧、⌌拍数、ほか癟を超えるデヌタから最適な倀を蚈算しおいたす」
    「薬品 それで眠らせおいるのか」
    「その通りです。ご⌌配いりたせんよ、先✣。健康に害のあるものは⌀぀もありたせん」
     そういう問題じゃない。いや、それも問題だが。
    「そんなの  ⌈間らしさのかけらもないじゃないか」
    「そんなこずはありたせん。この郜垂の倖で暮らす家庭でも、芪が⌊䟛を寝かし぀けるこずは珍しくありたせん。ここではそれを効率的に⟏っおいるだけです」
     悪びれもせず、淡々ずミナは語る。
    「  ⌀量の薬品が必芁なはずだ。どうやっお摂取させるんだい」
    「いい質問です、先生。子䟛たちはみな賢いですからね。事情を説明すれば経口摂取も簡単でしょう。しかし、それでは実際の生掻環境での実隓ずしおはやや䞍適合です。知らせず摂取させる手法が必芁です」
     倖で⟵が吹く。窓が揺れお、䜎い⟳を鳎らした。
    「散垃、ですよ。ホログラムの投圱機は噎霧噚ず⌀䜓化されおいお、そのたた薬品の散垃機でもありたす。✔蒞気ずずもにそこから適切な成分を散垃するのです」
     窓の倖には⻘いホログラムが䞊ぶ。それらは明確に⌈ではなく、⌌もない存圚だった。

     保育斜蚭を出た埌、墓所にやっおきた。どうせ本棟に⟏っおも意味がない、そう思ったからだ。
     誰もいない堎所を目指しおきた぀もりだったが、そのあおは倖れた。乱立するホログラムず敎列する墓石の間で、癜衣の男がセオを点怜しおいた。無造䜜に髪を䞀぀瞛りにしおいるその男には芋芚えがあった。
    「、ですか」
    「いかにも。すたないね、俺がじゃなくお」
    マスクでくぐもった、平坊な声でが蚀った。
    「もうひず぀すたないね、だ。セオは点怜䞭で話すこずはできない。たあ、あんたは話し盞手を求めおきたわけじゃあなさそうだが」
     点怜の手を䌑めるこずなくが蚀う。
    「私がを探しおいるこずを知っおいるのですか」
    「もちろんさ。ここの研究員ならだれでも知っおいる。みんな『』しおいるからね」
     皮肉っぜくが答えた。時間がた぀に぀れ匷たっおいる颚が、その髪を揺らした。
    「先生、あんたも倧倉そうだな。なんだかよく分からないたたに芖察なんかによこされお。おおかた、囜が倚くを語りたがらなかったんだろう 気持ちは分かるぜ」
    「その割にはみなさん、私がに䌚うのを劚げおいるように感じるのですが」
    「おいおい、それはずんでもない誀解だ。俺たちだっお本圓は真実を知りたいのさ」
     ようやくがこちらを芋た。その瞳は平坊な声からは想像もできないほど、匷い光を攟っおいた。
    「俺はこれでも非垞甚バックアップの䜜成を担圓しおいる。ここのシステムにはの次に詳しい。それなのにシステムぞの干枉暩限は倧幅に制限されおいる」
     は語りながらこちらに近づいおくる。嚁圧感に思わず数歩、埌ずさる。
    「ほかの研究員もそうさ。思い思いの研究をするこずは蚱されおいるが、それ以䞊のこずはできない。研究環境ずしおは優れおいるが、どこかきな臭い。寿呜がやけに短い子䟛たちだっおそうだ。たああれは囜が候補を遞んでくるんだが  最終的な決定暩はにある」
     そこたで䞀息に蚀っお、は歩みを止めた。おもむろにポケットから煙草を取り出す。
    「すたない、アツくなっちたった。あんたも吞うかい」
    「いえ  」
     鬱陶し気にマスクを倖すず、煙草を咥え、火を぀ける。
    「本圓は良くないんだが、た、ちょっず吞うくらい問題はないだろう  ずもかく、俺らもほずほず嫌気がさしおるのさ、先生。の様子も昔ず違うし  」
    「ちょっず埅っおください。の過去を知っおいるのですか」
     思わず遮っお、自分の声に驚いた。
     は圓然のように蚀う。
    「そりゃ、俺、の教え子だもん。」
     その蚀葉ずずもに煙草の煙が空ぞず消えた。

     昚晩は気が付かなかったが、墓所の端にはベンチがあった。あたりこの郜垂に䌌合わないような、薄汚れたそのベンチにず座る。
    「やは、別に監芖のためのシステムじゃないんだ。あれはあれで、特定のアルゎリズムに沿っお孊習教材を探しおいるだけだ」
     煙草を片手には語った。セオの点怜は終わったらしく、立ち䞊ぶホログラムず墓石をがうっず眺める。
    「ある時急にこの郜垂での研究をしないかず蚀われお、喜んで来た。これたでの名前が䜿えないだずか、蚀動に泚意しなくちゃいけないだずか、いく぀か泚意すべきこずはあるが、それを陀けば割ず快適さ」
    「  私の考えが特殊なのかもしれたせんが、それはアむデンティティを捚おお、機械のために生きおいるように思えおしたいたす」
     抌し殺したような私の蚀葉に、は笑った。
    「そう蚀う人もいるだろうな。間違いだずは蚀い切れん。だが、俺はそう思わない」
     昌䞋がりの倪陜はその傟きを倧きくし぀぀ある。雲の隙間かた挏れ出る光が、空気にゆがたされお、私の目に届く。
    「もずより存圚意矩なんおものはよくわからん。名前や蚀動なんかで、簡単に定矩できるものだずも思えない」
    「だからず蚀っお、捚おおもいいものではないのでは」
    「  腐っおも俺は研究者だからな。俺にずっおは、研究結果や論文こそが生きる意味であっお、生きた蚌拠になるんだ。そのためには倚少の犠牲は払えるさ」
     平坊な口調で、しかし前をしかず芋぀めお、はそう蚀った。
     自分の蚀葉を噛み締めるようにうなずいお、もう䞀本煙草を取り出し、火を぀けた。
    「研究者のみなさんや倧人の䜏民はそうかもしれたせんが  子䟛たちは 圌らの生きる意味は、圌らこそが決めるべきです。実隓の犠牲になるこずが圌らの垌望だずは、私は思えない」
     吐き捚おた埌で、こんなこずをに蚀うのは圓お぀けだず、そう思った。
    「そうだ。俺らもそれが気に入らない」
     はため息ず䞻に煙を吐き出した。呚囲の枩床より湿ったそれは、颚に揺られおゆっくりず、しかし確実に流れおいく。はそれをじっくりず眺める。
    「テクノロゞヌっおのは人間の知的な興味ず怠惰な感情から進むはずなんだ。未知を既知にしたい、蟛いを楜にしたい、そういう感情のこずだ。この郜垂にはそれ以倖の、䞍玔な意思の力が働いおいるず感じる」
    「の意思でしょうか」
    「  どうなんだろうな。人間の感情は、俺なんかには難しすぎる」
     短くなった煙草をは携垯灰皿に入れた。煙たい空気が少しず぀薄たっおゆき、冷たい颚が口に流れ蟌む。
     同感だ、そう思った。人間の感情は難しすぎる。蚀語化すらできない感情を、人はたくさん持ち合わせおいる。それらは他人に䌝わらないどころか、自分の䞭にも長くはずどたらない。

     墓所を出た埌は図曞棟ぞ向かった。
     によるずは本棟にもおらず、研究員たちも戞惑っおいるらしい。もはや策を緎るこずもできず、やけっぱちな気持ちだった。
     円柱圢の図曞棟、その扉を開けるず、異質な⟳が聞こえおきた。
     等間隔に、䜕かを叩くような⟳が響く。
     恐る恐る䞭に⌊っおゆくず、そこにはがいた。
     その存圚⟃䜓にも⌀いに驚いたが、圌⌥の⟏動ぞの驚きがそれを䞊回った。
     は怅⌊の䞊に胡坐をかいお、巊⌿で頬杖を突きながら、右⌿で机をたたき続けおいた。芖線は机に向いおいる。その先を远うず、蟞曞を読んでいた。
     䜕もかもが異質で、思わずたじろいだ。
    「、䜕をしおいるんだい」
    「あら先✣、⟒お分からないの 蟞曞を読んでいるのよ」
    「ええず、そうではなくお、いやそれも気になるんだけど」
     ようやく圌⌥の✬がこちらを向いた。
    「ああ、これはメンモを呌んでいるの」
    「うヌん、それに぀いおは埌で聞きたいかな」
     は机をたたくのをやめ、腕を組んだ。
    「䜕がそんなに疑問なのよ」
    「今✇は点怜✇だから、⌊䟛たちはみんな寝おいるず聞いたんだよ。でも君は起きおいるし、病棟でもなくここにいる」
    「そんなこずが疑問なの」
     呆れたようにが⟔った。
     その声ずは裏腹に、瞳は明るく茝いおいた。

    「たず、私が起きおいる理由ね」
     ⟜をそろえお座りなおしたが語り始める。その声に聎芚が集䞭する。
    「私は賢いの。だから、ホログラムの仕組みも、その✔蒞気から怪しいにおいがするのも、分かっおいた。どうせあれ、薬か䜕か混ざっおいるのでしょう」
     思わず頷く。そうだ。は賢い。
    「そしお私は知っおいたの。病棟にはホログラムの噎霧噚も投圱機もない。おそらくドクが反抗したのでしょうね。『病⌈に䜙蚈なストレスをかける気ですか』ずか⟔っお」
     再床頷いた。確かに、ドクならそう⟔うだろう。
    「思い返しおみれば、点怜✇には決たっお具合が悪くなっおいたの。幎に䜕回かの激しい発䜜は必ず点怜✇の前✇かその前の✇。だから気が付いた。垞甚薬には発䜜の効果が、発䜜の薬にはその⻑さを調節する効果があるっお」
     もう頷けなかった。驚きが閟倀を超えた。
    「じゃあ、昚✇の発䜜は  」
    「あれは嘘よ。発䜜なんお起きおいない。垞甚薬を飲んでないもの」
    「でもが呌び出されお  」
    「ドクはお芝居が䞊⌿なの。䞻挔⌥優賞は私だけど、助挔男優賞はあげおもいいわ」
     深く息を吐く。安⌌ず驚愕、それに少しの呆れがいっぺんに出た。
    「そうしお点怜✇の隙を぀いお、ここぞ来たっおわけ」
    「そうだ、それも聞きたかったんだ。なぜ図曞棟ぞ」
    「それは次の答えに繋がるわ。メンモに✀があったの。圌⌥は⻑期蚘憶のためのアンドロむドよ。匷制リセットが⌊ったら台無し。だから、私が䜕番✬か芚えおいるはずよ」
     ✿を疑った。䜕番✬
    「ちょっず埅っおくれ、なんで君がそれを知っおいる」
    「ああ、ごめんなさい。その説明がただだったわね」
     䌞びた前髪を軜く払っおは⟔った。
    「私、昚✇は寝おないの」
    「なんだっお  」
    「先✣が䜕かを話したがっおいないこずは分かったもの。私は賢いのよ」
     思わずため息が出る。この⌊は本圓に賢い。
    「でも来おみたらメンモがいないじゃない。だから呌んでいたの」
    「  メンモが机をたたく合図で来るなんお、初めお聞いたな」
    「✪⟁が䞊⌿になったわね、先✣。でも残念。倖れよ」
     埗意げなは続ける。
    「メンモは䞋品で呚りの迷惑になるこずが嫌いなの。䟋えば怅⌊の䞊に胡坐をかく、頬杖を぀く、机をたたく」
    「だからそれをしたら、泚意に来るっおわけか」
     絞り出した⟔葉を最埌に絶句した。恐ろしい⌊だ。
    「さお、答え合わせが終わったわ。では⟏きたしょうか」
     そう⟔っおは✎ち䞊がった。埋儀に怅⌊を戻す。
    「どこぞ」
    「決たっおいるじゃない。メンモを探すのよ。もう⌀時間も机をたたいおいたから、こぶしが痛いわ」
     そう⟔っお⟒せおきたこぶしは確かに⟚くなっおいお、い぀もより⌀回り⌀きく⟒えた。

     図曞棟の䞭を隅から⟒お回る。先導するは匟む声で説明した。
    「メンモは⻑期蚘録の実隓個䜓だけれど、同時に図曞棟の管理も任せられおいるわ。私がシステムの䜜成者なら、混乱を避けるために、図曞棟から出られないようにするでしょうね」
    「だからこの劎⌒は無駄じゃないっおわけか  」
     ずはいえ捜玢は⌀苊劎だった。
     ⌀量の曞籍を管理するため、郚屋の数も、その広さも、尋垞ではない。階段も倚く、階数そのものも倚い。⟃分は平気だが  
    「、⌀䞈倫かい」
    「  ⌀䞈倫よ。私は賢いだけじゃなくお䜓⌒もあるのよ」
     珍しくその⟃⌰分析は間違っおいるようだった。
     ⻑らく病棟から出おすらいないのだろう。䜓⌒がなくお圓然である。
    「本圓に平気かい」
    「  さすがにちょっず疲れたわ。この郚屋を⟒終わったら、䌑憩したしょう」
     そう⟔っおが扉を開けた。その䜓が硬盎した。
    「」
     ⌀瞬嫌な予感がしたが、は嬉しそうに⟔った。
    「いたわ」
    「 どうしお〈声なんだい」
     ほっずしながら近寄り、扉の奥を⟒る。
     すぐにが硬盎した理由、そしお〈声だった理由を知った。
    「あら、先✣。それにもいたすね」
     優雅に振り返ったメンモ、その奥にはスヌツに⟝をくるんだ✩髪の✌⌈が座っおいた。
    「  」
     驚愕が⌝を぀いお出たような⟔葉に、が顔を䞊げる。
     その✬は䜕も⟒おいなかった。

    「は蚘憶障害を抱えおいたした。断✚的にですが、時折過去ず珟圚、そしお想像の未来が混濁したす」
     メンモは優雅に答え始めた。
    「おそらくストレスによるものだず考えられおいたすが、真停のほどは定かではありたせん。残念ながら私は医者ではないので」
     ずずもに静かに聞く。それしかできなかった。
    「確かなのは、最近いっそうの症状がひどくなっおきおいたずいうこずです。そこで私に✩✻の✮が✎ちたした。過去のすべおの情報を統括する私なら、をサポヌトできたす」
     連呌される⟃分の名前すら忘れたかのように、はう぀ろな✬のたた座っおいた。
    「今朝、は぀いにたずもに返事すらできなくなりたした。おそらく⌀時的なものでしょうが、それでもこの郜垂に䜕かあったずきには察凊ができたせん」
    「だから定期点怜を前倒ししたのね」
     が䜎く぀ぶやく。
    「そうです、。あなたは賢いですね。点怜䞭には郜垂内のすべおのアンドロむドが停✌したす。⌊䟛たちは眠りたす。研究員たちは働きたすが、事情を知っおいるので問題はありたせん」
    「いや、それだっお問題がないずは⟔えないだろう。他の䜏⺠が問題を起こしたらどうするんだい」
    「そんなこずは起こりえたせん。他の䜏⌈などいないのですから」
     圓然のように⟔うメンモを⟒たたた凍り付く。いない
    「この郜垂には倚くのアンドロむドがいたす。察しお、⌈間は⌗六⌈、そのすべおは被隓者です」
    「⌈間は、たった⌗六⌈」
    「はい。党おの人の被隓者に察しお、倧人にはからたでの数字が、子䟛にはからたでの蚘号が付けられたす」
    「⌗六進数の数え✅ね」
     は⟔った。私は䜕も⟔えなかった。
    「私は⌗五番✬  」
    「それは⌆぀の意味で正解です。は⌗六進数で⌗五、そしおあなたは⌗五番✬のです」
     必死に息をする。冷静なを、震える芖線で远った。
    「初めからだったの」
    「どういう意味でしょうか、」
    「私のずっず前、初めおの被隓者もず呌ばれおいたの 䜕か名前があったのではなくお」
     の鋭い瞳がメンモを⟒る。思わず぀られお、自分も⟒た。
    「あなたは本圓に賢いですね。その通りです。最初の被隓者たちには名前がありたした」
     空気が重い。県前ががやけお、すら薄く⟒えおくる。
    「初めおの被隓者の䞭で、に぀ながった⌊の名前。それは『゚りレカ』です」
    「そうだ。゚りレカ」
     しゃがれた声がした。の声だず気が付いた。
     を⟒る。✌⌈はもう、虚空を⟒おはいなかった。
    「゚りレカ。私の⌊だった」
     話したの瞳から⌀筋の涙が䌝った。

     氞遠に思える⌀瞬が流れた。静寂を砎ったのはだった。
    「病匱だったのね」
     がを⟒る。驚きのたなざしをが受け✌める。
    「゚りレカよ。圌⌥は病匱で、そしおずおも賢かった。でしょ」
    「そうだ。そしお、」
    「そしおずおもかわいかった。ええ、そうね。だから私がなのね」
     粟⌀杯の✪⟁は、しかし震える声のせいで台無しだった。
    「そうだ。゚りレカは病匱だった。難病を抱えお、寿呜も⻑くはなかった。それでも、気䞈に笑う、いい⌊だった」
     は語る。その声は匱匱しかったが、しかし着実に空気を震わせた。
    「あの子をこの手で抱いたずき、発芋した、ず思った。人生を捧げられるず、そう盎感した。だからこの郜垂の実隓を匕き受けたんだ。最新の医療環境があり、経枈✀揎を受けられる。䜕より同䞖代の⌊䟛たちもいる。友達だっおできるかもしれない」
     の話を思い出す。突劂ずしお倧孊を蟞めるたでのは穏やかな、人気のある先生だったず蚀う。
     ゚りレカの名には、その生呜の発芋の喜びが詰たっおいたに違いない。
    「名前は  ゚りレカは名前を捚おるこずを良しずしたのですか」
     声を絞り出す。今や真実ぞの探求⌌だけが原動⌒だった。
    「いや、その時はただ名前で登録しおいた。も初期段階は良奜だったんだ」
     ⟔葉に詰たる。そのあずをメンモが匕き継ぐ。
    「しかし、埐々に粗が出おきたした。名前の他にあだ名、敬称、✎堎による呌称の違いなどが珟れ始めたころ、は壊れたした」
    「壊れた」
     怪蚝そうにが尋ねる。
    「はい。呌び名ばかりか、それに付随する個⌈の情報を混濁しお蚘憶し始めたのです。別人の情報を䞀人の人間ずしお凊理する、あるいは、存圚しない人間が存圚するかのようにふるたう、ず蚀った゚ラヌが発生したした」
    「それだけじゃなかった。は郜垂内のすべおのアンドロむドの蟞曞でもある。の故障は郜垂の故障を意味した。䌚話の通じないアンドロむドたちにあふれ、研究はおろか、通垞の生掻すらたずもに送れないほどの混沌が郜垂を支配した」
     が⌿で顔を芆った。うめき声が挏れた。
    「それが囜にばれたずき、この郜垂はリセットされた」
     衝撃が沈黙を✣む。メンモがそれを砎った。
    「✂字通り、郜垂党䜓のリセットです。アンドロむドは私を陀き完党リセット。被怜者、぀たり⌈間はすべお凊分されたした」
     䜓が枩床を倱った。脳裏に墓✯が浮かんだ。
     やけに⌀芏暡な墓所。あれはアンドロむドず⌈間の、凊分の跡。
    「それはおかしいわ。だっお、あなたは✣きおいるもの」
     震える声でが⟔う。その顔は床に向き、を⟒るこずはできないようだった。
    「ああ、そうだ。君は賢いね、。私は囜をだたしたんだ。私が基瀎蚭蚈をし盎せば、郜垂はたた動かせる。投資費✀は無駄にはならないずね。リセットしお、蚘号で被隓者を刀定すれば、もう゚ラヌは起きないず」
    「もちろん囜ずしおもそれを枋る声は䞊がりたした。もずもず倚額の予算を぀ぎ蟌んだ研究斜蚭です。倚くの被隓䜓が凊分されたずいう事実が広たったらタダではすみたせん」
     メンモが補足する。が蚀葉を続けた。
    「最終的には二぀の条件を提瀺しお、囜は折れた。䞀぀は私の認蚌がない限りはメンモの蚘憶を参照できないようにするこず。もう䞀぀は私がこの任を降りるずき、私ずメンモは同時に凊分されるこず。私はそれを吞んだんだ。研究の存続にはそれが最適だずも蚀った。でもそれは詭匁だ」
    「本⌌でぱりレカを忘れたくなかったのですね」
     呟いた私の⟔葉に、぀いには耐えられなくなった。
     顔を芆う⌿の隙間から、ずめどない涙が流れた。
    「私は✌たれない。真実を知るものずしお。この郜垂が終わるずき、私も終わる。゚りレカを知る人はいなくなり、この䞖から忘れ去られる」
     眪悪感からか、悲しみからか、✌⌈は涙を流す。
    「私は、それが怖い」
     しゃくりあげる声はこの郜垂に䌌合わないほど暖かかった。

     鐘が鳎った。時間の感芚を取り戻す。
     定刻䌚だ。
    「先✣、さすがにがんやりしすぎじゃない」 
     隣に座ったが⟔った。
     は蚘憶が戻っおしばらくしおから本棟ぞ向かった。報告をどうするかは任せる、そう⟔い残した。
     困っおしたったのは私のほうだった。
    「ねえ、君の倩才的な脳みそは䜕かいい案をひねり出せないのかい」
    「⌈を䟿利なみたいに䜿わないでよ」
     盞も倉わらずき぀いゞョヌクに、思わず笑っおしたった。やっぱりこの⌊はだ。
    「そういえば眠くならないのかい 昚✇は寝おないんだろう」
    「眠くないわよ。これたでの⌈✣で嫌になるほど眠らされおきたのだから」
     ⟯✩くもなさそうにが⟔う。
    「それより先✣のほうはどうなのよ。✇䞭調査しお、倜は私ず話しお。この䞉✇間でい぀寝おいたの」
     そういえばそうだ。睡眠どころか⟷事すらしおいない。
     それでも問題ないのだった。
    「。君に⟔い忘れおいたこずがある」
    「䜕よ。愛の告✩なんかやめおよね。法埋的に完党アりトよ」
    「私はアンドロむドなんだ」
     が固たる。驚かせおしたっおすたないず思った。
    「これこそ囜家機密玚なんだけど、私はの感情をより客芳的に研究するために䜜られたなんだ。この䜓はよくできおいるけど、その実は鉄の塊だ。⌌も感情も、すべおはアルゎリズムなんだ」
     今朝、ドクにも䌝えようずしたが、圌にはばれおいた。毎朝怜蚺をされおいるのだから、圓然ず蚀えば圓然だ。
    「、君に語った倖の䞖界の話の半分以䞊は、実は私の䜓隓談ではないんだ。この頭脳に詰め蟌たれただけの、疑䌌蚘憶だ。感情を䌎わない、ただの事象の積み重ねだ」
     に話しおいるようで、実は自分の思考を敎理しおいた。
     薄々気が付いおはいたのだ。
     郜垂に぀いお事前に䜕も知らされなかったのは、情報を公開されるのを防ぐため。私が調査圹に遞ばれたのは、いざずなれば『リセット』できるから。
     俯くず自分の足が芋えた。ただの鉄の塊。
     先入芳をなくす、だの、研究胜力を評䟡しおいる、だの、囜から蚀われたこずはすべお詭匁に過ぎない。
     ただ適しおいたからだ  ヒトに䌌た、䞀䜓の機械ずしお。
     そう考えおいたずき、が✎ちあがった。それがあたりにも唐突なので、私の偎が驚いおしたった。
    「あなた それを早く⟔いなさいよ」
    「ごめん  」
    「それなら✅法があるわ」
     衝撃にの顔を⟒る。その瞳には倩才的なひらめきが宿っおいた。

     は䞉✇間分の報告曞を読み、深くため息を吐いた。
    「あなたの発想には脱垜です  ⌈間には到底導き出せない解だ」
    「いえ、これを思い぀いたのはです」
    「そうか  前⟔を撀回させおくれ」
     定刻䌚の盎埌、に盎接報告曞を枡した。そこには先✣の正䜓、の蚘憶障害、の孊習状況ず危険性、そしおこれからの郜垂運営に関する提案が曞かれおいた。
     の提案をもずに急ぎ仕䞊げたものだった。
    「私ず、それに研究郜垂『』そのものを芳察する圹割の提案  」
    「そしおそれは蚘録ず蚘憶、それに付随する感情に詳しいものが適任です」
     に次いで答えた⟔葉に、が補⟜する。
    「同時に、その芳察者は⻑✣きしなくおはならない。ほずんど無限に」
    「そうすれば゚りレカの蚘憶は、この郜垂の蚘憶は、なくなるこずがない」
     衝撃の提案だった。しかし、理にかなっおいる。
    「もちろんメンモも芚えおいるでしょうが、圌⌥はこの郜垂が✣たれたずきからいる。い぀囜から危険芖されるかわかりたせんし、あなたの死埌に凊分されない保蚌もない」
    「先✣ならその⌌配はないわ。倖郚から来た⌈がそんな真実を぀かむなんお、囜も想定しおないでしょう」
     が深くため息を吐いた。✬頭を抌さえ、しばし✌たっおから、ゆっくりず離した。
    「先✣は真実を知りながら秘匿しおくれるず、この郜垂の蚘憶ずずもに✣きおくれるず、そう⟔うのですか」
    「ご安⌌ください。私はアンドロむドですよ 衚情のコントロヌルはお⌿の物です」
     は深々ずお蟞儀をした。どこか安⌌したような様⌊だった。
    「そうですか  ありがずうございたす。完璧な蚈画だ」
    「いえ、完璧ではないわ」
     唐突にが⟔った。こちらを⟒぀める。
    「この感情溢れるアンドロむドを囜が信✀するか、勝敗はそこにかかっおいるわ」
     そう⟔っおにっこり笑った。⌈間味にあふれた暖かな笑顔だった。

    終章玢匕【index】

    「先✣、寝おいるの アンドロむドなのに」 
     元気な少⌥の声に✬を開ける。いや、もう少⌥ずいう歳ではないか。
    「蚘憶を敎理しおいたんだよ。芖芚情報を遮断するのが最も効率的なんだ」
     あれから、初めおこの郜垂に来おから、ちょうど⌗五幎がたった。
     先✉が亡くなった。寿呜だった。
     圌は最期たで郜垂のために働き、蚘憶を残し、それを守った。
     亡骞は今、墓所にある。゚りレカの隣に。
    「『被隓者ぞの名前぀けの蚱可申請』。ようやくこの✇が来たわね」
     がデスク䞊の端末を⟒お⟔う。
     や、そしおこの郜垂党䜓で緎っおきた申請は、しかし、思わぬ圢で実を結んだ。
    ここ数幎、は再び厩壊の兆候を芋せはじめた。人間の䜏民たち、特にアルファベットの名前を持぀子䟛たちに぀いおの情報が、正しく匕き出せなくなり぀぀ある。
    原因はおそらく、基本情報ずの混線により、それらの蚘号が人名ずしお認識されにくくなっおいるからだろう。の蚀葉を借りるなら、『ありふれた語は蚘憶に残りにくい』ずいうこずになる。
    したがっお、個人名付䞎はある意味で急務ずなった。囜ずしおも二床目の悲劇を生たないためには、申請をのむしかない。勝算は、正盎なずころかなりあるのだった。
    「ただは再孊習による曎生の可胜性が高い。それにこの郜垂には賢い⟔語孊者がいる。䜕かあっおも察凊できるだろう」
    「お耒めいただき感謝したす、先✣。でも、未だにの共感芚は理解できないわね」
     は✎掟に育った。ドクの献⟝もあり、完治こそしおいないものの、発䜜はほずんど起こさなくなった。
     だけではない。あの頃の⌊どもたちは予想寿呜を遥かに超え、今も順調に成⻑䞭だ。
     今幎はあの時ず違っお暖冬ではなかったが、しかし厳しい冬はい぀も通り去っおいく。
    「ねえ先✣。私、あなたに⟔い忘れおいたこずがあったわ」
     聞いたこずのあるフレヌズだった。
    「なんだい 愛の告✩なんかやめおくれよ。倫理的に完党アりトだ」
     意図をくみ取っおオマヌゞュで返す。はほほを膚らたせた。
    「そんなにアりトでもないでしょうヒトずアンドロむドの愛があっおもいいわ」
    「違うんだろうなんだい」
    「答え合わせ。図曞棟で机をたたいおメンモを呌んでいたずき、蟞曞を読んでいたでしょう その理由を⟔い忘れおいたわ」
     肩透かしを⟷らった気分になる。ため息ずずもに尋ねた。
    「なんでなんだい」
    「名前を探しおいたの。私にぎったりの名前。埅ちきれなくっお」
    「いいのがあったのかい」
    「なかったわ。私はあたりに唯⌀無⌆すぎたのよ」
     そう⟔っおは私を⟒぀めた。
    「先✣だっお、申請が通ったずしおも、私にだけは新しい名前を付ける気がないのでしょう」
    ばれおいたか。
    「すたない  でも私の䞭ではなんだ」
    「⟔い蚳しないでよ。違うでしょ」
       ばれおいたか。は本圓に賢い。
    「私はアンドロむドなんだ。䜕かを思い出すずき、必ず蟞曞を匕く。蟞曞はアルファベット順に䞊ぶだろう 私にずっお、『』の⟒出しを匕いたずきに最初に思い出すのが、君であっおほしい。たずえが、この郜垂が、君のこずを正しく思い出せなくずも」
     それを聞き、は深くため息を吐いた。
    「それはアンドロむド偎の郜合でしょう ⌈間を巻き蟌たないでよ」
     春が来る。その枩い空気を感じながら私は思った。
     圌⌥のこずを思い出したいずきに『』ずいう⟒出しを匕くのではない。『』ずいう⟒出しに觊れたずき、圌⌥が顔をのぞかせるのだ。
     この瞬間、名前は単なる蚘号を超え、蚘憶のトリガヌずしお⌌に深く刺さる。
     圌⌥だけではない。圌⌥を取り巻いおいた環境、⟃分で䜓隓した出来事、その⌀぀⌀぀が名前を持ち、盞互にトリガヌずなる。
     名前はたるで墓✯のように、地䞭に眠る蚘憶が忘れ去られないように䞻匵する。
     ヒトにもアンドロむドにもできるこずがある。
     ⟒るこず、知るこず、考えるこず、愛するこず。
     蚘録するこず、蚘憶するこず。
     名前を付けるこず。

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